お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟

papporopueeee

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兄と弟と聖剣

まずは……その剣の話から

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「カイナ兄っ! カイナ兄っ!!」

「……終わったか?」

 チェルが名前を叫びながら身体を揺すると、カイナは静かに瞼を開けた。今にも途絶えそうなか細い呼吸と、光の無い瞳がカイナの死期を示しているようで、もはや感覚も薄まっているのか痛みに悶える様子も無かった。

「カイナ兄っ……っ」

 チェルは言葉に詰まった。瞳から、喉から、指先から、全身から、感情はあらゆる場所から溢れ出して止まらないのに、言葉だけは口からしか外に出ることができなくて。心から湧き出る言葉を舌が処理しきれなくて、唇に引っかかって言葉が出てこなかった。

 そんなチェルの心情を察したのか、カイナは唇をわずかに動かして話し出した。

「まずは……その剣の話からしようか?」

 チェルはこくりと頷き、カイナは語り出した。まるで、赤ん坊に物語を聞かせるかのように。

「その剣はイクスガルドの初代国王の所有していた剣であり、イクスガルドでは聖剣として崇め奉っていた……しかし、その剣は聖なる物なんかじゃない……どちらかというと呪剣に近い代物だ……」

「じゅけん……呪われているの?」

「ああ……昔、初代国王には8人の親族が居た。両親、祖父母、そして兄弟……その魂を剣に捧げることで、初代国王は圧倒的な力を手に入れたんだ。チェル、かつてのお前と同じ力だ」

「……この剣、最初から血に濡れてたんだ……作られた時から」

 傍に浮かぶ聖剣の腹を指で撫でながら、チェルは呟いた。

 カイナの話は全く信じられない類ではなく、むしろチェルにとってはどこか納得すらできるものだった。チェルの意識とは関係なくその身を護る聖剣。人の魂を喰らったのであれば、まるで人間のような意思を持って主を護る聖剣にも納得ができた。

「親族たちは初代国王に対して相当強い想いを抱きながらその魂を捧げたらしい……故に、人の命を喰らった剣は初代のみが使役できた。初代が没して以降は子孫にすら操れない、ただの扱いにくい短剣でしかなかったんだが……チェルは相当に初代に似ていたんだろうな。剣の中の魂たちはチェルを初代だと勘違いして従っていたと、俺とご当主は考えていた」

「剣のくせにドジっ子なんだね」

「もしくは、既に寿命が近かったせいもあるかもしれないがな……初代の時代はずっと昔の話で、剣に蓄えられた魂のエネルギーも無限ではないはずだ。剣も自らの死期を悟って行動に出たのかもしれない……。だから、チェルがいつか聖剣を扱えなくなる日も来るかもしれないとは、考えてはいたんだ……」

「……知ってたんだ。僕がいつか聖剣を使えなくなるって……」

 胸の内に湧いてきた複雑な気持ちを、チェルは指先に乗せてカイナの頬にぶつけた。構う余裕も無いのか、もう触られていることもわからないのか。カイナはチェルの指には何の反応も見せてはくれなかった。

「こんなに早いとは思ってなかった……魂を喰らった聖剣の寿命なんてわかるわけがない……。それに、動かせなくなるなら、それはそれでいいとも思っていた……俺も、ご当主もな」

「……僕が痛い目に遭って嬉しかった?」

「そう思うか?」

 カイナはなめくじが這うようなような速度で左手の指先を持ち上げると、チェルの擦りむいた膝に触れた。すると指が淡い緑色の光を発し始め、ゆっくりとチェルの傷が塞がっていった。

「……自分の傷に使えばいいのに」

「言っただろ……そんな大したものじゃない……。精々が、擦りむいた子供の膝を治してやれる程度だ……」

 膝が終わると太腿へ。それが終わればふくらはぎ、腹部、腕と、カイナは自身が瀕死であるにも関わらず、チェルの全身を治していく。

「聖剣の力は、イクスガルドのような小国には強力過ぎたんだ……。突出しすぎた力は国を歪ませる……だから、聖剣が力を失ったとしても復活させる気は無かった……そもそも、生贄を必要とする力だからな」

「それなら、どうして……どうして、カイナ兄は僕に聖剣を持たせたの? ……最初から、こうするつもりだったの?」

 カイナは聖剣を復活させる方法を知っていた。その上で亡命するチェルに一本だけ聖剣を持たせた。これではまるで、カイナはチェルの為に聖剣に魂を捧げることを決めていたかのようだ。

 そんなことを考えてしまったチェルを、カイナは一笑した。

「馬鹿を言え……聖剣があったところで、チェルが一人で生きていけるとはとても思えん。8本ならともかく、俺の命を捧げたところでたった1本だ……。聖剣を持ち出したのはあくまでもお守りのつもりだった……チェルも、聖剣が近くにあった方がいいと思った……。悪いな……俺が弱いせいで、苦労を強いることになった……」

「そんなのっ……そんなの、違うっ……全部、僕のせいなのにっ……」

 チェルの全身の傷を治し終え、力尽きたように落ちようとした左手を、チェルは両手で掴んだ。カイナの大きな指一本一本を両の手でしっかりと感じながら、チェルはずっと言えていなかったことを口にした。

「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ、カイナ兄っ……! 僕のせいでっ……僕のっ……僕が全部っ、悪いのにっ……」

 チェルの行動が何か一つでも違えば、チェルがあと少しだけでも上手くやれていれば、チェルが一つでもわがままを言わなければ。

 後悔も、悲しみも、心の底からわんわんと出てきて止まらない。そんなチェルの顔を、カイナはまじまじと見つめていた。
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