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男だらけの異世界転生〜学園編・第一部〜

異変

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 数日前………


 早朝の生徒会室では、会長と副会長が小さな会話を交わしていた。互いの距離には間隔があり、空気は強い威圧の魔力で重苦しい。座ることもなく、立ち尽くしたような二人は静かだ。

「知っていたのか、君は。」
「何がですか?」
「とぼけるのか?」
「…フランドール様の魔力のことですか。」
「そうだ。」

 ベェルシードは一瞬、迷いを見せたがすぐに視線をウェルギリウスに戻すと、一呼吸置いて言葉を紡ぐ。

「フレンディ様もルルーシュ様も、魔力のことでフランドール様を案じていたのは事実です。お二人共、魔力が多いものですから想像していなかった事だったようで…。お二人の過保護は、フランドール様の魔力の少なさ故と言えます。」
「少ないとは感じていたが、魔力はあるのだろう? まさか仕置魔法で気を失うほどだなんて…、今どき平民でもあり得ない。医者や神殿の者には診せたのか?」
「何度も診せていますよ。お二人の子であることは確か。ならば呪いか病ではと手当たり次第診せましたが、それでもフランドール様の魔力が少ない理由は分かりませんでした。隠していたわけではありません。ただ、フランドール様の身を守るためには安易に公開すべきでは無かったのです。」
「……そうか。」
「結婚する気が失せましたか? であれば、いつでも私が…。」
「あ゛ぁ? 誰がお前などにやるものか。オレにとっては、むしろ幸運だ。己の権力と魔力に任せて、フランドールを手籠することだってできるのだから。」
「…卑怯ですね。」
「なんとでも言え、そうしてでも手に入れたいほどに……、本気なのだ。」

 黙り込んだ後、威圧を消し、ウェルギリウスはソファに身を沈めた。それから深く溜め息を吐き、両腕を脱力させると天井を仰いだ。

「面倒なことになっている。」

 その一言で大方、保守派が動いたのだろうとベェルシードは考える。フランドールの魔力について保守派が婚約破棄すべきだと騒ぎ立て、王がその意見に意思を傾けているとウェルギリウス自ら愚痴を溢していた。フランドールとウェルギリウスが婚約破棄すること自体はベェルシードにとって何の問題もない、むしろそうなれば自分のモノにできるのではないかとすらと思う。

 それでも、フランドール様の身に不利益が降り掛かるのなら…、危険が及ぶとするのなら話は別だ。もしくは、フランドール様がウェルギリウス殿下とのご結婚を心から望まれ、それが幸福だとおっしゃるのならば。

「どのような?」
「保守派と父上が新しい婚約者を寄越してきた。魔力が莫大で美しいと噂のだ。」
「そうですか。平民とは驚きですが、王も認めるほどの魔力ならば国も安泰ですね。」

 そう言ってウェルギリウスに皮肉を投げれば、言葉の代わりに舌打ちが返ってくる。

 話を聞けば、婚約者として選ばれたらしい平民が近く学園に入学してくるそう。昨日までは『成人の儀式に合わせた、二年後からの入学が好ましい』との意見があったのだが、『すぐにでも入学すべきだ』という強い意見に変わったそうだ。明後日には顔合わせが行われる。このままいけば、フランドールとの婚約が白紙になるかもしれない、と…。時間がない上に、今のウェルギリウスの力ではどうしようもない。

「どうなさるのですか?」
「身を預ける。」

 ウェルギリウスは不服そうに言った。
 そりゃそうだ、どうしようもないことなのだから。

「保守派も父上も慎重になるはずだ。何せ、現婚約相手は上級貴族であり外交に強いメディチ家の長男、ルルーシュ殿に限っては隣国王家のご子息だ。ただ破棄だというわけにはいかないだろう。」
「それにしては、どこか焦りと言うか…、急いでいるようにも感じられますね。」

 ベェルシードの吐いた素朴な疑問にウェルギリウスはドクリと心臓が脈打つのを感じた。ここ最近の騒動と言い、それを見計らったように現れた莫大な魔力を持つ少年、動き出した保守派。見えないところで何かが蠢いている。

「一部の人間が、その平民を『神子』と呼んでいる。」

 神子、神聖にも聞こえる言葉だが何か不穏な音を感じてベェルシードはウェルギリウスに向き直った。

「神子? それは、あの古文書などで描かれる世界を救うと言われる伝説の少年ですか?」
「そうだ…。少年は慈悲深く、その力を私利私欲ではなく人のために使うらしい。不治の病を治したり、重い呪いをいとも容易く解き、落とした腕をくっつけ元通りにしたという噂まで流れている。そんな中、おまけに最近、悪魂が確認された。著しい治安の悪化と魔獣の活性化が問題視されているのだ。」
「それは随分とタイミングが良いですね…。」

 タイミングが良いばかりでない。あまりにも出来すぎた人間の存在など正直、疑わしい。噂が本当ならその力は、それこそ神にも等しいだろう。けれど、噂には尾鰭が付くものだ。
 自分の婚約が悪いことの引き金になり得ると、ウェルギリウスは考えていた。フランドールだけではなく、この国の未来をも失うほどの恐ろしいことが目前に迫っているような気がしてならなかった。

 一切を口外するなと口止めを受けた後、半ば追い出されるようにベェルシードは部屋をあとにする。ウェルギリウス殿下の『身を任せる』とは、つまり様子を見つつ探るということなのだろう。殿下は今、王すらも疑っている。以前の父上とは、まるで別人のようだと呟いていた。この国が危うくなっている。本当に何かが起きようとしている。

 小さな不安や焦燥に、悪寒が背筋を走り、ベェルシードの胸をざわつかせた。



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