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決着
星に願いをかけるように
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「お願いいたしますっ! 僕にできることならなんだってしますっ……だから、だからどうかっ……ガルだけはっ……ガルだけは、お見逃しいただけないでしょうかっ……っ」
「無駄なことは止めよ。救う手立てが無いことは、お前が一番良く知っているだろう。それとも、お前は救う手立てがあったにも関わらず、毒に喘ぐ我が息子を見殺しにしたと言うのか?」
「でもっ……でもっ……っ!」
レスト国は僕の毒の研究をしていた。毒が発揮される条件を明確にし、無効化される条件を発見した。だから、解毒の可能性について何かを掴んでいる可能性はある。
そのわずかな可能性に、僕は賭けるしかなかった。
「ガルはっ……ガルは彼の大帝国の人間です! 例え下手人である僕の首を差し出そうとも、レスト国にも責任の追及が及ぶでしょう! それでも構わないと仰るのですか!?」
「構わぬ。お前らが森に行っている間に調べはついている。その旅人は帝国を追放された身だ。辺境の国で野垂れ死にしたところで、騒ぎ立てることはないだろう」
「そんなっ……レスト王っ……っ!」
情けなく喉を震わせることしか、僕にはできなかった。
例え解毒の方法があったとしても、レスト王にその気が無いのであれば意味が無い。元々嫌われている僕の言葉がその耳に届くことはなく、僕なんかに肩入れしてしまったせいでガルも恨みを買ってしまっている。
憎しみを押し殺した土下座も、何の意味も無かった。何度も助けてもらったというのに、僕にはガルを助けることが叶わなかった。
「げほっ……随分と調べてくれたみたいだな、レスト王……」
意識を朦朧とさせていたガルが、その虚ろな目でレスト王を睨みつけていた。
喋れるようになるまで回復したわけではなく、ただ毒に蝕まれている状況に慣れてきただけなのだろう。油断したら途切れてしまいそうな意識を必死に繋ぎとめながら、ガルは話しているに違いない。
「俺を殺したいなら、さっさと兵士に命令すればいい……ボウガンで蜂の巣にしろってな」
「勘違いするな。あくまで、お前はルカテによって毒殺されるのだ。そうでないと、ルカテを処刑する理由が無くなるだろう」
「はっ……そんなことを気にするような人間じゃないだろ……。ルカテに俺を殺させたいだけだ……おっさんの恨みってのは、禄でもないな……がふっ!」
「ガルっ!」
ガルが吐血したその血液は、赤褐色の色をしていた。その身体に流れる血液が、僕の毒によって壊されている証。その全身を回る血液が、ガルの身を蝕む毒へと変貌している色。
首の斑紋も燃え盛る炎のように広がり、ガルの身体をじわじわと浸食していた。
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ、ガルっ……僕のっ、僕のせいでっ……っ!」
「謝らなくていい……全部わかってる。ルカテは、何も悪くないだろ?」
「でもっ……でもっ、ガルはっ……僕の毒でっ……僕のことを守ってくれたせいでっ……っ」
僕に出会わなければ、ガルがここで毒を盛られることもなかった。僕がもっと早くにガルを拒絶できていれば、ここで命の危機に瀕することもなかった。
僕がもっと早くに死んでいれば。殺人の代償として、素直に命を絶っていれば。ガルは僕なんかに出会うこともなく、ここで死ぬこともなかった。
「お願いっ……お願いしますっ……ガルっ、死なないでっ……死んでは嫌ですっ……ガルっ……死なないでよぉっ……っ!」
それはきっと、この世で一番残酷なお願いごと。死にかけている人に対して死なないでなんて、身勝手すぎる。
それでも、願わずにはいられない。今の僕には、願うことしかできないから。
人を殺した身分で願えるようなことではないかもしれない。自分だけ都合の良いことを言っているのかもしれない。
でも、ガルに死んでほしくない。もう、僕のことはどうだっていいから。二度とガルに会えなくてもいいし、命だって差し出すから。
「どうかっ……生きてください、ガルっ。どうかっ……どうか、お願いですからっ……ガルっ、生きてっ……っ」
星に願いをかけるように、僕は奇跡を祈る。お星さま自身が、どうか輝き続けられるように。
「ああ、わかった……。大丈夫だ、ルカテ……お前の毒じゃ、俺は殺せないから」
それはとても弱々しい強がりだった。息も絶え絶えで、生気が微塵もない声だった。
それなのに、どうしてだろうか。ガルの顔は、確かに笑っていた。
「無駄なことは止めよ。救う手立てが無いことは、お前が一番良く知っているだろう。それとも、お前は救う手立てがあったにも関わらず、毒に喘ぐ我が息子を見殺しにしたと言うのか?」
「でもっ……でもっ……っ!」
レスト国は僕の毒の研究をしていた。毒が発揮される条件を明確にし、無効化される条件を発見した。だから、解毒の可能性について何かを掴んでいる可能性はある。
そのわずかな可能性に、僕は賭けるしかなかった。
「ガルはっ……ガルは彼の大帝国の人間です! 例え下手人である僕の首を差し出そうとも、レスト国にも責任の追及が及ぶでしょう! それでも構わないと仰るのですか!?」
「構わぬ。お前らが森に行っている間に調べはついている。その旅人は帝国を追放された身だ。辺境の国で野垂れ死にしたところで、騒ぎ立てることはないだろう」
「そんなっ……レスト王っ……っ!」
情けなく喉を震わせることしか、僕にはできなかった。
例え解毒の方法があったとしても、レスト王にその気が無いのであれば意味が無い。元々嫌われている僕の言葉がその耳に届くことはなく、僕なんかに肩入れしてしまったせいでガルも恨みを買ってしまっている。
憎しみを押し殺した土下座も、何の意味も無かった。何度も助けてもらったというのに、僕にはガルを助けることが叶わなかった。
「げほっ……随分と調べてくれたみたいだな、レスト王……」
意識を朦朧とさせていたガルが、その虚ろな目でレスト王を睨みつけていた。
喋れるようになるまで回復したわけではなく、ただ毒に蝕まれている状況に慣れてきただけなのだろう。油断したら途切れてしまいそうな意識を必死に繋ぎとめながら、ガルは話しているに違いない。
「俺を殺したいなら、さっさと兵士に命令すればいい……ボウガンで蜂の巣にしろってな」
「勘違いするな。あくまで、お前はルカテによって毒殺されるのだ。そうでないと、ルカテを処刑する理由が無くなるだろう」
「はっ……そんなことを気にするような人間じゃないだろ……。ルカテに俺を殺させたいだけだ……おっさんの恨みってのは、禄でもないな……がふっ!」
「ガルっ!」
ガルが吐血したその血液は、赤褐色の色をしていた。その身体に流れる血液が、僕の毒によって壊されている証。その全身を回る血液が、ガルの身を蝕む毒へと変貌している色。
首の斑紋も燃え盛る炎のように広がり、ガルの身体をじわじわと浸食していた。
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ、ガルっ……僕のっ、僕のせいでっ……っ!」
「謝らなくていい……全部わかってる。ルカテは、何も悪くないだろ?」
「でもっ……でもっ、ガルはっ……僕の毒でっ……僕のことを守ってくれたせいでっ……っ」
僕に出会わなければ、ガルがここで毒を盛られることもなかった。僕がもっと早くにガルを拒絶できていれば、ここで命の危機に瀕することもなかった。
僕がもっと早くに死んでいれば。殺人の代償として、素直に命を絶っていれば。ガルは僕なんかに出会うこともなく、ここで死ぬこともなかった。
「お願いっ……お願いしますっ……ガルっ、死なないでっ……死んでは嫌ですっ……ガルっ……死なないでよぉっ……っ!」
それはきっと、この世で一番残酷なお願いごと。死にかけている人に対して死なないでなんて、身勝手すぎる。
それでも、願わずにはいられない。今の僕には、願うことしかできないから。
人を殺した身分で願えるようなことではないかもしれない。自分だけ都合の良いことを言っているのかもしれない。
でも、ガルに死んでほしくない。もう、僕のことはどうだっていいから。二度とガルに会えなくてもいいし、命だって差し出すから。
「どうかっ……生きてください、ガルっ。どうかっ……どうか、お願いですからっ……ガルっ、生きてっ……っ」
星に願いをかけるように、僕は奇跡を祈る。お星さま自身が、どうか輝き続けられるように。
「ああ、わかった……。大丈夫だ、ルカテ……お前の毒じゃ、俺は殺せないから」
それはとても弱々しい強がりだった。息も絶え絶えで、生気が微塵もない声だった。
それなのに、どうしてだろうか。ガルの顔は、確かに笑っていた。
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