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第四夜

義兄弟は戻れない

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「カオル……おいっ、カオル!」
「んんぅ……?」

 声をかけるとカオルが眠そうに返事をした。一応起きたらしいが、まだ目は開いていない。

「まだ眠いよ……」
「お前、なんで俺のベッドに寝てるんだよ」
「ケン君のベッド……?」

 カオルの片目がぱちりと開くと、きょろきょろと部屋の中を見渡した。

「あぁ、そういえば……えへへっ♪」

 カオルの顔にふにゃっとした笑みが浮かんだ。どうやら起きた直後は寝ぼけていたのか、自身の部屋だと思っていたらしい。

「おい、なんだその笑みは……。お前なにかイタズラでもしてないだろうな?」
「してないよー。ただケン君といっしょに寝たいって思ったから、夜中に忍び込んだだけー」

 カオルがぴとりと体にくっついてきた。昨日の夜からカオルはずっと上機嫌だ。風呂でも、夕食中も、ニコニコと軽やかに会話を弾ませていた。まさか勝手に布団に潜り込んでくるほどに甘えん坊モードだとは思わなかったが。

「お前、俺の寝相が悪かったらどうすんだよ。寝てる最中にベッドから叩き落してた可能性だってあるんだぞ」
「ケン君はオレにひどいことしないもーん♪」

 カオルの様子は調子に乗っていると言ってもいい。その気持ちもわからないでもないが。

 カオルにとって俺は唯一の介護者だ。自身の命を握っている存在と言ってもいいだろう。その俺が、カオルに口での性的奉仕を行ったのだ。

 通常の介護ならある程度の筋力と優しさがあれば誰でも行える。しかし性的介護は、口淫は違う。それは特別な相手でないと難しい行為だ。

「えへっ……♪」

 俺がカオルを特別扱いした行動を見せたことできっと安心したのだろう。カオルの世界では頼れる人間が俺しかいないから、その俺から特別な愛を感じ取れたことが嬉しいのだろう。

 ふたりの日常における愛情でカオルを安心させきれなかったのは俺の落ち度だ。思っているだけじゃ伝わらない。それは当たり前のことだから。

「少し早いけど起きるか」
「えー、もうちょっと寝てたいなー。ケン君もいっしょに寝ようよ」
「早く起きればそれだけ家事が早く終わるし、メシの準備にも時間をかけられる。俺は起きるよ」
「……じゃあ、俺も起きる」

 カオルが体を起こせと俺にせがんだ。カオルも一人で体を起こせないわけじゃないが、最近はずっとこうだ。

 カオルの体を支えて起こしてやると、カオルが急に声を上げた。

「どうした?」
「ケンく~ん?」

 カオルはニヤニヤと笑っている。嬉しそうに笑みを零しているという表現がぴったりな顔だ。

「ふふー♪ 朝から元気だねー?」
「ん?」
「……えっちー♪」

 エッチ。その言葉でようやく合点がいった。カオルは身体を起こした時に俺が勃起していることに気づいたのだろう。それで、また自分が役に立てると思ったのだろう。

「またオレにしてほしいの?」
「これは朝立ちだよ。別に欲情してるわけじゃない」
「あさだち?」
「生理現象だよ。くしゃみとかあくびと同じだ。ほら、もう落ち着いてきてるだろ?」

 朝立ちは起きた時に勝手に勃起してるという現象だが、体が目覚めるにつれて勝手に鎮静化する。俺の勃起ももう外目からではわからないほどに落ち着いている。

「……ほんとだ」
「だから、別にカオルが気にしなくても大丈夫だよ」
「んー……」
「カオル?」

 カオルは俺の胸に頬を寄せると、上目遣いで俺の瞳を見つめた。

「でも、大きくなったことには変わりないでしょ?」
「まあ、そうだな……」
「ケン君はしたくないの?」

 ここでしたいと言えば、カオルは喜んでしてくれるのだろう。むしろ、カオルの目はしたいと言ってほしそうだった。

「……朝っぱらからすることじゃないだろ」
「じゃあ、また勉強が終わったらする?」
「……カオルがしたいならな」
「えへへっ……じゃあ、今日も勉強がんばるね♪」

 ああ、ついに条件を付けて性行為を許容してしまった。性行為を日常に組み込んでしまった。

 これでもう、俺とカオルの関係は普通には戻れなくなった。
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