47 / 67
弱者の日常
期待なんてしてないもん
しおりを挟む
太陽が地平線にかかり赤く染まる夕暮れ時になると、森の中はほとんど日が差し込まなくなってしまう。チェルとカイナは完全に暗くなる前に夜営の準備を始めていた。
「……」
カイナが馬の世話をしているのを背にして、カイナが用意した焚火にあたるチェル。夜営の準備はカイナに任せきりにしているが、カイナからは特に何も言われない。チェル自身も手伝ったところで邪魔になるだけだろうと開き直っていた。
パチパチと焚火が弾ける度に舞う火の粉を目で追っては、持て余している手を使って水筒の水を口に含む。段々と視界がぼやけ、思考が夢に落ちかける度に不意の落下感で目を覚ます。数時間に及ぶ乗馬によってチェルは十分に体力と筋力を消耗しており、このままでは寝落ちしかねない。
カイナがチェルに声をかけたのは、チェルが眠りこける寸前のことだった。
「そろそろ夕食にするか」
「っ!」
カイナの言葉を聞いたチェルの姿勢がわずかに前のめりになり、眠気が一気に覚めていった。
不味いパンを水で流し込み無理矢理にお腹を膨らませて昼を乗り切ったのもこの時の為。カイナが村で調達したという食材を、チェルは自分でも意外な程に楽しみにしていた。
「期待はするなと言ったはずだが?」
「別に……期待なんてしてないもん……」
落ち着かないチェルを牽制するように窘めるカイナに対し、チェルは強がりを返した。
チェル自身も期待することが良くないことはわかっていた。厳しくて優しくないカイナが、チェルの好物である野菜や果実を用意してくれるわけが無い。
木の実や茸などの山菜の類か。魚や肉の可能性もある。店でのカイナの言葉から考えれば、パンよりも不味い可能性すらある。
それでも、チェルの心は勝手に良い方へと期待を膨らませてしまうばかりで、胸の高鳴りが止められなかった。
「まったく……」
溜息を吐きながらも、カイナはついに麻袋の口に手を突っ込み、中から小さい何かを取り出した。
それはカイナの指と同じくらいの大きさをしていた。楕円形が二つ連なったような形をしていて、黄色と黒の縞模様が目立ち、数本のひげのようなものが伸びていて、薄く透明な物が付いていて――
「……え?」
それが何であるかを理解した途端に、チェルの全身を悪寒が走り、汗が噴き出して鳥肌が立った。今からそれを食べると思うだけで、身体が震えて寒気がしだした。
なぜならそれは、チェルにとっては食べ物では無かったから。
「さっきの村の外れに運良く巣を見つけてな。村長に許可を取って、除去するついでに中身を取ってきた。栄養が豊富だし、加熱すれば食感も良く食べやすい……味は少々独特だし、見た目は慣れが必要だろうけどな」
「カイナ兄……それ、食べるの? ほんとに? だって……虫だよ?」
カイナが麻袋から取り出したのは頭をもぎ取られた蜂だった。黄色と黒の派手な警戒色、折りたたまれた細い足、そしてお尻から伸びる針が否応なく食欲を減退させる見た目をしていた。
「……」
カイナが馬の世話をしているのを背にして、カイナが用意した焚火にあたるチェル。夜営の準備はカイナに任せきりにしているが、カイナからは特に何も言われない。チェル自身も手伝ったところで邪魔になるだけだろうと開き直っていた。
パチパチと焚火が弾ける度に舞う火の粉を目で追っては、持て余している手を使って水筒の水を口に含む。段々と視界がぼやけ、思考が夢に落ちかける度に不意の落下感で目を覚ます。数時間に及ぶ乗馬によってチェルは十分に体力と筋力を消耗しており、このままでは寝落ちしかねない。
カイナがチェルに声をかけたのは、チェルが眠りこける寸前のことだった。
「そろそろ夕食にするか」
「っ!」
カイナの言葉を聞いたチェルの姿勢がわずかに前のめりになり、眠気が一気に覚めていった。
不味いパンを水で流し込み無理矢理にお腹を膨らませて昼を乗り切ったのもこの時の為。カイナが村で調達したという食材を、チェルは自分でも意外な程に楽しみにしていた。
「期待はするなと言ったはずだが?」
「別に……期待なんてしてないもん……」
落ち着かないチェルを牽制するように窘めるカイナに対し、チェルは強がりを返した。
チェル自身も期待することが良くないことはわかっていた。厳しくて優しくないカイナが、チェルの好物である野菜や果実を用意してくれるわけが無い。
木の実や茸などの山菜の類か。魚や肉の可能性もある。店でのカイナの言葉から考えれば、パンよりも不味い可能性すらある。
それでも、チェルの心は勝手に良い方へと期待を膨らませてしまうばかりで、胸の高鳴りが止められなかった。
「まったく……」
溜息を吐きながらも、カイナはついに麻袋の口に手を突っ込み、中から小さい何かを取り出した。
それはカイナの指と同じくらいの大きさをしていた。楕円形が二つ連なったような形をしていて、黄色と黒の縞模様が目立ち、数本のひげのようなものが伸びていて、薄く透明な物が付いていて――
「……え?」
それが何であるかを理解した途端に、チェルの全身を悪寒が走り、汗が噴き出して鳥肌が立った。今からそれを食べると思うだけで、身体が震えて寒気がしだした。
なぜならそれは、チェルにとっては食べ物では無かったから。
「さっきの村の外れに運良く巣を見つけてな。村長に許可を取って、除去するついでに中身を取ってきた。栄養が豊富だし、加熱すれば食感も良く食べやすい……味は少々独特だし、見た目は慣れが必要だろうけどな」
「カイナ兄……それ、食べるの? ほんとに? だって……虫だよ?」
カイナが麻袋から取り出したのは頭をもぎ取られた蜂だった。黄色と黒の派手な警戒色、折りたたまれた細い足、そしてお尻から伸びる針が否応なく食欲を減退させる見た目をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
運極のおっさんが挑む明るいダンジョン攻略のススメ~攻撃も防御も素早さも初期値だけど運だけで乗り切るぜ~
TB
ファンタジー
第三次世界大戦後、地球にダンジョンが現れた。
主人公『速水アキラ』は三十九歳のアラフォーリーマンだったが、勤務していたブラック企業に嫌気がさして、一念発起、【バラ色の人生】を目指してダンジョンシーカーとして生きる道を選択した。
チュートリアルダンジョンのゴール地点に到達したアキラが手に入れる一つのアイテム。
【ラッキーリング】実はこのアイテム名前は凄いが結構な地雷アイテムだった。
全てのステータスがLUCに変換され、他は全部初期値に固定されてしまう。
しかも外せない。
ダンジョンシーカーとしては致命的とも思えるスタートとなったが……アキラは果たして【バラ色の人生】を手に入れることは出来るのか?
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる