20 / 21
第19話 どうか側に
しおりを挟む
今、自分は何を言われた?
飲み込んで理解するには、難解な言葉︙。
ウルソンの思考は停止し、考えることを放棄した。固まったまま立ち尽くす専属騎士、ダレスはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「ウルソン、好きだ。」
相手に想いを告げることは、こんなにも緊張するものなのか。はじめて知る感情の波にダレスは今まで無下にしてきた恋心たちへ罪悪感を覚えた。
「︙好きなんだ。」
再度、同じ言葉を言う。
ウルソンの唇が重たく開かれた。
「それは︙︙、お坊っちゃまが孤独になるのが怖いからですか?」
「︙っ。」
「そんなことを言わずとも、専属騎士を辞めるな、とダレス様に命令されれば私は辞めません。」
ダレス様を傷付けたい訳じゃないのに、こんな言い方が酷いことも分かっているのに︙。何も接吻までしなくても良いじゃないか、と責めたくなる。
「今まで通りにと命令するのなら、今まで通りに致しましょう。︙︙命令してください。」
上手く言葉にできない。
泣きそうになるダレスの頭に、いつか聞いた言葉が浮かぶ。
『ダレス、言葉にしなければ伝わらないことも時にはあるのよ。貴方が大切な人に出逢ったとき、その人と生きたいと思ったとき、ゆっくりでも良いの。心の中にある気持ちを真っ直ぐに伝えるの。大丈夫、もし上手くいかなくても、きっと後悔はしないはずよ。』
不意にダレスは幼い頃、母に言われた言葉を思い出した。
今まで通り︙。
何もかも無かったように。
そんなのは嫌だ。
「ウルソン。」
ダレスは自分よりも大きな、けれど今ばかりは、頼りない騎士の青年を強く抱き締めた。
「好きだ。今更君にこんなことを言って、あんな引き留め方をして、ごめん。ウルソンが誰かに奪われるなんて、思っても見なかった。ウルソンが僕から離れると思ったら怖くなった。こんなのはじめてだ。今まで多くの人間が離れて行った、孤独にはなったがそれでも引き留めようとはしなかった。でも、お前が離れることは耐えられないんだ。」
ダレスは離さまいと、抱き締める腕をさらに強くする。ウルソンは何も言わない、その沈黙を埋めるように、利用するように、ダレスは続ける。
「たとえ誰もが、僕を嫌って孤独にしたとしても良い。それでも構わないと思えるほど君が好きなんだ。独りになっても、ウルソンが側に居てくれるのならそれで良いんだ。」
人は離れていくもの、そう思っていた。飽き性で、気まぐれ、何かひとつに執着することなど無かった。自分が今までウルソンにしてきたことが何れ程、酷いことだったか。与えられる嫉妬に酔って何度も傷つけた。そんな自分は、こんなことを言える立場じゃない。それでも︙。
「傲慢なのは分かっている。でもどうか、僕の側に・・・、離れずに側にいて」
鼓動が酷く早い、ウルソンの言葉を、返事を聞くのが怖い。
「ダレス様は、俺が好きだと、本気で仰るのですか︙。」
ダレスの耳元で聞きなれた心地よい低音が響く、微かに掠れた声。
「ああ、好きだ。」
ドクドクと心臓の音がうるさい、早鐘を打つ胸︙、これは一体どちらの鼓動か。ダレスの背に鍛え上げられた腕が回された、恐る恐る抱き締め返す専属騎士の顔をやっと覗くと、耳まで真っ赤に染まっている。
「︙夢や︙︙、嘘では︙。」
「断じて無い!」
震えるウルソンの不安げな言葉を遮るように、ダレスは即答する。
抱き締めていた腕を離し、ウルソンを見据える。すぐに顔を覆うように隠されてしまった。ダレスは、騎士の大きな手に指を絡めると、手の甲に接吻を落とした。赤らむ頬、大粒の涙で潤む漆黒の瞳が愛しい。真面目なウルソンの短すぎる髪には、寝癖がぴょこりと付いている。少し抜けたところが、ウルソンらしくてかわいい。
「ウルソン、僕のたったひとりの恋人になってくれないか・・・。これは命令じゃないよ。君の気持ちで答えて欲しいんだ。」
「︙おれで、良いんですか。」
「君が良いんだ。」
「︙っ。」
騎士の青年は、絡められた美しい指先を優しく握り返す。
瞳が交わり、ダレスはその美しさに息を呑んだ。
淡く染まった頬でウルソンは小さく頷くと、にっこりと微笑んだ。
飲み込んで理解するには、難解な言葉︙。
ウルソンの思考は停止し、考えることを放棄した。固まったまま立ち尽くす専属騎士、ダレスはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「ウルソン、好きだ。」
相手に想いを告げることは、こんなにも緊張するものなのか。はじめて知る感情の波にダレスは今まで無下にしてきた恋心たちへ罪悪感を覚えた。
「︙好きなんだ。」
再度、同じ言葉を言う。
ウルソンの唇が重たく開かれた。
「それは︙︙、お坊っちゃまが孤独になるのが怖いからですか?」
「︙っ。」
「そんなことを言わずとも、専属騎士を辞めるな、とダレス様に命令されれば私は辞めません。」
ダレス様を傷付けたい訳じゃないのに、こんな言い方が酷いことも分かっているのに︙。何も接吻までしなくても良いじゃないか、と責めたくなる。
「今まで通りにと命令するのなら、今まで通りに致しましょう。︙︙命令してください。」
上手く言葉にできない。
泣きそうになるダレスの頭に、いつか聞いた言葉が浮かぶ。
『ダレス、言葉にしなければ伝わらないことも時にはあるのよ。貴方が大切な人に出逢ったとき、その人と生きたいと思ったとき、ゆっくりでも良いの。心の中にある気持ちを真っ直ぐに伝えるの。大丈夫、もし上手くいかなくても、きっと後悔はしないはずよ。』
不意にダレスは幼い頃、母に言われた言葉を思い出した。
今まで通り︙。
何もかも無かったように。
そんなのは嫌だ。
「ウルソン。」
ダレスは自分よりも大きな、けれど今ばかりは、頼りない騎士の青年を強く抱き締めた。
「好きだ。今更君にこんなことを言って、あんな引き留め方をして、ごめん。ウルソンが誰かに奪われるなんて、思っても見なかった。ウルソンが僕から離れると思ったら怖くなった。こんなのはじめてだ。今まで多くの人間が離れて行った、孤独にはなったがそれでも引き留めようとはしなかった。でも、お前が離れることは耐えられないんだ。」
ダレスは離さまいと、抱き締める腕をさらに強くする。ウルソンは何も言わない、その沈黙を埋めるように、利用するように、ダレスは続ける。
「たとえ誰もが、僕を嫌って孤独にしたとしても良い。それでも構わないと思えるほど君が好きなんだ。独りになっても、ウルソンが側に居てくれるのならそれで良いんだ。」
人は離れていくもの、そう思っていた。飽き性で、気まぐれ、何かひとつに執着することなど無かった。自分が今までウルソンにしてきたことが何れ程、酷いことだったか。与えられる嫉妬に酔って何度も傷つけた。そんな自分は、こんなことを言える立場じゃない。それでも︙。
「傲慢なのは分かっている。でもどうか、僕の側に・・・、離れずに側にいて」
鼓動が酷く早い、ウルソンの言葉を、返事を聞くのが怖い。
「ダレス様は、俺が好きだと、本気で仰るのですか︙。」
ダレスの耳元で聞きなれた心地よい低音が響く、微かに掠れた声。
「ああ、好きだ。」
ドクドクと心臓の音がうるさい、早鐘を打つ胸︙、これは一体どちらの鼓動か。ダレスの背に鍛え上げられた腕が回された、恐る恐る抱き締め返す専属騎士の顔をやっと覗くと、耳まで真っ赤に染まっている。
「︙夢や︙︙、嘘では︙。」
「断じて無い!」
震えるウルソンの不安げな言葉を遮るように、ダレスは即答する。
抱き締めていた腕を離し、ウルソンを見据える。すぐに顔を覆うように隠されてしまった。ダレスは、騎士の大きな手に指を絡めると、手の甲に接吻を落とした。赤らむ頬、大粒の涙で潤む漆黒の瞳が愛しい。真面目なウルソンの短すぎる髪には、寝癖がぴょこりと付いている。少し抜けたところが、ウルソンらしくてかわいい。
「ウルソン、僕のたったひとりの恋人になってくれないか・・・。これは命令じゃないよ。君の気持ちで答えて欲しいんだ。」
「︙おれで、良いんですか。」
「君が良いんだ。」
「︙っ。」
騎士の青年は、絡められた美しい指先を優しく握り返す。
瞳が交わり、ダレスはその美しさに息を呑んだ。
淡く染まった頬でウルソンは小さく頷くと、にっこりと微笑んだ。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
223
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる