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その大地、徐州
臧覇という男 4
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その報告を受けた徐州城では、対応策が割れていた。
異様なくらいに感情的になって報告してきた魏続は、今すぐにでも小沛に攻め込み劉備を討つべきだと主張した。
それに対して張遼は慎重論を唱える。
露骨にあからさまな挑発行為に乗るべきではないと言うのが、張遼の主張であった。
呂布もその張遼の意見には賛成だったが、行動していたのが張飛と言うのも気になる。
これが関羽であれば完全に何らかの策による行動だとわかるのだが、関羽と違って張飛は何よりも感情を優先して動くところが目立つ。
これまで呂布は劉備とはそれなりに良好な関係を築いてきたつもりであり、劉備も本心かは分からないものの呂布へは好意を向けている様な言動が多かった。
つまりこれは何らかの策による挑発行為などではなく、本当にただ気に入らないと言うだけの行動原理に突き動かされた張飛が勝手に動いているだけなのかもしれない。
「まずは劉備をこの徐州城に呼び寄せてはいかがでしょうか。そこで審議して張飛には然るべき罰を与えると言うのは?」
反劉備派のはずの陳宮が、ここでは慎重論を支持していた。
「否。この徐州は劉備ではなく呂布将軍の領地である事を知らしめる為にも、ここは小沛に軍を送りはっきりさせるべきでしょう」
逆に親劉備派の陳珪が主戦論を主張してくる。
普段とは真逆の反応に、呂布も判断に迷っていた。
正直なところを言えば、呂布は劉備と戦いたいとは思わない。
反董卓連合の際に劉備、関羽、張飛の三人と戦った事はあったが、あの時には赤兎馬のおかげもあって生き延びる事が出来たと言うだけで、もう一度戦って勝てと言われても無理だろう。
軍を率いてのぶつかり合いと言うのであれば、尚更被害は拡大する。
「徐州では未だ劉備の影響は大きく、民を扇動して乱を起こすつもりかも知れない! あの張飛の不遜さは、そう言う事を行うと宣言している様なものだ!」
魏続は拳を振り上げて言う。
ここだけ切り取ってみれば、どちらが扇動しようとしているのか分からない状況でもある。
「劉備を討つ事が悪いとは言わないが、挑発に乗って挑むべきではない」
そんな魏続に対し、陳宮はどこまでも冷静に言う。
「確かに劉備は呂布将軍や関羽、張飛と言った豪傑と比べれば個人の武勇では何ら脅威にはなりえない。だが、劉備の戦勘は侮れない。アレが挑発してこちらを動かそうとしているのであれば、それには乗らない方が良い」
「そんな弱腰でどうする! そんなモノ、踏み潰してやるのみ!」
魏続は勇ましく言うが、さすがにそこまで簡単ではないと呂布は思う。
もし劉備がこちらを挑発によって引っ張り出そうとしているとすれば、関羽が伏兵として現れる恐れもある。
そうなっては、大損害は免れない。
「あの、ちょっと良いですか?」
遠慮がちに陳登が挙手する。
「今の徐州軍は、亡き陶謙様から引き継がれた劉備殿が再編された軍であり、それを呂布将軍が鍛え上げたと言う経緯があります。特に今の再編された徐州軍の多くは劉備殿から集められた者が多く、場合によっては劉備殿と戦っている途中で向こうに寝返る事などありえるかも知れません。その危険性を抱えたまま劉備殿と戦うと言うのは、天下無双の呂布将軍であっても危険なのでは?」
「そんなヤツをいつまでも小沛に置いておく訳にはいかない! 今すぐに徐州平定の為にも劉備とその一党を討ち滅ぼすべし!」
「勇ましいところ悪いが」
魏続の言葉に水を差す様に、高順が言う。
「もし劉備と事を構えるとなると、奉先自らが軍を率いない限り勝目は無いだろう。奉先、お前自身はどう思っているんだ?」
「……俺?」
呂布は急に話を振られて驚いている。
「小沛を焼いたのも俺達だが、復興させたのも俺達だ。あの城の事はおそらく劉備軍より詳しく知っているだろう。それを踏まえて劉備は野戦に出るだろうが、あの袁術軍ですら劉備軍を打ち破る事は出来なかった。俺達が中途半端な兵を率いたところで勝てる見込みは無い。奉先ですら、これまでのように簡単に勝つ事は出来ないと俺は思っている」
「確かに。呂布将軍に出ていただくとしても、勝つつもりがなければ勝利はおぼつかないでしょう」
高順は陳宮の事を嫌っているが、陳宮の方は特に高順を嫌っていると言う事はないので、陳宮は高順の言葉に頷いている。
「……劉備殿と戦って勝つ、か。あまり考えた事は無かったな」
「たとえ張飛の挑発に乗ったとはいえ、小沛に攻め込んだ場合には劉備との関係修復は不可能でしょう。いや、張飛がいる限りこの様な事は起こり続けます。将軍、決断のしどころですぞ」
いつもなら陳宮が言いそうな事を、今回は陳珪が言ってくるので違和感があったが、言っている事はさほど間違っていない。
確かに劉備や関羽であれば話せば分かってもらえそうではあるが、張飛にはまったく会話が通じないので、今後も張飛がいる限りは起こりうる事なのだ。
今回に限ってならば劉備に報告して劉備の方から張飛に謝罪させるなどさせてもいいのだが、その都度となっては完全に無意味な徒労である。
「劉備殿と事を構えるかどうかはともかく、我々が購入した馬を奪って良いと言う道理は無い。それは劉備や関羽も同意してくれるだろう。まずはそこから解決させていこう」
呂布はかなり消極的であるとはいえ、小沛に兵を向ける事に賛成した。
とはいえ、魏続のように積極的に劉備と敵対すると言うつもりは無かったので、動員する兵数も大きく動かす事は避ける。
そもそも戦わずに話し合いで解決出来ればそれに越した事は無いので、まずは張遼が先遣隊として小沛に赴く事にした。
が、ここでも張飛に阻まれ話し合いの場を作る事も出来なかったと言う。
「……おかしくないですか?」
さすがに張遼は呂布に進言する。
「と、言うと?」
「俺だって桃園の誓いの事は知っていますが、いくらなんでも独断が過ぎるでしょう。それに小沛城近くまで来ていると言うのに、またそれを劉備殿も関羽殿も知らないはずは無いのに、姿を見せないどころか暴走している張飛に対しても何ら咎めるつもりも止めるつもりもないと言うのは不自然です」
張遼は眉を寄せて言う。
感情的にわめきたてる魏続と違って、状況を冷静に見ていた高順からの報告によると、張飛はただ呂布の事を負かせたいと言う一心で戦いを望んでいる様だったらしい。
うんざりするほど子供じみた理由に呆れるが、いかにも張飛らしいとも思う。
しかし、それは張飛の理屈であって自ら退いたとはいえ、劉備は元徐州太守であり、関羽も武将として並々ならぬ人物である。
ここで呂布と敵対する事に意味があるとは思えず、逆に呂布と劉備が徐州内部で争う事は外部の曹操や袁紹、その余力があるかは疑わしいが袁術辺りに介入の口実を与えるだけでしかない。
「あるいは劉備は泰山の臧覇との挟撃を狙っているのでは?」
同行している成廉が、呂布に向かって言う。
状況は違うが、成廉も袁術と戦っていた時には自分の城に相手部隊を引き込むと見せて、裏から魏越の伏兵によって袁術軍に打撃を与えると言った策を用いていたらしい。
「いや、臧覇はそう言う男じゃない」
と、否定したのは高順である。
高順は呂布軍の将軍位の中では低位であり、相変わらず自由に動いている事が多い。
呂布の家族を護衛する事が主な役割の高順なのだが、最近は侯成がその役割を担う事が多くなり、高順は徐州のならず者などを手懐ける事に動く事が多くなっていた。
そうやって高順は個人的な繋がりとして、臧覇の事も知っている。
高順が言うには、臧覇と言う人物は相当な変わり者である事は間違いないものの、武将としての能力は高く、単純な武勇の優劣はともかく将器と言う点では自分より上だと評していた。
そんな臧覇だからこそ、意味もなく呂布と敵対する様な真似はしないと言うのが高順の考えである。
「いまいち何を考えているのか分からないが、ここは焦った行動は避けるとしよう。ここからなら楊奉と韓暹にも手を貸してもらおう。劉備殿を見かけたら、呂布が探していたと言伝を伝えてもらうだけでいい。下手に交戦する必要は無いと言う感じで。誰か伝令に行けるか?」
「行きましょうか?」
名乗り出たのは曹性だった。
素晴らしく控えめで腰の低い曹性なのだが、弓の腕前は呂布軍では呂布に次ぐ実力の持ち主でもある。
もっとも呂布との差が離れすぎている事もあって、曹性自身はその事を認めようとはしない。
「行ってくれるか?」
曹性の弓の援護を失うのは痛手ではあるのだが、張遼や高順には実戦の指揮を取ってもらう必要があり、成廉の他、魏続と侯成は武勲を上げたいと思う気持ちが強く、伝令などの役割で前線から外される事を嫌がった。
そうなると、自ら名乗り出てくれた曹性に任せるしか無い。
「伝令の任、承りました」
曹性はすぐさま馬を走らせて伝令に向かう。
伝令が戻るまでは慎重な行動で、出来るだけ劉備軍を刺激しない様にとの配慮から呂布軍はゆっくりと小沛城へ近づく。
それでもあの好戦的な張飛ならかなり早い段階で迎撃に出てくるのではないかと思ったが、意外な事に張飛の姿は無く、小沛城が目視出来るところまで来ても劉備軍が迎撃の為に陣を敷いていると言う様子も無い。
「伏兵かな?」
「俺が追い返されたのは、ここまで近付いてからではなかったのですが」
呂布の質問に、張遼も困っている。
小沛城には劉備軍の旗が翻っているが、そこに兵の姿は無い。
どうにも劉備の考えが読めない。
やはり陳宮も同行させるべきだったと思ったのだが、陳宮には思うところがあるらしく徐州城に残っている。
呂布軍は小沛城の前で布陣して伝令の曹性を待っていたが、当初想定していたより早く曹性は戻ってきた。
しかも、一人ではない。
「呂布将軍、ご報告があります」
曹性は困惑した表情で言う。
楊奉と韓暹のところに向かった曹性だったが、到着した時には混乱の極みにあった。
曹性が到着する前日に劉備軍が楊奉達のところにやって来たらしい。
「詳しくは、この蕭建が」
曹性と同行してきた武将、蕭建が詳しく説明する。
と言っても、蕭建も状況を正しく理解している訳ではないと言う。
劉備は呂布軍と戦って惨敗したと言って、楊奉達のところへやって来たらしい。
呂布が底抜けにお人好しである事は楊奉と韓暹も知っているだけに、劉備と呂布がやりあったと言うのは信じられなかったようだ。
そこで詳しく話を聞くと言う事で劉備達を招き入れたのだが、そこで劉備達に楊奉と韓暹は突然切り捨てられ、劉備達はそのまま曹操のところへ逃げていったと言う。
「……曹操のところに? 一体何を考えているんだ?」
曹操と言えば徐州で虐殺を行い、劉備はその脅威から民を守る為に徐州へやって来て太守にまで就任した事もあり、劉備にとってはもっとも倒すべき敵のはずだった。
劉備の行動は呂布には理解できず、その意味も見出す事が出来なかったと言う事もあり、空城となった小沛などを蕭建に任せ、呂布達は徐州城へ引き返す事にした。
異様なくらいに感情的になって報告してきた魏続は、今すぐにでも小沛に攻め込み劉備を討つべきだと主張した。
それに対して張遼は慎重論を唱える。
露骨にあからさまな挑発行為に乗るべきではないと言うのが、張遼の主張であった。
呂布もその張遼の意見には賛成だったが、行動していたのが張飛と言うのも気になる。
これが関羽であれば完全に何らかの策による行動だとわかるのだが、関羽と違って張飛は何よりも感情を優先して動くところが目立つ。
これまで呂布は劉備とはそれなりに良好な関係を築いてきたつもりであり、劉備も本心かは分からないものの呂布へは好意を向けている様な言動が多かった。
つまりこれは何らかの策による挑発行為などではなく、本当にただ気に入らないと言うだけの行動原理に突き動かされた張飛が勝手に動いているだけなのかもしれない。
「まずは劉備をこの徐州城に呼び寄せてはいかがでしょうか。そこで審議して張飛には然るべき罰を与えると言うのは?」
反劉備派のはずの陳宮が、ここでは慎重論を支持していた。
「否。この徐州は劉備ではなく呂布将軍の領地である事を知らしめる為にも、ここは小沛に軍を送りはっきりさせるべきでしょう」
逆に親劉備派の陳珪が主戦論を主張してくる。
普段とは真逆の反応に、呂布も判断に迷っていた。
正直なところを言えば、呂布は劉備と戦いたいとは思わない。
反董卓連合の際に劉備、関羽、張飛の三人と戦った事はあったが、あの時には赤兎馬のおかげもあって生き延びる事が出来たと言うだけで、もう一度戦って勝てと言われても無理だろう。
軍を率いてのぶつかり合いと言うのであれば、尚更被害は拡大する。
「徐州では未だ劉備の影響は大きく、民を扇動して乱を起こすつもりかも知れない! あの張飛の不遜さは、そう言う事を行うと宣言している様なものだ!」
魏続は拳を振り上げて言う。
ここだけ切り取ってみれば、どちらが扇動しようとしているのか分からない状況でもある。
「劉備を討つ事が悪いとは言わないが、挑発に乗って挑むべきではない」
そんな魏続に対し、陳宮はどこまでも冷静に言う。
「確かに劉備は呂布将軍や関羽、張飛と言った豪傑と比べれば個人の武勇では何ら脅威にはなりえない。だが、劉備の戦勘は侮れない。アレが挑発してこちらを動かそうとしているのであれば、それには乗らない方が良い」
「そんな弱腰でどうする! そんなモノ、踏み潰してやるのみ!」
魏続は勇ましく言うが、さすがにそこまで簡単ではないと呂布は思う。
もし劉備がこちらを挑発によって引っ張り出そうとしているとすれば、関羽が伏兵として現れる恐れもある。
そうなっては、大損害は免れない。
「あの、ちょっと良いですか?」
遠慮がちに陳登が挙手する。
「今の徐州軍は、亡き陶謙様から引き継がれた劉備殿が再編された軍であり、それを呂布将軍が鍛え上げたと言う経緯があります。特に今の再編された徐州軍の多くは劉備殿から集められた者が多く、場合によっては劉備殿と戦っている途中で向こうに寝返る事などありえるかも知れません。その危険性を抱えたまま劉備殿と戦うと言うのは、天下無双の呂布将軍であっても危険なのでは?」
「そんなヤツをいつまでも小沛に置いておく訳にはいかない! 今すぐに徐州平定の為にも劉備とその一党を討ち滅ぼすべし!」
「勇ましいところ悪いが」
魏続の言葉に水を差す様に、高順が言う。
「もし劉備と事を構えるとなると、奉先自らが軍を率いない限り勝目は無いだろう。奉先、お前自身はどう思っているんだ?」
「……俺?」
呂布は急に話を振られて驚いている。
「小沛を焼いたのも俺達だが、復興させたのも俺達だ。あの城の事はおそらく劉備軍より詳しく知っているだろう。それを踏まえて劉備は野戦に出るだろうが、あの袁術軍ですら劉備軍を打ち破る事は出来なかった。俺達が中途半端な兵を率いたところで勝てる見込みは無い。奉先ですら、これまでのように簡単に勝つ事は出来ないと俺は思っている」
「確かに。呂布将軍に出ていただくとしても、勝つつもりがなければ勝利はおぼつかないでしょう」
高順は陳宮の事を嫌っているが、陳宮の方は特に高順を嫌っていると言う事はないので、陳宮は高順の言葉に頷いている。
「……劉備殿と戦って勝つ、か。あまり考えた事は無かったな」
「たとえ張飛の挑発に乗ったとはいえ、小沛に攻め込んだ場合には劉備との関係修復は不可能でしょう。いや、張飛がいる限りこの様な事は起こり続けます。将軍、決断のしどころですぞ」
いつもなら陳宮が言いそうな事を、今回は陳珪が言ってくるので違和感があったが、言っている事はさほど間違っていない。
確かに劉備や関羽であれば話せば分かってもらえそうではあるが、張飛にはまったく会話が通じないので、今後も張飛がいる限りは起こりうる事なのだ。
今回に限ってならば劉備に報告して劉備の方から張飛に謝罪させるなどさせてもいいのだが、その都度となっては完全に無意味な徒労である。
「劉備殿と事を構えるかどうかはともかく、我々が購入した馬を奪って良いと言う道理は無い。それは劉備や関羽も同意してくれるだろう。まずはそこから解決させていこう」
呂布はかなり消極的であるとはいえ、小沛に兵を向ける事に賛成した。
とはいえ、魏続のように積極的に劉備と敵対すると言うつもりは無かったので、動員する兵数も大きく動かす事は避ける。
そもそも戦わずに話し合いで解決出来ればそれに越した事は無いので、まずは張遼が先遣隊として小沛に赴く事にした。
が、ここでも張飛に阻まれ話し合いの場を作る事も出来なかったと言う。
「……おかしくないですか?」
さすがに張遼は呂布に進言する。
「と、言うと?」
「俺だって桃園の誓いの事は知っていますが、いくらなんでも独断が過ぎるでしょう。それに小沛城近くまで来ていると言うのに、またそれを劉備殿も関羽殿も知らないはずは無いのに、姿を見せないどころか暴走している張飛に対しても何ら咎めるつもりも止めるつもりもないと言うのは不自然です」
張遼は眉を寄せて言う。
感情的にわめきたてる魏続と違って、状況を冷静に見ていた高順からの報告によると、張飛はただ呂布の事を負かせたいと言う一心で戦いを望んでいる様だったらしい。
うんざりするほど子供じみた理由に呆れるが、いかにも張飛らしいとも思う。
しかし、それは張飛の理屈であって自ら退いたとはいえ、劉備は元徐州太守であり、関羽も武将として並々ならぬ人物である。
ここで呂布と敵対する事に意味があるとは思えず、逆に呂布と劉備が徐州内部で争う事は外部の曹操や袁紹、その余力があるかは疑わしいが袁術辺りに介入の口実を与えるだけでしかない。
「あるいは劉備は泰山の臧覇との挟撃を狙っているのでは?」
同行している成廉が、呂布に向かって言う。
状況は違うが、成廉も袁術と戦っていた時には自分の城に相手部隊を引き込むと見せて、裏から魏越の伏兵によって袁術軍に打撃を与えると言った策を用いていたらしい。
「いや、臧覇はそう言う男じゃない」
と、否定したのは高順である。
高順は呂布軍の将軍位の中では低位であり、相変わらず自由に動いている事が多い。
呂布の家族を護衛する事が主な役割の高順なのだが、最近は侯成がその役割を担う事が多くなり、高順は徐州のならず者などを手懐ける事に動く事が多くなっていた。
そうやって高順は個人的な繋がりとして、臧覇の事も知っている。
高順が言うには、臧覇と言う人物は相当な変わり者である事は間違いないものの、武将としての能力は高く、単純な武勇の優劣はともかく将器と言う点では自分より上だと評していた。
そんな臧覇だからこそ、意味もなく呂布と敵対する様な真似はしないと言うのが高順の考えである。
「いまいち何を考えているのか分からないが、ここは焦った行動は避けるとしよう。ここからなら楊奉と韓暹にも手を貸してもらおう。劉備殿を見かけたら、呂布が探していたと言伝を伝えてもらうだけでいい。下手に交戦する必要は無いと言う感じで。誰か伝令に行けるか?」
「行きましょうか?」
名乗り出たのは曹性だった。
素晴らしく控えめで腰の低い曹性なのだが、弓の腕前は呂布軍では呂布に次ぐ実力の持ち主でもある。
もっとも呂布との差が離れすぎている事もあって、曹性自身はその事を認めようとはしない。
「行ってくれるか?」
曹性の弓の援護を失うのは痛手ではあるのだが、張遼や高順には実戦の指揮を取ってもらう必要があり、成廉の他、魏続と侯成は武勲を上げたいと思う気持ちが強く、伝令などの役割で前線から外される事を嫌がった。
そうなると、自ら名乗り出てくれた曹性に任せるしか無い。
「伝令の任、承りました」
曹性はすぐさま馬を走らせて伝令に向かう。
伝令が戻るまでは慎重な行動で、出来るだけ劉備軍を刺激しない様にとの配慮から呂布軍はゆっくりと小沛城へ近づく。
それでもあの好戦的な張飛ならかなり早い段階で迎撃に出てくるのではないかと思ったが、意外な事に張飛の姿は無く、小沛城が目視出来るところまで来ても劉備軍が迎撃の為に陣を敷いていると言う様子も無い。
「伏兵かな?」
「俺が追い返されたのは、ここまで近付いてからではなかったのですが」
呂布の質問に、張遼も困っている。
小沛城には劉備軍の旗が翻っているが、そこに兵の姿は無い。
どうにも劉備の考えが読めない。
やはり陳宮も同行させるべきだったと思ったのだが、陳宮には思うところがあるらしく徐州城に残っている。
呂布軍は小沛城の前で布陣して伝令の曹性を待っていたが、当初想定していたより早く曹性は戻ってきた。
しかも、一人ではない。
「呂布将軍、ご報告があります」
曹性は困惑した表情で言う。
楊奉と韓暹のところに向かった曹性だったが、到着した時には混乱の極みにあった。
曹性が到着する前日に劉備軍が楊奉達のところにやって来たらしい。
「詳しくは、この蕭建が」
曹性と同行してきた武将、蕭建が詳しく説明する。
と言っても、蕭建も状況を正しく理解している訳ではないと言う。
劉備は呂布軍と戦って惨敗したと言って、楊奉達のところへやって来たらしい。
呂布が底抜けにお人好しである事は楊奉と韓暹も知っているだけに、劉備と呂布がやりあったと言うのは信じられなかったようだ。
そこで詳しく話を聞くと言う事で劉備達を招き入れたのだが、そこで劉備達に楊奉と韓暹は突然切り捨てられ、劉備達はそのまま曹操のところへ逃げていったと言う。
「……曹操のところに? 一体何を考えているんだ?」
曹操と言えば徐州で虐殺を行い、劉備はその脅威から民を守る為に徐州へやって来て太守にまで就任した事もあり、劉備にとってはもっとも倒すべき敵のはずだった。
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