ダグラス君

坂田火魯志

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第三章

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「少しいいか」
「いいかって貴方」
「そうだ、私のことを知らない者はこの基地ではいないな」
「ダグラス=マッカーサー元帥の銅像ですよね」
「違う、マッカーサーではない」
 銅像はそこは否定した、見ればパイプを咥えたままだがちゃんと人間の動きをしている。指までしっかりと動いている。
「マックアーサーだ」
「ああ、英語読みをしっかりすると」
「そうだ、それが私の名前なのだ」
 銅像はそこはしっかりと言った。
「覚えておくことだ」
「わかりました、それでマックアーサーの銅像が何の用でしょうか」
「それは事務所の中でじっくり話したいが」
「わかりました」
「尚コーヒーや煙草は気にしないでくれ」
 銅像はパイプを咥えたままそれはいいとした。
「何しろ私は銅像だから飲み食い、喫煙の必要がない」
「そりゃ銅像ですからね」
「だからこの心配は無用だ」
 こう勝手に語るのだった。
「一切な、それでだ」
「まずは事務所の中にですね」
「入れてもらおう」
「本当は部外者は許可なく立ち入り禁止ですよ」
「何を言うか、私は元帥だったのだぞ」
 銅像は常識を話した勝手に軍隊の階級で以て反論した。
「そして厚木どころかGHQの最高司令官だったではないか」
「だからこの事務所にもですか」
「入っていいではないか、そもそも君達はだ」
「はい、アメリカ軍からですね」
「場所を借りているからな」
「だからですか」
「ただ入って話をするだけだ」
 コーヒーもパイプに入れる煙草も不要だというのだ。
「だからだ」
「いい、ですか」
「私が言って駄目なことはこの基地ではないぞ」
「GHQの司令官だったからですか」
「アメリカ陸軍元帥でこの基地の象徴でもあるからな」
「色々立場があるんですね」
「そうだ、では入れてもらおう」
 何だかんだと強引に言ってだった、銅像は資材班の事務所に入った。そしてその中でソファーに座って共に座る勝手に話した。
「私は今は最後の審判を待つ身だ」
「お亡くなりになってますよね」
「それは歴史にあるな」
「はい、私でも知っています」
「だが魂はまだこの世にあってな」
 そうしてというのだ。
「この厚木の銅像の中に入ってだ」
「それで今ここにおられますか」
「普段はあの場所でじっとしているがな」
「銅像らしくですね」
「そうしているがだ」
 それがと言うのだった。
「時々、夜にだ」
「動かれてですか」
「この基地の各地を歩き訪問してだ」
「楽しんでおられるんですか」
「この基地では誰でも知っていることだ」
「そういえば」
 勝手はここで思い出した、この厚木に来る前に人事のお姉さんに言われたことを。
 それでだ、そのことを銅像に対して言った。
「面白い方がおられるって言われてました」
「それが私か」
「その時は何とも思いませんでしたが」
 それがと言うのだった。
「貴方のことでしたか」
「その様だな、私はこうして夜を中心に基地の中を歩き回ってな」
「楽しんでおられますか」
「そして基地に問題がないかチェックしパトロールもしている」
 ただ楽しむだけでなく、というのだ。
「そうもしている」
「それで今みたいにですか」
「君達自衛隊の諸君の勤務ぶりも見ている」
 事務所の中に入ったりしてというのだ。
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