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親睦の化粧編

一週間後の初めまして

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「久しぶりー! 元気にしてた?」
「……」
「あれ? もしかして元気ない? それとも、今日は痴漢プレイがないからへこんでるのかな?」
「ち、ちげーよ! 言っとくけど、オレはお前らが化粧の仕方を教えてくれるって言うから来たんだからな! それ以外のことは全くするつもりはないからな!」
「ふふ、そうだよね、ごめんごめん。でもキミって男の子の格好でもイイ線いってるねー。それだけカッコよかったら、クラスの女の子からモテちゃうんじゃない?」
「う、うるさい! そんなこと言われたって油断しないからな!」
「うーん、これは本心なんだけど、でもいっか。ミミちゃんみたいな可愛い子だけじゃなくて、キミみたいな子とも関係を持てちゃうなんて、お姉さんハーレムで幸せ~」
「……そういえば、ミミは?」
「ミミちゃんは先にお姉さんの家で待ってるよ。……やっぱりあれだけ熱い関係を持っちゃうと、ミミちゃんのことが気になっちゃう?」
「そ、そんなわけねーだろ!」
「あ~、お姉さんこんな幸せでいいのかなー♪ それじゃあ麗しのお姫様のところまでいこっか。途中で飲み物とか飲みたかったら奢ってあげるからね」



「お姉さん一人暮らしだから、気を遣わなくて大丈夫だからね。好きにくつろいでほしいな」
「あ、ああ」
「ただいまー。ミミちゃん、戻ってきたよ」
「おかえり、リサさん」
「えっ!?」

 案内された痴女の家で出迎えてくれたミミは、少年の姿だった。それは当たり前と言えば当たり前なのだが、可憐な少女の姿しか知らなかった翔斗は動揺を隠せなかった。特に目を引くのがベリーショートの髪だ。スポーツ少年に多い髪型は、女装という趣味とはかけ離れているように思える。

「……なに? どうかした?」
「あ、ああ、いや。なんか、この前と雰囲気違うなって思って……」
「ミミちゃんは普段はこんな感じでクールなんだよ。興奮しちゃうと先週みたいになっちゃうんだけどね♪」
「リサさん、ボクは今はミミじゃないよ」
「もちろんわかってるよ。でもほら、まだお姉さんたち自己紹介もしてないから、ミミちゃんて呼ばないとこの子が困っちゃうじゃない?」

「……久しぶり。元気にしてた?」
「お、おう……」
「良かった。少しやりすぎたんじゃないかって心配だったんだ。今日は来てくれてとても嬉しい」
「……」
「どうかした?」
「い、いや、その……やっぱり違和感がすごいな。髪とか、口調とか」
「短い方がウィッグを着けやすいからね。長いと着けられないウィッグもあるし。……キミは長いね。もしかして、あの時も地毛だった?」
「そ、そうだけど」
「くす、普段は結んでて、女装の時は下ろしてるんだ。なんかおかしい」
「あっ」
「ん? なに?」
「いや……笑い方は、いっしょなんだなって」
「安心した?」
「べ、べつにそんなんじゃねー!」
「そう?」

 ミミが下から顔を覗き込んでくる。格好は違うが、仕草の端々からは確かに電車での女装少年と同一だということを感じさせられる。

「はいはい。ふたりともイチャつくのはいいけど、あんまり時間ないんだからね。お姉さんも混ぜてくれるなら歓迎だけど?」
「ボクはそれでもいいけど」
「オレは良くない!」
「今日は女装講座がメインだから、イチャイチャはその後にしようね。その方がふたりも燃えるでしょ?」
「それもそうだね。キミも、その方が嬉しい?」
「だから、俺はイチャつく気はさらさらないっての!」



「お姉さんは熊手理沙クマデ リサ。名前で呼んでもらえたら嬉しいな♪」

「ボクは犬耳結城イヌミ ユウキ。女装してる時はミミって呼んでほしい。でも、この格好の時は苗字か名前で呼んでほしいかな」

猫尾翔斗ネコビ ショウト。友達からは、ショウトって呼ばれてる」

「じゃネコちゃんだね♪」
「うん。よろしく、ネコ」
「……いいけど、だったらお前らはクマとイヌになるだろ!」
「お姉さんはリサって呼ばれたいなー。ほら、お姉さんのこと名前で呼んでみて? 呼び捨てにされても、ネコちゃんだったら特別に許してあげるよ?」
「うっ……」
「ボクも、女装の時はミミって呼ばれたいな。ダメ?」
「うぐぐ……」

 どうにも、電車の一件からふたりとの力関係が決まってしまっているように思える。このままではいけないと思いつつも、主導権を握り返すビジョンは見えそうにない。

「わ、わかったよ……リサ、ミミ」
「きゃーいきなり呼び捨て? ネコちゃん、将来相当な女たらしになっちゃいそうでお姉さん心配だなー」
「あんたが呼び捨てでもいいって言ったんだろ!」
「ボクのことは、この格好でもミミって呼ぶの?」
「別にいいだろ、ミミで。そっちを最初に知っちゃったから、別の呼び方だと違和感があるんだよ」
「でも、男の格好でミミって……」
「ミミが嫌なら変えるけどさ。女には似合うとか、男には似合わないとか、少なくともオレ達には関係ないだろ、そういうの」
「そう、かな……。うん、ネコがそう言うなら、それでいい」

 俯きながら考え込んでいるときのミミの顔は、少しだけ微笑んでいるように見えた。

「え、じゃあお姉さんもミミちゃんて呼んでいいの? あんなに嫌がってたのに? うそー、もうミミちゃんをたらしこんじゃうなんて……ネコちゃんの将来が怖い」
「さっきから人聞きの悪いことばっかり言うなよ! ミミが勝手に仲間意識持ってるだけだって!」
「ごめん、同じ趣味ってだけで馴れ馴れしくしすぎたよね。迷惑だった?」
「いや、そういうわけじゃないけど……!」
「今の学校は今年度で卒業だし、次の三年間でも仲間を作れるとは思えない。だからかな、ネコ。本当に、キミがこの場にいることがとても嬉しい」
「それはまあ、オレも似た境遇だけど……っていうか卒業ってことは、ミミって年上!?」

 翔斗よりも小柄なことに加えて、女装時の雰囲気から年下だと勘違いしていた。

「そうみたいだね。ネコはいつ卒業?」
「来年度だけど」
「ふーん、それじゃあ一歳差だね」
「いいねいいねー、やっぱり同年代の趣味友がいるっていいよねー。ちょうどふたりくらいの頃にできた縁って、大人になっても続くことが多いんだよね。しかも、ふたりはかなーり深い結びつき方しちゃってるし~?」

 ニヤニヤとしながらリサがふたりを見比べている。何かを言いたげに。

「そうだね」
「な、なんだよその顔」
「別に……早くネコといっしょに女装したいなって」
「言っとくけど、その先とか今日はないからな!」
「先? 先ってなに、ネコ?」
「今日はってことは、今日以外だったらいいの? ねえねえ、ネコちゃん?」
「あー、もううっさい! 早く講座始めろよ!」



「じゃあ、まずはお姉さんがミミちゃんにお化粧するね。細かく説明するつもりだけど、わからなかったら遠慮なく言ってね。あと、そのスマホで録画した動画は後で送ってあげるね」
「お、おう……ありがと」
「なんか、見られてると恥ずかしいな」
「大丈夫だよミミちゃん。今のままでも可愛いよ。ね、ネコちゃん」
「ん……あぁ」
「そんなには緊張してないけど……でも、ありがとう」



「さて、本当は洗顔からなんだけど、それは実践の方がわかりやすいからミミちゃんには先に洗顔だけしてもらってます。まずは化粧下地から、ネコちゃん知ってる?」
「ファンデーションのこと?」
「くす、違うよネコ」



「次は難関のアイメイク! ネコちゃんは初心者だから簡単な基本だけ教えるね」
「お、おお……!」
「ネコ、アイメイクに興味あるの?」
「ま、まあ……そうだな。やっぱ、下手な自覚があるから」
「アイメイクは技術もあるけど、使う道具によっても変わるからねー。今回は手に入りやすいプチプラをメインにしてー」
「ぷ、ぷちぷら?」



「口紅はー……っと、ミミちゃんどうする?」
「どうする、ネコ?」
「な、なんでオレに聞くんだよ!」
「だって、ネコに着いちゃうかもしれないし」
「? ……! だからそういうことはしないって!」



「はい、じゃあ最後にウィッグを被って、できあがり!」
「な、なるほど……」

 講座の内容を憶えようと必死になっている内に、目の前には美少女が出来上がっていた。

「どうですか?」
「な、なんか、やっぱ前と違うな……」
「それだけですか……?」
「ネコちゃん、もっと感想を言ってあげて。ミミちゃんは慣れてはいるけど、やっぱり不安になっちゃうものだから」

 リサの言葉通り、ミミの挙動はどこか落ち着いておらず、ソワソワしているように見える。脳裏に、電車の中で一人で震えていた時の恐怖が蘇る。あれほどじゃないにしても、ミミも怖気づいているのかもしれない。

「か、可愛いよ……ちゃんと」
「ほんとうですか?」
「ほら、もっともっと。どんな感じ?」
「この前は、なんか、可愛いを煮詰めた感じだったけど、今日は爽やかというか、清楚系っていうのか?」
「イメージは学校のクラスにいる美少女委員長って感じかな。ブラウンのセミロングが重過ぎなくて、親しみやすい可愛さだよね♪」
「……ドキドキしますか?」
「な、なんで顔を寄せるんだよ!」
「……ちゃんと、言って欲しいです」
「す、するよ! してるから離れろって!」
「くす、とても嬉しいです」
「くっ、敬語まで使い初めて、キャラ変わりすぎだろお前……いきなり、そんな」

 これでは、電車での出来事を強く意識してしまう。

「だって、この方が可愛いですよね?」
「ミミちゃんのいいところだよねー。やっぱ好きなことは堂々と全力で楽しまないと。はぁ~フレアスカートも似合ってて可愛い~♪」
「このまま撮影しますか?」
「え? 撮影? カメラで撮るの?」
「リサさんがそういうの好きなんです。可愛く撮ってもらえるからボクも嫌いではないですが。リサさん、上手なんですよ」
「もちろん撮るよ! でも、今日はネコちゃんが控えてるからソロは少なめにね」

 リサはクローゼットを開けると、そこから三脚とカメラを取り出して設置し始めた。

「さあ、ミミちゃん。ポーズお願いしまーす♪」

 それから、ミミはいくつかのポーズをした。

 儚げに佇んだり。

 振り向きながら微笑んだり。

 いたずらっぽくスカートをめくりあげたり。

「ってちょっと待て! なんだよそのポーズ」
「? 中身が見えてしまうほどめくってはいないつもりですが?」
「いや、そうだけど……なんか、はしたないというか」
「スカートの丈が膝下まであるから、めくる動作って映えるんだよね。黒タイツとの配色もいいねー」

 翔斗の反応の方がおかしいとでも言わんばかりにふたりは撮影を続けている。むしろポーズがどんどん過激に、表情がより扇情的になっていっている気がする。

「そ、そろそろいいんじゃないのか? ほ、ほら、オレも門限はあるんだし……」
「はっ……ちょ、ちょっと興が乗りすぎちゃったね。お姉さんうっかりしちゃった♪」
「それじゃあ、次はネコのお化粧ですね。今日はどんな服を着るんですか?」
「どんなって……前と同じだけど」

 そもそも、女性服なんて一パターンしか持っていない。男の格好で女性物を買うのはそう容易いことではないのだ。

「ああ、あの服……。くす、はしたないのはいったいどちらなのでしょうね?」
「うっ」
「大丈夫だよネコちゃん。お姉さんはえっちなのも大好きだし、なによりネコちゃん似合ってたから!」
「そ、そんなエロくはない……だろ」
「え~? じゃあ、あの格好したお姉さんといっしょにお外歩ける?」
「そ、それは……!」
「っ……」
「あれ? ミミちゃんも反応しちゃった? てことは~、ミミちゃんもあの格好結構好き?」
「き、嫌いではないです」
「そっかー、それじゃあいつか三人でコーディネート合わせてお出かけしてみる?」

『……』

 翔斗とミミはともかく、グラマーな体型をしているリサがへそ出しショーパンルックはまずい。多分、ミミも同じことを考えているのだろう。
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