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弱者の日常
優しくしてくれたら、カイナ兄のこと好きになるかも?
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「……そうだな。チェルのことは好きじゃないな」
「うん、僕も。カイナ兄のこと、好きとか嫌いとか考えたこと無かった。でも、それじゃあいけないのかなって、ちょっとだけ思った」
思考を整理するように呟くチェルに興味を惹かれたのか、カイナは歩みを止めてチェルへと向き直った。
「……思って、それでどうする? 思っただけか?」
「うん、それだけ……優しくしてくれたら、カイナ兄のこと好きになるかも?」
「交渉というのは、相手にとって利になる事を提示しないと意味が無いぞ」
「利にならない? 僕が好きになるの」
「そういうのは、逆の立場になって考えてみるんだな」
チェルは不味いパンを水で流し込みながら、腕を組んで考えた。目の前にいる無愛想な年の離れた兄が、弟を溺愛してくれるありえない光景を想像してみた。
「カイナ兄が僕のこと好きだったら……きっと、優しくしてくれるだろうから……ということは、利益? カイナ兄、僕に好かれて優しくしてもらえたら嬉しい?」
「嬉しくないな。兄と弟では立場が異なる。弟が兄に優しくされるのと、兄が弟に優しくされるのでは全然違うだろう」
「カイナ兄が逆の立場で考えろって言ったくせに……」
「兄弟も逆にして考えたらどうだ」
「逆……カイナ兄が弟……?」
カイナの顔をまじまじと見ながら、チェルは夢想する。
チェルよりも年下で、今のチェルのように細く幼いカイナの姿。カイナは自由奔放なチェルの後ろをいつも付きまとっていて、チェルの聖剣に無謀にも挑み続けている。そして聖剣を失ったあの日、無力であるにも関わらず、カイナは兄のチェルの味方で居てくれると宣言してくれる。
「カイナ兄……結構可愛いところもあるんだね」
「戯言は妄想の中だけにしておけ」
「あっ……でも違うかも……全部逆にするんだったら――」
――聖剣の加護を得たのも、弟であるカイナの方であったのなら。
今のチェルのようにか弱くて小さくてひ弱なカイナ。しかし聖剣の加護を得たことで、絶対的な力を手に入れる。
年下でありながら。弟でありながら。カイナは国を左右できるほどの力を持っている。
年上でありながら。兄でありながら。チェルは弟に全く敵わない。
もしもふたりがそんな関係であったのなら。そんなカイナから優しくされたとして、チェルは何を思うのか。
「……ねえ、カイナ兄って――」
――僕のことが好きじゃないんじゃなくて――
「――やっぱり、なんでもない……」
『その男は聖剣を持つチェル様を妬み、憎しみ続けてきた男です』。チェルの脳裏によぎったのは、ラノイの言葉であった。
「……」
カイナは何も言わずに馬の手綱を引いて歩みを再開した。
お互いに自分勝手に昼食を摂りながら、ただ無言で、森の中を二人は進み続けた。
「うん、僕も。カイナ兄のこと、好きとか嫌いとか考えたこと無かった。でも、それじゃあいけないのかなって、ちょっとだけ思った」
思考を整理するように呟くチェルに興味を惹かれたのか、カイナは歩みを止めてチェルへと向き直った。
「……思って、それでどうする? 思っただけか?」
「うん、それだけ……優しくしてくれたら、カイナ兄のこと好きになるかも?」
「交渉というのは、相手にとって利になる事を提示しないと意味が無いぞ」
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「そういうのは、逆の立場になって考えてみるんだな」
チェルは不味いパンを水で流し込みながら、腕を組んで考えた。目の前にいる無愛想な年の離れた兄が、弟を溺愛してくれるありえない光景を想像してみた。
「カイナ兄が僕のこと好きだったら……きっと、優しくしてくれるだろうから……ということは、利益? カイナ兄、僕に好かれて優しくしてもらえたら嬉しい?」
「嬉しくないな。兄と弟では立場が異なる。弟が兄に優しくされるのと、兄が弟に優しくされるのでは全然違うだろう」
「カイナ兄が逆の立場で考えろって言ったくせに……」
「兄弟も逆にして考えたらどうだ」
「逆……カイナ兄が弟……?」
カイナの顔をまじまじと見ながら、チェルは夢想する。
チェルよりも年下で、今のチェルのように細く幼いカイナの姿。カイナは自由奔放なチェルの後ろをいつも付きまとっていて、チェルの聖剣に無謀にも挑み続けている。そして聖剣を失ったあの日、無力であるにも関わらず、カイナは兄のチェルの味方で居てくれると宣言してくれる。
「カイナ兄……結構可愛いところもあるんだね」
「戯言は妄想の中だけにしておけ」
「あっ……でも違うかも……全部逆にするんだったら――」
――聖剣の加護を得たのも、弟であるカイナの方であったのなら。
今のチェルのようにか弱くて小さくてひ弱なカイナ。しかし聖剣の加護を得たことで、絶対的な力を手に入れる。
年下でありながら。弟でありながら。カイナは国を左右できるほどの力を持っている。
年上でありながら。兄でありながら。チェルは弟に全く敵わない。
もしもふたりがそんな関係であったのなら。そんなカイナから優しくされたとして、チェルは何を思うのか。
「……ねえ、カイナ兄って――」
――僕のことが好きじゃないんじゃなくて――
「――やっぱり、なんでもない……」
『その男は聖剣を持つチェル様を妬み、憎しみ続けてきた男です』。チェルの脳裏によぎったのは、ラノイの言葉であった。
「……」
カイナは何も言わずに馬の手綱を引いて歩みを再開した。
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