転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

文字の大きさ
47 / 132
放浪開始・ブドパス編

46.市場を見学するよ

しおりを挟む
「お疲れ様です、ええと……ドルカさん、ですよね。そちらの方は?」
「初めまして、私は本日ハイランダー受付を担当しておりますヘドヴィグと申します。よろしくお願いします、ミズモトさん」

 ああ、この人がさっき名前に上がってたヘドヴィグさんか。なるほど、高地マジェリア語に引っ張られてるのか普通の人よりも少し声のトーンが高いんだな。

「こちらこそよろしくお願いします。それであの、翻訳に関してはあれで問題ありませんでしたか?」
「ええ、もちろんです。むしろ私たちにも分かりやすいような形で翻訳してくれてありがとうございます。……もっとも直訳の方は私にも読めないので、ハイランダーの方に協力を仰ぎたいところではあるんですが……」
「協力というのは、つまり翻訳文が合っているかどうかのチェックですか?」
「それもありますが、一番には標識として存在していた場合どちらの方が好ましいかということですね。確かに我々の基準ではなるべく簡潔にという方がよいのですが、文化というか思考、いや嗜好の差もありますので」

 誰がうまいことを言えと。……とはいえ確かにその通りかもしれない。理屈っぽいのが好きな民族だっていないわけないしな。とはいえ、今回の件に関して言えばハイランダーエルフも分かりやすい方が好きだと思うんだけど。
 まあでもそんなことを言ってもこの人たちははいそうですかと納得しないだろうな。そもそも依頼を受けた側である俺がそういう事を言うのも何か違うだろうし、さてどうしようかな……あ、そうだ。

「それでしたらこちらのレニ=ドルールさんに確認してもらえばよろしいのでは? 両方見せて、注意書きとしてどちらがいいか簡単に質問するんです。で、レニさんはそれに指差しで答えるだけって感じで」
「え、私がですか? ……私は構いませんけど」
「私もそれがいいかと。では……ドルールさん、看板、書く、いい、どっち?」

 ……え、理解出来るってこんなレベルなのか。片言なんてレベルじゃないぞ。こりゃレニさんの言う通りメチャクチャ苦労するな……とにかく、それに対するレニさんの答えと言えば――

「ん、どう考えてもこっちですね。どっちも普通に文章ですが短くてわかりやすいので」

 意訳の方の文章を指しながら、こともなげに言った。……うん、そりゃそうだよな。鳥との意思疎通に長けた種族って言うんだったら、そんなに長ったらしく理屈っぽい文章を好むわけがないんだよ。



 そんなこんなで無事翻訳の依頼達成報告を終えた俺は、その足で中央市場に向かうことにした。1文章あたり8000フィラーの案件だったけど、参考資料に色々と有益な追記をしてもらったからということで最終的に総額120000フィラーという大型報酬となった。
 ……やっぱり結構美味しいな、この依頼。これからもこの手の依頼があったら積極的に受けていこうかな。と、それはともかく。

「ブドパス中央市場……ここか」

 もともとこの街は幅の広い川が街中を縦断している関係で、船による物流で発達した歴史を持つらしい。その物流の恩恵を受けて発展したのがここブドパス中央市場で、場所は当然川のすぐそばにある。
 で、これがまた馬鹿でかい。鉄道の中央駅か何かと言われても全然違和感のないデザインと規模だ。……圧倒されはするけど、まずは入ってみよう。

「ええと、何々……肉と野菜と果物と穀物が1階、蜂蜜含めた調味料や加工食品、それとレストランが2階。海産物や飲み物その他諸々は地下1階か」

 これだけ広いとひとつひとつ店を見て回るのも大変そうだけど、売られている品物のジャンルごとに区画が分けられているというのは、まあ普通に考えれば当たり前の措置ではあるけど、凄く助かる。
 そうだな、売られているものから考えて2階から下に降りていく形で見て回るのがいいか。専売公社の支店は2階に集中してるみたいだし、取り敢えず専売対象を確認して買い足してから、普通の食材については調べればいい。

 そんな感じで2階に上がってみると――

「おおー……結構色んな種類があるんだな」

 エステルでも一応専売公社の支店は覗いたことがあるので値段なんかについては知ってたけど、ここの支店は以前よりも並んでる蜂蜜の種類が多い。花によって採れる蜂蜜の味が変わるのは割と常識だけど、その種類がエステルの倍以上だ。
 まあ多分首都にしか卸せないくらいの収穫量しかない種類があるからだとは思うんだけど……要するに卸す場所を絞る代わりに値段を抑えてるということなんだろう。言うなれば公社が作ったブドパス名物だ。
 とにかく今まで手に入らなかった蜂蜜の種類があるっていうのは興味深い。しかもここでは味見もさせてくれる。専売公社だけあって値段は一定だし値引きなんかもまず望めないけど、結構至れり尽くせり感があるな。

 結局専売公社支店ではエステルで買ってあった蜂蜜1種をふたつ、ここブドパスで見つけた新しい蜂蜜2種をみっつずつ購入。別の専売公社で塩を、普通の香辛料専門店でパプリカパウダーも買っておいた。
 さて、後は何か面白そうなものは……ん? あれは……

「これ、もしかしてクネドリーキ? 何でこんなのここで売ってるんだ……?」

 しかもご丁寧に一定の厚さで輪切りにされてる。これなら確かに使いやすいだろうけど賞味期限はそんなに長くないんじゃ……

「いらっしゃい。お客さん、もしかして料理はしない人?」
「いえ、しないわけではないんですけどクネドリーキは使ったことがなくて……ただクネドリーキって話に聞く限りだと自分のところで作るものだと思ってたんですけど」
「まあそりゃアレだ、確かにそっちの方が味はいいし新鮮なのは確かだがな。こいつは自家製にするにはコストと時間がかかりすぎて、大体の家庭やほとんど全てのレストランは加工されたものを買うのさ。柔らかすぎて切るのも難しいしな。
 現にそこのレストランも、総合職ギルドのレストランもうちのお得意様だぜ? これでも店売りとしてはそれなりのレベルのを出してるつもりだ、賞味期限もその日その日で使う分にはそこまで厳密にする必要もないし」

 要するに茹でて作るパンだからな、と説明されて、確かにそうだと納得は出来る。特にクネドリーキにこだわりがあるとかじゃなければ、その日その日でいちいち作ったり出来ないってのは確かにその通りだろう。実際前世の日本でも、レストランで出るパンは外で買って仕入れるものだったろうし。
 だからそれに関してはいいんだけど、さっき総合職ギルドのレストランにも卸してるって言ってたな……あそこが顧客なら、少なくともそこらの店よりは品質が保証されているに違いないな。

「……ちなみにこれいくらですか?」
「1本16枚切りで20フィラー、3本セットで50フィラーだ。家庭で使う分には1本ごと購入が最適で、3本セットは店使いってとこだな。茹でて作る関係で普通のパンに比べて水分が多い分、賞味期限はほぼまる1日と短いぜ」
「それじゃ1本下さい。帰ってから料理に使ってみます」
「毎度! 大体今日の夕飯から明日の昼飯までの間に使い切りな、でないと味が落ちるからな」
「ありがとうございます」

 ……実はクネドリーキについては頭を悩ませていたところだったから凄く助かった。実験に使いたいけど未知の食材である分、自分で材料を揃えて作るのはちょっとばかり不安だったからな。
 とは言えあれだけ賞味期限が短いのは少し想定外ではあるから、戻ったらさっそく実験を開始しよう。……まだ買い物は終わってないけど。

「ええと、取り敢えず2階で買うべきものは全部買ったかな……んじゃ1階に降りるか」

 1階は確か肉と野菜と果物と穀物か。2階で加工食品を売ってるという割にソーセージなんかはなかったから、加工肉に関しては1階の担当なんだろう。目当てとは違うけど、それについても確認したい。
 1階で確認したいのはむしろ野菜と穀物、特に緑黄色野菜と麦以外の穀物だ。この世界がどんな農作物を使用しているかはエステルでも一応確認はしたものの、この市場ならもっと色々なものが手に入るに違いない。
 それに果物も優先順位としては高くないものの、それなりに調べなければならないもののひとつだ。もしかしたら食い扶持になるかもしれないから、そこは十分注意してみることにしよう。



---
本当にでかい市場なんですよここ(
クネドリーキは柔らかいので、切り分けるときは包丁やナイフではなく糸を使うのが普通です。そして基本的にあまり長持ちしません。その日に消費しないとあっという間にダメになります。

次回更新は01/22の予定です!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...