転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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異世界転生編

13.物の価値を確認するよ

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 案内された部屋は、まあ何というか至って普通のツインルームだった。トイレは部屋付きだけど湯浴み所……いわゆる風呂は共用で部屋にはなし。ベッドメイキングはそれなりにされてて、結構窓が広いせいか照明がなくてもあまり困った感じはない。
 部屋というかこの建物全体的にテレビやらコンセントやらがないのは流石としか言いようがないけど……そう言えばこの世界の魔力って電気とどう違うんだろう。そこもあとで確認しておこう。

 さて、取り敢えずの宿も決まったところで街に出かけるとしようかな……

「さてと、出かけるよエリナさん。今の所持金でどれだけのものが買えるか分からないけど、今の時点でも結構足りないものがありそうだからね」
「分かりました。ちょうど私も色々と欲しいものがあったんです」

 まあ、そうだろうなあ。男の俺ですら足りないんだからエリナさんはもっとそう思うだろう。さしあたっては衣食住の衣からかな……

「買いたいものを挙げていこう。まずは着替えと石鹸と、依頼をこなすうえで有用な装備なんかも欲しいかな。それとトロリーバスと路面電車があったから、それの乗り方も確認しておこう」

 定期券だったり1日券だったり、要するに定額の切符とかあったら嬉しいな。

「そうですね。それと余裕があれば時計と筆記用具、地図ももうちょっと広範囲で詳細のものがあればいいんですけど……それと早めに住まいのことも調べておいた方がよさそうですね」
「住まい、住まいね……」

 ……実際どうなんだろう? どこか街の一角に住める場所があるならそれもいいかもしれないけど自由度はなくなるし、移動式の住居なら自分で作らなければならないかもしれない。そもそもこの世界、不動産業ってどうなってるんだろう。それもギルドか何かあるのかな。

 どうやら、想像以上に考えることや実験しなければいけないことが多そうだな……

「まあその辺は後でもいいですし、まずはトーゴさんの言ったような生活必需品から揃えていきましょう。衣類関係ならおそらくこの大通り沿いにあると思いますよ」
「え、何で?」
「店らしき場所に看板がつるしてあったんですが、それがヨーロッパの旧市街でよく見るエンブレムによく似ていたんです。絵で業種を示すような」
「あ、ああ……確かにそんなのあるって聞いたことがあるな」

 確か識字率が絶望的に悪い時代に、文字で書いては何の店かわからないから絵で示していたっていう話を聞いたことがあるようなないような……っていうかエリナさん、ここまで来る間にそこまで見てたのか。凄いな。

「じゃあそこにちょっと寄ってみよう。気に入ったのがあればその場で買えばいいし、なくても値段だけは確認していこう」
「はい、お願いします!」



 ――マジェリア公国内、ギルド連合都市エステル。

 買い物に出かける前、先程ギルドでもらった小地図に軽く目を通したところ、今自分たちがいる街がそういう名前であることを知った。公国内で経済活動が最も活発な都市で、ギルド合議制による自治が敷かれており、税制上も優遇が多い都市とのこと。
 ただ川を挟んで向こう側にスローヴォ共和国という別の国があるので、国境警備の為に兵力も潤沢なのだとか。……あくまでギルドでもらったパンフレットに書いてある情報だけだとそういうことみたいだ。でも結構市民はお互いに行き来してるみたいだけどな。

 それはともかく買い物の話だ。

 俺たちの宿が大通り沿い――ロリアニ通りというらしい――にあるのは最初に言った通りだけど、確かにエリナさんの言った通り色々な店のものらしき看板がぶら下がっていた。この街の目抜き通りだけあって品揃えも結構豊富そうではあった。
 ただ食料品売り場や雑貨屋など庶民の生活に直結しそうな店、そして病院や診療所など医療関連の施設はあまり見受けられなかった。そういうのはまた別のところに店を構えているに違いない……その辺は後で確認しよう。

 まずはエリナさんの言ってた衣料品店に入ってみる。なるほど、エンブレムに採用されているのはチュニックとズボンのイラストか。確かに分かりやすい。
 店の中は……入口の大きさの割には広いな。陳列は流石にハンガーで吊るしてあるだけだけど、雑然と置いてあるよりはずっといいか。あ、でも下着もあるって書いてあるな。それは棚に畳んで置いてあるのか。

「結構余裕なく置いてありますね……貼ってあるのは値札ですか?」
「そうみたいだ、この棚にあるものは一律1小銀……下着はそんなもんなのかね」

 その棚に置いてあったのは男物のアンダーシャツで、日本円で言うと1着500円程度か。一般的な日本のものの半額程度だな。パンツは……ボクサータイプが同額か。
 それ以外だと所謂Tシャツがその倍程度で1穴あき銀、簡単な模様のついた前とじの上着が1銀、ズボンが2穴あき銀から4穴あき銀……今の所持金ではそこまで多くは揃えられなさそうだ。

「そうだエリナさん、女物の服はどんな感じ――」
「高い……高いですトーゴさん……」

 そう言うエリナさんの顔は顔面蒼白だった。実は店に入ってから簡単に値札の読み方だけ教えてみたんだけど、これだったら教えない方がよかったかな……そもそもいくらで高いと言ってるんだろう――

「げ」

 上下それぞれ1穴あき銀!? 男物の倍か! 確かに現代日本と比べるとそれでも安いけど、男物でも言えたことだけどモノがあまりにも違い過ぎる!

「ブラ……というか上は頭からかぶるタイプでアンダーバスト付近を紐で縛って固定……しかもパッドはなく布を厚めに重ねただけ……ショーツも紐で縛って固定するタイプか、この……何ですかこの布に紐がくっついたみたいなの」
「うん、ぶっちゃけふんどしだね。紐で腰に固定して、垂れた布を股の間に通して結んだ紐で固定するんだけど……」

 パンドルショーツとかいう名前に変わってたと思うけど、いずれにしてもハイレベルだよなあ……俺が付け方を教えるわけにもいかないし。

「取り敢えず、必要になりそうな分だけ買おう。下着を上下2着ずつとシャツを2着、あとズボンを1本ってところかな。エリナさんもこれからのことを考えるとズボンの方がいいよ」
「そうですね……じゃあ私もそれで。ショーツはこの……紐と布じゃない方で!」

 ですよね。流石にふんどしはね。
 というか転生した時にもらった服って……いや、考えるのはよしておこう。



 その後色々な店を回って、石鹸、筆記具、地図と買い揃えられそうなものはなるたけ買い揃えた。残念ながら装備と時計はなかなか手頃なものが見つからなかったので、どの程度の価格帯なのか確認するだけで終わってしまったけど。

 それにしてもショートソードが1本1穴あき金、レザーアーマーが1着4小金とは恐れ入った。剣が50000円相当、軽鎧が40000円相当かよ……鎧の方は肘と膝まで全部セットとは言えちょっと高すぎるんじゃないのか。
 時計に至っては大したことない懐中時計がショートソードと同じ値段だと。買えないわそんなもん。

 結局買えたのは消耗品と地図だけ。石鹸が1個1銅、筆記具がメモ帳1冊1銅、ペン1本1小銀、インク壺1個3銅。ここまでふたつずつを購入し、地図は範囲広めで大きめかつ細かいのを2穴あき銀で1冊だけ買った。これでさっきの衣料品店の買い物を合わせるとふたりで2銀1穴あき銀1小銀。小銀だけに直すと23小銀……全財産の1割もかかるか、流石に高いな。

 宿泊費が40小銀だからこれで63小銀、残り137小銀で8日間、いや今日は終わろうとしているから7日間か……こうなったらなるたけ早めにトロリ草の根っこを買い取ってもらった方がいいか? アレを全部買い取ってもらえればまだ余裕は出来るだろうし。

「トーゴさん? どうかしましたか?」
「……これからのことを考えて頭が痛くなってたとこ」
「ああ……値段そのものは高くなかったですけど感覚的に支出多かったですよね……」

 実際買えなかった装備や時計を除いて、物価水準的には日本のほぼ半額で済む計算ではあるな。宿泊に関してはもっと安いし。ただモノはあまりよくないから結局トントンなのかな……
 物価水準と言えば、公共交通機関が1日4銅で全線乗り放題だったのは素直に嬉しかった。アレがあるのとないのとでは大違いだからな。死活問題だと言ってもいい。

 ――と、その時。ゴーン、ゴーン、と、広場あたりからロリアニ通り、どころか町全体にまで響く重厚な鐘の音。もしかしてこれアレか、大きな時計から鳴ってんのか。そう言えば空も徐々に青が深くなってきてる気がするし……大体午後の6時くらいかな? 買い物始めて3時間弱経ってる計算になるけど、まあそんなもんか。

「まあ考えることはいろいろあるけど、取り敢えず夕飯にしようか。宿で出るかわからないし、総合職ギルドの食堂でいいかな」
「そうですね、いいと思います。あそこなら量の割に値段も手頃ですし」
「んじゃ決まり。あ、エリナさんの分は俺が出すからね」
「そんな、悪いですよ!」
「……下着の差額分、エリナさんの方が1穴あき銀ほど多く出してただろ。バランスとらないと何か気分悪いし出させてよ」
「そういうことなら……お言葉に甘えます、お願いします」

 そう照れ臭そうに言うエリナさん。今日1日何かどっと疲れたけど、彼女のそんな様子を見ると少し癒される気がするなあ。



---
※ちょっと解説
アイコンやエンブレムのついた店の看板は今でも中央ヨーロッパあたりの旧市街で見る事が出来ます(実際に現在入っている店とは流石に関係ありませんが)。
なお作中に出てくる国名は微妙に実在のものをモデルにしていますが、あくまで架空の国名ですのであしからず。
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