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若き武神
魔王の到来 4
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それからの董卓の増長は凄まじかった。
西涼董卓軍は街での略奪を繰り返したのだが、それが咎められる事は少なかった。
もちろん英雄董卓の軍勢だから、と言うだけではない。
西涼董卓軍に荒らされた幾つかの街は、都の規模から考えるとごく少数の被害であると言い張れる程度であり、また十常侍が不正に得た財を隠し、さらに不正な方法でその財を得たと嫌疑が掛けられていた街であった。
その情報操作は王允の手のモノであったが、漢の都の中で十常侍の息が掛かっていない所などないので、その手の嫌疑をでっち上げる事など造作もない事である。
李儒にしても、王允が揉み消せるところへ西涼軍を誘導しなければならず、王允や李儒は表には出ないものの忙しく暗躍していた。
その一方で、董卓からもせっつかれる案件もあった。
帝である劉弁を廃し、陳留王劉協を擁立する事である。
董卓としては、色香溢れる何太后はともかく、それ以外の何一族はさっそく邪魔に思えてきたらしい。
その獣欲に満ちた視線には、これまで散々汚い裏工作をしてきた何太后でさえ辟易しているのだが、董卓は気にしていないのか気付いていないのか、露骨な態度を改めようとしない。
「李儒、例の件はどうなっておる」
董卓に呼び出された李儒は、董卓が不法占拠している宮廷の一室に呼び出され、いきなりそう切り出された。
「例の件?」
「帝の廃立だ。何だ、軍師をさせてやっていると言うのに、何も考えていないと言うのか?」
董卓の皮肉に李儒は不快だったが、そこは表情にも出さないように我慢する。
李儒の仕事は、何一族や十常侍に専横されていた政治体制を王允と共に一新する事にしていたし、西涼軍の再編成や論功行賞、董卓が西涼を離れる事になるので新任太守の選定など、帝の廃立以外にも仕事があり、目が回る程忙しいのである。
しかもそれは目先の急務であり、先の事は先の事で色々と問題があるので、先手を打つ為に裏で動いているところでもあるのだ。
もし本当に董卓が李儒の事を考えてくれるのなら、黙っていてくれるのが一番の協力である。
「良いか、李儒。世の中の物事には優先順位と言うモノがあるのだ。特にお前の様な立場にいると、多くの仕事を同時にこなさなければならないのだぞ? その事を自覚し、それに対して何を最優先にしなければならないのかを日々考えながら行動する。それくらいの事はやらなければいかんのが分からぬか?」
「以後、気をつけます」
もし本当に董卓が言う通りの事を考えているのなら、余計な口を挟まずに自分のやるべき事をしっかり行って欲しいものだ。
西涼軍の再編などは総大将である董卓が行っても良いのだから。
こうやって思い付きで呼び出されるので、妻である董氏の心配も尽きない。
「李儒よ、何か言いたそうだな」
こう言うところの勘は鋭い董卓である。
「帝の廃立ですが、準備は万事整っております。今の帝を廃し陳留王を新帝に立て、閣下が後見人となられれば何一族、いや、漢の全土に閣下を超える人物など誰一人いなくなるでしょう」
董卓などに言われるまでもなく、帝の廃立は最優先事項だと言う事くらい李儒にも分かっている。
なにしろ首の挿げ替えを行うのだから、その衝撃が小さいはずもない。
大乱を呼ぶ恐れもあるが、先延ばしにする事も出来ず、むしろ早ければ早いほど良いのだ。
「うむ。それでこそ、我が軍師よ。娘を娶る事を許してやっただけの事はある」
満足そうに頷く董卓を見て、つくづく妻の董氏との血の繋がりは無いと思われた。
「それで閣下。全ての段取りは整っておりますので、明日さっそく発表となりますが、よろしかったでしょうか」
「うむ。して、場所は?」
「温明園にて文武百官を招き、そこで宣言なさるがよろしいでしょう」
「よしよし、下がって良いぞ」
董卓に言われ、李儒は頭を下げて退出する。
「李儒よ、ついでに後宮から女を二、三人見繕って来い」
と言う、董卓の言葉は聞こえないふりをして出て行く。
しかし、本当に無視してしまうと後が面倒なので、言われたとおりに三人ほど董卓のところへ行ってもらう。
極論してしまうと、李儒はあくまでも妻である董氏の為に戦っているのであって、董卓に対する忠誠心など欠片も持ち合わせていない。
それでも李儒が董卓に仕えているのは、妻の事だけではなく、彼なりの野心あっての事でもある。
董卓はすでに五十を超える高齢にして性格も極めて傲慢、その上に不健全この上ない生活を行っているのだから、その余命も長いはずもない。
後を継ぐ実子のいない董卓の後継者はかなり歳の離れた弟の董旻、その次は娘婿の牛輔、そこからさらに数人をおいて李儒と言う事になっている。
それらの候補の中から李儒が勝ち残る可能性は圧倒的に低いのだが、董旻であれ牛輔であれ、董卓と比べると明らかに格下で扱いやすく、宮廷の中に閉じ込めて内政に口出しさせなければ、この乱れた世を正す事も出来るはずなのだ。
今すぐ、とは行かなくても五年もすると董卓も無理がきかなくなる。その為の人材探しも李儒にとっては重要な仕事であった。
西涼董卓軍は街での略奪を繰り返したのだが、それが咎められる事は少なかった。
もちろん英雄董卓の軍勢だから、と言うだけではない。
西涼董卓軍に荒らされた幾つかの街は、都の規模から考えるとごく少数の被害であると言い張れる程度であり、また十常侍が不正に得た財を隠し、さらに不正な方法でその財を得たと嫌疑が掛けられていた街であった。
その情報操作は王允の手のモノであったが、漢の都の中で十常侍の息が掛かっていない所などないので、その手の嫌疑をでっち上げる事など造作もない事である。
李儒にしても、王允が揉み消せるところへ西涼軍を誘導しなければならず、王允や李儒は表には出ないものの忙しく暗躍していた。
その一方で、董卓からもせっつかれる案件もあった。
帝である劉弁を廃し、陳留王劉協を擁立する事である。
董卓としては、色香溢れる何太后はともかく、それ以外の何一族はさっそく邪魔に思えてきたらしい。
その獣欲に満ちた視線には、これまで散々汚い裏工作をしてきた何太后でさえ辟易しているのだが、董卓は気にしていないのか気付いていないのか、露骨な態度を改めようとしない。
「李儒、例の件はどうなっておる」
董卓に呼び出された李儒は、董卓が不法占拠している宮廷の一室に呼び出され、いきなりそう切り出された。
「例の件?」
「帝の廃立だ。何だ、軍師をさせてやっていると言うのに、何も考えていないと言うのか?」
董卓の皮肉に李儒は不快だったが、そこは表情にも出さないように我慢する。
李儒の仕事は、何一族や十常侍に専横されていた政治体制を王允と共に一新する事にしていたし、西涼軍の再編成や論功行賞、董卓が西涼を離れる事になるので新任太守の選定など、帝の廃立以外にも仕事があり、目が回る程忙しいのである。
しかもそれは目先の急務であり、先の事は先の事で色々と問題があるので、先手を打つ為に裏で動いているところでもあるのだ。
もし本当に董卓が李儒の事を考えてくれるのなら、黙っていてくれるのが一番の協力である。
「良いか、李儒。世の中の物事には優先順位と言うモノがあるのだ。特にお前の様な立場にいると、多くの仕事を同時にこなさなければならないのだぞ? その事を自覚し、それに対して何を最優先にしなければならないのかを日々考えながら行動する。それくらいの事はやらなければいかんのが分からぬか?」
「以後、気をつけます」
もし本当に董卓が言う通りの事を考えているのなら、余計な口を挟まずに自分のやるべき事をしっかり行って欲しいものだ。
西涼軍の再編などは総大将である董卓が行っても良いのだから。
こうやって思い付きで呼び出されるので、妻である董氏の心配も尽きない。
「李儒よ、何か言いたそうだな」
こう言うところの勘は鋭い董卓である。
「帝の廃立ですが、準備は万事整っております。今の帝を廃し陳留王を新帝に立て、閣下が後見人となられれば何一族、いや、漢の全土に閣下を超える人物など誰一人いなくなるでしょう」
董卓などに言われるまでもなく、帝の廃立は最優先事項だと言う事くらい李儒にも分かっている。
なにしろ首の挿げ替えを行うのだから、その衝撃が小さいはずもない。
大乱を呼ぶ恐れもあるが、先延ばしにする事も出来ず、むしろ早ければ早いほど良いのだ。
「うむ。それでこそ、我が軍師よ。娘を娶る事を許してやっただけの事はある」
満足そうに頷く董卓を見て、つくづく妻の董氏との血の繋がりは無いと思われた。
「それで閣下。全ての段取りは整っておりますので、明日さっそく発表となりますが、よろしかったでしょうか」
「うむ。して、場所は?」
「温明園にて文武百官を招き、そこで宣言なさるがよろしいでしょう」
「よしよし、下がって良いぞ」
董卓に言われ、李儒は頭を下げて退出する。
「李儒よ、ついでに後宮から女を二、三人見繕って来い」
と言う、董卓の言葉は聞こえないふりをして出て行く。
しかし、本当に無視してしまうと後が面倒なので、言われたとおりに三人ほど董卓のところへ行ってもらう。
極論してしまうと、李儒はあくまでも妻である董氏の為に戦っているのであって、董卓に対する忠誠心など欠片も持ち合わせていない。
それでも李儒が董卓に仕えているのは、妻の事だけではなく、彼なりの野心あっての事でもある。
董卓はすでに五十を超える高齢にして性格も極めて傲慢、その上に不健全この上ない生活を行っているのだから、その余命も長いはずもない。
後を継ぐ実子のいない董卓の後継者はかなり歳の離れた弟の董旻、その次は娘婿の牛輔、そこからさらに数人をおいて李儒と言う事になっている。
それらの候補の中から李儒が勝ち残る可能性は圧倒的に低いのだが、董旻であれ牛輔であれ、董卓と比べると明らかに格下で扱いやすく、宮廷の中に閉じ込めて内政に口出しさせなければ、この乱れた世を正す事も出来るはずなのだ。
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