新説 呂布奉先伝 異伝

元精肉鮮魚店

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其れは連なる環の如く

龍は放たれた 5

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 ようやく長安にも落ち着きが戻ってきたか、そこへまた大きな問題がやって来た。

 長安近郊に董卓軍残党が集結していると言う情報が入ってきた。

 あの董卓軍残党と言う事もあり、都を恐怖に陥れるには十分な存在である。

 早急な対策が必要と言う事で、呂布は王允から呼び出される事になった。

 対董卓残党軍として招集されたのは呂布とその副将を務める張遼の他、徐栄と李粛、さらには元黄巾党だった韓暹かんせん楊奉ようほうと言った武将達が集められている。

 今回招集された武将達の中には生粋の漢軍武将は含まれておらず、元董卓軍や元黄巾軍の武将のみであった。

「皆も知っての通り、逆賊董卓の残党が都を脅かしている。奴らは我々が西涼人を虐殺するつもりと流言を広め、その兵数を十万近くまで増やし、それを維持する兵糧までも近くの村や集落から略奪していると言う。漢のためにも、この様な賊を放置するわけにはいかない」

 王允はそう前置きした。

「しかし、蛮勇とは言え逆賊の武力には漢の武将では歯が立たぬと判断したので、特に戦に強い将軍達に集まってもらった」

 王允にそう言われ、皆は悪い気はしていないようだったが、呂布と張遼は眉を寄せた。

 もし本当にそうだったら、この場に李粛はいない。

 また、確かに実戦慣れと言う事で言えば漢の正規軍より、元董卓軍や元黄巾軍の武将の方が優れていると言う判断も間違っていない。

 が、それにしても極端に集め過ぎているのではないか、と呂布は勘繰っていた。

 表情を見る限りでは、張遼も疑っている様に思える。

「で、このメンツで残党刈りをする事は分かったが、誰の指揮の元、どの規模で戦うんですかい?」

 徐栄は王允に尋ねる。

 これは尋ねたのが徐栄であったと言うだけで、ここに集められた者全員が思っている事だった。

「総大将には呂布将軍にやっていただく。それについて何か意見はありますかな?」

 さすがにそこには誰も反対しない。

 呂布本人は不本意の極みであったが、それでも董卓を討ち取ったと言うのは賞賛されるべき事であり、他の者には誰も出来なかった事でもある。

 ここで異を唱える場合、必然的に呂布以上の武勲を要求される事になるのでそれを避けたと言う方が正しいだろう。

「では、呂布将軍。兵数はどれほど必要になると予想されますか?」

 王允に質問され、呂布は腕を組む。

「……相手が十万を超える大軍であると言うのであれば、こちらも同数以上の兵を用意するべきでしょう。その全軍で籠城して守りを固めれば、いかな四天王と言えどこの都を陥落させる事は出来ないでしょう」

 呂布の答えに、他の面々は冷笑する。

「呂布将軍は慎重でいらっしゃる」

 楊奉が蔑む様に言うが、呂布はそれを意に介さず王允の方を見る。

「そもそも戦う必要はあるのでしょうか? 董太師に罪があった事は認めますが、余りにも太師の罪を連座させていると思うのですが。董卓四天王はもちろん、流言で集まった者達が十万を超えると言うのであれば、無理に討伐するのではなく彼らに降伏を呼びかけ漢軍に復帰の道を与えるべきではありませんか?」

「ぬるい!」

 口を挟んだのは韓暹だった。

「董卓だけでなく、軍師であった李儒、さらに董卓の手足となって暴虐の限りを尽くした四天王の罪を許しては万民が納得しない! それ故に元賊同士の馴れ合いだとなじられるのがオチだ!」

 韓暹の言う事も、分からない訳ではない。

 漢軍の中での差別は根強く、黄巾の乱から十年近く経とうと言うのに未だ賊将扱いであり、旧董卓軍の場合はさらに露骨に避けられている。

 今回の編成は、確かにその印象を払拭させる機会かもしれない。

「例えどのような悪名を被る事になっても、そもそも戦わければ負ける事も無く、こちらの態度を軟化させてからも向こうが戦いを望むと言うのであれば、その時改めて反乱軍としての立場を明確にするべきです。そうすれば流言によって協力した者達も離反するでしょうし、周辺諸侯への援軍も要請出来ます」

 あくまでも呂布は、不戦の意見を貫く。

「まあ、呂布将軍があの程度の連中に恐れをなしているとは思えないが、どうですか、王允殿? 俺としては呂布将軍の意見にも一理あると思うのですが?」

 徐栄が面白そうに、王允に話を向ける。

「王道とは仁と義と情の道。呂布将軍のご提案は素晴らしいと、この王允も感服しています。ですが、罪は罪として正しき刑罰を用いなければ法は法としての機能を失います。呂布将軍や徐栄将軍は自ら汚名を着る事を決断されても正道を歩む決意をされたのに対し、四天王を僭称する者共は流言によって民を惑わし、国家に対しての反逆行為を行っております。これを無罪放免としては、今後罪人を罰する事が出来なくなります。将軍には毅然とした態度で、悪逆には相応の報い有りと知らしめていただきたい」

 王允は呂布に頭を下げて言う。

「呂布将軍、ここまで言われては将軍の武威を天下に示す時。微力ながらこの徐栄、助力しますぞ」

「情報によれば、牛輔も合流したとの事。まずは牛輔と当たりそうです」

 呂布はまだ講和を諦めるべきではないと言いかけたのだが、徐栄の言葉の後すぐに王允が被せてくる。

「その露払い、この李粛が引き受けましょう。呂布、徐栄の両将軍には是非四天王との戦いに集中していただきたい」

 李粛が珍しく勇ましく、名乗りを上げる。

「いや、ここはこの楊奉に。我が配下にはまだ若いものの二人といない豪傑がおります。必ずや牛輔の首を取りましょう!」

「楊奉将軍、僕は元董卓軍の武将。楊奉将軍は漢の武将としての期間も長い事から、是非ともこの李粛に汚名返上の機会をいただきたい」

 李粛は引き下がらず、食い下がる。

「李粛らしくないですね」

 張遼が小声で呂布に言う。

「董卓四天王と比べると、義兄の牛輔は明らかに武勲を上げやすい相手。だからそこで手柄を上げる事を狙っているんだよ。いかにも李粛らしいだろ?」

「なるほど、納得しました」

 手柄にこだわる李粛だが、流石に董卓四天王との実力の差は分かっているらしい。

 あるいは分かっていないかも知れないが、その実力の低さもさる事ながら董卓の娘婿と言う肩書きからも、牛輔の首にはそれなりに価値がある。

 もう一人の手柄にこだわる男、徐栄がこの先陣争いに参加しなかったのにも非常に分かりやすい理由があった。

 徐栄の場合、自分の優秀さを主張したいのであれば牛輔ではなく、董卓四天王の中の誰かを討ち取る必要がある。

 そうする事でしか、かねてより主張し続けている自分の方が四天王より優れていると言う事を実証出来ないからだ。

 そんな徐栄にとって牛輔を相手に余計な被害を出したくないと思うのは自然な事であり、そこを李粛なり楊奉なりに任せると言うのは都合が良いと判断しているのだろう。

 やる気になっているのは戦う上では悪い事では無いと言いたいところだったが、余りにも敵を過小評価しているところが呂布には気がかりだった。

 董卓の残党と言う立ち位置の四天王は敗残の印象を植えつけられているものの、彼らは戦って破れた訳では無い。

 呂布は陽人の戦いで李傕と郭汜とは共に戦ったので多少の事は知っているが、樊稠、張済の二人の事はまったく知らない。

 そして、あの天才軍師李儒が彼がいれば自分はいなくても大丈夫とまで評価していた稀代の策士、賈詡がいる。

 単純な武力勝負でも必ずしも優位に立っているとは言い難い状況で、あの策士がこちらを策に嵌めようとしているのであれば、決して楽観視していられない。

「では、直ちにこちらも十万の兵を招集し、呂布将軍を総大将に迎撃に出陣していただくと言う事でよろしいな?」

 王允はそうまとめて、解散となった。

 徐栄達はすぐ出陣の準備にかかるために去っていったが、呂布は張遼に出陣の為の指示を出すとこの場に残り、王允と二人きりになる。

「将軍、何か?」

「迎撃に出る? この長安は守るにこれほど相応しい場所は無いと言えるほどの堅城。十万の兵を用意出来るのであれば敢えて西涼兵の得意な野戦に挑むのではなく、十分な備えを見せての籠城の方が負ける事は少なく、また硬い守りを見せる事によって相手の士気を挫く事も出来ましょう。王允殿はそう思われないのですか?」

「戦術判断では私は将軍の足元にも及びませんが、今回に限り野戦にて迎撃する必要があるのです」

「と、言うと?」

「相手が李傕や郭汜であれば籠城こそ最良の戦術でしょうが、今回は樊稠、張済と言ったこの都を建築した者達が相手だと言う事です。その二人だけならともかく、賈詡と言う切れ者がおります。あれほどの切れ者、この都に何らかの仕掛けを打っていてもおかしくない。特に緊急避難用の抜け道など、我々が知らない道があるかもしれない以上、あの者達を近付けるわけにはいかないのです」

 王允が言うには、敵方が旧董卓軍とは言えその兵が全て西涼兵であると言う事は無く、元々漢軍だったのが董卓軍に編入された者も少なくないらしい。

 それらの兵が間者働きもしてくれているので、少なからず向こうの情報も得ているとの事だった。

 そこからの情報によると、賈詡はまさに王允が恐れていた策を考案しているらしく、建設に携わって警戒されている樊稠、張済ではなく、李傕と郭汜を使って長安に奇襲を掛ける計画を立てていると言う事だった。

「それなら尚の事、守りを固めるべきなのでは?」

「どこから来るか分からない敵に備えると言うのは、あまり現実的とは言えず明らかに後手に回るでしょう。そもそも相手を近付けなければ策を用いる事も出来ず、呂布将軍や徐栄将軍と言った攻撃力と機動力に優れた将を招集したのも、万が一に備えての事です」

 消極的な呂布に、王允はそう説明する。

 単純な戦術の話をするのであれば、王允の言い分に理があると言えた。

 いかに籠城側が有利と言っても、どこからくるか分からない相手に対して備えると言うのは後手であり、広大な都を完全防備すると言うのであれば百万人の兵でも足りなくなるので実際には不可能である。

 それであれば、敵を近付ける事なく撃破する方が現実的だと言えなくもない。

 完全に殲滅する事は無理でも、大打撃を与えて戦場を膠着させる事が出来れば後は徐栄なり楊奉や韓暹に任せる事も出来る。

 現状の旧董卓軍は十五万もの大軍になっているらしいが、それは流言によって恐れ寄り集まった烏合の衆であるのだから、籠城で守りを固めて迎撃するより一戦して打撃を与えて瓦解させる方が遥かに現実的だろう。

 王允の指摘するところを、おそらく徐栄はすでに理解していた。

 しかも相手は徐栄にとって目の上のたんこぶとでも言うべき董卓四天王なのだから、ここで決着をつける事も願ったりの状況なのだ。

 しかし、呂布には気がかりがあった。

 あの賈詡が、勝算も無い状態で戦いを挑んでくるだろうか。

 呂布は董卓の遺言もあって戦いを回避する事を望んでいるが、もし戦いが始まった場合はやはり漢軍の方が圧倒的に有利だと思う。

 李儒も認めた異才の持ち主であるのだから油断は出来ないが、少なくとも呂布には旧董卓軍がどこに勝算を見出したのかは分からない。

 おそらく王允も、万が一にも敗れる事は無いと思っている。

 もし可能性があるとすれば、樊稠や張済と思わせて李傕と郭汜による別働隊による奇襲くらいだが、それも王允はすでに手を打っている。

 敗れるはずがない。

 呂布自身もそう思うのだが、だからと言って徐栄や王允の様に必ず勝てると信じる事が出来なかった。
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