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ウルバスク入国編
62.装備を作るよ
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「それじゃお願いします。差し当たっては材料を用意してもらって……」
「……トーゴさん、もしかして私の武器作ってくれるの?」
「うん、そうだけど……って、ああ。エリナさんは待たせちゃうか……」
最初から剣を打つとなれば、またエリナさんをほっぽらかしにしてしまう。この人の事だから鍛錬と化して時間を潰すからいいなんて言い出しかねないけど、それはそれで妻にやらせる夫ってどうなんだろうか……
「ああ、待つのは問題ないわよ。ちょうど製本ギルドの図書館に面白いシリーズがあるから、それを読んで時間を潰すつもりだし」
「えー……いや、今日中には終わらないよ?」
「いや、シリーズっていうより製本ギルドに所属してる出版社が出してる本がどれも面白くて……多分、数日かけても読み終わらないと思うから」
「どんだけ本出してんだよその出版社……」
とは言え、剣の鍛錬で時間を潰してますとか言われるよりよっぽどマシだし……お言葉に甘えるとしようかな。
「ん、それじゃまた待たせてしまうけど……」
「もちろん、トーゴさんが私のために打ってくれる剣ですもの。少し待つくらいどうってことないわよ」
「ん、そう言ってくれるとありがたいよ。楽しみにしてて……ちなみにその出版社ってどんな本出してるの?」
「んーと、レーベルの名前はルフラン書房って言うんだけどね? あ、レーベルそのものはジェルマのなんだけど」
「うん……うん?」
「最近私が読んでるシリーズは、『女魔王は純で淫らな愛を知る』ね」
「!?」
「現世に飽きて何も感じなくなった美女魔王がパーティー追放された美形ショタ勇者とあまあまらぶらぶに爛れた生活を送るだけの本なんだけど、これがまた――」
「待って待ってエリナさん待って」
ジェルマのレーベルでルフランとはこれいかにとかツッコミどころは色々あるけど、取り敢えず――
「まさかとは思うけどエリナさん、エロ小説でジェルマ語勉強してたの!?」
「エロ小説とは失礼な! 官能小説と呼ばないと!」
「そんなんどっちでもいいよ! 道理で結婚してこっちエリナさんから出てくる夜のボキャブラリーが……もとい、それで勉強しててよくあんないい測定結果が出せたね!?」
「トーゴさん……リビドーは、世界を救うのよ?」
「カッコよく言った風で結構ひでえこと言ってるよこの可愛い奥さん!!」
っていうかそんな本まで置いてんのか製本ギルドの図書館って! 俺が行った時は全然そんな本なんか見なかったんだけど、一体どこに隠し持ってやがった……?
「奥の方にまとまって置いてあるのよ。普通の人はなかなか近づかない区画なんだけど、私みたいにギルドの受付嬢に誘われた人からすれば、むしろそこの棚にないと不自然というか……」
「うちの奥さんに何やってくれてんだ製本ギルド!?」
後で潰そう。公序良俗に反してるってことでも正当防衛でも、理由だったら何でもいいからとにかく潰そうそれしかない。
まあそれはともかく、今はエリナさんと俺の武器を用意することが先決だ。俺としては複雑だけど、エリナさんにはしばらく訓練と製本ギルドでの読書で時間を潰していてもらうことにした。
さて……エリナさんに必要な武器のうち、投げナイフはこのギルドの直売店にあるものでも十分そうだったからいいとして――問題なのは剣とマインゴーシュ、というよりソードブレイカーか。
「剣はともかく、マインゴーシュが重いのは致命的だよな……あれだけ短くて取り回しはしやすいはずなのに、それで損してる」
「ん? マインゴーシュが重いのは必要だからだろ? 重い剣を振り払うのに、軽かったら力負けするだろ」
「……ああ、そういう認識なんですね」
確かにステータスも剣術も互角となれば、ある程度力がかかるような造りにするのは理にかなっているとも言える。となると、機構をちゃんと考えないといけない。マインゴーシュに必要な性質を付与するための魔道具も、ちゃんと種類を選ばないと。
でも、それにしても鞘が重いのは明らかに技術不足だと思う。
「となると……よし、マインゴーシュの方はこの方式で行こう。後は剣だな」
「剣は短いのを作るって話だったな? しかし、それではいざ斬った時に威力が足りないんじゃないのか?」
「いえ、そこはどうにでもなります。うちの奥さん、剣に関してもかなり使えますから」
「いや、剣を使えると言っても叩き斬るのに重さが足りないと……」
「厚い金属扉を斬るわけじゃないんですから……」
いや、確かにそういう感じで剣を使う人は知ってるけども。というか、ヨーロッパで使われていた剣は大体そういう感じだと思うけども。
でも俺がエリナさんに持って欲しい剣ってのは、そういう剣じゃないんだよな。自分の身を守るために、生き物相手に殺傷能力を最大限発揮出来るようなものであって、物を破壊するための剣だったら最初からこの直売店にあるものを買えばいい。
で、エリナさん自身にとっての扱いやすさ、それとこの世界における技術で前世にはなかったものを考慮すると――
「……両刃直刀の打刀。一尺八寸の長脇差、かな」
「ナガワキザシ?」
「ああ、大丈夫です、こっちの話……」
もっとも長脇差と言っても、所謂日本刀のように反りのついた刀は慣れないと使い辛いわけで。鞘から抜いて構えるのも、ある程度練習しないと自然には出来ないからな……そう考えると直刀、それも両刃の方がイメージはつかみやすいだろう。
そうなると後は鞘だけど……それについては、凄くしっくり来る材料をこの間見つけたからそれを使うことにしよう。
「となると、だ……すいません、欲しい材料があるんですけど書くものありますか?」
「ああ、これを使ってくれていいよ」
「ありがとうございます。……これと、これ、っと。それじゃ、ここに書いてあるものをお願いします」
「はいよ、どれどれ……んん!?」
「……どうかしましたか?」
「いや、どうもこうもミズモト=サンタラさん、今から剣を打つんだよね? こんなもん何に使うの」
「剣を打つのに使うんですけど。ああ、出来れば手が空いているメンバーをふたりほど貸してほしいんですが」
「しかも人を貸してくれって、一体どんな剣を打つつもりなんだ!?」
……ああ、まあ、確かにこの世界の常識では分からないかもなあ……とは言え材料を揃えてくれないと打てるものも打てないし、そこは急ぎでやってもらうことにしよう。
――一方、製本ギルド付属図書館。
エリナ=サンタラ=ミズモトは、お気に入りの官能小説を区切りのいいところまで読み終えると、ひとつ伸びをしてぽつりとつぶやいた。
「……トーゴさん、どんな剣を打ってくれるんだろ」
エリナはあの時、カタログに75センチ以上の剣しかないのを見て、取り回しは不安なれどもそれしかないというのであれば使うしかないかな、でもトーゴが最適なものを打ってくれるならそれが一番いいかな、と思っていた。訓練では70センチ弱の木刀を使っていたものの、やはり使い勝手はあまりよくなかったのだ。
その点トーゴの故郷である日本に古来より伝わる日本刀は、それよりやや短めのものが主流だということをエリナは前世において本か何かで目にしたことがあった。だからこそ彼女は、鍛冶ギルド銀メンバーたるトーゴの打つ剣に期待を持っているのだ。
「結構本格的な日本刀だったりして……えへへ……あ、でも取り扱いが結構大変かも。トーゴさんはちゃんとやってくれるだろうけど、うーん……」
同時にエリナは、自分の見た日本刀の特徴を思い出して少しばかり不安になる。それでも愛する夫が自分のためだけに剣を打ってくれるというだけで、アクセサリや服を買った時よりもさらに大きな喜びを覚えるのだった。
---
フ〇ンス書院ェ……!( 製本ギルドの罪は重い。ハイクを詠め慈悲はない。
しかしエロ小説を読みながらどんな剣を打つかとか想像して喜ぶとか結構志向がニッチ過ぎませんかエリナさん。あとトーゴさんは久しぶりの生産エキスパートの出番だよ!
次回更新は03/11の予定です!
「……トーゴさん、もしかして私の武器作ってくれるの?」
「うん、そうだけど……って、ああ。エリナさんは待たせちゃうか……」
最初から剣を打つとなれば、またエリナさんをほっぽらかしにしてしまう。この人の事だから鍛錬と化して時間を潰すからいいなんて言い出しかねないけど、それはそれで妻にやらせる夫ってどうなんだろうか……
「ああ、待つのは問題ないわよ。ちょうど製本ギルドの図書館に面白いシリーズがあるから、それを読んで時間を潰すつもりだし」
「えー……いや、今日中には終わらないよ?」
「いや、シリーズっていうより製本ギルドに所属してる出版社が出してる本がどれも面白くて……多分、数日かけても読み終わらないと思うから」
「どんだけ本出してんだよその出版社……」
とは言え、剣の鍛錬で時間を潰してますとか言われるよりよっぽどマシだし……お言葉に甘えるとしようかな。
「ん、それじゃまた待たせてしまうけど……」
「もちろん、トーゴさんが私のために打ってくれる剣ですもの。少し待つくらいどうってことないわよ」
「ん、そう言ってくれるとありがたいよ。楽しみにしてて……ちなみにその出版社ってどんな本出してるの?」
「んーと、レーベルの名前はルフラン書房って言うんだけどね? あ、レーベルそのものはジェルマのなんだけど」
「うん……うん?」
「最近私が読んでるシリーズは、『女魔王は純で淫らな愛を知る』ね」
「!?」
「現世に飽きて何も感じなくなった美女魔王がパーティー追放された美形ショタ勇者とあまあまらぶらぶに爛れた生活を送るだけの本なんだけど、これがまた――」
「待って待ってエリナさん待って」
ジェルマのレーベルでルフランとはこれいかにとかツッコミどころは色々あるけど、取り敢えず――
「まさかとは思うけどエリナさん、エロ小説でジェルマ語勉強してたの!?」
「エロ小説とは失礼な! 官能小説と呼ばないと!」
「そんなんどっちでもいいよ! 道理で結婚してこっちエリナさんから出てくる夜のボキャブラリーが……もとい、それで勉強しててよくあんないい測定結果が出せたね!?」
「トーゴさん……リビドーは、世界を救うのよ?」
「カッコよく言った風で結構ひでえこと言ってるよこの可愛い奥さん!!」
っていうかそんな本まで置いてんのか製本ギルドの図書館って! 俺が行った時は全然そんな本なんか見なかったんだけど、一体どこに隠し持ってやがった……?
「奥の方にまとまって置いてあるのよ。普通の人はなかなか近づかない区画なんだけど、私みたいにギルドの受付嬢に誘われた人からすれば、むしろそこの棚にないと不自然というか……」
「うちの奥さんに何やってくれてんだ製本ギルド!?」
後で潰そう。公序良俗に反してるってことでも正当防衛でも、理由だったら何でもいいからとにかく潰そうそれしかない。
まあそれはともかく、今はエリナさんと俺の武器を用意することが先決だ。俺としては複雑だけど、エリナさんにはしばらく訓練と製本ギルドでの読書で時間を潰していてもらうことにした。
さて……エリナさんに必要な武器のうち、投げナイフはこのギルドの直売店にあるものでも十分そうだったからいいとして――問題なのは剣とマインゴーシュ、というよりソードブレイカーか。
「剣はともかく、マインゴーシュが重いのは致命的だよな……あれだけ短くて取り回しはしやすいはずなのに、それで損してる」
「ん? マインゴーシュが重いのは必要だからだろ? 重い剣を振り払うのに、軽かったら力負けするだろ」
「……ああ、そういう認識なんですね」
確かにステータスも剣術も互角となれば、ある程度力がかかるような造りにするのは理にかなっているとも言える。となると、機構をちゃんと考えないといけない。マインゴーシュに必要な性質を付与するための魔道具も、ちゃんと種類を選ばないと。
でも、それにしても鞘が重いのは明らかに技術不足だと思う。
「となると……よし、マインゴーシュの方はこの方式で行こう。後は剣だな」
「剣は短いのを作るって話だったな? しかし、それではいざ斬った時に威力が足りないんじゃないのか?」
「いえ、そこはどうにでもなります。うちの奥さん、剣に関してもかなり使えますから」
「いや、剣を使えると言っても叩き斬るのに重さが足りないと……」
「厚い金属扉を斬るわけじゃないんですから……」
いや、確かにそういう感じで剣を使う人は知ってるけども。というか、ヨーロッパで使われていた剣は大体そういう感じだと思うけども。
でも俺がエリナさんに持って欲しい剣ってのは、そういう剣じゃないんだよな。自分の身を守るために、生き物相手に殺傷能力を最大限発揮出来るようなものであって、物を破壊するための剣だったら最初からこの直売店にあるものを買えばいい。
で、エリナさん自身にとっての扱いやすさ、それとこの世界における技術で前世にはなかったものを考慮すると――
「……両刃直刀の打刀。一尺八寸の長脇差、かな」
「ナガワキザシ?」
「ああ、大丈夫です、こっちの話……」
もっとも長脇差と言っても、所謂日本刀のように反りのついた刀は慣れないと使い辛いわけで。鞘から抜いて構えるのも、ある程度練習しないと自然には出来ないからな……そう考えると直刀、それも両刃の方がイメージはつかみやすいだろう。
そうなると後は鞘だけど……それについては、凄くしっくり来る材料をこの間見つけたからそれを使うことにしよう。
「となると、だ……すいません、欲しい材料があるんですけど書くものありますか?」
「ああ、これを使ってくれていいよ」
「ありがとうございます。……これと、これ、っと。それじゃ、ここに書いてあるものをお願いします」
「はいよ、どれどれ……んん!?」
「……どうかしましたか?」
「いや、どうもこうもミズモト=サンタラさん、今から剣を打つんだよね? こんなもん何に使うの」
「剣を打つのに使うんですけど。ああ、出来れば手が空いているメンバーをふたりほど貸してほしいんですが」
「しかも人を貸してくれって、一体どんな剣を打つつもりなんだ!?」
……ああ、まあ、確かにこの世界の常識では分からないかもなあ……とは言え材料を揃えてくれないと打てるものも打てないし、そこは急ぎでやってもらうことにしよう。
――一方、製本ギルド付属図書館。
エリナ=サンタラ=ミズモトは、お気に入りの官能小説を区切りのいいところまで読み終えると、ひとつ伸びをしてぽつりとつぶやいた。
「……トーゴさん、どんな剣を打ってくれるんだろ」
エリナはあの時、カタログに75センチ以上の剣しかないのを見て、取り回しは不安なれどもそれしかないというのであれば使うしかないかな、でもトーゴが最適なものを打ってくれるならそれが一番いいかな、と思っていた。訓練では70センチ弱の木刀を使っていたものの、やはり使い勝手はあまりよくなかったのだ。
その点トーゴの故郷である日本に古来より伝わる日本刀は、それよりやや短めのものが主流だということをエリナは前世において本か何かで目にしたことがあった。だからこそ彼女は、鍛冶ギルド銀メンバーたるトーゴの打つ剣に期待を持っているのだ。
「結構本格的な日本刀だったりして……えへへ……あ、でも取り扱いが結構大変かも。トーゴさんはちゃんとやってくれるだろうけど、うーん……」
同時にエリナは、自分の見た日本刀の特徴を思い出して少しばかり不安になる。それでも愛する夫が自分のためだけに剣を打ってくれるというだけで、アクセサリや服を買った時よりもさらに大きな喜びを覚えるのだった。
---
フ〇ンス書院ェ……!( 製本ギルドの罪は重い。ハイクを詠め慈悲はない。
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