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放浪開始・ブドパス編
40.首都での食い扶持を考えてみるよ
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「まあカードの話とかはそのくらいにして、そろそろ――」
「大変お待たせ致しました。ローストポークの茹でパン添え、ロールキャベツのトマトソース煮、川魚のピリ辛パプリカスープです。それとこちらパンと麦茶になります」
「――料理が来る頃だから夕食にしよう。ありがとうございます」
腹が減っては戦が出来ぬ……ではないしそもそもさっき軽く食べているからそこまでがっつり食べる感じじゃない。とは言え少し気疲れしたからいつもよりは食べたい気分ではある。
さて、ローストポークが俺でロールキャベツがレニさん、川魚のスープがエリナさんっと。茹でパンとかいうのが何なのか知らなかったから不安だったけど、見た感じ焼き目のないめっちゃくちゃ柔らかそうな白パンって印象だな……
「ああ、多分ですけどクネドリーキですねそれ」
「クネドリーキ?」
「私も話に聞いたのと写真でしか見たことがないんですけど、前世で言うとチェコやハンガリーなんかでは肉料理とかの付け合わせによく出てくるみたいですよ。残ったパンなんかを寄せ集めて作ったりもするらしくて……フィンランドにはなかったですけど」
なるほど、日本では見ないパンだからどこのだろうと思ってたけど、付け合わせに特化した感じなのかコレ。イギリスにもヨークシャープディングなんてあったけど、感覚的にはそれに近いのかな。
……っていうかここでも炭水化物を肉料理の付け合わせにするなんて、世界が変わっても考えることは似通ってるんだな。
「……さてと、いただきます」
さっそくローストポークに手を付ける。かかっているソースは……グレイビーっぽい。使われている食器はエステルと同じ木製が中心。なので少し切り辛さがあるかな……と思ったけど結構肉が柔らかい。
味は――
「あっ、結構うまい!」
この世界での比較対象がエステルの総合職ギルド上のレストランしかないから基準が分からないけど、少なくともこっちの方が味が上に感じる。向こうで食べた肉はどうしても臭みや固さが取り切れていない感じがあったけど、こっちはその問題もクリアしてる。流石ブドパス、流石首都。
「こっちのスープもちょっと辛いですけど美味しいですよ! 久々にちゃんと食べた魚が美味しいっていうのは、思ったよりずっと嬉しいものですね!」
「マジか、そっちも後で食べてみようかな……レニさんはそれ大丈夫でした?」
「はい、お気遣いありがとうございます! とっても美味しいです!」
と言いつつレニさんは全くパンに手を伸ばそうとしない。やっぱりパンに使われているであろう卵がダメなのか……となると衣を使った揚げ物も結構ダメなものが多くなるし、そう考えるとレニさんみたいなハイランダーエルフの食生活も意外と不便だな。
「それにしても貿易のかなめである国境都市より首都の方がはっきりと料理が美味しいのは意外ですよね」
「そうだねえ……ただ味の傾向も微妙に違いそうだね?」
エステルの街はもっとこう酒の香りが目立つ料理が多かった気がするけど、ここブドパスの料理はどちらかというと赤が目立つ。このローストポークにもパプリカパウダーがかかってて、これがまた微妙に辛味がある。この世界に来てから香辛料の少なさが気になってたから、久しぶりの辛さが逆に新鮮だ。
そう言えばエステルの隣はスローヴォ共和国の国境都市……確か名前はシュトラーバって言ったっけ? そこでは結構酒類が多めに取引されてたはずだから、その影響もあったりするんだろうか。
「レニさんは普段どんな食事をなさってるんですか?」
「ふえ、私ですか? 私の村は基本的に野菜スープと麦がゆの食事ですね……と言っても焼き魚や猪の肉なんかも食べますよ。行商の人から牛肉や豚肉、乳製品も買えますし、週に3日くらいは肉や魚も食卓に上ります」
思った以上に雑食だなハイランダーエルフ。
「あ、でもアレです。蜂蜜は前もって行商の人に頼まないと買ってくれない上に、そもそもが少し高いのでデザートやおやつとしてはあまり口に入りませんね」
「蜂蜜……? 何で蜂蜜は普通に持ってきてくれないの?」
「エリナさん、その文章の意味分かるんだ……」
「そこは少しだけ簡単だったので」
「……英語と共通点があるってだけで日本人的には結構とっつき辛そうだから共感は出来ないな……それはともかく代理購入必須なのは、蜂蜜が専売の対象になってるからだと思う」
製本ギルドで調べた結果、この世界でも塩は間違いなく専売対象で、後は国ごとに専売対象が設定されている感じになっているらしい。マジェリアの場合は蜂蜜がよく採れる為専売対象に指定されていて、国に指定された公社からしか購入出来ない。
レニさんの村のように行商人に代わりに購入してもらう場合は、専用の用紙に詳細を事前に記入しておいて、控えの提出と引き換えに中間マージン一切なしで取引しなければならないのだ。少しでも違反すれば死罪も含む厳罰が待っているから、誰も不正しようとはしないのだという。
とにかくそういう訳で、蜂蜜はこのマジェリアでは専売対象となっていて、その分安いはずだけどそれでも庶民が遠慮なく使うには値が張る。もっとも砂糖はそれに輪をかけてレアで高級品なので、専売にはならないもののほとんどの国民にはまず手が出ない。故にここで使われる甘味調味料と言えば蜂蜜であり、食後やおやつに食べる甘いものと言えば蜂蜜か果物くらいしかないのだ。
「……スイーツショップ、作れば行けるかな」
「行けますとも!!」
「何でエリナさんがちょっと食い気味なの……あくまで案だよ、案!」
いやまあ、お菓子とかに飢えてるのは分かるけどもね? そもそもそんな事したらここに定住することになっちゃうわけだしそれだけは避けたいところだ……
「そう言えばこの街の総合職ギルドってどんな依頼が来るんだろうね? 規模や街の感じからすると、エステルと同じってことはないだろうけど」
「ああ、そう言えばそうですね。エステルはこう、周辺が結構緑に囲まれてたから自然関係の依頼もそれなりにありましたけど……ここは完全に都会ですしね。そこら辺に薬草が生えてるなんてこともなく結構ちゃんと整備されてる感じが」
「エステルの街が雑な田舎だったって聞こえるからやめなさい。ともあれ、ブドパスならではって依頼もありそうなもんだね」
で、レニさんから話を聞いた限りだとここの木工ギルドは総合職ギルドにガンガン依頼を出すか、もしくは全く出さないかのどっちかのような気がするんだけど……果たしてどっちか。そしてどっちにしても収入的にはあまり期待出来そうもないんだろうな。
となると、専門職ギルドの方で色々と漁ってみるのがいいような気がするけど。
「夕食が終わったらちょっと依頼を覗いてみよう。ここの依頼を受けるかどうかはそれから相談ってことで……受けられない場合は申し訳ないけど、エリナさんは……」
「大丈夫ですよ、ジェルマ語の勉強もまだ途中ですし」
「そう言ってくれると助かるよ」
エステルの街で16万フィラー……日本円に換算して80万ほど貯金したとはいえ、考えなしに使っていたらあっという間になくなってしまう。そうならないように節約するのはもちろんのこと、エリナさんでも受けられる依頼があることを祈るばかりだ。
「あの、トーゴさんは木工ギルドの銀ランクなんですよね? いざとなったら私の村で木材を手に入れられるように交渉しましょうか。伐採の依頼でも私の村周辺に遍在する種類の材木が対象になってることがあるって、行商の人も言ってましたし」
「ありがとうございますレニさん、でも取り敢えずはさっきも言った通りここの依頼を確認してみますよ」
話に聞く限りレニさんの村ってここから結構遠いだろうし、自分で行くのはちょっと躊躇うところだ。エステルから杉山村に通っていた俺が言うのもどうかと思うけど、こっちはそれに加えて住人がエルフだしな。レニさんの手を煩わせるわけにもいかないだろう。
「そうそう、それにいざとなったらスイーツショップを開けば――」
「エリナさん結構引っ張るねそれ? っていうか料理人ギルドに入ってないんだけど俺」
「トーゴさんならすぐに入れますよ。銀ランクで」
アッダメだこれ完全に食い気になってるわエリナさん。取り敢えずグレイビーソースを絡めたクネドリーキを口の中に突っ込んでっと……
「あー、むっ。うんー、ソースが絡んで美味しいですー……じゃなくてスイーツショップがですね!」
頼むから誤魔化されてくれよエリナさん……
---
エリナさんが食欲に負けてる……!
それはともかく蜂蜜や砂糖の卸、合わせて糖業というんですが、マジェリアで国家専売の対象となっているのはそれなりに蜂蜜が採れることと蜂蜜を少量ながら料理に使う文化が確立していることが挙げられます。
需要と供給がそれなりにあるものじゃないと専売にしても旨味がありませんで……
次回更新は01/04の予定です!
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「――料理が来る頃だから夕食にしよう。ありがとうございます」
腹が減っては戦が出来ぬ……ではないしそもそもさっき軽く食べているからそこまでがっつり食べる感じじゃない。とは言え少し気疲れしたからいつもよりは食べたい気分ではある。
さて、ローストポークが俺でロールキャベツがレニさん、川魚のスープがエリナさんっと。茹でパンとかいうのが何なのか知らなかったから不安だったけど、見た感じ焼き目のないめっちゃくちゃ柔らかそうな白パンって印象だな……
「ああ、多分ですけどクネドリーキですねそれ」
「クネドリーキ?」
「私も話に聞いたのと写真でしか見たことがないんですけど、前世で言うとチェコやハンガリーなんかでは肉料理とかの付け合わせによく出てくるみたいですよ。残ったパンなんかを寄せ集めて作ったりもするらしくて……フィンランドにはなかったですけど」
なるほど、日本では見ないパンだからどこのだろうと思ってたけど、付け合わせに特化した感じなのかコレ。イギリスにもヨークシャープディングなんてあったけど、感覚的にはそれに近いのかな。
……っていうかここでも炭水化物を肉料理の付け合わせにするなんて、世界が変わっても考えることは似通ってるんだな。
「……さてと、いただきます」
さっそくローストポークに手を付ける。かかっているソースは……グレイビーっぽい。使われている食器はエステルと同じ木製が中心。なので少し切り辛さがあるかな……と思ったけど結構肉が柔らかい。
味は――
「あっ、結構うまい!」
この世界での比較対象がエステルの総合職ギルド上のレストランしかないから基準が分からないけど、少なくともこっちの方が味が上に感じる。向こうで食べた肉はどうしても臭みや固さが取り切れていない感じがあったけど、こっちはその問題もクリアしてる。流石ブドパス、流石首都。
「こっちのスープもちょっと辛いですけど美味しいですよ! 久々にちゃんと食べた魚が美味しいっていうのは、思ったよりずっと嬉しいものですね!」
「マジか、そっちも後で食べてみようかな……レニさんはそれ大丈夫でした?」
「はい、お気遣いありがとうございます! とっても美味しいです!」
と言いつつレニさんは全くパンに手を伸ばそうとしない。やっぱりパンに使われているであろう卵がダメなのか……となると衣を使った揚げ物も結構ダメなものが多くなるし、そう考えるとレニさんみたいなハイランダーエルフの食生活も意外と不便だな。
「それにしても貿易のかなめである国境都市より首都の方がはっきりと料理が美味しいのは意外ですよね」
「そうだねえ……ただ味の傾向も微妙に違いそうだね?」
エステルの街はもっとこう酒の香りが目立つ料理が多かった気がするけど、ここブドパスの料理はどちらかというと赤が目立つ。このローストポークにもパプリカパウダーがかかってて、これがまた微妙に辛味がある。この世界に来てから香辛料の少なさが気になってたから、久しぶりの辛さが逆に新鮮だ。
そう言えばエステルの隣はスローヴォ共和国の国境都市……確か名前はシュトラーバって言ったっけ? そこでは結構酒類が多めに取引されてたはずだから、その影響もあったりするんだろうか。
「レニさんは普段どんな食事をなさってるんですか?」
「ふえ、私ですか? 私の村は基本的に野菜スープと麦がゆの食事ですね……と言っても焼き魚や猪の肉なんかも食べますよ。行商の人から牛肉や豚肉、乳製品も買えますし、週に3日くらいは肉や魚も食卓に上ります」
思った以上に雑食だなハイランダーエルフ。
「あ、でもアレです。蜂蜜は前もって行商の人に頼まないと買ってくれない上に、そもそもが少し高いのでデザートやおやつとしてはあまり口に入りませんね」
「蜂蜜……? 何で蜂蜜は普通に持ってきてくれないの?」
「エリナさん、その文章の意味分かるんだ……」
「そこは少しだけ簡単だったので」
「……英語と共通点があるってだけで日本人的には結構とっつき辛そうだから共感は出来ないな……それはともかく代理購入必須なのは、蜂蜜が専売の対象になってるからだと思う」
製本ギルドで調べた結果、この世界でも塩は間違いなく専売対象で、後は国ごとに専売対象が設定されている感じになっているらしい。マジェリアの場合は蜂蜜がよく採れる為専売対象に指定されていて、国に指定された公社からしか購入出来ない。
レニさんの村のように行商人に代わりに購入してもらう場合は、専用の用紙に詳細を事前に記入しておいて、控えの提出と引き換えに中間マージン一切なしで取引しなければならないのだ。少しでも違反すれば死罪も含む厳罰が待っているから、誰も不正しようとはしないのだという。
とにかくそういう訳で、蜂蜜はこのマジェリアでは専売対象となっていて、その分安いはずだけどそれでも庶民が遠慮なく使うには値が張る。もっとも砂糖はそれに輪をかけてレアで高級品なので、専売にはならないもののほとんどの国民にはまず手が出ない。故にここで使われる甘味調味料と言えば蜂蜜であり、食後やおやつに食べる甘いものと言えば蜂蜜か果物くらいしかないのだ。
「……スイーツショップ、作れば行けるかな」
「行けますとも!!」
「何でエリナさんがちょっと食い気味なの……あくまで案だよ、案!」
いやまあ、お菓子とかに飢えてるのは分かるけどもね? そもそもそんな事したらここに定住することになっちゃうわけだしそれだけは避けたいところだ……
「そう言えばこの街の総合職ギルドってどんな依頼が来るんだろうね? 規模や街の感じからすると、エステルと同じってことはないだろうけど」
「ああ、そう言えばそうですね。エステルはこう、周辺が結構緑に囲まれてたから自然関係の依頼もそれなりにありましたけど……ここは完全に都会ですしね。そこら辺に薬草が生えてるなんてこともなく結構ちゃんと整備されてる感じが」
「エステルの街が雑な田舎だったって聞こえるからやめなさい。ともあれ、ブドパスならではって依頼もありそうなもんだね」
で、レニさんから話を聞いた限りだとここの木工ギルドは総合職ギルドにガンガン依頼を出すか、もしくは全く出さないかのどっちかのような気がするんだけど……果たしてどっちか。そしてどっちにしても収入的にはあまり期待出来そうもないんだろうな。
となると、専門職ギルドの方で色々と漁ってみるのがいいような気がするけど。
「夕食が終わったらちょっと依頼を覗いてみよう。ここの依頼を受けるかどうかはそれから相談ってことで……受けられない場合は申し訳ないけど、エリナさんは……」
「大丈夫ですよ、ジェルマ語の勉強もまだ途中ですし」
「そう言ってくれると助かるよ」
エステルの街で16万フィラー……日本円に換算して80万ほど貯金したとはいえ、考えなしに使っていたらあっという間になくなってしまう。そうならないように節約するのはもちろんのこと、エリナさんでも受けられる依頼があることを祈るばかりだ。
「あの、トーゴさんは木工ギルドの銀ランクなんですよね? いざとなったら私の村で木材を手に入れられるように交渉しましょうか。伐採の依頼でも私の村周辺に遍在する種類の材木が対象になってることがあるって、行商の人も言ってましたし」
「ありがとうございますレニさん、でも取り敢えずはさっきも言った通りここの依頼を確認してみますよ」
話に聞く限りレニさんの村ってここから結構遠いだろうし、自分で行くのはちょっと躊躇うところだ。エステルから杉山村に通っていた俺が言うのもどうかと思うけど、こっちはそれに加えて住人がエルフだしな。レニさんの手を煩わせるわけにもいかないだろう。
「そうそう、それにいざとなったらスイーツショップを開けば――」
「エリナさん結構引っ張るねそれ? っていうか料理人ギルドに入ってないんだけど俺」
「トーゴさんならすぐに入れますよ。銀ランクで」
アッダメだこれ完全に食い気になってるわエリナさん。取り敢えずグレイビーソースを絡めたクネドリーキを口の中に突っ込んでっと……
「あー、むっ。うんー、ソースが絡んで美味しいですー……じゃなくてスイーツショップがですね!」
頼むから誤魔化されてくれよエリナさん……
---
エリナさんが食欲に負けてる……!
それはともかく蜂蜜や砂糖の卸、合わせて糖業というんですが、マジェリアで国家専売の対象となっているのはそれなりに蜂蜜が採れることと蜂蜜を少量ながら料理に使う文化が確立していることが挙げられます。
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