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第六夜
姉は立ち塞がる
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「ダメだよ、鹿島くん。それは絶対にダメな選択だよ」
俺とカオルのキスを止めたのは、夕美だった。毅然とした態度で、真っ直ぐな視線で。俺の選択は間違っていると断定した。
「……邪魔しないでください。あなたには関係ないじゃないですか」
カオルの口調は丁寧であるものの、言葉の端々には刺々しさが見えていた。一言一句から、夕美への敵対心が漏れ出ている。
「関係ないなんてことはないよ。私はふたりの知り合いだから。ふたりが間違えるのを見て見ぬ振りはしないし、苦しんでたら助けてあげたいって思うよ」
「何が間違ってるって言うんですか? 男同士でキスするのがおかしいですか? 義兄弟が恋人になったらいけないんですか? あなたとケン君の方が自然だって言うんですか?」
カオルの投げた言葉は、そのまま俺達に返ってくる呪いだ。男同士で、義兄弟という間柄で、そこに葛藤がないはずがない。
思えば、俺は自分一人で悩むばかりで、カオルの悩みに寄り添えてはいなかった。同性の義兄を好きになってしまったカオルに、なんの言葉もかけてやれていなかった。
「それは……うん、おかしくない。まだちょっと受け入れきれてないけど、そこに口出しすることはできないって思ってるよ」
「だったらっ……助けてくれるって言うのなら、今すぐにこの家から出て行ってください。それが一番助かります」
「それもできない。ううん、それが一番できない相談かな」
「どうしてですか?」
「脅してるようにしか見えないから」
「っ……!」
ここでキスをしなければふたりの関係を一条姉妹にバラす。カオルの言葉は誰に聴かれても脅迫と取られるだろう。
「ふたりが愛し合うことに口出しはできない。キスするんならそれを止めることもしない。でも、無理やりはダメだよ。それだけはダメだよ」
「……っ、ケン君は嫌がってない! ケン君は……っ。ケン君は、オレとキスするの嫌じゃないよね?」
「もちろんだ」
カオルの体に回した腕に力を込めながら、俺ははっきりと答えた。
抵抗を感じたことはあっても、嫌悪感を抱いたことはない。俺がカオルに拒否感を抱いたことは一度もない。
「ほ、ほらっ。た、確かにちょっと無理強いはしちゃったけど、全然無理やりなんかじゃない! あんたはケン君がオレとキスするのが嫌なだけなんでしょ? オレからケン君を奪いたいだけなんだ。だって、リビングでケン君に無理やりキスしたのはそっちだよね!」
「そうだね。私は鹿島くんにキスさせたわけじゃないけど、強引にキスをしました。それは認めるよ」
「っ! ふ、ふざけないでよ! そんな、そんな……軽く言わないでよ……!」
「うん……ごめんね。私カオルくんのこと何にもわかってなかった。カオルくんだけじゃなくて、鹿島くんのことも全然わかってなかった……。昨日、カオルくんがくれた信頼を裏切っちゃったね。本当にごめんね」
カオルからの言葉に毅然と向かい合っていた一条が、そこで初めて表情を崩した。
見て取れるのは同情、憐憫、後悔、悲哀。夕美の心の内は俺にはわからないが、謝罪の心は本心のように思えた。
「……っ、申し訳ないと思ってるなら、もう放って置いて……!」
「それは逆。私は今度こそカオルくんの助けになりたいから、だからここは絶対に退けないの」
「だから、それはあなたがケン君を――」
「違うよ。鹿島くんのことは今はどうでもいい。鹿島くん重度のブラコンだし、カオルくんに脅迫されても多分傷つくとかないだろうから」
ブラコンであることを否定はしないが、夕美のその言葉には少し傷ついた。
「見てられないの、カオルくんが……痛々しくてほっとけないよ」
「何を知った風な口で……! 誰のせいで、こんな――」
「私のせいだからこそだよ!」
カオルの目を見て。カオルだけを真っ直ぐに見て。夕美はきっぱりと言い放った。
俺とカオルのキスを止めたのは、夕美だった。毅然とした態度で、真っ直ぐな視線で。俺の選択は間違っていると断定した。
「……邪魔しないでください。あなたには関係ないじゃないですか」
カオルの口調は丁寧であるものの、言葉の端々には刺々しさが見えていた。一言一句から、夕美への敵対心が漏れ出ている。
「関係ないなんてことはないよ。私はふたりの知り合いだから。ふたりが間違えるのを見て見ぬ振りはしないし、苦しんでたら助けてあげたいって思うよ」
「何が間違ってるって言うんですか? 男同士でキスするのがおかしいですか? 義兄弟が恋人になったらいけないんですか? あなたとケン君の方が自然だって言うんですか?」
カオルの投げた言葉は、そのまま俺達に返ってくる呪いだ。男同士で、義兄弟という間柄で、そこに葛藤がないはずがない。
思えば、俺は自分一人で悩むばかりで、カオルの悩みに寄り添えてはいなかった。同性の義兄を好きになってしまったカオルに、なんの言葉もかけてやれていなかった。
「それは……うん、おかしくない。まだちょっと受け入れきれてないけど、そこに口出しすることはできないって思ってるよ」
「だったらっ……助けてくれるって言うのなら、今すぐにこの家から出て行ってください。それが一番助かります」
「それもできない。ううん、それが一番できない相談かな」
「どうしてですか?」
「脅してるようにしか見えないから」
「っ……!」
ここでキスをしなければふたりの関係を一条姉妹にバラす。カオルの言葉は誰に聴かれても脅迫と取られるだろう。
「ふたりが愛し合うことに口出しはできない。キスするんならそれを止めることもしない。でも、無理やりはダメだよ。それだけはダメだよ」
「……っ、ケン君は嫌がってない! ケン君は……っ。ケン君は、オレとキスするの嫌じゃないよね?」
「もちろんだ」
カオルの体に回した腕に力を込めながら、俺ははっきりと答えた。
抵抗を感じたことはあっても、嫌悪感を抱いたことはない。俺がカオルに拒否感を抱いたことは一度もない。
「ほ、ほらっ。た、確かにちょっと無理強いはしちゃったけど、全然無理やりなんかじゃない! あんたはケン君がオレとキスするのが嫌なだけなんでしょ? オレからケン君を奪いたいだけなんだ。だって、リビングでケン君に無理やりキスしたのはそっちだよね!」
「そうだね。私は鹿島くんにキスさせたわけじゃないけど、強引にキスをしました。それは認めるよ」
「っ! ふ、ふざけないでよ! そんな、そんな……軽く言わないでよ……!」
「うん……ごめんね。私カオルくんのこと何にもわかってなかった。カオルくんだけじゃなくて、鹿島くんのことも全然わかってなかった……。昨日、カオルくんがくれた信頼を裏切っちゃったね。本当にごめんね」
カオルからの言葉に毅然と向かい合っていた一条が、そこで初めて表情を崩した。
見て取れるのは同情、憐憫、後悔、悲哀。夕美の心の内は俺にはわからないが、謝罪の心は本心のように思えた。
「……っ、申し訳ないと思ってるなら、もう放って置いて……!」
「それは逆。私は今度こそカオルくんの助けになりたいから、だからここは絶対に退けないの」
「だから、それはあなたがケン君を――」
「違うよ。鹿島くんのことは今はどうでもいい。鹿島くん重度のブラコンだし、カオルくんに脅迫されても多分傷つくとかないだろうから」
ブラコンであることを否定はしないが、夕美のその言葉には少し傷ついた。
「見てられないの、カオルくんが……痛々しくてほっとけないよ」
「何を知った風な口で……! 誰のせいで、こんな――」
「私のせいだからこそだよ!」
カオルの目を見て。カオルだけを真っ直ぐに見て。夕美はきっぱりと言い放った。
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