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サミュエルsaid 終

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「おや、その左の頬はどうされたんです?」

「ちょっと子猫にやられただけ…」

「随分凶暴な子猫ですね」


私の書斎にまで無断で侵入してくるなんて、流石ディーンアデライト殿下の影ですね


「で、私になんの用です?」

「分かってるでしょ?」

「マナさん…の事ですか?」


彼女の名前を出した途端、鋭い瞳で私を睨みつけてくる


「貴方もですか…」

「は?」

「殿下も貴方も、今日来たばかりの侍女をとても可愛がってるんですね
でしたっけ?」

「……っ」


すぐ表情に出る所は側近としてはまだまだ青いな


「まぁ、私も勘違いとはいえ、マナさんには少々手荒な真似をしてしまいました
その件に関しては後日謝罪に行くつもりです」

「そんなもの書面で送ればいい、マナちゃんに二度と近づくな!」

「それはできませんね
殿下を誑かすかもしれない女性ですから、監視しないといけません」


純粋に私自身も彼女に興味を持ちましたしね


「てめぇ…」


私の胸倉に掴みかかってくる

本当に手が早い人ですね…


「名前をわざわざ黙認してあげましたよね?」

「だからなんなわけ?」

「貸し1ですよ
それとも本名をマナさんに伝えてもよろしいのですか?」

「………っ」


スルッと私から手が離れる

本当に、弱みのある人間ほど扱いやすいものはない


「かはぁっ…」


突然鳩尾みぞおちに衝撃が走った


「これはマナちゃんに酷いことした分な」

「ゴホッゴホッ………」

「次マナちゃんを泣かせるような事したら殺すから」


本気の目にゾクっとしたものが背筋を走る


そして彼は人間とは思えないほど一瞬で何処かへ行ってしまった

流石、ファムール国の鬼神と呼ばれていただけはありますね
全く動きを感じさせない、かなり強烈な一撃でした


「ゴホッ…
まぁ、これぐらいの罰は仕方ありませんね」


それだけ彼女には酷い事をしてしまいましたから…


元いた侍女の中には殿下の見目もあるが、既成事実を作って妃になろうとする者や、他国からのスパイが紛れていたりする者ばかりで、王宮であるにも関わらず碌な者がいなかった
だからここしばらくは、侍女はドーラだけでいいと殿下も言っていたのに…

今日殿下の書斎にサインを貰いに行ったら、見た事もないとても怪しい侍女を膝の上に乗せていた

陛下がわざわざ選んで見立てた美人揃いの婚約者候補達には目もくれず、あんな訳の分からない、黒髪ぐらいしか目立つ所がない、地味な女に興味を持つなんて…
殿下は美醜に対する観点がおかしかったのかと疑った

この事を陛下になんと伝えるべきかと頭を悩ませていたら、先程の侍女が目の前にいた

どうやら私を苦手と思っているようで、バレバレの嘘をついて逃げようとした所を、軽く手を掴んだだけで、勝手に慌てて転んだ

そして衝撃的なパンティを履いていない、真っさらな状態の陰部が丸見えになっていたのだ


あぁ、なんだこいつもかと思った


他国からのスパイなら、あの見目でも殿下を誘惑できたのは納得だし、そういう風に身体を仕込まれているのだから、陰部を見せることに恥じらいもないのだろうと思った

そして怒りに任せて手荒な尋問をしていたら、どうも様子がおかしい
スパイにしては嘘も下手くそだし、触ってみると明らかに中が狭すぎる

結局…
彼女は処女だったし、クロムハート家から殿下に言われて来ただけだと言う

クロムハート家はあの有能なセバスチャンがいる所だし、そういう話もちらっと聞いて名簿だけは貰っていたのに…

パンティに関しては何故そんな間抜けな状態になってしまったのかは分からないが、本当に申し訳ないことをしてしまったと思った

今更遅いが、せめてものお詫びに涙をハンカチで拭っていたら、とても可愛いらしい顔立ちをした美少女が潤んだ瞳でこちらを見ていた


あぁ、やってしまったと後悔した


別に殿下は美醜の観点がズレていたわけではないし、勘違いしていたのは私の方だと思った

そしてあの時、殿下の影が来なかったら私は何をするつもりだったんだろう…?
まるで吸い寄せられるように彼女の方へ、後一歩で唇が重なる寸前だった

部屋を出て行った後もしばらく仕事に手が付かなかった

彼女は何者なんだろう
彼女について調べなければ…

そんならしくない事ばかりを考えていた
 
本当は陛下に今日の事を報告しなければならないが、しばらく彼女を様子見してからでもいいだろうと思い、何も言わなかった


「へへっ、旦那!
今日は偉く機嫌がいいですね」

「気のせいですよ
今回の依頼料ははずみますから、彼女について徹底的に調べて来てください」

「へい、分かりやした!!」


私はよく使う裏の情報屋のエドガーを呼び出し、名前の書かれた紙だけを渡して、彼女について詳しく調べさせる事にした
















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