お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟

papporopueeee

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兄と弟と聖剣

服従するしか生き延びる道は無かった

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「そのまま動くな! 動けば即座にその頭を撃ち抜くぞ!」

 川下から二人の男がチェルの方へと近づいてきていた。身に纏っているのは紺色の軍服であり、山賊でも無ければイクスガルドの兵でも無い。一昨日夜営をしていたチェルの前に現れた男と同じ服は、敵国からの追手で間違いなかった。

 先ほどからチェルへの警告を繰り返している男は剣を構えた中年であり、その表情と声からはチェルへの確かな敵意と憎しみが感じ取れた。

 もう一人の男は見るからに若く、年はラノイと同じくらいに見えた。単発式のライフル銃をチェルに向けて構えているものの、敵意というよりも戸惑っているようにチェルには見えた。

「っ……うっ、撃たないでください……何もっ、何もしませんからっ……だから、撃たないでっ……っ」

 頭を細腕で頼りなく守りながら、声を震わせながら、チェルは必死に命乞いをした。素直に、ありのままに、今のチェルをそのまま晒した。

 聖剣の加護を失ったチェルには同年代の子供にも劣る力しかない。制圧するのに武器など必要なく、肉体すらも必要無い。トラウマを背負った心は、ただ大人の男性に恫喝されるだけで萎縮して負けを認めてしまう。

 しかしそんなチェルの弱りようを知らない中年兵に気を緩める様子は無く、蹲って震えるチェルに向けた切っ先を下ろすことはなかった。

 凡そ2メートルほどの距離まで近づいたところで、追手は足を止めた。一歩踏み込まなければ剣の届かない距離は、そのままチェルへの警戒心を表しているかのようだった。

「イクスガルドの聖剣使い、チェル・ユーリィで間違いないな?」

 中年男から険しい顔で問い詰められ、肯定しても否定しても首を撥ねられかねない心地のチェル。

 緊張と不安に追い詰められた頭では、中年兵の問いに対して即答することができなかった。チェル・ユーリィであることは間違いない。しかし、それ以外の情報が今のチェルには当てはまらない。

 イクスガルドからは亡命した身であり、聖剣からも見捨てられている。まずは向けられた剣を下してもらうためにも、それを伝えるべきではないか。チェルであることを認めつつ、それ以外を否定する。その為の言葉を探している為にチェルの唇は下手な呼吸を繰り返すことしかできず、代わりに口を開いたのは若い兵だった。

「リザンさん、ほんとにこの子なんですか? その……こう言うのもなんですが、普通の子供にしか見えないですよ?」

 若い兵は懐疑的な視線をチェルに向けていた。銃口こそチェルから逸らさないものの、リザンとは異なり敵意は感じられない。チェルのように見るからにか弱い子供に銃を向けることへのためらいも感じられた。

「聖剣使いの姿は以前に見たことがある。双眼鏡を使っても豆粒程度の距離だったが、あの特徴的な輝く金髪はよく憶えてる。短くなっているようだが、その髪は間違いない」

 リザンの視線から逃れたい一心で、チェルは外套のフードをすっぽりと被った。カイナに切られたことでフードで十分に隠せる長さにはなったが、見つかってから隠しても意味が無いどころか自分から認めるようなものだ。

 それをわかっていても、チェルは隠さずにはいられなかった。

「素性を確認しているのは抵抗の意思を確認するためだ。大人しく認めないということは、何かしら反撃の手立てを持っていると考えられる。足を撃て、イレオン」

「っ!? ちぇっ、ちぇるですっ! ぼくっ……っ、チェル・ユーリィですっ……だからっ、撃たないで……」

 発砲をちらつかされただけでチェルの口は勝手にしゃべり出し、そして懇願していた。

「これ以降、こちらの許可なく指の一本も動かすことを許さん。そしてこちらの質問に答える以外に喋ることも禁止だ。この条件を呑むならば、まずはフードを脱げ」

「っ……はい……従います……だから、殺さないでくださいっ……」

 恐る恐る、震える指先でフードを摘まみ上げて下すチェル。怯えて縮こまりながら、チェルは再び金髪を晒した。

 今のチェルにはカイナが助けに来てくれることを願いながら服従するしか生き延びる道は無かった。チェルの帰りを待っているかも定かではないのに、はたしてカイナがチェルを捜しに来てくれるのか。その可能性には目を瞑って、チェルは心の中でカイナの名前を呼び続けた。

「そのままうつ伏せになって、手は頭の上で組め。顔は伏せて、絶対にこちらを見るな」

「ちょっ、ちょっと、そこまでさせる必要あるんですか? 相手は子供ですよ。それに、聖剣の力だって失ってるんでしょう? 警戒しすぎではないですか?」

 リザンの言葉に異を唱えたのはイレオンだった。リザンとは違い、イレオンはチェルに脅威を感じていないようで銃口も下げてしまっていた。

「銃を下げるなイレオン! 確かに報告ではチェル・ユーリィは聖剣の力を失ったと聞いている。しかし、聖剣は8本あるんだ。その全てを失った確証は無い。それに、聖剣を再び使えるようになっている可能性もある。油断していい相手じゃない」

 情けないチェルの姿を見て意気を喪失しかけているイレオンとは対照的に、リザンの敵意はむしろ増さんばかりだった。約束を違えてチェルが指の一本でも動かそうものなら、即座に斬りかからんとする迫力でチェルを見据えている。

「しかし……やはり、私にはそこまで警戒するほどには……。ただ怯えているだけの子供にしか見えませんよ。私は、あんな子供に銃を向ける為に兵士を志したわけではありません」

 リザンの一喝を受けても、イレオンの士気は上がらなかった。銃を構えるどころか、リザンを説得しようとさえしていた。

 そんなイレオンの態度にチェルがわずかな希望を抱き始めたのも束の間、リザンは舌打ちをしたかと思えば大きくため息を吐いた。
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