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魔王様は子どもを拾った!
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※本作品は縦読み推薦です。
オレが魔界を統べるようになったのは、250年ほど前のことだ。若かりしオレは、己の莫大な魔力を知ると、それはもう思う存分に暴れ回った。いつしか、討ち取った相手の奴隷や部下が勝手に配下となり、負かした相手が舎弟と名乗った。気が付けばオレは魔界の王になり、魔王と呼ばれるようになった。
何もかもが自分の手に入る、大きな城も美しい女も若い男も、美味い酒も血肉も人間も全てはオレの物。喜んで従う子悪魔共。そのうち、自分より強い者のいない戦いに飽きて、食うのも、女、男を抱くのにも飽きて。国と民の統治をはじめたが、そんな仕事は頭の良い部下にあっという間に奪われた。重要な決定こそオレが決めるが、あとは優秀な部下が勝手に済ましていく。つまらない毎日だった。
ある日、魔界の貧民街を偵察に行ったときのことだ。おれはソレと出会った。
薄汚れた悪魔の子どもが地面に転がっていた。細くて小さく弱々しい、碌に魔力もない子どもは、長く伸び絡まった茶色い髪の隙間からオレを睨んだ。
強く、光のある瞳。
この国で、このオレに歯向かうやつがまだ居たのか︙。
気に入った。
「おい、コレを城に連れて行け。」
近くにいた部下にそう言いつける。
すると部下は怪訝な顔をした。
「コレをですか? どうするんです?」
「なに、ただの新しい玩具だ。壊すなよ。」
「かしこまりました。」
「隅々まで洗っておけ、もし新しい傷を付けたら︙、腕一本失くなると思え。」
「は、はいっ︙。」
今いる悪魔共がつまらないのなら、一から育てればいい、我ながら良い案だ。オレの飯を食わせ、魔力を与え、学をつけさせ、体力をつけさせよう。そうして、コイツが復讐と魔王の座を狙いオレを本気で殺しにくるその日を待とう。何なら、嫌がり反抗するコイツを犯すのも良い。ああ、楽しみだ。
誰よりも真黒な髪を持つ魔王、ヴェルダルクはクツクツと喉の奥で笑った。
洗われ綺麗になった子どもには驚いた。白に近い金髪と青い瞳、長いまつげ、性別は雄、薄汚れていた肌は透けそうなほど白かった。
「なんと︙。」
「魔王様、恐らくこの子どもは白さ故に捨てられたのかと。」
「天使の子か︙?」
「定かではありません。変異種である可能性も、しかし天使として考えるのが妥当かと。このまま育てば脅威となります、殺したほうが良いのではないでしょうか。」
部下のサクライが忠告する。部下の中で一番長く仕え、信頼の置ける相手。
天使は悪魔と相反するものだ。
白い子どもは悪魔にとって忌子、天使を連想させるからだ。我々悪魔は天使には敵わない、まぁ、オレ以外は。
「ふっ、殺すだと? そんなもったいないことするわけ無いだろう。たとえ天使だとしてもそうでなくとも、オレはコレを飼うぞ。ずっと、小悪魔ばかりで、つまらぬと思っていたのだ。おもしろかろう?」
もしかすると、オレを越えるかもしれない存在を見す見す殺すわけにはいかない。
たっぷり味わってやろうと思っていた︙、思っていたのだ。
子どもは『ヴァルス』と名付け、すくすくと育った。それはもう順調に育っている。80年ほど経つと、背はオレと同じくらいになり、筋肉が付きはじめた。もちろん雄らしさにおいて、オレも負けてはいないが。
はじめは、オマエが育ったら食ってやると脅かしていた。ヴァルスは頭が良く、学びを与えればすぐに吸収し、魔力の使い方もあっという間に上手くなり俺と同じ無詠唱を会得した。教えたことを覚えこなしていく、一生懸命な姿。つい、ご褒美にオレの魔力を分け与えてしまう。それをヴァルスは美味そうに食うのだ、それがまた可愛い。相変わらず無口だが、ときどきフワリと笑うものだから、デレデレとしてしまう。部下は呆れ気味で、サクライは親バカだと言う。
いつの間にか、ヴァルスはオレよりデカくなった。オレよりデカいやつなどこの300年見ていないから、見上げながら正直とても嬉しかった。相変わらず、無口で口下手だが可愛い。「もう共には寝ません」と言われた日には、悲しさのあまり5年ほど引きこもった。
とっくのとうに、玩具にする気など失せている。
「ヴェル様、お願いがあるのですが。」
「な、なんだ? 何か、欲しいものがあるのか! 何だ、何が欲しい?」
美しい金髪を靡かせて、ヴァルスが話しかけてくる。久々のヴァルスからの声掛けにヴェルダルクはソワソワしながら応えた。
「いえ︙、そうではなく。」
「なんだ? 遠慮するな、言ってみろ。」
「本当に、欲しいとかではなく。その︙。」
ああ!もじもじとするヴァルスが愛しい!!
なんて、いじらしいのだ!
「街に︙、行きたいのです。」
「ほう! もちろん良いぞ!
たしかに最近行っていなかったな、すまない。今すぐにでも出かけよう!」
「いえ! そうではなく︙。」
「?」
「一人で、行きたいです。」
なんだって?
ひとりで? 一人でと言ったか?
「な、なぜ突然そんなことを︙っ。
お前に何かあったらどうする!」
こんなにも可愛いのだ、誘拐されてしまうに決まっている!
「ヴェル様︙、僕は、もう小悪魔ではありません。
それともヴェル様は、僕が弱いとお思いですか? 信じてはくれないのですか?」
真剣で、大きく真っ青な瞳がまっすぐに見つめていた。
「わ︙︙わかった。」
オレが魔界を統べるようになったのは、250年ほど前のことだ。若かりしオレは、己の莫大な魔力を知ると、それはもう思う存分に暴れ回った。いつしか、討ち取った相手の奴隷や部下が勝手に配下となり、負かした相手が舎弟と名乗った。気が付けばオレは魔界の王になり、魔王と呼ばれるようになった。
何もかもが自分の手に入る、大きな城も美しい女も若い男も、美味い酒も血肉も人間も全てはオレの物。喜んで従う子悪魔共。そのうち、自分より強い者のいない戦いに飽きて、食うのも、女、男を抱くのにも飽きて。国と民の統治をはじめたが、そんな仕事は頭の良い部下にあっという間に奪われた。重要な決定こそオレが決めるが、あとは優秀な部下が勝手に済ましていく。つまらない毎日だった。
ある日、魔界の貧民街を偵察に行ったときのことだ。おれはソレと出会った。
薄汚れた悪魔の子どもが地面に転がっていた。細くて小さく弱々しい、碌に魔力もない子どもは、長く伸び絡まった茶色い髪の隙間からオレを睨んだ。
強く、光のある瞳。
この国で、このオレに歯向かうやつがまだ居たのか︙。
気に入った。
「おい、コレを城に連れて行け。」
近くにいた部下にそう言いつける。
すると部下は怪訝な顔をした。
「コレをですか? どうするんです?」
「なに、ただの新しい玩具だ。壊すなよ。」
「かしこまりました。」
「隅々まで洗っておけ、もし新しい傷を付けたら︙、腕一本失くなると思え。」
「は、はいっ︙。」
今いる悪魔共がつまらないのなら、一から育てればいい、我ながら良い案だ。オレの飯を食わせ、魔力を与え、学をつけさせ、体力をつけさせよう。そうして、コイツが復讐と魔王の座を狙いオレを本気で殺しにくるその日を待とう。何なら、嫌がり反抗するコイツを犯すのも良い。ああ、楽しみだ。
誰よりも真黒な髪を持つ魔王、ヴェルダルクはクツクツと喉の奥で笑った。
洗われ綺麗になった子どもには驚いた。白に近い金髪と青い瞳、長いまつげ、性別は雄、薄汚れていた肌は透けそうなほど白かった。
「なんと︙。」
「魔王様、恐らくこの子どもは白さ故に捨てられたのかと。」
「天使の子か︙?」
「定かではありません。変異種である可能性も、しかし天使として考えるのが妥当かと。このまま育てば脅威となります、殺したほうが良いのではないでしょうか。」
部下のサクライが忠告する。部下の中で一番長く仕え、信頼の置ける相手。
天使は悪魔と相反するものだ。
白い子どもは悪魔にとって忌子、天使を連想させるからだ。我々悪魔は天使には敵わない、まぁ、オレ以外は。
「ふっ、殺すだと? そんなもったいないことするわけ無いだろう。たとえ天使だとしてもそうでなくとも、オレはコレを飼うぞ。ずっと、小悪魔ばかりで、つまらぬと思っていたのだ。おもしろかろう?」
もしかすると、オレを越えるかもしれない存在を見す見す殺すわけにはいかない。
たっぷり味わってやろうと思っていた︙、思っていたのだ。
子どもは『ヴァルス』と名付け、すくすくと育った。それはもう順調に育っている。80年ほど経つと、背はオレと同じくらいになり、筋肉が付きはじめた。もちろん雄らしさにおいて、オレも負けてはいないが。
はじめは、オマエが育ったら食ってやると脅かしていた。ヴァルスは頭が良く、学びを与えればすぐに吸収し、魔力の使い方もあっという間に上手くなり俺と同じ無詠唱を会得した。教えたことを覚えこなしていく、一生懸命な姿。つい、ご褒美にオレの魔力を分け与えてしまう。それをヴァルスは美味そうに食うのだ、それがまた可愛い。相変わらず無口だが、ときどきフワリと笑うものだから、デレデレとしてしまう。部下は呆れ気味で、サクライは親バカだと言う。
いつの間にか、ヴァルスはオレよりデカくなった。オレよりデカいやつなどこの300年見ていないから、見上げながら正直とても嬉しかった。相変わらず、無口で口下手だが可愛い。「もう共には寝ません」と言われた日には、悲しさのあまり5年ほど引きこもった。
とっくのとうに、玩具にする気など失せている。
「ヴェル様、お願いがあるのですが。」
「な、なんだ? 何か、欲しいものがあるのか! 何だ、何が欲しい?」
美しい金髪を靡かせて、ヴァルスが話しかけてくる。久々のヴァルスからの声掛けにヴェルダルクはソワソワしながら応えた。
「いえ︙、そうではなく。」
「なんだ? 遠慮するな、言ってみろ。」
「本当に、欲しいとかではなく。その︙。」
ああ!もじもじとするヴァルスが愛しい!!
なんて、いじらしいのだ!
「街に︙、行きたいのです。」
「ほう! もちろん良いぞ!
たしかに最近行っていなかったな、すまない。今すぐにでも出かけよう!」
「いえ! そうではなく︙。」
「?」
「一人で、行きたいです。」
なんだって?
ひとりで? 一人でと言ったか?
「な、なぜ突然そんなことを︙っ。
お前に何かあったらどうする!」
こんなにも可愛いのだ、誘拐されてしまうに決まっている!
「ヴェル様︙、僕は、もう小悪魔ではありません。
それともヴェル様は、僕が弱いとお思いですか? 信じてはくれないのですか?」
真剣で、大きく真っ青な瞳がまっすぐに見つめていた。
「わ︙︙わかった。」
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