転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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ウルバスク入国編

61.装備を揃えるよ

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 放浪再開、と意気込んだまではいいものの、ここから先は野盗やら魔獣やらに襲われる可能性も出てくる。野盗はともかく魔獣や魔物はいるのかと思っていたけど、製本ギルドで確認した感じでは意外に多いらしい。ただ人間の匂いには敏感で、人間がよく通る道や居住地にはほぼ現れないのだとか。
 だから魔獣や魔物対策はともかくとして――問題は野盗の方だ。こっちは逆に人間の通る道によく現れる。……当たり前だな、人間から物を盗んでるんだから。でまあ、そうである以上野盗相手には自衛手段を持っておかなければならない。
 というわけで、装備の購入である。一応防具に関しては依頼を受注する前に買ったネストドラゴンの革鎧があるからいいとして……問題は今まで全然手を付けてこなかった武器をどう用意するか、だな。

「というわけで鍛冶ギルドに行こう」
「何が、というわけで、かは分からないけど……確かにこれから旅をするにあたっては護身用に武器が必要になるかもね。うん、行こう」
「ちゃんと理解してるじゃないの……どんな武器にしたいか、リクエストはある?」
「んー……ここ最近は剣術と小具足術の修練が多めだったから、その辺りが使いやすいんだけど……思い切って二刀流にしちゃおうかな、剣と短剣の」
「それ、サーベルとマインゴーシュみたいな? ……ふたつ持つのはいいけど、二刀流はどうかと思うよ……」
「何で?」
「いや、修練してるのが剣術と小具足術だからだよ」

 剣術と小具足術、ふたつにスキルが分かれてるからふたつ持つのが有効なのに、同時に持ったらどっちも中途半端になる。もしかしたら二刀流の場合は剣術の方に振られてるのかもしれないけど、そもそも発言を聞く限りエリナさんは二刀流の鍛錬していないだろ。

「二刀流って一刀と全然戦い方が違うから、ぶっつけ本番じゃ流石に厳しいと思うよ……取り敢えず二刀にも出来るように武器を選んでおいて、しばらくは一刀で戦うってのが一番自然な気がするけど」
「そっかー……うん、そう言うことならトーゴさんの言うとおりにするわ」

 意外とすんなり納得してくれたようで助かった。さて、エリナさんはその方向で武器を探すとして……俺はどうしようかな。持ってる戦闘スキルが確か――斧術中級と鎚術初級だったかな。エリナさんの成長ぶりに危機感を覚えてつい斧術だけはひとつ段階を上げることにしたんだ。
 となると、ハンドアックスか……ハンマーもなかなかに捨てがたいんだけどね。片手で持てる程度のものを両手に1本ずつ持って、いざという時にはウインドミルで……いやいやいやいや、エリナさんと発想を同じくしてどうする。

「トーゴさん?」
「んあ? あ、え、どうかした?」
「いや、もう鍛冶ギルドに着いたけど……どうかしたの。調子悪いの?」
「いや? ああ、ちょっと考え事してた。ごめんごめん」

 さてと、それじゃ武器の方選んでいくとしようかね……

「ごめんくださーい」
「いらっしゃい……ああ、ミズモト=サンタラさんか。依頼でも受注しに来たの?」
「いえ、今日は客として。近々この街を出ることになりましてね、色々とあるでしょうから装備を揃えに来たんですよ」
「ああ、なるほどそう言うことね……どんな武器を揃えるとか、どんな防具を身に付けるとか決まってるの?」
「防具はもうあります、ネストドラゴンの革鎧をふたり分購入しました」
「ネストドラゴンの革鎧……もしかしてギオズリのとこの?」
「知ってるんですか?」
「そりゃあの変わり者の店だったら服飾の人間じゃなくたって知ってるさね……まあ動きやすくてそれなりに丈夫ってんだったら、いい選択肢じゃないのかい。うちじゃどうしたって金属鎧しか作れないからね。
で、武器はどうするって?」
「それを探してるんですが……エリナさんはショートソードとマインゴーシュ、それと投げナイフですかね。俺はハンドアックスで」
「ショートソード、マインゴーシュ、投げナイフ、ハンドアックスね……ギルドで用意している分だけじゃ選択肢が狭すぎるかもね。所属店のカタログを持ってきてあげるよ」
「ありがとうございます。カタログにあるものの見本は各店舗で……?」
「ああ、うちに置いてあるものもあるから、それについては見せてあげられるけど……基本的には各店舗で見せてもらうんだね。んじゃカタログ取ってくるよ」
「お願いします」

 言って受付の人が奥に引っ込むのを確認すると、エリナさんは誰も周りにいないのに俺に耳打ちする。

「……各店舗でカタログなんて作ってあるんですね」
「生産の中でも制作系のギルドは、各店舗にカタログ提出を義務付けているところがあるんだよ。俺の登録しているギルドだと、鍛冶の他には服飾と魔導工学あたりかな……木工とかはオーダーメイドが多いから、カタログ提出してもあまり意味ないみたいだけど」

 要するに、ある程度どういうものが需要あるのかわかりやすいものを担当しているギルドは、お客さんにカタログを見てもらって何が欲しいか確認するのだ。
 これが料理人ギルドの場合は、食事出来る所はそこら中にあるという事でわざわざカタログ……というかメニューを提出する必要はないということで義務化されていない。製薬ギルドもカタログは義務化されていないが、そもそも薬局そのものが製薬ギルドの出張所であり、それ故薬局が出す薬は全国共通なので義務化もクソもないというわけだ。
 ちなみに製薬ギルドに所属していても薬局にいる必要はない。その場合はギルドの依頼を通じてしか自分の作った薬を売る事が出来ないが、自分たちで使う分には規制されていないのだ。
……なんて事を話しているうちにさっきの受付係が分厚い本を持って戻って来た。

「お待たせー。剣と斧のカタログはこんな感じだよ。ショートソードは剣、マインゴーシュと投げナイフはダガーの欄にあるからね」
「ありがとうございます、それじゃさっそくチェックしますか」

 さて、俺の斧については所詮サブ武器だから後で確認するって事でいいとして……まずはエリナさんの武器か。ショートソードから確認していく事にしよう。
 ちなみに前世で言うと、ショートソードは歩兵用の剣という意味で、必ずしも長さが短いというわけではない。同じくロングソードも騎兵用というだけで必ずしも長いわけではなく、長さの範囲は結構被ってたりする。
 俺の自動翻訳がショートソードという言葉を当てはめたということは、この世界でもそれに則ってる可能性は十分にある。俺としてはあまりよろしくない状況だけど――

「……ああ、やっぱりそうか。あまり短いのがないな……」
「短いもので大体75センチくらいなのね。長いのになると1メートル近くあるの? ショートソードとは」
「全くだね……」

 俺としてはエリナさん自身の取り回しも考えて大脇差レベル、大体55センチくらいのを想定していたんだけど……その長さの需要はこの世界にはないのかな。

「後はマインゴーシュ……これも短いなあ、20センチ程度か」

 20センチっていうと、本当に補助用武器でしかない……それなりに殺傷能力もあってなおかつソードブレイカーとしての役割も果たしたい、となると30センチの十手、それも鉄棒断面が三角形になってるものが欲しいとこなんだけど……そこは欲張り過ぎか。
 でも20センチはない。それも鉤爪もなしで粗末な鍔だけなんてあり得ない。小具足術や格闘術をも最大限に生かそうとしてるならなおのことだ。
 でも一応、どういう武器なのか実物を確認しなければ……

「一番短いショートソードと、一番長いマインゴーシュを見せてください」
「分かった。それならちょうどうちにもあるよ……刃は潰れててなまくらだけど、どんな感じなのか雰囲気を確認するくらいは出来るだろ」
「お願いします」

 受付の人は再び奥に引っ込むと、今度は割とすぐに武器を持って戻ってきた。手にしているのは……ああ、典型的なショートソードとマインゴーシュだ。

「釈迦に説法かもしれないけど、抜く時はゆっくりね。なまくらとは言え当たればケガするし普通に危ないから」
「はい。……うーん」

 せっかく持ってきてもらったものの、実物を見てもやっぱり微妙という感想しかわかない。何しろショートソードは長い上に装飾が無駄すぎて、重さのバランスが変な事になってる。これは結構大雑把な剣術を使う人にはいいのかもしれないけど、うーん……
 マインゴーシュはマインゴーシュで、長さと見た目以上に重い。そもそも両方とも、鞘が訳分からないほど重い。男性ならともかく女性がこんな鞘持ってたら、物凄くバランスが悪いと思うんだけど……まあつまりは、満足いくものが見つかるとは思えない。
 しかし、そうなるとエリナさんの武器はどうしようか……

「ねえ、ミズモト=サンタラさん。もしそのカタログの中に希望する条件のものがないんだとしたら……いっそのこと、自分で作るのはどうだろう」
「自分で作る、ですか?」
「だってミズモト=サンタラさん、うちの銀ランクじゃないか。そもそも鍛冶が銀ランク以上の人がパーティーにいる場合、メンバーの手に合う武器を自作するのは普通の事だからね。
 何よりそっちの方が人件費も無駄にならず安上がりだし。作るなら奥の工房も貸してあげるよ」

 ……そんなもんなのかな? まあでも納得は出来るな、確かに。



---
というわけで今回よりウルバスク入国編が始まります。
今まで武器らしい武器、防具らしい防具が一切出てこなかったので、これを機に戦闘方面もそれなりに出していこうかと。
ウルバスク入国編と謳っていながら、もうしばらくマジェリア国内の話が続くんじゃ。

次回更新は03/08の予定です!
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