寂しいと死んじゃう兎の王子様と最強だけど抱かれちゃう熊騎士のお話

セイヂ・カグラ

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剣術担当→閨担当→???

夜◯レオンハルトとの会話

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 閨に来いと言われ、叱られる心の準備をしてきたボロルフは、きっちりとした服装で閨を訪れた。すると、レオンハルトは驚いた様子で「どうしたの?そんな格好をして」とボロルフに言った。最初こそ驚いたものの不安げなボロルフを見て、青年は察した様子でソファに腰掛けさせる。ふたり向かい合わせに座ると、しばらく沈黙がつづいた。

「はじめに言っておくけれど『ミュラ』という名の閨係は存在しない」

 静まりすぎた部屋、レオンハルトが放った言葉をボロルフは上手く理解できない。

「それは、どのような、意味でしょうか、、」

 物分かりが悪いと呆れられるのを覚悟しながら聞いた。
 レオンハルトは女中が用意した茶を啜りながら何度か瞬きをした。
 ボロルフというと緊張で自分の前に差し出されたお茶に手を付けることができず、それは冷めていくばかりだ。

「その子は、僕と同じ赤い瞳を持っていたのではないかな」

 そう言われ、思い出してみるとミュラ殿は確かに綺麗な紅玉ルビーの瞳を持っていた。それは、レオンハルト様に良く似た美しい色。だから、はっきりと覚えている。

「その瞳が何を意味するか、分かる?」
「…魔力を持つ者です」
「そう、その通り。赤い瞳は魔眼と呼ばれ、魔法を操ることのできる者を指す。ミュラは白猫などではないよ。僕と同じ。擬態や変身の魔法を得意とし、おまけに相手の心を読む」

 皇族を皇族たらしめている理由。兎族が草食でありながら全ての獣人のトップに君臨する理由。それこそが燃えるような紅玉ルビーの瞳に齎された魔力、魔法のため。魔法を使えるのは赤い瞳を持つ者だけだ。その中でもその魔力を子から子へ代々受け継ぐことができたのは、兎族のみ…。

「はぁ…、ノワルだろうね。第三皇太子。こういう悪戯をするのはあの子しかいない」

 まさか、けれど何のために?

「この間のアレもあの子の悪知恵でしょ、やっと合点がいった。ノワルには手を焼いているんだ」  

 この間のアレ、とは俺がレオンハルト様に笑みを見せたことだろう。俺は、自分の失態を思い出して無性に恥ずかしくなった。顔に熱が回っているのが分かる。俺はたまらず、顔を手のひらで覆った。

「今後、あの子にはあまり近づかない方がいい」

 近づかない方がいいと言われボロルフは、はたと顔を上げて首を傾げた。

「何故ですか?」
「何故とは…、騙すように白猫の姿で君に近づき、心の内を覗いているのだよ? それに君に妙な悪知恵を教え込む」

 ミュラがもしも本当にノワル様だったとして、確かに何故、姿や名を変えて俺の元に現れたかは分からない。けれども彼は自分の悩みを聞いてくれて、友人のようにお茶を楽しんでくれた。彼との時間は穏やかで楽しいものであったし、閨でのアドバイスも嬉しかった。特に何か嫌なことをされたわけではない。むしろ有意義な時間だった。

「俺はミュラ殿…、ノワル様との時間が楽しかったです。今日のように庭でお茶や会話を楽しむ相手が俺には他にいません。この性格だからか相談事をする相手もいませんから彼が熱心に聞いてくれるのが嬉しいばかりでした。…そう思うと姿や名は案外どうでも良いことなのかもしれません、ね」

 もじもじと俯きがちに、なんとか自分の気持ちを言葉にする。剣ばかり握って固く分厚くなった手を安心させるように撫でた。話し終わり、レオンハルト様の言葉を待つ。けれども、なかなかお声が聞こえないので耐えきれずに顔を上げた。

「あっ……」

 ボロルフはレオンハルトの顔を見て驚いた。
 それは、彼が今にも泣き出しそうな表情をしていたから。
 どうしようか、なんと声をかけようか。 
 そう迷い、何度も飲み込むように息を吸う。
 無意識に彼に向かって手が伸びたとき、反対の手にレオンハルト様の手が重なった。

「……ボロルフは、ノワルを愛しているの…?」

 苦しそうに胸を抑え、レオンハルト様がそう言った。

「あ、愛とかでは、、」
「僕よりも、ノワルのことが好き…?」
「す、好きと問われると、、好き?かもしれません、けれどそれは、レオンハルト様とは…っ」 

 こちらにゆっくりと身を寄せてくるレオンハルト様の呼吸が次第に乱れていく。
 真っ赤な瞳に溜まった涙は今にも溢れそうだ。
 
「僕では君の相談相手にはなれない?」

 相談相手…。さすがに本人に本人のことを相談することはできないと、ボロルフは言葉に詰まる。

「僕では、お茶を楽しめない?」

 まだ一口も飲んでいない冷めきった紅茶を見て、レオンハルト様が言う。
 明らかに様子のおかしいレオンハルト様は、俺の両肩を強く掴んだ。
 痛みに顔を顰め、離して下さいとその手に触れる。
 けれどもその手が離れることはなく、ボロルフはそのままソファーへ押し倒された。

「ねぇ、お願いだよ。あまりアレには近づかないで、苦しくなるんだ。君が他の男に笑顔を見せたりなんかしたら、僕は具合が悪くなる」

 何故、レオンハルトがそんなことを言うのかボロルフには分からなかった。いつもなら簡単に逃げられるのに重力に押しつぶされるみたいに身体が重く動かない。その現状に、ただ酷く混乱した。眼の前のレオンハルトは、ついに紅の瞳から大粒の雨を降らせてしまっている。
 
 彼は草食動物で自分よりずっと小さい。
 力なら絶対に自分のほうが勝っているはずなのに、押さえつける手から身体を起こすことすらできない。
 ボロルフは、心臓が波打つのを感じた。
 それは、圧倒的な力に対する感じたことのない『恐怖』だった。

「れ、レオンハルト様…、どうか、お手をお離し、ください……」
「僕から逃げる気? 離れようっていうの?」

 ボロルフの言葉にレオンハルトは怒りを露わにした。
 充満する魔力は、ボロルフにとっては毒のよう。
 過剰な魔力に耐えきれず、意識がぼんやりとしてくる、苦しい。

「逃さない…。君が逃げたら僕、死んじゃうんだから」

 小さな光がスッと現れたと思うと、ボロルフの腕は頭上で一纏めにされていた。外そうと藻掻くが壊れないそれは、魔法によって作られた手錠。そうして気が付けば、ボロルフは、ふんわりとした広いベッドの上に転がっていた。


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