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男だらけの異世界転生〜幼少期編〜

ウェルとアシュルと俺

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 顔を真赤にした王子様が放った言葉は何とも子どもらしくて、可愛いものだった。俺はついニヤニヤとウェルギリウスを見る。

「へぇ? ウェル、寂しかったんだ?」
「う、うるさい…!」

 更に顔を赤らめ、ウェルは腕で顔を隠した。

「かわいいやつだなっ、ははっ。」
「フランに言われたくないっ。それを言うなら、君の……方が…。」
「ん?」
「な、なんでもない!」
 
 ウェルギリウスだって寂しい時があるよな。
 俺の数少ない友達、なんなら親友。
 これからも大事になくちゃだな。
 拗ねてしまったウェルの肩を叩き、ごめんな? と笑う。

 落ち着いたので二人でソファに座り、お茶といつものサンドイッチ、それからプリンを堪能する。ちなみに甘いものを好まない俺だがプリンは別だ。もうすぐ始まる学園生活や剣術、勉強の話で盛り上がっていると、不意に控えめなノック音が聞こえた。

 コンコン

「あれ、誰だろう…?」

 ウェルが来ている時は皆が気を使って誰も入ってこない。だから思い当たる人物がおらず、俺は首を傾げた。ウェルも不思議そうな顔をしている。「どうぞ。」と言って入る許可を出すと、白くて小さな手が覗いた。

「兄上…。」
「アシュル!」

 可愛い弟の登場に俺は満面の笑みで、おいで!と両手を広げた。まぁ、アシュルが抱きついてくることは無いのだけど…。そう思って広げた両手を閉じようとしたとき、アシュルがこちらに向かって走ってきた。

 そして、そのまま俺の腕の中に飛び込んだ。

「う、うそだろ…?」
 
 柔らかで、お日様みたいな幼い香りが鼻腔を満たす。
 自分より少し小さな身体のぬくもりが暖かく、くっついた。

「に、にいさん。」
「あ、ああ、あ、あしゅるぅ…?」
「あとどれほど待てば良いですか……? お勉強のときより、剣術の練習のときより、うんと長い…。」

 俺に抱きつきながら、アシュルがうるうるとした上目遣いで見つめてくる。服に顔を埋め、ぐりんぐりんと頭を振る。服を掴む手がギュッと強くなった。

「て、天使か?」

 不意打ちは、ダメだろ。
 お兄ちゃん、尊死してしまうよ。
 アシュルの可愛さに完敗だ。

「遊んでやれなくて、ごめんなぁ。ウェルが来てる日はアシュルも俺の部屋に来て良いんだぞ。」
「えっ!? フラン?!」
「紹介するよ。ウェル、この可愛い天使はアシュル。俺の弟だ。」
「弟!? フランに弟なんていなかっただろ!?」
「色々ワケがあるのだが、俺の可愛い弟であることには変わりない。かわいがってやってよ。よろしくな?」
「わ、分かった…。」
 
 驚きつつも現状を受け入れるウェルギリウス。彼はアシュルに向き直り、視線を合わせる。そして、握手を求めるように手をさし出した。

「オレの名はウェルギリウス。君の兄のだ。これから長い付き合いになるだろう。よろしく、アシュル。」

 何か、妙なことを言っているような気もするが、俺の気のせいだろう。だって何も間違ったことは言っていない。あの日、お互い交わした婚約破棄の夢と約束をウェルが忘れたわけじゃないはず。今はベェルのことで過敏になっているんだ、うん、きっとそう。

 手を差し出すウェルギリウスへ握手を返さず、アシュルはソッポを向いてしまう。

「あ、あしゅる? 恥ずかしいのか? あ、なんだ、もしかして嫉妬か? お兄ちゃんを取られたと思っているんだな! 全くかわいいヤツめ!」

 ウェルの前から逃げアシュルが俺の背後に隠れた。俺はアシュルをぎゅううと抱きしめ、デレデレする。けれど、ここで甘やかしてはイケない。悪役のフランドールのようになってしまえば大変だ。なに、けして叱るわけじゃない。

「アシュル、俺の大切な婚約者様は、実は王子様なんだ。カッコいいだろう? これからもウェルはたくさんこの屋敷に来る。だから、オトモダチになって仲良くしてやってくれないか? アシュルがウェルと仲良しだと俺も嬉しい。」

「ふ、フラン…っ! 俺を大切なこんやくっ……。」
「良いでしょう、ウェルギリウス殿。これからよろしくお願いします。」

 アシュルは俺のもとから離れ、スタスタと歩き、手を差し出した。
 俺の弟は、なんて素直で良い子なんだ!

 
「あ、ああ、よろしく。痛っ…!」

 握手をしたウェルが突然、声を上げた。
 同時にバチン!という大きな音も聞こえた。

「どうした? 大丈夫か、ウェル?」
「きっと、静電気でしょう。僕も少し痛かった。」

 心配してウェルに声をかけると、すかさずアシュルが答える。

「へっ!? 大丈夫か、アシュル!」
「僕は大丈夫です。でも、ちょっと、痛いかも…。」
「ああ、可哀想に! ほら、見せて治癒魔法ヒールを掛けてあげる。」
「フラン! オレ、オレも! でも、今、あしゅっ!」
「静電気…、ですよ。ね、ウェルギリウス殿。」
「ぁ、ああ。」

 この部屋、乾燥してるのかな。
 もう、春だというのに。 
 アシュルにプリンを食べさせ、今日のお茶会も和やかに終わった。
 少し席を外していたら、いつの間にかウェルとアシュルが二人で仲良く話し込んでいて、俺もちょっと、さみしさを感じた。 



  



▼sideウェルギリウス


「兄上の婚約者だそうですね。」

 フランが席を外すと、アシュルが話しかけてきた。先程とは、うって変わって冷たい声。つまらなそうにゲームの駒を進めながら、こちらを見ようとはしない。

「そうだが?」
「兄上はウェルギリウス殿とご結婚なさる気はありませんよ。前々から『結婚する気はない。』と言っていますから。」
「なんだ、それをオレに言ってどうする?」
「別に、ただの牽制ですよ。」  

 静かな会話の中、コツンコツンとゲームボードの上の駒が音をならす。アシュルが進ませ、オレが進ませ、会話をしながら進めていく。

「牽制? どういう意味だ。」
「兄上…、フランドールは僕のモノです。あの人の全ては僕が頂きます。」
「はっ、お前は何を言ってる? お前たちは兄弟だろう? それにフランの婚約者はこのオレだ。オレは、この国の第一皇太子だぞ? 婚約破棄などさせないさ。どんな手を使ってでもフランを妻にするつもりだ。」
「僕らは兄弟じゃない。血が繋がっていないんですよ。それに血縁かどうかは問題ではないです。」
「……へぇ。」

 駒を持とうと、手を伸ばして止める。いつの間にか、アシュルの駒がオレの陣地に入り込みオレのキングが奪われている。気がつけば、この少年に負けていたのだ。

「楽しそうだな、ふたりとも~。」

 凛とした声が響き、オレは慌てて動揺を繕った。
 目の前のアシュルは、すでに幼い雰囲気を出しており、さっきまで話していた人物が別人のように思えた。
 
 したたかで、頭の切れるやつだ。
 コイツは警戒しておいたほうが良い。

 握手したとき、痛みを覚えた。
 あれは完全にアシュルから放たれた雷魔法サンダー
 完全なる威嚇。
 いや、アシュル曰く牽制。
 鋭い目つき、そして莫大な魔力。
 フランは気が付いていないのだろうか?
 アシュルは魔力が異常に多い……、それも一つ下の年齢であるのに王族であるオレと同じくらい。
 一体、どこが天使なんだ…。











 一部、誤字がありました、指摘ありがとうございます。修正いたしましたので、よろしくお願いします。
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