転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

文字の大きさ
41 / 132
放浪開始・ブドパス編

40.首都での食い扶持を考えてみるよ

しおりを挟む
「まあカードの話とかはそのくらいにして、そろそろ――」
「大変お待たせ致しました。ローストポークの茹でパン添え、ロールキャベツのトマトソース煮、川魚のピリ辛パプリカスープです。それとこちらパンと麦茶になります」
「――料理が来る頃だから夕食にしよう。ありがとうございます」

 腹が減っては戦が出来ぬ……ではないしそもそもさっき軽く食べているからそこまでがっつり食べる感じじゃない。とは言え少し気疲れしたからいつもよりは食べたい気分ではある。
 さて、ローストポークが俺でロールキャベツがレニさん、川魚のスープがエリナさんっと。茹でパンとかいうのが何なのか知らなかったから不安だったけど、見た感じ焼き目のないめっちゃくちゃ柔らかそうな白パンって印象だな……

「ああ、多分ですけどクネドリーキですねそれ」
「クネドリーキ?」
「私も話に聞いたのと写真でしか見たことがないんですけど、前世で言うとチェコやハンガリーなんかでは肉料理とかの付け合わせによく出てくるみたいですよ。残ったパンなんかを寄せ集めて作ったりもするらしくて……フィンランドにはなかったですけど」

 なるほど、日本では見ないパンだからどこのだろうと思ってたけど、付け合わせに特化した感じなのかコレ。イギリスにもヨークシャープディングなんてあったけど、感覚的にはそれに近いのかな。
 ……っていうかここでも炭水化物を肉料理の付け合わせにするなんて、世界が変わっても考えることは似通ってるんだな。

「……さてと、いただきます」

 さっそくローストポークに手を付ける。かかっているソースは……グレイビーっぽい。使われている食器はエステルと同じ木製が中心。なので少し切り辛さがあるかな……と思ったけど結構肉が柔らかい。
味は――

「あっ、結構うまい!」

 この世界での比較対象がエステルの総合職ギルド上のレストランしかないから基準が分からないけど、少なくともこっちの方が味が上に感じる。向こうで食べた肉はどうしても臭みや固さが取り切れていない感じがあったけど、こっちはその問題もクリアしてる。流石ブドパス、流石首都。

「こっちのスープもちょっと辛いですけど美味しいですよ! 久々にちゃんと食べた魚が美味しいっていうのは、思ったよりずっと嬉しいものですね!」
「マジか、そっちも後で食べてみようかな……レニさんはそれ大丈夫でした?」
「はい、お気遣いありがとうございます! とっても美味しいです!」

 と言いつつレニさんは全くパンに手を伸ばそうとしない。やっぱりパンに使われているであろう卵がダメなのか……となると衣を使った揚げ物も結構ダメなものが多くなるし、そう考えるとレニさんみたいなハイランダーエルフの食生活も意外と不便だな。

「それにしても貿易のかなめである国境都市より首都の方がはっきりと料理が美味しいのは意外ですよね」
「そうだねえ……ただ味の傾向も微妙に違いそうだね?」

 エステルの街はもっとこう酒の香りが目立つ料理が多かった気がするけど、ここブドパスの料理はどちらかというと赤が目立つ。このローストポークにもパプリカパウダーがかかってて、これがまた微妙に辛味がある。この世界に来てから香辛料の少なさが気になってたから、久しぶりの辛さが逆に新鮮だ。
 そう言えばエステルの隣はスローヴォ共和国の国境都市……確か名前はシュトラーバって言ったっけ? そこでは結構酒類が多めに取引されてたはずだから、その影響もあったりするんだろうか。

「レニさんは普段どんな食事をなさってるんですか?」
「ふえ、私ですか? 私の村は基本的に野菜スープと麦がゆの食事ですね……と言っても焼き魚や猪の肉なんかも食べますよ。行商の人から牛肉や豚肉、乳製品も買えますし、週に3日くらいは肉や魚も食卓に上ります」

 思った以上に雑食だなハイランダーエルフ。

「あ、でもアレです。蜂蜜は前もって行商の人に頼まないと買ってくれない上に、そもそもが少し高いのでデザートやおやつとしてはあまり口に入りませんね」
「蜂蜜……? 何で蜂蜜は普通に持ってきてくれないの?」
「エリナさん、その文章の意味分かるんだ……」
「そこは少しだけ簡単だったので」
「……英語と共通点があるってだけで日本人的には結構とっつき辛そうだから共感は出来ないな……それはともかく代理購入必須なのは、蜂蜜が専売の対象になってるからだと思う」

 製本ギルドで調べた結果、この世界でも塩は間違いなく専売対象で、後は国ごとに専売対象が設定されている感じになっているらしい。マジェリアの場合は蜂蜜がよく採れる為専売対象に指定されていて、国に指定された公社からしか購入出来ない。
 レニさんの村のように行商人に代わりに購入してもらう場合は、専用の用紙に詳細を事前に記入しておいて、控えの提出と引き換えに中間マージン一切なしで取引しなければならないのだ。少しでも違反すれば死罪も含む厳罰が待っているから、誰も不正しようとはしないのだという。

 とにかくそういう訳で、蜂蜜はこのマジェリアでは専売対象となっていて、その分安いはずだけどそれでも庶民が遠慮なく使うには値が張る。もっとも砂糖はそれに輪をかけてレアで高級品なので、専売にはならないもののほとんどの国民にはまず手が出ない。故にここで使われる甘味調味料と言えば蜂蜜であり、食後やおやつに食べる甘いものと言えば蜂蜜か果物くらいしかないのだ。

「……スイーツショップ、作れば行けるかな」
「行けますとも!!」
「何でエリナさんがちょっと食い気味なの……あくまで案だよ、案!」

 いやまあ、お菓子とかに飢えてるのは分かるけどもね? そもそもそんな事したらここに定住することになっちゃうわけだしそれだけは避けたいところだ……

「そう言えばこの街の総合職ギルドってどんな依頼が来るんだろうね? 規模や街の感じからすると、エステルと同じってことはないだろうけど」
「ああ、そう言えばそうですね。エステルはこう、周辺が結構緑に囲まれてたから自然関係の依頼もそれなりにありましたけど……ここは完全に都会ですしね。そこら辺に薬草が生えてるなんてこともなく結構ちゃんと整備されてる感じが」
「エステルの街が雑な田舎だったって聞こえるからやめなさい。ともあれ、ブドパスならではって依頼もありそうなもんだね」

 で、レニさんから話を聞いた限りだとここの木工ギルドは総合職ギルドにガンガン依頼を出すか、もしくは全く出さないかのどっちかのような気がするんだけど……果たしてどっちか。そしてどっちにしても収入的にはあまり期待出来そうもないんだろうな。
 となると、専門職ギルドの方で色々と漁ってみるのがいいような気がするけど。

「夕食が終わったらちょっと依頼を覗いてみよう。ここの依頼を受けるかどうかはそれから相談ってことで……受けられない場合は申し訳ないけど、エリナさんは……」
「大丈夫ですよ、ジェルマ語の勉強もまだ途中ですし」
「そう言ってくれると助かるよ」

 エステルの街で16万フィラー……日本円に換算して80万ほど貯金したとはいえ、考えなしに使っていたらあっという間になくなってしまう。そうならないように節約するのはもちろんのこと、エリナさんでも受けられる依頼があることを祈るばかりだ。

「あの、トーゴさんは木工ギルドの銀ランクなんですよね? いざとなったら私の村で木材を手に入れられるように交渉しましょうか。伐採の依頼でも私の村周辺に遍在する種類の材木が対象になってることがあるって、行商の人も言ってましたし」
「ありがとうございますレニさん、でも取り敢えずはさっきも言った通りここの依頼を確認してみますよ」

 話に聞く限りレニさんの村ってここから結構遠いだろうし、自分で行くのはちょっと躊躇うところだ。エステルから杉山村に通っていた俺が言うのもどうかと思うけど、こっちはそれに加えて住人がエルフだしな。レニさんの手を煩わせるわけにもいかないだろう。

「そうそう、それにいざとなったらスイーツショップを開けば――」
「エリナさん結構引っ張るねそれ? っていうか料理人ギルドに入ってないんだけど俺」
「トーゴさんならすぐに入れますよ。銀ランクで」

 アッダメだこれ完全に食い気になってるわエリナさん。取り敢えずグレイビーソースを絡めたクネドリーキを口の中に突っ込んでっと……

「あー、むっ。うんー、ソースが絡んで美味しいですー……じゃなくてスイーツショップがですね!」

 頼むから誤魔化されてくれよエリナさん……



---
エリナさんが食欲に負けてる……!
それはともかく蜂蜜や砂糖の卸、合わせて糖業というんですが、マジェリアで国家専売の対象となっているのはそれなりに蜂蜜が採れることと蜂蜜を少量ながら料理に使う文化が確立していることが挙げられます。
需要と供給がそれなりにあるものじゃないと専売にしても旨味がありませんで……

次回更新は01/04の予定です!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...