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男だらけの異世界転生〜恋編〜

少しだけ

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 ベェルシードに「ただの従者に戻ります」と告げられてから、もう3日が経った。
 何も変わっていない。
 時々感じていた刺すような視線が消えてしまっただけ。
 恋人のように触れてくる手が無くなっただけ。
 それだけ、ただそれだけで他は何一つ変わらない。

 ふつふつと感じる寂しさは、徐々に消えていく。元々の関係性、親友そして従者と主という立場に戻ったのだから。それは、あまりに呆気なくて簡単だった。


 少しばかり落ち込んで俯いた俺をリリー先輩が呼び出した。
 人払いでもしたみたいに誰も居ない中庭。
 彼の側にはドラルクがいる。
 こんな静かな場所にわざわざ呼び出して、どうしたのだろうか。

「後始末には、苦労したよ。」

 開口一番、そう言われた。

「、、?」

 ベンチに座り、ふんわりした長い桃色の髪を指先にくるくると巻き付けて気だるげに笑う。
 リリーは、垂れ下がってきた髪を掻き上げてつまらなそうに空を見上げた。今日は生憎の曇り。

「人を殺すならバレないようにしてくれないか?」

 一体、何のことだか。
 よくわからず首を傾げる。
 何の話だろう。随分、物騒な話をしてくる。

「ははっ、へぇ、良いね。」

 青年は瞳に小さく歓喜の光を宿した。

 堪えきれないという風に口元に浮かんだ笑みを手で覆い隠す。
 そんな表情さえ、彼は美しい。
 とにかく彼の美貌は俺にとって凄まじかった。

「君ってば、無頓着で時々たまらなくなるよ。」
「はい?」

 無頓着。言っている意味がわからなくて思わず聞き返す。

 すると、リリーはもう一度「たまらない」と言ってこちらに手を伸ばしてきた。彼の白く細い指先が頬に触れようとする。けれどその腕は何者かによって阻まれ、くんっと止まった。リリーの腕を掴むのは大きく、そして血管の目立つ角張った手。とても強い力、華奢な色白の腕が折れてしまいそうだ。

「痛いよ、ドラルク。」

 リリーの声にハッとした様子でドラルクは手を離した。
 まじまじと自分の手を見て、自分の行動に驚きを隠せないでいる。
 ドラルクの様子をまじまじと見たリリーは目を細め、眉を顰めた。

「嫉妬でもしたのかい?」
「ち、ちが、います。」
「ほーう?」
「俺は、そのような感情は持ち合わせておりません。」

 ドラルクは、リリーの視線から逃れるようにバッと下を向き答えた。彼の首筋には汗が流れている。ドラルクは明らかに自身よりか弱そうな相手に、どこか怯えていた。

「持ち合わせていない、ねぇ。そうかい。どうしてだろうね…?」
「…っ、そういうものなのです。俺、ここにいる必要ないですから、もう行きます。」

 『私は嘘吐きも嫌いだよ。』
 耳元でリリーに囁かれた言葉。
 フランドールには、その声は聞こえなかった。
 滅多に聞くことのない低い声が耳の奥を、脳内をキリキリと駆け巡る。
 ドラルクは長い脚で大股に踵を返した。
 そんなドラルクにリリーは、呆れた様子で肩を竦め、指をさす。

「勝手に来たのは彼の方なんだよ。」

 小さな声で告げ口するみたいに言われた。
 あーあ、と溜め息を吐き、リリーは物事に飽きた素振りでベンチから立ち上がった。

「まぁ、後始末はちゃんとしておいたから安心しなさい。次は上手くやるのだよ、じゃあね。」

 ふわふわと髪を揺らし、リリーは俺を置いてゆったりと歩いていく。背を向けたまま白く細い腕をひらひらと振った。その腕には、ドラルクの握りしめた痕がくっきりと残されていた。

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