ジャガイモ

坂田火魯志

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第五章

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「確か物凄く偉い王様?」
 「戦争に強くてしかもドイツを強くしたっていう」
 「そうよ、その王様よ」
 「その王様がしたことなんだ」
  両親はまた二人に話した。
 「それでそのジャガイモを食べてね」
 「今のドイツがあるんだ」
 「今のドイツがあるって」
 「ジャガイモのおかげで?」
  二人はその言葉を聞いてそれぞれの目をしばたかせた。二人にとってはそれがどうしてなのかわかりかねることであった。しかしだ。
  両親はここでだ。このことも話したのである。
 「ドイツはその時貧しくてね」
 「食べ物があまりなかったんだ」
 「パンがあったんじゃないの?」
 「そうだよね」
  二人はその話を聞いてまずはこう述べた。
 「パンがね」
 「あったんじゃないの?」
 「パンを作る小麦があまり採れなかったのよ」
 「ドイツではな」
  これは実は欧州全体がそうであったのだが二人はそれは言わなかった。欧州は寒冷で米もあまり採れはしない。必然的に貧しい場所になるのだ。
 「それでジャガイモを植えてね」
 「それで食べたんだよ」
 「そうだったんだ、それでジャガイモを」
 「食べるようになったんだ」
  二人もこれでわかった。ジャガイモとドイツのことがだ。
 「それで皆ジャガイモを食べて」
 「お腹一杯になったんだ」
 「そうよ。それで人も増えてね」
 「ドイツの今があるんだ」
  両親は子供達にこうも話した。
 「ドイツはジャガイモでドイツになったのよ」
 「その通りなんだ」
 「そうだったんだ。ジャガイモってそんなに大事だったんだ」
 「今まで何ともないと思っていたのに」
 「飽きる位食べていたけれど」
 「そんなに大切なものだったんだね」 
  二人はそのことがわかった。そうしてだった。
 「じゃあお父さん、お母さん」
 「いいかな」
  二人はあらためて両親に言ってきた。
 「今日もジャガイモいいかな」
 「食べていい?」
 「ええ、勿論よ」
 「用意してあるからな」
  両親はにこりと笑って二人に応えてきた。
 「今日はジャガイモを煮てバターをつけて食べるから」
 「それとジャガイモのパンケーキだぞ」
 「それとキャベツのスープにソーセージ」
 「パンもあるからな」
 「よし、じゃあ食べるか」
 「そのジャガイモをね」
  二人は両親の言葉を聞いて笑顔で述べた。
 「じゃあ皆で食べよう」
 「うん、これからもずっとね」
 「そうよ、ドイツを食べなさい」
  母が二人に言う言葉はこれだった。
 「いいわね、たっぷりとね」
 「うん」
 「それじゃあね」
  二人も応えてであった。そのドイツを食べるのだった。それは前よりも遥かに美味しいものだった。ドイツの味がそこにあった。


ジャガイモ   完


                  2010・4・7
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