ダグラス君

坂田火魯志

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第六章

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「それでもな」
「今も厚木の基地の為に働いてくれているんですね」
「悪い奴等を見付けて懲らしめてくれたりな」
「じゃあ本当にいい人ですね」
「俺達自衛隊にとってもな」
 そうだとだ、坪川は勝手に笑って話した、とかく銅像は彼が所属していたアメリカ軍、陸軍と海軍の違いはあれど祖国の軍隊ということで大事にしているこの軍隊だけでなく海上自衛隊の為にも主に夜にパトロールをし不正を見付け正し正しい行いをした者達は褒め事故も事前に防いだ。そうした行いをしているうちに。
 海上自衛隊員の中から彼をゆるキャラとしてデフォルメしようという話が出た、そうしてだった。
 基地司令もそのアイディアに乗って海上自衛隊厚木基地の非公式マスコットゆるキャラとして銅像を二頭身にして可愛い感じにした萌えキャラが誕生した、そのキャラの名前は。
「ダグラス君か」
「はい」
 勝手は自分が当直の時にまた事務所に来た銅像に答えた。
「最近流行りのゆるキャラになりましたよ」
「ゆるキャラの説明をしてくれるか」
 十九世紀生まれで二度の世界大戦を戦っていた銅像が知る筈もないことだった、それで勝手に尋ねたのだ。
「一体どんなものか」
「マスコットキャラで」
「マスコットか」
「アメリカ軍の機体のエムブレムみたいな」
「ああしたものか」
 そう言われると銅像もわかった。
「よく描いてあったな」
「あれを可愛く、アメリカ鼠みたいな感じで」
「あのアニメだな」
「はい、あのアニメみたいな感じのデザインにしてです」
「私をゆるキャラにしたのか」
「自衛隊の方で」
「それで一体どんな姿だ」
 銅像は勝手に自分のその姿について尋ねた、今も二人は資材班の事務所でソファーにおいて話をしている。
「その時の私は」
「こんなのです」
 勝手は自分の携帯を出してそこにある画像を銅像本人に見せた、その二頭身で可愛くデフォルメされたそれを。
 その姿を見てだ、銅像は最初固まった。それから三分程してから復活して勝手に対して首を傾げさせつつ語った。
「私は好かれるタイプではなかった」
「当時の日本では大人気でしたよね」
「しかし軍では人望はなかった」
 その性格故にだ、傲岸不遜な。ただし弱い者いじめなぞせず当時としては人種的偏見も希薄な逸話がある人物だった。
「その私がか」
「まあこうなってます、今は」
「わからないものだ、しかしだ」
「しかしといいますと」
「悪い気はしない」
 銅像自身のコメントである。
「これはな」
「そうですか」
「私も許す」
 他ならぬ彼自身がというのだ。
「それをゆるキャラとやらにすることをな」
「そうですか、それじゃあ」
「どんどんやってくれ、それでゆるキャラの私の名前は何という」
「ダグラス君です」
 勝手は銅像に笑って答えた。
「そのままの名前ですね」
「そうだな、ではその名前でだ」
「海上自衛隊の厚木基地では」
「非公式ゆるキャラで何でもしてくれ」
「今度着ぐるみとか作りますんで」
「私自身が許す、何でもしてくれ」 
 銅像自身は快諾だった、そしてだった。
 このゆるキャラは銅像自身の許しとプッシュを受けて厚木基地で大々的に愛されることになった。それで実際に着ぐるみも作られて。
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