転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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異世界転生編

7.料理を注文するよ

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 そんなこんなでエリナさんを厨房入り口まで見送った俺。彼女とはまだ話したいこともあるし、俺自身この後特段予定があるわけじゃないのでここで待っていることにした。
 もちろんその旨エリナさんにも言ってあるが、それでも1時間は少し長い。

「今のうちに食事にしてしまうか……すいません、食券があるんですけど」
「あ、はい。それではこちらの食券専用メニューからお選びください。各メニューはパンひとつと冷水1杯サービスとなっております」

 ……ああ、そりゃそうか。水がタダで出てくるなんて前の世界のそれも日本くらいのものだろうからな……それにしても食券専用メニュー? 普通のメニューと違うのか?

「ありがとうございます。席はどこに座れば……」
「あ、空いてる席でしたらどこでもいいですよー」

 そこらへんはカジュアルなレストランって感じなのか。まあ、待ち合わせにも使われるようなところだしな……さて、料理の方はどんなものか……



 ・黒オークのカツレツ
 ・川カジキのソテー
 ・赤米の肉汁シチュー
 ・腸詰グリル盛り合わせ
 ・鶏肉の素揚げのマリネ



 ……なるほど、あの金額でなら飲み物なんかもメニューに入ってくるはずだが、食券使用ということで最初から食事目的とみなされているわけか。とはいえ5種類も選択肢があるのは俺としてもありがたい。
 それにしても調理法なんかは見覚えあるけど食材に関してはどう考えても俺の元居た世界にはないものがあるな……せっかくだしそれ頼んでみるか。

「すいません、この黒オークのカツレツというものを」
「黒オークのカツレツですね。少々お待ちください」

 俺にとっては見慣れないものであってもこっちの人間にとってはやはり普通なのか、店員も特に何の問題もなく注文を取っていく。まあ味に関してはともかく成分的に食べられないものは出てこないだろう。

 さて――落ち着いたところでここまでの情報を整理してみよう。

 まず、この世界は中世ヨーロッパっぽい外観で技術的には割と発達した世界と言えそうだ。もっともその発展の方向性は物理を主体とした元の世界とは違うようだが……魔力を使った技術というものがどういうものか、詳しくは色々調べてみないと分からない。

 次に、自分の状況。
 不老不死と不可視のインベントリをデフォルトでもらっていて、どちらも本格的に使って試したわけではないから完全には分からないが、ステータス上は少なくとも不老不死に関しては反映されていると思ってよさそうだ。

 そしてもらったスキル、エキスパートレベルの生産魔法と全言語多方向翻訳認識能力についてだが……魔法の方は少なくともステータスには書いてあった。が、どれくらいのレベルかは実際使ってみないと分からないからおいおいやってみるとして――

 問題なのは全言語多方向翻訳認識能力だな。今までのことを考えてみるとインプットもアウトプットも問題なく翻訳されているようだ。それは視覚的に認識出来る文字に関しても同じ、というのは看板や書類を読めているのでもわかる。
 もっとも――

「お待たせしました、黒オークのカツレツと、セットのパンと水です。味はついていますのでそのままお召し上がりください。それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとう、いただきます」

 ――これのように、前の世界には存在しないもの、平たく言うと俺の知らないものに関してはそのままの単語で認識されるようだ。それにしてもオークってあのオークか? 豚の頭をした人型の……いや、やめとこう。いただきます。

「……ん、味は鶏肉……食感は豚肉? そんなに固くはないな……」

 一瞬嫌な想像をしたけど、取り敢えずは食べられるもので安心した。
 いずれにしてもそこはそういうものらしく、いちいち説明してたら色々キリがないだろうからこちらとしても助かる。

 そしてこの能力に関する問題はもうひとつ、どうやら全く違う系統の言語もすべて日本語として認識されるらしいことだ。
 現にエリナさんは俺の言葉をフィンランド語として認識していたし、受付のルサルカさんやマリアさんはこの世界の言葉として認識していた。口の動きなどが全然違うと思うんだが、双方に不自然に思われていなさそうなところを見るとそこは認識阻害か何かが働いているのかもしれない。

 いずれにしても俺にとっては凄く助かる能力だが……アレがオプションの能力ということは大体の人は選んでいないんじゃないか? だからこそ、マリアさんもエリナさんのように全然言語が通じない人がたまに来るって言ってたんじゃないか?
 と、なると……エリナさん、これからちょっと、いやかなり苦労しそうだな。取り敢えず俺が今まで知り得た情報は共有するとして、サポートはしていかなきゃまともに生きていけないかもしれな――うーん、不老不死だから死ぬことはない、のか?

 それにしても今更だけど、やっぱり俺以外に元地球人っているんだな……

「ん、パンは……黒くはないけど、全粒粉っぽい? そもそも麦ってどうなってんだこの世界」
 一応俺の魔法の中にも素材鑑定はあるはずだが、料理した後だとどうしてもうまく働かない。量を頻繁に食べればわかることもあるんだろうけど……依頼を受ける前に色々試してみることにしよう。

 およそ1時間後、エリナさんがチュートリアル用の依頼を終えて厨房から出てきた。俺はさっきと同じように受付に連れて行ってやり、銅貨5枚を受け取って食券を買い、食券用のメニューから一品選んで注文した……ところまでが現状。

 で、当のエリナさんと言えば少し落ち着いた様子ではあるものの、まだ俺に対して……というよりこの世界全体に対してかもしれないけど、どことなく警戒心を抱いてるように見える。
 まあそりゃそうか、あの時のセリフ的に自分の置かれた状況をいまいち把握しきれていないように見えるし。

「あ、あの……何から何までありがとうございます」
「ん? ああ、別にそれはいいんだよ。多分同じ世界から来ただろう人を困ったまま放っておくわけにもいかないし」
「同じ世界! そう、同じ世界なんです!」

 ……あー、やっぱりそこ引っかかるか。

「私と、ええと……ミズモトさんが同じ世界出身ってことは、ここは違う世界ってことなんですか? だから言葉も全然通じないし街並みも違うんですか!?」
「……うん、まあ、つまりはそういうことだね。それとトーゴって呼んでいいよ」

 若干食い気味だけど、何とか理解はしてくれているようだ。ちなみに彼女がメニューから注文した料理は「腸詰グリル盛り合わせ」。黒オークだの川カジキだの、見たことのないものは食べる気にならないようだった。……まあ当然っちゃ当然かな。

「そんな……それじゃ、元の世界にはどうやって帰れば……」
「んー……その辺りについてもちょっと話さなきゃならないことがあるから、もうちょっと付き合ってくれる?」
「お、お願いします!」

 分かっていたけど、これは説明が長くなりそうだな……それにしても普通こんな誘われ方したら怪しまれると思うんだけど、そんなことを気にする余裕もないくらい切羽詰まってるんだろうな……やっぱりますます放っておけなくなった。



---
※ちょっと解説
この世界に出てくる黒オークは知能が低めの猪型の魔獣で、二足歩行もある程度出来ますが別に人型ではありませんし女騎士とも関係ありません。クマと豚の合いの子のようなものです。肉は美味。
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