新説 呂布奉先伝 異伝

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龍の生きた時代

大乱の予兆 3

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「姐さん、今日はまた一段とお美しいですね。これだけでも徐州城に来た甲斐があると言うモノ」

 臧覇が陳宮にそう挨拶すると、陳宮は何か言いかけたが結局何も言わず、ただひと睨みしただけだった。

「孫観、後で話がある。私のところへ来てくれ」

「え? 孫観ですか? それだったらこの臧覇が……」

「お前はいい」

 臧覇が立候補したのだが、陳宮から一蹴される。

 これ以上話す事は無いと言わんばかりに、陳宮はすぐに去っていってしまった。

「ああ、陳宮軍師、イイですよね」

「……そう言っているのは徐州城ではお前だけだよ」

 成廉が苦笑い気味に言う。

「え? それは見る目が無いどころの話じゃないですよ! あれほどの女性、この漢全土において五人といないくらいの絶品なのに!」

 臧覇は力説しているが、それに対する賛同は得られなかった。

 いよいよ八健将任命と言う事もあって、泰山の臧覇も徐州城に呼ばれる事になった。

 それでなくとも臧覇は呂布軍に降った際に泰山を呂布に献上し、自身も徐州城に入ってもいいと言っていたのだが、陳宮がそれには及ばないとして泰山に兵を率いたまま滞在していた。

 建前では小沛城と連携して曹操に対する防衛線を築くと言う事で置かれているのだが、今のを見る限りでは単純に陳宮から鬱陶しがられたのではないか、と言うのは臧覇以外の全員が思った事である。

「しかし、泰山の臧覇がこれほどフザけたヤツだとは思わなかった」

 臧覇との面識の無い郝萌が、陳宮に絡む臧覇を見て相変わらず人間味を感じさせない口調で呟く。

 袁術軍から出向扱いだった郝萌だが、最近は前線から遠ざけられ内勤が多くなっている。

 宋憲の様に教養を買われての事でもあるのだが、本人は納得していないのかもしれないと、張遼は思う。

 しかし、詳しい事は分からないのだが、ある時を境に郝萌は前線を外されて陳宮を避ける様になっているのは、張遼も疑問だった。

 最初は袁術と敵対していた時期と言う事もあってと思っていたのだが、最近でもその関係性に変わりはないので、張遼の知らないところで何かあったのかもしれないとも思うのだが、その事を陳宮や郝萌に尋ねたところで答えてはもらえないだろう。

「フザけてはいるが、多分お前より強いぞ」

 成廉が鼻で笑う様に言う。

 かつて敵同士だったと言う事もあってか、成廉は郝萌に対して手厳しい。

「負けたお前としては、そう思いたいのだろうな」

「あ?」

「よしましょうよ、仲間同士じゃないですか」

 曹性が見かねて間に入る。

 曹性も袁術軍よりの出向の立場なので郝萌と同じなのだが、腰が低く相手を立てる性格もあって、成廉との関係も悪くない。

「内勤が多くて不満が溜まっているんだろ? 楽しているくせになぁ」

 魏続が鼻で笑う様に言う。

「大した武勲も立てていない者が、偉そうに。お前では内勤もまともに務まらないから、武官にさせてもらっていると言うのに。感謝する事だな」

「まあまあ」

 郝萌に対して食ってかかろうとした魏続を、侯成がなだめる。

「んー、呂布軍の武将達って思っていた以上にバラバラなんだなぁ」

 臧覇が面白そうに言う。

 宋憲は黙って見ていたのだが、小さくため息を付く程度で誰に対しても特に味方しようとはしない。

 この武官と文官の溝は呂布軍に限った問題ではないのだが、呂布軍では特にその溝による問題が目立つ。

 厳密に言えば、宋憲や郝萌は陳宮の指示で内勤が多くなっているが、陳宮も含めて武官である。

 だが、陳宮は徐州の、特に陶謙の配下だった者達を信用していないらしく、これまでの役職のままとしながら実際には二階級ほど降格させた様な扱いをしている。

 新たに雇う事も考えているのだが、その人材が集まらない為に宋憲や郝萌といった教養のある武官が内勤で文官の仕事もこなしている。

 そのせいもあって呂布軍の武将と徐州の重臣達との間にも深い溝があり、外から見えるより深刻な問題を抱えていた。

「陳宮の姐さんでも、徐州の連中は扱いきれないかぁ」

 臧覇が唸る様に言う。

 徐州の者達には自意識過剰と言うか、気位の高い者が多く、それによって他者を見下す傾向が強いと臧覇は言う。

 張角が黄巾党を立ち上げたのも、富豪達や腐敗した役人達に対する反発からと言う事もあったらしい。

 当然陳宮もその事を知っての対応だろうとは思うのだが、臧覇としては逆効果で徐州の重臣の反発を招くだけではないかと懸念している。

「だけど、中がこれだけごたついていては、姐さんも打てる手が少ないでしょうね」

 呂布軍では陳宮を毛嫌いしている者は多いが、臧覇は陳宮の味方らしい。

 残念な事に陳宮がそれを望んでいないので空回りではあるのだが、それでも臧覇は貴重な陳宮派の武将である。

「野郎ども、仲良くしてるか? そろそろ出番だぞ」

 高順が呼びに来る。

「……そういえば、高さんは八健将では無いんですか?」

 張遼に言われ、他の面々もその事に気づいた。

「ガラじゃ無いんだよ」

「いや、実績から言っても能力から言っても、むしろ入っていない事の方がおかしいでしょう。ガラじゃ無いとか言う問題では無いのでは?」

 臧覇も不思議そうに言う。

「まあ、アレだ。俺は奉先直属みたいなものだから、呂布軍の武将である八健将とはちょっと扱いが違うとか、そう言う感じだ」

 高順は適当に言葉を濁しながら言う。

「俺の事は良いんだよ。今日の主役はお前らだ。準備は良いか?」

 高順に言われ、それぞれが立ち上がる。

 八健将と言う役職は存在しないものの、そう言う特別な称号の様なモノを任命する時には大々的に行うのが通例であり、今回の八健将自体が徐州の民に知らしめる為のものなので、大掛かりに行う必要があった。

 八健将に任命されたのは、張遼、臧覇、郝萌、曹性、成廉、魏続、宋憲、侯成の八人で、形の上での序列はあるものの、張遼を第一位とし、臧覇は引き続き泰山での独立勢力としての権限を与えられた他は実質的には並列に並べられている。

「八健将は『武将』として優れた者と言う事を評価しての事である。個人の武勇にのみを頼る事無く、皆を率いる者として優れた者、あるいはその潜在能力を買って任命されたと言う重みを忘れず自覚する様に」

 と、陳宮は説明する。

 明らかに魏続に対して言っている言葉だと張遼は思うのだが、魏続がそれを自覚しているかどうかは分からない。

 八健将の任命それ自体は、何ら滞りなく進んだ。

 が、その後陳宮から蓉の袁家との婚約が発表された時は、空気がざわついた。
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