新説 呂布奉先伝 異伝

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龍の生きた時代

大乱の予兆 4

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「袁術? 漢に弓引いた逆賊、偽帝を支持するとでも? 正気の沙汰とは思えませんな」

 そう言ったのは陳珪だった。

「いえ、陳珪殿。そう言う事ではありません」

 呂布は丁寧に言う。

「現状では逆賊と言う不名誉な肩書きを背負う事になっている袁術殿ですが、それでも漢の名門袁家である事は変わりありません。出来る事なら、漢への帰順をもう一度促したいと思っています」

「その様な夢物語、本当に可能だと思いますか?」

「私の方から説明しましょう」

 陳宮が呂布から引き継いで話す。

 袁術が新王朝の新皇帝を名乗ったのはつい最近だが、それを認めない曹操を中心とする連合軍で叩き伏せたのも、同じ様につい最近の事である。

 その連合には呂布も加わっていた。

 その呂布が袁術と同盟と言うのもおかしな話だと思うのだが、陳宮には違う展望があるらしい。

 袁術にかつての勢いは無く、逆に曹操は勢いをつけてきている。

 徐州攻めも元は曹操にとって父の敵と言う大義があったが、今回の曹操の出兵には大義名分が無い。

 曹操は呂布討伐を掲げているが、漢の将軍位にあり正式に徐州太守に任命されてからの呂布は、大義を掲げられる様な落ち度がなく、ただ風聞のみを頼りに兵を挙げてきている。

 その風聞と言うのも、呂布には丁原と董卓と言う養父を切ったと言う負い目があり、曹操には皇帝を擁護していると言う強みがある。

 が、それだけである。

 今回の事に限って言えば曹操の私欲による出兵であり、それは漢を蔑ろにしている曹操の傲慢さと言ってもいい暴挙である、と言うのが陳宮の主張である。

 袁術と協力するのは、その曹操の傲慢を挫き呂布の存在感を示した上で袁術に玉璽を返納させて漢にの臣下として復帰させる。

 袁術が偽帝と言う立場を捨てて漢に帰順すれば、袁紹にも同じように声を掛けやすくなる。

 先頃袁紹は漢の大将軍となり、曹操は三公の司空に就いた。

 それも曹操の徐州侵攻を袁紹に邪魔されない為の手段であったが、陳宮はそれを逆手に取る事を狙っていると言う。

 今回の侵攻を食い止めて曹操の勢いを削ぎ、袁術を漢に帰順させた後に袁紹を大将軍として迎え入れる。

 これによって中原の大半の勢力を糾合した後に袁紹は大将軍として、曹操は司空として政治に専念してもらい、兵権を呂布が掌握する。

 残る勢力は西涼、江南、西蜀程度であり、西涼の馬騰と江南の孫策であればおそらく話し合いで済むだろうし、そもそも戦うつもりも無いだろう。

 漢を乗っ取ろうと考えたのは袁術の他は西蜀の劉焉くらいであったが、劉焉の後継である劉璋にはその野心は薄い。

 今重要なのは、曹操の勢いを削ぐ事であり、その為に袁術を利用すると言うのが陳宮の目論見だった。

 壮大な展望に口を挟んできた陳珪も、言葉が出なくなっている。

「え、袁術がそれほど簡単に口車に乗るのか?」

「婚姻は向こうからの提案だ。案ずる必要も無い」

 陳宮は淡々と言う。

 その事は極秘であり、徐州城の中でも数人しかいない事なので陳珪も知らなかったのである。

「孫観、袁術の元へ行ってもらう」

 陳宮は孫観を呼ぶ。

「この婚姻、袁術の下へ降るモノではない。お前くらいの胆力のある者にしかまとめる事は出来ないだろう」

「承りました」

 孫観は素直に言う。

 前もって言われていた事もあり、孫観は即答する。

 陳宮は徹底して徐州の臣下を信頼していない。

 この袁術への使者の任も、必ずしも孫観である必要もなく、宣言した様な胆力も必要と言う様な事も無い。

 あえて陳宮は大きな話で徐州の臣の肝を冷やし、その布石としての外交と言う印象で孫観を指名、その責任の重さを考えさせたのである。

「しかし、いくらなんでも攻め過ぎじゃないかなぁ」

 式典が終わった後、臧覇が首を傾げる。

「攻め過ぎ?」

 その呟きが聞こえた張遼が尋ねた。

「ああ。何をどう言っても徐州を取り仕切っているのが姐さんと言っても、内務の実情で考えれば徐州の面々を完全に取り除いて行く事は不可能だと思うんだよ。そこでここまで徹底して除外していくってのは、いくら何でも煽り過ぎだ。姐さんほどの方がそれに気付かないはずは無いんだけど」

「あの女は敵を作りたいんじゃないのか?」

 成廉はそう言う。

 会話に参加してこないものの、郝萌もそう思っている様に見える。

「陳宮軍師には、我々の分からない様な深い考えがあるのでは?」

「あの女はただ戦いたいんだよ」

 曹性は擁護派らしかったが、郝萌も成廉とやはり同じ考えだったらしくそう言う。

「俺も陳宮軍師には何か考えがあっての事だと思いますけど、でも言われてみると確かに喧嘩を売っているとも思えますね」

 侯成は臧覇の言葉に頷く。

 陳宮がその冷徹な表情の割に好戦的な事は、陳宮との接点がある者であれば知っている事ではあるのだが、だからと言って誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けている訳でもない。

 その陳宮が今回の事に関しては、極端なまでに徐州の臣を遠ざけて露骨に蔑ろにしている。

 漢の皇帝を蔑ろにしている曹操を責めているにしては、陳宮もまったく同じ事をやっているのも反感を買う事に繋がっている。

 それに気付かない陳宮では無いはずなのだが、それに対する答えを八健将の誰も導き出す事は出来なかった。
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