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その大地、徐州
臧覇という男 5
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「高順さーん、聞いていた話とすっごい違うんですけどぉ?」
「そう言ってくれるな、臧覇」
高順は困った様に頭を掻く。
徐州城に戻って呂布が詳細を説明すると、もっとも大きな反応を示したのは陳宮だった。
「劉備は本気で徐州を奪うつもりです」
陳宮は報告を聞いて、そう言った。
呂布軍に限らず、徐州にいる者であれば陳宮の軍略の才に疑問を持つ者はいない。
それは立場上対立する事の多い陳珪や、毛嫌いしている高順などにしても例外ではないのだが、さすがにこの時の陳宮の言葉には首を傾げていた。
元々徐州は劉備の手元にあった。
それを手放すきっかけを作ったのはまさに劉備自身であり、その後に呂布が劉備に返そうとした時にもそれを断り、小沛の小城に入るのを望んだのも劉備である。
今になってわざわざ劉備が徐州を手に入れようとしているのか、しかもこれほど回りくどい事をするのかが分からないと言った様子だった。
もちろん、呂布もそうである。
「この上は、内憂である臧覇を討ち、徐州を一枚岩にして迎え撃つ他ありません」
「臧覇であればわざわざ戦う必要は無く、こちらから同盟を申し入れればきっとそれを受け入れるだろう。戦うとなると、あの男は強い。曹操や劉備を迎え撃つ前に痛手を被る事になるぞ」
これに関しては単純に陳宮が嫌いだからと言う訳ではなく、個人的な付き合いがあるからこそ高順は臧覇の実力を高く評価している。
今の臧覇は一介の賊将でしかない立場であるが、高順の見立てでは呂布軍の武将の中で臧覇より確実に優っていると言えるのは呂布のみで、おそらく高順や張遼であっても手を焼く事になるだろう。
「今は無意味な戦を避け、兵馬を整え迎撃の準備を整えるべきではないのか?」
「否。内憂を抱えたまま迎撃の準備を整えたところで、戦力を集中出来ない以上、その戦力を分散させざるを得ない。それでは苦戦を招くのみ」
高順の主張を陳宮はまっこうから跳ね返す。
こう言う物言いに高順などは腹を立てる事になるのだが、陳宮の言い分は必ずしも陳宮の一方的な言い分を強行していると言う訳ではない。
その事が分かっているからこそ、高順は反論を封じられ、それだけに余計に頭に来るのだろう。
「臧覇討伐には、魏続、侯成、成廉に任せたい」
「無茶だ!」
陳宮の人選に、高順は即座に反対する。
「成廉はまだしも、魏続と侯成には充分な実戦経験が足りず、攻めてきた臧覇を迎え撃つと言うのならともかく、山城に潜む臧覇を討つのは至難。奉先自ら攻めない限り、返り討ちにあうだけだ」
「ふざけるな、高順! そんな賊将に劣ると言うか!」
いつもは陳宮と反目し、陳宮の言う事であれば何でも反対してやろうとする魏続なのだが、この時は高順の方に噛み付いた。
「お前が劣っていると言う訳ではない。敵が優れていると言っているのだ」
「ならば、総大将には呂布将軍にも出ていただく」
「……俺?」
陳宮の言葉に、呂布は驚く。
「はっ。将軍の武名は徐州どころか、漢全土に轟いております。実際に兵を率いて戦うつもりが無かったとしても、その武威のみで威圧する事も出来ましょう。またそれであれば魏続、侯成、成廉も武勲を立てやすくなるはず」
高順は反対し続けたのだが、魏続達がやる気になっていると言う事と陳宮には何かしら別の考えがあるらしく、その事を含む事を言い出したので張遼達も様子を見る様になり、そのまま出兵が決定した。
もちろんそれらの事全てを高順は臧覇に伝えたわけではなかったが、臧覇は別の情報源を持っているらしく、高順が訪ねてきた時には出兵の事を知っていたのである。
実際のところ、臧覇自身の見栄えで言えば徐州城に出入りしていてもおかしくない。
立場で言えば泰山を不法占拠している山賊の類なのだが、小奇麗に整えた身なりは身だしなみなどに気を遣っているのは一目見てわかる。
もし見た目だけで言うのであれば、実際には山賊扱いを受けている臧覇より高順などの方がよっぽど賊に見えるくらいだった。
また、武人特有の威圧感もそこまで強くなく、何故こんなところで山賊をしているのか不思議なくらいに教養を身に付け、育ちの良さを感じさせるところも多い。
おそらく徐州城で見かけた場合、臧覇である事を知っていなければ徐州軍の武将か、あるいは城に出入りしている富豪の息子と思われる事だろう。
もしかすると臧覇はそうやって身分を偽り、情報を得ているのかも知れない。
そんな人物でありながら、臧覇の武勇や戦術眼は高順や張遼に劣らず、陳宮に言った通り臧覇と戦って勝てる武将は呂布や陳宮と言った、ごく僅かな人物だけである。
「なあ、臧覇。ここは戦わずに降伏してはもらえないか?」
高順は拒否される事をわかっていながら、そう提案してみた。
その提案を聞いた臧覇は、複雑な表情を浮かべて考え込む。
「それは……」
「ああ、無理を言っている事は分かっている」
「……格好良いですかね?」
眉を寄せ、真剣な表情で高順に尋ねる。
「……あ?」
「戦わずして呂布軍に降ると言うのは、格好良いと言えますか?」
「価値観の違いはあると思うが、まぁ、格好良……くは無いかな?」
「じゃ、降りません」
臧覇はあっさりと答える。
「……お前、それで良いのか?」
「え? 高順さんは何で武将をやっているんですか? 女にモテる為でしょう?」
さも当然と言わんばかりで驚いている臧覇に、高順も驚かされる。
「いや、別にそれは……。と言うより、お前、山賊なんだから女くらいいくらでも手に入るだろう?」
「違うんですよ、そう言う事じゃ無いんです」
臧覇は真面目な表情で言う。
「俺はただ女を侍らせたいとかそんな事じゃなく、好かれたいんですよ!」
拳を振り上げんばかりに、臧覇は力説する。
「……臧覇、モテないのか?」
「違います! モテないんじゃ無いんです! ちょっと縁がないだけです!」
ダメらしい。
見た目には悪くないし、武勇にも優れ、しかも賊とはいえ自らの勢力を持つ臧覇だが、言われてみると確かに周りに女の気配を感じない。
堅物である張遼にも女っ気は無いのだが、それは本人が避けていると言う事もある為で、徐州の女性達からは熱い視線を向けられている。
「賊になったのも、悪徳官吏から貧しい者達を守る為で、それが俺の中では格好良いと思ったんですが、何故か寄ってくるのは男ばかりだったんですよ」
「その妻子がいたんじゃないか?」
「だから、女であれば誰でも良いから侍らせたいとかじゃなくて、俺の事を本気で好きな女性がたくさん欲しいんです!」
「あー、まぁ、まったく分からない話じゃないけど、けっこう手に余るから止めといた方が良いぞ」
「え? 何ですか、その言い方。まるで何人も侍らせてきたみたいな感じじゃないですか」
臧覇は高順を睨む。
「俺の周りは割とそんな感じだぞ? 侠客とは言っても、官吏から見たら賊と変わらないからなぁ。荒っぽいのが集まると、やっぱ女も呼ぼうって事になるし」
「なるし?」
「いや、だからその辺からちょっと呼んでくると言うか……」
「何て人だ! あんた、極悪人だ! 人さらいは最低だ!」
「いや、攫ってくるわけではなくて、あくまでも有志を募ると言うかそう言う感じでだな」
「……なるほど、そう言う事ですか」
何が違うのかはいまいち高順にはわからなかったが、臧覇は納得しているらしく何度も頷いている。
「臧覇もやってみればいいじゃないか」
「イケますかね?」
「呂布軍に入ればイケるかも」
「えー? 呂布軍って、男臭い印象が強いんですが?」
「奉先の奥方は美人だぞ? 娘の方も見た目は悪くない。見た目だけで言えば、軍師も美人だぞ」
「……良いっすね」
臧覇の口調が変わる。
「だろ? だったら戦わずに呂布軍に降伏しろよ」
「それは無理ッスね。格好悪いから」
そこは譲らない臧覇である。
その美学は嫌いでは無いが、そう言う事だから女性から敬遠されていたりしないのかとも高順は思う。
とはいえ、これも臧覇らしさなのだろうと思って、あえてその事は黙っておいく事にした。
出来る事なら穏便に済ませたいと思って来た高順だったが、臧覇の方にも退くつもりはないと分かり、高順もこれ以上の情報漏洩は出来ないと考えて臧覇の元を離れる事にする。
その時に臧覇旗下の武将である孫観に会った。
「これは、陥陣営の高順さん。相変わらず口説きに来たのかい?」
「フラレ続きだがな」
高順は笑いながら言う。
「高順さん。呂布軍が出兵すると聞いたが、本当かい?」
「耳が早いな。戦いたくないから、呂布軍に降ってくれと頼みに来たんだが、ダメだったよ」
高順は笑うが、孫観は複雑な表情を浮かべる。
「どうした?」
「来るのは呂布将軍自身かい?」
「さすがにそれには答えられない。悪く思うな」
「まぁ、それは仕方がないか。でも高順さん、あんたは見た目の割に良い人だから一つ忠告しておくよ。戦場で臧覇と会ったら、逃げた方が良い」
「ほう、それほどの豪傑か」
「豪傑と言っていいかは分からないが、アレだから寄ってきた女も離れていくとだけ言っておくよ」
去り際に孫観は高順にそう言ったのだが、高順がその話を呂布達に伝える前に事件は起きた。
呂布軍による臧覇討伐が決定した事に焦った蕭建が、武功を独り占めしようと楊奉達の残した元袁術軍二万の兵を率いて、独断で臧覇討伐に向かったのである。
元々蕭建は武勇に優れてはいるものの、その事を鼻にかけた傲慢な性格は、同じく傲慢な者の多い袁術軍にあっても際立っていたので、厄介者として軍の中枢から遠ざけられていた人物であった。
それ故に楊奉の副将として配されたのだが、その事にたいする不満も今回の暴走を招く一因となっていた。
もう一つ。
傲慢な性格の蕭建は、臧覇の事をただの山賊と侮っていた。
また元袁術軍の兵士達も優れた装備を持っているものの、練度で言えば呂布軍はもちろん、弱小と言われる徐州軍と比べても劣ると言う事実を認めようとしない。
自分達の弱点を知らず、また敵である臧覇を侮って相手の事を知ろうともしない蕭建に対し、臧覇は十分な対策を取っていたのだろう。
蕭建は二万の兵を率いていたにも関わらず、数千の臧覇を相手に敗れただけでなく、討ち取られたのである。
それは、出兵していた呂布軍に臧覇討伐の口実を与える事にほかならないのだが、今回は同行している陳宮には臧覇の真意が分かった。
臧覇は蕭建を討ち取りながらも、二万の兵は逃げるに任せて追撃しようとはせず泰山に引き返している。
わざわざ呂布軍に大義名分を与え、充分な兵数を残してやる理由はただ一つ。
呂布軍に『かかって来い』と挑発しているのである。
「そう言ってくれるな、臧覇」
高順は困った様に頭を掻く。
徐州城に戻って呂布が詳細を説明すると、もっとも大きな反応を示したのは陳宮だった。
「劉備は本気で徐州を奪うつもりです」
陳宮は報告を聞いて、そう言った。
呂布軍に限らず、徐州にいる者であれば陳宮の軍略の才に疑問を持つ者はいない。
それは立場上対立する事の多い陳珪や、毛嫌いしている高順などにしても例外ではないのだが、さすがにこの時の陳宮の言葉には首を傾げていた。
元々徐州は劉備の手元にあった。
それを手放すきっかけを作ったのはまさに劉備自身であり、その後に呂布が劉備に返そうとした時にもそれを断り、小沛の小城に入るのを望んだのも劉備である。
今になってわざわざ劉備が徐州を手に入れようとしているのか、しかもこれほど回りくどい事をするのかが分からないと言った様子だった。
もちろん、呂布もそうである。
「この上は、内憂である臧覇を討ち、徐州を一枚岩にして迎え撃つ他ありません」
「臧覇であればわざわざ戦う必要は無く、こちらから同盟を申し入れればきっとそれを受け入れるだろう。戦うとなると、あの男は強い。曹操や劉備を迎え撃つ前に痛手を被る事になるぞ」
これに関しては単純に陳宮が嫌いだからと言う訳ではなく、個人的な付き合いがあるからこそ高順は臧覇の実力を高く評価している。
今の臧覇は一介の賊将でしかない立場であるが、高順の見立てでは呂布軍の武将の中で臧覇より確実に優っていると言えるのは呂布のみで、おそらく高順や張遼であっても手を焼く事になるだろう。
「今は無意味な戦を避け、兵馬を整え迎撃の準備を整えるべきではないのか?」
「否。内憂を抱えたまま迎撃の準備を整えたところで、戦力を集中出来ない以上、その戦力を分散させざるを得ない。それでは苦戦を招くのみ」
高順の主張を陳宮はまっこうから跳ね返す。
こう言う物言いに高順などは腹を立てる事になるのだが、陳宮の言い分は必ずしも陳宮の一方的な言い分を強行していると言う訳ではない。
その事が分かっているからこそ、高順は反論を封じられ、それだけに余計に頭に来るのだろう。
「臧覇討伐には、魏続、侯成、成廉に任せたい」
「無茶だ!」
陳宮の人選に、高順は即座に反対する。
「成廉はまだしも、魏続と侯成には充分な実戦経験が足りず、攻めてきた臧覇を迎え撃つと言うのならともかく、山城に潜む臧覇を討つのは至難。奉先自ら攻めない限り、返り討ちにあうだけだ」
「ふざけるな、高順! そんな賊将に劣ると言うか!」
いつもは陳宮と反目し、陳宮の言う事であれば何でも反対してやろうとする魏続なのだが、この時は高順の方に噛み付いた。
「お前が劣っていると言う訳ではない。敵が優れていると言っているのだ」
「ならば、総大将には呂布将軍にも出ていただく」
「……俺?」
陳宮の言葉に、呂布は驚く。
「はっ。将軍の武名は徐州どころか、漢全土に轟いております。実際に兵を率いて戦うつもりが無かったとしても、その武威のみで威圧する事も出来ましょう。またそれであれば魏続、侯成、成廉も武勲を立てやすくなるはず」
高順は反対し続けたのだが、魏続達がやる気になっていると言う事と陳宮には何かしら別の考えがあるらしく、その事を含む事を言い出したので張遼達も様子を見る様になり、そのまま出兵が決定した。
もちろんそれらの事全てを高順は臧覇に伝えたわけではなかったが、臧覇は別の情報源を持っているらしく、高順が訪ねてきた時には出兵の事を知っていたのである。
実際のところ、臧覇自身の見栄えで言えば徐州城に出入りしていてもおかしくない。
立場で言えば泰山を不法占拠している山賊の類なのだが、小奇麗に整えた身なりは身だしなみなどに気を遣っているのは一目見てわかる。
もし見た目だけで言うのであれば、実際には山賊扱いを受けている臧覇より高順などの方がよっぽど賊に見えるくらいだった。
また、武人特有の威圧感もそこまで強くなく、何故こんなところで山賊をしているのか不思議なくらいに教養を身に付け、育ちの良さを感じさせるところも多い。
おそらく徐州城で見かけた場合、臧覇である事を知っていなければ徐州軍の武将か、あるいは城に出入りしている富豪の息子と思われる事だろう。
もしかすると臧覇はそうやって身分を偽り、情報を得ているのかも知れない。
そんな人物でありながら、臧覇の武勇や戦術眼は高順や張遼に劣らず、陳宮に言った通り臧覇と戦って勝てる武将は呂布や陳宮と言った、ごく僅かな人物だけである。
「なあ、臧覇。ここは戦わずに降伏してはもらえないか?」
高順は拒否される事をわかっていながら、そう提案してみた。
その提案を聞いた臧覇は、複雑な表情を浮かべて考え込む。
「それは……」
「ああ、無理を言っている事は分かっている」
「……格好良いですかね?」
眉を寄せ、真剣な表情で高順に尋ねる。
「……あ?」
「戦わずして呂布軍に降ると言うのは、格好良いと言えますか?」
「価値観の違いはあると思うが、まぁ、格好良……くは無いかな?」
「じゃ、降りません」
臧覇はあっさりと答える。
「……お前、それで良いのか?」
「え? 高順さんは何で武将をやっているんですか? 女にモテる為でしょう?」
さも当然と言わんばかりで驚いている臧覇に、高順も驚かされる。
「いや、別にそれは……。と言うより、お前、山賊なんだから女くらいいくらでも手に入るだろう?」
「違うんですよ、そう言う事じゃ無いんです」
臧覇は真面目な表情で言う。
「俺はただ女を侍らせたいとかそんな事じゃなく、好かれたいんですよ!」
拳を振り上げんばかりに、臧覇は力説する。
「……臧覇、モテないのか?」
「違います! モテないんじゃ無いんです! ちょっと縁がないだけです!」
ダメらしい。
見た目には悪くないし、武勇にも優れ、しかも賊とはいえ自らの勢力を持つ臧覇だが、言われてみると確かに周りに女の気配を感じない。
堅物である張遼にも女っ気は無いのだが、それは本人が避けていると言う事もある為で、徐州の女性達からは熱い視線を向けられている。
「賊になったのも、悪徳官吏から貧しい者達を守る為で、それが俺の中では格好良いと思ったんですが、何故か寄ってくるのは男ばかりだったんですよ」
「その妻子がいたんじゃないか?」
「だから、女であれば誰でも良いから侍らせたいとかじゃなくて、俺の事を本気で好きな女性がたくさん欲しいんです!」
「あー、まぁ、まったく分からない話じゃないけど、けっこう手に余るから止めといた方が良いぞ」
「え? 何ですか、その言い方。まるで何人も侍らせてきたみたいな感じじゃないですか」
臧覇は高順を睨む。
「俺の周りは割とそんな感じだぞ? 侠客とは言っても、官吏から見たら賊と変わらないからなぁ。荒っぽいのが集まると、やっぱ女も呼ぼうって事になるし」
「なるし?」
「いや、だからその辺からちょっと呼んでくると言うか……」
「何て人だ! あんた、極悪人だ! 人さらいは最低だ!」
「いや、攫ってくるわけではなくて、あくまでも有志を募ると言うかそう言う感じでだな」
「……なるほど、そう言う事ですか」
何が違うのかはいまいち高順にはわからなかったが、臧覇は納得しているらしく何度も頷いている。
「臧覇もやってみればいいじゃないか」
「イケますかね?」
「呂布軍に入ればイケるかも」
「えー? 呂布軍って、男臭い印象が強いんですが?」
「奉先の奥方は美人だぞ? 娘の方も見た目は悪くない。見た目だけで言えば、軍師も美人だぞ」
「……良いっすね」
臧覇の口調が変わる。
「だろ? だったら戦わずに呂布軍に降伏しろよ」
「それは無理ッスね。格好悪いから」
そこは譲らない臧覇である。
その美学は嫌いでは無いが、そう言う事だから女性から敬遠されていたりしないのかとも高順は思う。
とはいえ、これも臧覇らしさなのだろうと思って、あえてその事は黙っておいく事にした。
出来る事なら穏便に済ませたいと思って来た高順だったが、臧覇の方にも退くつもりはないと分かり、高順もこれ以上の情報漏洩は出来ないと考えて臧覇の元を離れる事にする。
その時に臧覇旗下の武将である孫観に会った。
「これは、陥陣営の高順さん。相変わらず口説きに来たのかい?」
「フラレ続きだがな」
高順は笑いながら言う。
「高順さん。呂布軍が出兵すると聞いたが、本当かい?」
「耳が早いな。戦いたくないから、呂布軍に降ってくれと頼みに来たんだが、ダメだったよ」
高順は笑うが、孫観は複雑な表情を浮かべる。
「どうした?」
「来るのは呂布将軍自身かい?」
「さすがにそれには答えられない。悪く思うな」
「まぁ、それは仕方がないか。でも高順さん、あんたは見た目の割に良い人だから一つ忠告しておくよ。戦場で臧覇と会ったら、逃げた方が良い」
「ほう、それほどの豪傑か」
「豪傑と言っていいかは分からないが、アレだから寄ってきた女も離れていくとだけ言っておくよ」
去り際に孫観は高順にそう言ったのだが、高順がその話を呂布達に伝える前に事件は起きた。
呂布軍による臧覇討伐が決定した事に焦った蕭建が、武功を独り占めしようと楊奉達の残した元袁術軍二万の兵を率いて、独断で臧覇討伐に向かったのである。
元々蕭建は武勇に優れてはいるものの、その事を鼻にかけた傲慢な性格は、同じく傲慢な者の多い袁術軍にあっても際立っていたので、厄介者として軍の中枢から遠ざけられていた人物であった。
それ故に楊奉の副将として配されたのだが、その事にたいする不満も今回の暴走を招く一因となっていた。
もう一つ。
傲慢な性格の蕭建は、臧覇の事をただの山賊と侮っていた。
また元袁術軍の兵士達も優れた装備を持っているものの、練度で言えば呂布軍はもちろん、弱小と言われる徐州軍と比べても劣ると言う事実を認めようとしない。
自分達の弱点を知らず、また敵である臧覇を侮って相手の事を知ろうともしない蕭建に対し、臧覇は十分な対策を取っていたのだろう。
蕭建は二万の兵を率いていたにも関わらず、数千の臧覇を相手に敗れただけでなく、討ち取られたのである。
それは、出兵していた呂布軍に臧覇討伐の口実を与える事にほかならないのだが、今回は同行している陳宮には臧覇の真意が分かった。
臧覇は蕭建を討ち取りながらも、二万の兵は逃げるに任せて追撃しようとはせず泰山に引き返している。
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