141 / 171
龍の生きた時代
大乱の予兆 4
しおりを挟む
「袁術? 漢に弓引いた逆賊、偽帝を支持するとでも? 正気の沙汰とは思えませんな」
そう言ったのは陳珪だった。
「いえ、陳珪殿。そう言う事ではありません」
呂布は丁寧に言う。
「現状では逆賊と言う不名誉な肩書きを背負う事になっている袁術殿ですが、それでも漢の名門袁家である事は変わりありません。出来る事なら、漢への帰順をもう一度促したいと思っています」
「その様な夢物語、本当に可能だと思いますか?」
「私の方から説明しましょう」
陳宮が呂布から引き継いで話す。
袁術が新王朝の新皇帝を名乗ったのはつい最近だが、それを認めない曹操を中心とする連合軍で叩き伏せたのも、同じ様につい最近の事である。
その連合には呂布も加わっていた。
その呂布が袁術と同盟と言うのもおかしな話だと思うのだが、陳宮には違う展望があるらしい。
袁術にかつての勢いは無く、逆に曹操は勢いをつけてきている。
徐州攻めも元は曹操にとって父の敵と言う大義があったが、今回の曹操の出兵には大義名分が無い。
曹操は呂布討伐を掲げているが、漢の将軍位にあり正式に徐州太守に任命されてからの呂布は、大義を掲げられる様な落ち度がなく、ただ風聞のみを頼りに兵を挙げてきている。
その風聞と言うのも、呂布には丁原と董卓と言う養父を切ったと言う負い目があり、曹操には皇帝を擁護していると言う強みがある。
が、それだけである。
今回の事に限って言えば曹操の私欲による出兵であり、それは漢を蔑ろにしている曹操の傲慢さと言ってもいい暴挙である、と言うのが陳宮の主張である。
袁術と協力するのは、その曹操の傲慢を挫き呂布の存在感を示した上で袁術に玉璽を返納させて漢にの臣下として復帰させる。
袁術が偽帝と言う立場を捨てて漢に帰順すれば、袁紹にも同じように声を掛けやすくなる。
先頃袁紹は漢の大将軍となり、曹操は三公の司空に就いた。
それも曹操の徐州侵攻を袁紹に邪魔されない為の手段であったが、陳宮はそれを逆手に取る事を狙っていると言う。
今回の侵攻を食い止めて曹操の勢いを削ぎ、袁術を漢に帰順させた後に袁紹を大将軍として迎え入れる。
これによって中原の大半の勢力を糾合した後に袁紹は大将軍として、曹操は司空として政治に専念してもらい、兵権を呂布が掌握する。
残る勢力は西涼、江南、西蜀程度であり、西涼の馬騰と江南の孫策であればおそらく話し合いで済むだろうし、そもそも戦うつもりも無いだろう。
漢を乗っ取ろうと考えたのは袁術の他は西蜀の劉焉くらいであったが、劉焉の後継である劉璋にはその野心は薄い。
今重要なのは、曹操の勢いを削ぐ事であり、その為に袁術を利用すると言うのが陳宮の目論見だった。
壮大な展望に口を挟んできた陳珪も、言葉が出なくなっている。
「え、袁術がそれほど簡単に口車に乗るのか?」
「婚姻は向こうからの提案だ。案ずる必要も無い」
陳宮は淡々と言う。
その事は極秘であり、徐州城の中でも数人しかいない事なので陳珪も知らなかったのである。
「孫観、袁術の元へ行ってもらう」
陳宮は孫観を呼ぶ。
「この婚姻、袁術の下へ降るモノではない。お前くらいの胆力のある者にしかまとめる事は出来ないだろう」
「承りました」
孫観は素直に言う。
前もって言われていた事もあり、孫観は即答する。
陳宮は徹底して徐州の臣下を信頼していない。
この袁術への使者の任も、必ずしも孫観である必要もなく、宣言した様な胆力も必要と言う様な事も無い。
あえて陳宮は大きな話で徐州の臣の肝を冷やし、その布石としての外交と言う印象で孫観を指名、その責任の重さを考えさせたのである。
「しかし、いくらなんでも攻め過ぎじゃないかなぁ」
式典が終わった後、臧覇が首を傾げる。
「攻め過ぎ?」
その呟きが聞こえた張遼が尋ねた。
「ああ。何をどう言っても徐州を取り仕切っているのが姐さんと言っても、内務の実情で考えれば徐州の面々を完全に取り除いて行く事は不可能だと思うんだよ。そこでここまで徹底して除外していくってのは、いくら何でも煽り過ぎだ。姐さんほどの方がそれに気付かないはずは無いんだけど」
「あの女は敵を作りたいんじゃないのか?」
成廉はそう言う。
会話に参加してこないものの、郝萌もそう思っている様に見える。
「陳宮軍師には、我々の分からない様な深い考えがあるのでは?」
「あの女はただ戦いたいんだよ」
曹性は擁護派らしかったが、郝萌も成廉とやはり同じ考えだったらしくそう言う。
「俺も陳宮軍師には何か考えがあっての事だと思いますけど、でも言われてみると確かに喧嘩を売っているとも思えますね」
侯成は臧覇の言葉に頷く。
陳宮がその冷徹な表情の割に好戦的な事は、陳宮との接点がある者であれば知っている事ではあるのだが、だからと言って誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けている訳でもない。
その陳宮が今回の事に関しては、極端なまでに徐州の臣を遠ざけて露骨に蔑ろにしている。
漢の皇帝を蔑ろにしている曹操を責めているにしては、陳宮もまったく同じ事をやっているのも反感を買う事に繋がっている。
それに気付かない陳宮では無いはずなのだが、それに対する答えを八健将の誰も導き出す事は出来なかった。
そう言ったのは陳珪だった。
「いえ、陳珪殿。そう言う事ではありません」
呂布は丁寧に言う。
「現状では逆賊と言う不名誉な肩書きを背負う事になっている袁術殿ですが、それでも漢の名門袁家である事は変わりありません。出来る事なら、漢への帰順をもう一度促したいと思っています」
「その様な夢物語、本当に可能だと思いますか?」
「私の方から説明しましょう」
陳宮が呂布から引き継いで話す。
袁術が新王朝の新皇帝を名乗ったのはつい最近だが、それを認めない曹操を中心とする連合軍で叩き伏せたのも、同じ様につい最近の事である。
その連合には呂布も加わっていた。
その呂布が袁術と同盟と言うのもおかしな話だと思うのだが、陳宮には違う展望があるらしい。
袁術にかつての勢いは無く、逆に曹操は勢いをつけてきている。
徐州攻めも元は曹操にとって父の敵と言う大義があったが、今回の曹操の出兵には大義名分が無い。
曹操は呂布討伐を掲げているが、漢の将軍位にあり正式に徐州太守に任命されてからの呂布は、大義を掲げられる様な落ち度がなく、ただ風聞のみを頼りに兵を挙げてきている。
その風聞と言うのも、呂布には丁原と董卓と言う養父を切ったと言う負い目があり、曹操には皇帝を擁護していると言う強みがある。
が、それだけである。
今回の事に限って言えば曹操の私欲による出兵であり、それは漢を蔑ろにしている曹操の傲慢さと言ってもいい暴挙である、と言うのが陳宮の主張である。
袁術と協力するのは、その曹操の傲慢を挫き呂布の存在感を示した上で袁術に玉璽を返納させて漢にの臣下として復帰させる。
袁術が偽帝と言う立場を捨てて漢に帰順すれば、袁紹にも同じように声を掛けやすくなる。
先頃袁紹は漢の大将軍となり、曹操は三公の司空に就いた。
それも曹操の徐州侵攻を袁紹に邪魔されない為の手段であったが、陳宮はそれを逆手に取る事を狙っていると言う。
今回の侵攻を食い止めて曹操の勢いを削ぎ、袁術を漢に帰順させた後に袁紹を大将軍として迎え入れる。
これによって中原の大半の勢力を糾合した後に袁紹は大将軍として、曹操は司空として政治に専念してもらい、兵権を呂布が掌握する。
残る勢力は西涼、江南、西蜀程度であり、西涼の馬騰と江南の孫策であればおそらく話し合いで済むだろうし、そもそも戦うつもりも無いだろう。
漢を乗っ取ろうと考えたのは袁術の他は西蜀の劉焉くらいであったが、劉焉の後継である劉璋にはその野心は薄い。
今重要なのは、曹操の勢いを削ぐ事であり、その為に袁術を利用すると言うのが陳宮の目論見だった。
壮大な展望に口を挟んできた陳珪も、言葉が出なくなっている。
「え、袁術がそれほど簡単に口車に乗るのか?」
「婚姻は向こうからの提案だ。案ずる必要も無い」
陳宮は淡々と言う。
その事は極秘であり、徐州城の中でも数人しかいない事なので陳珪も知らなかったのである。
「孫観、袁術の元へ行ってもらう」
陳宮は孫観を呼ぶ。
「この婚姻、袁術の下へ降るモノではない。お前くらいの胆力のある者にしかまとめる事は出来ないだろう」
「承りました」
孫観は素直に言う。
前もって言われていた事もあり、孫観は即答する。
陳宮は徹底して徐州の臣下を信頼していない。
この袁術への使者の任も、必ずしも孫観である必要もなく、宣言した様な胆力も必要と言う様な事も無い。
あえて陳宮は大きな話で徐州の臣の肝を冷やし、その布石としての外交と言う印象で孫観を指名、その責任の重さを考えさせたのである。
「しかし、いくらなんでも攻め過ぎじゃないかなぁ」
式典が終わった後、臧覇が首を傾げる。
「攻め過ぎ?」
その呟きが聞こえた張遼が尋ねた。
「ああ。何をどう言っても徐州を取り仕切っているのが姐さんと言っても、内務の実情で考えれば徐州の面々を完全に取り除いて行く事は不可能だと思うんだよ。そこでここまで徹底して除外していくってのは、いくら何でも煽り過ぎだ。姐さんほどの方がそれに気付かないはずは無いんだけど」
「あの女は敵を作りたいんじゃないのか?」
成廉はそう言う。
会話に参加してこないものの、郝萌もそう思っている様に見える。
「陳宮軍師には、我々の分からない様な深い考えがあるのでは?」
「あの女はただ戦いたいんだよ」
曹性は擁護派らしかったが、郝萌も成廉とやはり同じ考えだったらしくそう言う。
「俺も陳宮軍師には何か考えがあっての事だと思いますけど、でも言われてみると確かに喧嘩を売っているとも思えますね」
侯成は臧覇の言葉に頷く。
陳宮がその冷徹な表情の割に好戦的な事は、陳宮との接点がある者であれば知っている事ではあるのだが、だからと言って誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けている訳でもない。
その陳宮が今回の事に関しては、極端なまでに徐州の臣を遠ざけて露骨に蔑ろにしている。
漢の皇帝を蔑ろにしている曹操を責めているにしては、陳宮もまったく同じ事をやっているのも反感を買う事に繋がっている。
それに気付かない陳宮では無いはずなのだが、それに対する答えを八健将の誰も導き出す事は出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦
そしてそこから繋がる新たな近代史へ
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる