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9話:俺の思考回路、乙女※

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 家に戻ると、ローレンスが魔法で一斉に明かりを灯してくれる。
 寒くて、ついでに暖炉の火も付けてしまった。  
 トマトスープで肉を煮込みながら、いつも以上に沈黙のつづく部屋に息苦しくなる。

「何も、聞かないのか。」

 ソファーに座って本を捲るローレンスに聞く。
 美しい魔物は、本を閉じずに答えた。

「お前だって、聞いてこないだろう。」

 そうだな…、とだけ言ってまた会話が途切れた。確かに、俺はローレンスの過去を聞かない。今日のミールとのことも、英雄ルジャンドルのことも、ローレンスの年齢も聞くつもりがない。いつか話してくれる時に聞ければいいと思っているし、一生知ることがなくてもそれでいい。

「あっ、そういや、ベッド、いつ買いに行くんだ?」
「…いらないだろ」
「ん?」
「だから、いらない」

 ん?いらない、とか言っている?
 俺の聞き間違いか?
 確かに、あのベッドは男二人で寝ても狭くはない。
 だが、先程の話も含めて、男同士同じ布団で寝るというのは、嫌ではないのだろうか…。

「ベッドには困っていない。新しく買うのは無駄金だ。」

 ローレンスが真顔で言うものだから、尻尾の様子を伺うも落ち着いている。

「えっ、でも、」
「なんだ、嫌なのか?」
「いや、じゃないが…。さっきの話聞いてただろ。」
「お前、オレを犯すつもりなのか?」
「はぁ⁉ ローレンスを汚すようなことするわけないだろ! だいたい、俺は男に突っ込む趣味はないっ」

 とんでもない発言をするローレンスに俺は慌てて訂正する。
 ローレンスは、しばし考えると閃いたように顔を上げた。

「……犯されたいのか。意外だな。」
「…………ッ!?」

 な、な、何言っちゃってんのぉ、この子⁉

 俺は、図星を突かれたのと「犯されたい」という願望を他者の口からはっきり言い当てられたのとで、ハクハクと固まる。多大な羞恥心が俺を襲った。顔が、熱い…!耳まで熱い…!

「ほぅ、良いことを知ったな。」

 本を閉じたローレンスがソファーから立ち上がり、近づいてくる。煮込み料理を混ぜていたヘラを持ったまま固まる俺の肩に手を置いて、耳元に唇を寄せた。

「ぁ、っ……」

 ふっ、っと息を吹きかけられ擽ったさに思わず声が出る。それと同時に身体が逃げようとするが、腰を掴まれて動けない。ローレンスは、肩から首筋を撫で、耳裏や縁をスリスリと指先で弄った。

「これから面白くなりそうだな。」

 紫の綺麗な瞳を細め、ローレンスは俺の奴隷になってから、はじめて微笑みを見せた。俺の心臓は、壊れそうなくらいドッドッドッと走っていく。混乱、慣れていない身体では、小さな甘い刺激にすら耐えられない。それなのに、腰を抱くローレンスの手が俺の尻に触れた。指先が探るように谷間を縫う。そして、クンッ、と長い指が曲がり一度も使ったことのない恥部を押し込んだ。

「ぁ、ぅっ……!」

 ダメだ、こんなのダメ…。
 俺の手がローレンスの服をしわくちゃにして掴んでいる。
 その手をやっと離して、震える手で指先を擦り合わせた。

 パチンッ…。

「痛ッ、、」

 小さな音だったが、それなりに効果があったようだ。
 ローレンスは、俺から離れ首元を押さえながらうずくまった。

「か、勘違いするな…! そういうことするためにお前を買ったわけじゃない‼」

 情けないかな、ほんの少し、怖かった。
 奴隷紋の契約がなければ、きっと抗うことはできなかっただろう。
 俺はローレンスに背を向けて、瞼に滲んだ涙を擦った。
 こんなの勘違いする。
 やばい、俺、このままじゃローレンスのことを意識してしまう。
 そしたら、普通に暮らせなくなる…。
 あんな苦しいの、もう、俺やだよ。

「つまらんな。これくらいのこと、みんなやってる。」
「……俺はっ、そういうの、大事にしたいん、だよ。」
「ふっ、今どき少女でもそんなこと言わないぞ。」

 わ、笑われた…。

「お、いい匂いがしてきたな。そろそろ食えるんじゃないか。腹が減った。」
「あ、ああ。今、皿に盛り付ける。」

 結局、その後は何もなかったように飯を食って、湯浴びをして、同じベッドで眠りについた。ローレンスは疲れていたのかすぐに眠りにつき、スースーと寝息が聞こえた。

 俺と言えば、ローレンスに触れられたことを思い出して全く眠れなかった。









 
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