転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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放浪準備編

23.登録審査の結果が出たよ

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 ギルドに備え付けられている工房は思いの外広く、流石に専門職のギルドだけあって道具もそれなりのものが揃っていた。もっともここに人がいないあたり、メンバーはこれらの道具でも物足りなくて自前のものを持っているのかもしれないけど。

「さてと」

 用意された水差しから水をコップ1杯もらって、あてがわれた机に向き合う。これから3時間は、ここが俺の領域なんだ。
 まず出された課題は木製道具。片手で携帯出来る、家庭で使用出来そうなもの。受付の人は装飾関係でもいいって言ったけど、ここはちょっと実用性にこだわりたいところだ。

「となると、あれかな」

 既に生産に限ってはエキスパート級のスキルを備えているとはいえ、3時間という制限がある以上そこまで複雑なものは出来ない。けど、実用性と装飾性を兼ね備えたものを作りたいんであればあれしかない。
 道具は自由に使っていいらしいから、遠慮なく使わせてもらおう。さて、いくか!



 ……2時間後。
 木工道具の形を全部作り終えた俺は、最後の装飾の貼り付けにかかる。ここにある接着剤は質自体は可もなく不可もなくってところだけど、乾く早さは申し分ない。時間内に問題なく終わるだろう。
 にしても、少し早く終わりすぎたな……30分くらい余る感じか? これならもうちょっと凝ったものを作っても……いや、そんな時間はないか。

「それにしてもエキスパート級ってのは本当なんだな」

 前世……うん、あえて前世って表現しちゃうけど、俺はそこまで器用な人間ではなかった。手作業に関して言えばもう完全に平均的な腕前しか持っていなかったのに、ここに来てろくすっぽ練習もしないまま物を作ったのにこれだ。
 ああ、確かにこれは合格前提かもしれない。油断はもちろん禁物だけど。
 それに15時間確保されてる家屋模型制作がまだ残ってる。さっきまで使ってた道具や制作の際に出たごみや汚れなんかもあらかた掃除し終わったし、そっちの方にも手を付けていいのかな……でも手を付けようにも図面がそもそも渡されてないからダメか。
 そんなところまできっちりしなくてもいいのに……と。

「失礼します、ミズモトさん。残り1時間となりましたのでよろしくお願いします……あら、もしかして作業終了ですか?」
「ええ、正確にはあと30分ほど接着剤が乾くのを待たなければなりませんが……この場合はどうすればいいんですか?」
「もし制限時間内に課題が終了したのであれば、そこの壁に備え付けられているボタンが下の受付デスクに繋がっていますので、押していただければこちらに伺います。その際余った時間は休憩時間とし、既定の時間になりましたらふたつ目の課題に取り掛かっていただきます。
 また課題終了時点で夕食のメニューをお持ちしますので、ご入用でしたらその場でご注文下さい。お代は総合職ギルドより引き落とさせていただきます」
「分かりました、ありがとうございます」

 そう言って受付の人は工房を出ていった。なるほど、あのこれ見よがしなボタンは下に繋がってたのか。まあアレは接着剤が乾いたタイミングで押すとして……食事はふたつ目の課題の時間中にとれって言ってたな。それじゃ簡単に食べられるサンドイッチっぽいのがあればそれにしよう。



 それからさらに1時間後。完成した木工道具と引き換えに受付の人から渡された図面を見つつ、ミニチュア模型の制作に取り掛かる。ミニチュアとはいえ5分の1大だから、高さだけでも1メートルはあり、その為か布基礎を模した枠があらかじめ用意されている始末。っていうかこの世界、そんな技術もあるんだな。
 幸い構造自体は単純なもので、所謂スタンダードな三角屋根のものを指定されていたんだけど――

「なるほど、これは完成しないわ」

 確かに図面には大体の枠組みが記載されていた。大体と言ってもちゃんと寸法まで細かく指定されていて、その通りに作れば問題なく組み立てられるであろう感じではある。寸法自体も間違ってないし。

 ただ、逆に言えばそれだけだった。この図面、大枠しか描いていない。

 こんなの作ったら屋根も更けない壁も貼れない、ましてや地震や雨風なんかにはとてもじゃないけど耐えられないだろう。

 さて、そうとなればまずは図面の描き直しからだな。一応描き込むだけであれば図面に手を加えていいことになっているので、必要になりそうな設計は今の段階で全部終わらせてしまおう。
 基本は木造軸組構法、住居自体はこの辺りに建築することを想定すると……筋交いを多めに使って剛性を上げるか。ほとんど地震なんかは起こらないけど、数十年に1回の割合ででかめのが襲ってくるとか何とか本で読んだしな……

「えっと、鋸に鉋に……鉋の質もどうにかならないものかなあ」

 さっきの道具作りでも使ったけど、正直使いづらくてしょうがなかった……まあ、日本レベルの鉋をここ異世界で求めようってのがそもそも期待薄なんだ。同レベル以上に木工が発達した場所だったらあるいは、ってところだけど。
 そうだ、せっかくだし色々とやってみよう。何もアレンジは最低限にとか言われてるわけじゃないんだし。



 ……そして12時間後。
 少し早めに課題を終わらせて壁のボタンを押すと、説明通りすぐに受付の人が課題の品を回収しに来てくれた。ミニチュアとは言え高さだけでも人の大きさくらいあるものをどうやって回収するのかな……なんて思ってたけど、どうやら入口とは別に搬入出口があるらしい。

「ギルドの依頼で大きめの木工製品を制作することもありますので、搬入出口には余裕を持たせているんですよ」

 なんて、受付の人も言ってたけど、当たり前っちゃ当たり前か。中途半端な大きさのもの――例えば大型の家具なんかを作ってくれって依頼も多いだろうし、それに対応する必要はまああるだろう。



 そんなこんなで家屋のミニチュア模型を回収されておよそ1時間後。受付の人が何かの用紙を1枚持って工房に戻って来た。というか、こんな短時間で結果が出るのか。
 それにしても合格前提で課題をこなしてくれと言われていたものだから、てっきり淡々と合格が告げられて終わりなのかと思っていたが、そんな予想に反してその表情は明るかった。……何かあったのかな。

「ミズモトさん、結果が出ましたのでお伝えします。登録審査は合格、登録ランクは銀とさせていただきます!」
「……銀? 軽銀ではなくてですか?」
「それは合格が担保できない、いわば一般枠の場合ですね。普通は無試験やそれに準ずる合格は銅ランクからスタートになるんですが……登録時点で特に優れているとみなされた場合は銀ランクよりスタートしていただくのが規則なんです」

 受付の人曰く、俺がここまで評価された原因はひとつ目の課題、木工道具の精巧さと装飾技術の高さだったそうだ。何の変哲もないただ小物を入れるための箱に、簡単に開けられないように若干の遊び心を加えた機構といい、周りの模様の細やかさといい、ギルド始まって以来の精巧かつ実用的なモノづくりにギルドマスターがいたく感心したとのこと。
 ……前にテレビで何度も見た寄木細工、こっちでも作ってちゃんと物珍しく思ってくれるかどうか心配だったけど、何とかなったな。しかしここにある程度の道具であそこまでちゃんとしたものが作れるというのも、生産のエキスパートの恩恵を存分に受けてるんだなあ……と、今更ながらに思えてくる。

 ちなみにふたつ目の課題の方も今までにない完成度の高さだったそうで、期待のルーキーだなんだとギルドマスターが小躍りしてたそうだ。……多分彼と俺とでだいぶ意識に差がありそうだけど、まあいいか……
 いずれにしてもこれで木工ギルド登録完了。早めに手続きを済ませて、エリナさんの待つ宿に戻るとしよう。



---
 木工と言っても色々とあるわけですが、トーゴさんが見つけたと言ってた家具ギルドは実は木工ギルド付属だったりするわけです。家の骨組みが正しいかどうかは微妙に自信な気なのであまり深くは突っ込まんで頂ければ(酷

 次回更新は11/14の予定です。
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