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決着
例え不出来であろうとも
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「冷静になれ、レスト王! そっちの被害を良く考えろ!」
「王子を殺害した人間を見逃すなど、あってはならないことだ。どれほどの被害を出そうとも、王子の仇は取らねばならぬ。ルカテの死は、レスト国の総意なのだ!」
「くそっ……おい、あんたらもここで死ぬ気なのか!? 王はともかく、あんたらまでここで死ぬことは無いんじゃないか?」
「逆賊の言葉に耳を貸すな、兵たちよ。このアンノーラ・レイスがその死への途に付き合おう。私と共に、殺されたドゥノーラの仇を取ってくれ」
兵士たちの王への信仰はかなり熱いようだ。失っていたように見えた戦意が、発破をかけられただけで再び燃え上がってしまった。どいつもこいつも、相討ち覚悟でこちらにボウガンを向けている。
「が、ガル……」
ルカテも不安気に声を揺らしている。その瞳が、どうか王たちを死なせないで欲しいと希っている。
俺としても、そんな寝覚めの悪い終わり方は御免だ。
「レイス王! 死んでしまった王子へのその弔意の強さは確と伝わった。国王としても、王子を殺した者を赦すわけにはいかないのだろう。しかし死者への弔いの為に生者が犠牲となるのはいかがなものか! 何より、件の王子は王と兵士たちの命に釣り合うほどの人間であったのか!」
俺はドゥノーラ王子のことは何一つ知らない。しかしそんな部外者の俺でも確かに言えることが一つだけあった。
「自業自得だろう! 王子はルカテの毒で死んでしまったのかもしれないが、王子が清廉潔白な人間であったのなら命を落とすことは無かった! 違うか!!」
「……違わないな。ドゥノーラが色欲の罪に囚われていたことは否定しまい」
「ならば、王と兵士の命を使ってまでその魂を雪ぐことはないだろう! 賢王なるレスト王であれば、賢明な判断が下せるはずだろう!」
「ふんっ……言ってくれる。旅人風情が王を説くか……」
その声音から、少しだけ覇気が抜けた。兵を指揮するレスト王ではなく、一人の人間としてのアンノーラ・レイスが表出し始めていた。
「中々に痛いところを突いてくる……。認めよう……我が息子ドゥノーラは、褒められた人間では無かっただろうな」
「では――」
「だがな……例え不出来であろうとも、あれは大切な息子だったのだ。たった一人の、大事な息子だったんだ」
其処に居たのは、一人の父親だった。我が子を失ったことによる悲しみをいつまでも忘れられない、一人の男が立っていた。
「教えてくれ、旅人よ。なぜ、息子は死なねばならなかった? 清廉潔白でなかったから、我が息子が死んだのは当然と言うのか?」
「それはっ……しかし、ルカテに殺意があったわけでもないだろう。ルカテだって、その体液が毒に変じているなんて知らなかったんだ」
「そうだろうな……だが、責任が無いとは言わせん。人の命を奪っておいて、知らなかったでは済まされないだろう」
「否定はできない。しかしだからと言って命を奪うなどやりすぎだ! 王子が死んだのはあくまで事故だろう」
「人は感情を捨てられぬ。ルカテを処刑しなければ、この追悼は永遠に終わらぬのだ。さあ、そろそろ幕を引くとしよう」
ダメだ。レスト王は説得できない。子を失った心には、部外者の俺の言葉は響かない。
兵士たちもその悲しみに感化されているのか、ここで死ぬ悲壮な決意を目に宿している。
これ以上もたもたしていては、後ろから蜂の巣にされる。一か八か、盾を背負って逃げるしか――
「レスト王」
その声は、盾の外から聞こえてきた。
「ルカテ……?」
褐色の肌に、腰まである長い銀髪。母からもらっという衣装を身に纏い、前垂れを揺らしながら。
ルカテは悠然と盾の外へと歩み出ていた。いくつものボウガンに狙われながらも、その身を王の御前に曝け出していた。
「王子を殺害した人間を見逃すなど、あってはならないことだ。どれほどの被害を出そうとも、王子の仇は取らねばならぬ。ルカテの死は、レスト国の総意なのだ!」
「くそっ……おい、あんたらもここで死ぬ気なのか!? 王はともかく、あんたらまでここで死ぬことは無いんじゃないか?」
「逆賊の言葉に耳を貸すな、兵たちよ。このアンノーラ・レイスがその死への途に付き合おう。私と共に、殺されたドゥノーラの仇を取ってくれ」
兵士たちの王への信仰はかなり熱いようだ。失っていたように見えた戦意が、発破をかけられただけで再び燃え上がってしまった。どいつもこいつも、相討ち覚悟でこちらにボウガンを向けている。
「が、ガル……」
ルカテも不安気に声を揺らしている。その瞳が、どうか王たちを死なせないで欲しいと希っている。
俺としても、そんな寝覚めの悪い終わり方は御免だ。
「レイス王! 死んでしまった王子へのその弔意の強さは確と伝わった。国王としても、王子を殺した者を赦すわけにはいかないのだろう。しかし死者への弔いの為に生者が犠牲となるのはいかがなものか! 何より、件の王子は王と兵士たちの命に釣り合うほどの人間であったのか!」
俺はドゥノーラ王子のことは何一つ知らない。しかしそんな部外者の俺でも確かに言えることが一つだけあった。
「自業自得だろう! 王子はルカテの毒で死んでしまったのかもしれないが、王子が清廉潔白な人間であったのなら命を落とすことは無かった! 違うか!!」
「……違わないな。ドゥノーラが色欲の罪に囚われていたことは否定しまい」
「ならば、王と兵士の命を使ってまでその魂を雪ぐことはないだろう! 賢王なるレスト王であれば、賢明な判断が下せるはずだろう!」
「ふんっ……言ってくれる。旅人風情が王を説くか……」
その声音から、少しだけ覇気が抜けた。兵を指揮するレスト王ではなく、一人の人間としてのアンノーラ・レイスが表出し始めていた。
「中々に痛いところを突いてくる……。認めよう……我が息子ドゥノーラは、褒められた人間では無かっただろうな」
「では――」
「だがな……例え不出来であろうとも、あれは大切な息子だったのだ。たった一人の、大事な息子だったんだ」
其処に居たのは、一人の父親だった。我が子を失ったことによる悲しみをいつまでも忘れられない、一人の男が立っていた。
「教えてくれ、旅人よ。なぜ、息子は死なねばならなかった? 清廉潔白でなかったから、我が息子が死んだのは当然と言うのか?」
「それはっ……しかし、ルカテに殺意があったわけでもないだろう。ルカテだって、その体液が毒に変じているなんて知らなかったんだ」
「そうだろうな……だが、責任が無いとは言わせん。人の命を奪っておいて、知らなかったでは済まされないだろう」
「否定はできない。しかしだからと言って命を奪うなどやりすぎだ! 王子が死んだのはあくまで事故だろう」
「人は感情を捨てられぬ。ルカテを処刑しなければ、この追悼は永遠に終わらぬのだ。さあ、そろそろ幕を引くとしよう」
ダメだ。レスト王は説得できない。子を失った心には、部外者の俺の言葉は響かない。
兵士たちもその悲しみに感化されているのか、ここで死ぬ悲壮な決意を目に宿している。
これ以上もたもたしていては、後ろから蜂の巣にされる。一か八か、盾を背負って逃げるしか――
「レスト王」
その声は、盾の外から聞こえてきた。
「ルカテ……?」
褐色の肌に、腰まである長い銀髪。母からもらっという衣装を身に纏い、前垂れを揺らしながら。
ルカテは悠然と盾の外へと歩み出ていた。いくつものボウガンに狙われながらも、その身を王の御前に曝け出していた。
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