ダグラス君

坂田火魯志

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第四章

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「そうもしている、ただ隊舎の中には進んで入らない」
「プライベートまではですか」
「何かないと関わらない」
「そうされていますか」
「そうだ、しかし基地の中をな」
「夜を中心に歩いたりされて」
「楽しんでいる、映画館や図書館に行くこともある」
 人間だった時の日常も楽しんでいるというのだ。
「こちらは昼にな」
「そうだったんですね」
「全て厚木では誰でも知っていることだ」
 銅像が実は動き回ることが出来て日常を楽しんでいることはというのだ。
「君も今そのことを知ったのだ」
「何か嬉しい様な嬉しくない様な」
「よく驚かれるがな」
「当然ですよ、銅像が動くなんて」
 それこそとだ、勝手は自分に滔々と語る銅像に答えた。
「怪奇現象ですよ」
「よくそう言われる、しかし軍隊ではこうした話は付きものだな」
「アメリカ軍でもそうですよね」
「私のルーツはスコットランドにあるが」
 銅像は自分の生前のことも話した。
「スコットランドも幽霊や妖精の話が多い」
「マクベスの舞台でしたね」
「そうでもあるしな、尚この名前はケルト系の証だ」
 マッカーサーではなくマックアーサーという名前自体がというのだ。
「今私が使っている日本語ではアーサー家の息子という意味になる」
「マックが何とか家の息子になるんですね」
「そうだ、そしてスコットランドでもだ」
 この地域でもというのだ。
「そうした話が多くな」
「軍隊でもですね」
「多いな、自衛隊でもな」
「みたいですね、私防衛庁に入って間もないですが」 
 それでもと言うのだ。
「結構聞きます」
「基地でも艦艇でもな」
「大抵の基地にそうした話ありますね」
「そして私自身がだ」
「その怪奇現象ですか」
「まさか私自身がそれになるとは思わなかったがな」
「というかアメリカに帰られなかったんですか?」 
 勝手は銅像が元々はアメリカ人であることから彼に尋ねた。
「何で日本にいるんですか。フィリピンにも縁がありましたよね」
「あの国にもいたしな」
「そうでしたよね」
「そこは私にはわからない、気付けばだ」
 その時はというのだ。
「私の魂はこの厚木の私自身への銅像に入っていたのだからな」
「神様の配剤ですか、キリスト教の」
「そうかも知れないな、とにかくだ」
「はい、今こうして私が寝ることを邪魔しに来ているんですね」
「邪魔とは心外だな、私は挨拶に来たのだ」
 銅像はそこは断った。
「君にな」
「私が当直でここにいるからですか」
「厚木にいる者には必ずそうしている」
「挨拶に来られていますか」
「そうしたことはしっかりしないとな」
 こう考えてというのだ。
「だから訪問したのだ」
「礼儀ですか」
「そうだ、君達日本人は昔から礼儀を大事にしているな」
「それはそうですけれど」
「それで来たが元気そうだな」
「ええ、突然の事態に何それって思ってますけれど」
「ははは、言うな。では君がこの厚木にいる間だ」
 その間と言うのだった。
「宜しく頼む」
「嫌だとはですね」
「私は厚木では今も司令より偉いのだ」
「元帥だからですか」
「君達の司令官は一佐だな」
「アメリカ軍で言うと大佐ですね」
「そうだな、しかし私は元帥だ」
 この階級にあったからだというのだ。
「一佐とどちらが階級は上だ」
「元帥は最高の階級ですよね」
 勝手は軍隊の階級の話に応えた。
「将軍の上にある」
「そうだ、アメリカ軍の司令よりも偉いのだ」
「階級の力って偉大ですね」
「私が銅像になってもな」
「それで、ですか」
「君に断る権利はない」
 自分が元帥だからだと言うのだった。
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