転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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ザガルバ編

83.大使館に足を運ぶよ

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 翌日朝早く、俺はザガルバ中心部にあるマジェリア公国大使館を訪れていた。ここからスティビアに行くとなると、マルタさんの言葉を信じるなら各国大使館に行って必要な準備をしなければならないはずだ。
 ……ちなみにエリナさんは、また冒険者組合に足を運んでいる。というかそっちの実入りが結構いいので、最近俺の収入が見劣りするようになってきてるんだよな……別の方も仕事してみようかな。

「それはそれとして、と……」

 マジェリア公国大使館の入り口は、ウルバスクに来てからよく見るようになった観音開き式の自動ドア。正直こんなものを日常的に見ている大使館員が何故本国にこの辺りのことを報告していないのかが気になるけど……
 とにかく、そんな自動ドアをくぐるとすぐ目の前に受付があった。領事業務とかもここでしてたりするのかな……?

「すいません、少々よろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「マジェリア国民なんですけど、近々スティビアに海路で入国しようと思ってるんです。今まで中部諸国連合内しかいたことがないので、総合職ギルドカードしか持っていないんですが……何か他に出入国に必要な書類でもあればと」
「そうですか、それでしたらこちらへのお問い合わせで正解ですよ。中部諸国連合からの出入りには連合旅券が必要になります。後はこれから入国される国の大使館に行って入国申請、場合によっては許可証を得る必要があります」

 なるほど、まんまパスポートとビザだけど……内容自体は昨日聞いた通りみたいだ。確かに最初にここに来ておいてよかったな……

「その連合旅券というのはこちらで発行してもらえるんですか?」
「ええ、マジェリア国内では総合職ギルドで、国外では各国大使館で申請出来ます。有効期間は成人で10年間、費用は総合職ギルド銅ランク以上であればかかりません。
 ただし注意していただきたいんですが、旅券の通常発行及び継続発行が可能なのは各国首都にある大使館のみで、主要都市にある領事館は紛失等に対応した臨時発行のみになります」
「分かりました。大体発行までどのくらいかかりますか?」
「おおよそ1週間を見てもらえれば。領事館による臨時発行はその倍ほどかかりますのでご注意を。今申請していかれますか?」
「ええ、そうですね……お願いします。妻の分もあるのですが」
「かしこまりました。それでは個人情報を照合いたしますので、総合職ギルドカードを確認させてください」
「分かりました。こちらでいいですか?」
「……はい、ありがとうございます。それでは少々お待ちください」

 言って、ギルドカードを返して裏に引っ込む受付の人。時間的には10分もすれば戻ってくるのかな……というわけで取り敢えずロビーを見回してみた。
 間接照明効果を期待しているのか全体的に白を基調とした内装で、受付の真上にはマジェリア公国の国章と国旗、壁には絵画、隅には観葉植物がぽつんとあるだけというシンプルさ。ド派手なのもどうかと思うけど、これはちょっと寂しすぎやしないか……?
 見た感じマジェリアを紹介するパンフレットとかそういうのもなさそうだし、ウルバスクを初めとした外国人にアピールするものなんか何ひとつ置いてない。観光局じゃないと言わんばかりだけど、果たしてそれは大使館として正しいのかどうか……

「……ああ、でもそうか、あまり必要はないのかもしれないな」

 よくよく考えてみれば、マジェリアとウルバスクは中部諸国連合に属しているから、大使館にそういう役割ってあまり期待されていないのかもしれない。連合内であれば総合職ギルドカードのような個人カード、連合外であれば旅券さえ持っていれば国境都市で割と簡単に国境通過出来るしな……
 そうなると領事業務のほとんどは国境都市で行うことになるわけで……じゃあこの大使館の役割はというと、本当に国家間交渉の先兵と自国民保護というシンプルさになる。それがこのロビーに現れてるだけ、と考えると、ひどく自然に思えてくるな。

「お待たせしました、確認取れました。トーゴ=ミズモト=サンタラさんとエリナ=サンタラ=ミズモトさんご夫婦ですね」
「はい、そうです」
「ちょうど1週間後に受領可能となりますので、必ずそれぞれご本人が受け取りに来てください。受領時に金属板で再び照合と受領手続きの方を行いますので、宜しくお願いします」
「分かりました、ありがとうございます」
「それと総合職ギルド経由で、マジェリ=ベアトリクス内務大臣よりこちらをお預かりしております」
「大臣閣下から、ですか」

 答えて手渡された封筒を受け取るけど……何だろう、いつも通信用魔道具で連絡を取り合ってるのに、今更手紙で何を送ってきた? そんなに厚みもなさそうだし。
 ああ、でもこれは家に帰ってから開けた方がよさそうだな。そもそも大臣閣下と連絡を取り合ってるというのも一応公にはしていない事なのだから――大使館員や領事館員はもしかしたら詳細はともかく知っているかもしれないけど――不用意な行動は控えるべきだよな。

「ありがとうございます、それでは家に帰ってから確認いたしますので」
「それがよろしいかと。大臣閣下からもそのように言付かっております」
「ちなみにこの手紙はどういったルートで送られてきたものですか……?」
「こちら転写の魔道具を使用したものになります。通常のものと違って封筒に入れるまでがセットとなっておりますので、機密性は非常に高くなっております」

 ですのでご安心を、とでも付け足したそうな感じのセリフ。……うん、安心は確かにするんだけどね、その魔道具の何でもあり感がまたすごいと思うよ俺。っていうか完全にファックスだよね。

「お気遣いありがとうございます。それでは来週受け取りに伺いますので」
「お疲れ様でした」

 言って、大使館を辞する。そう言えば前世でもファックスはセキュリティ面で非常に優れているため外交文書のフォーマットとして今なお現役……なんて話を聞いたことがあるなあ。そうなるとメールとかソーシャルとかそういうのもあるのかななんて思えてくるけど……
 いや、ないか。その辺はスマホやパソコンがないと成り立たないし。

「さてと、それはそれとして」

 実はこのままスティビアの大使館に直接向かってしまおうかとも考えてたんだけど、大臣閣下からの手紙を持ったまま行くのもなんか不安だな……しょうがないから一旦家に戻るか。
 それにしても本当に一体何を送って来たのやら。緊急の連絡も通常の連絡も、魔道具での通信で事足りるから本気で分からない。

「……あと、エリナさんは上手くやってるかな」

 今日も今日とて冒険者組合の依頼をこなしつつ情報収集に励む俺の奥さん。最初に組んだ女性パーティーと行動を共にすることが比較的多いようだけど、あの3人から特別悪い話が聞こえてこないところを見るとちゃんと上手くやれてはいるみたいだ。
 ……いや、というか上手くやれているどころか、とんでもなく頼りにされているみたいだったなアレは。夫として鼻が高い……でいいのか?

「ああそう言えば、生クリームの消費が早いんだった……残り1本だったよな、確か。となると、家に戻って手紙を置いて、スティビア大使館に行った帰りにもう1回市場に寄って補充するか……」

 屋台の売り上げの方も、営業時間を絞りに絞っているにもかかわらずアレだもんな……嬉しい悲鳴と言えばその通りかもしれないけど、そろそろ対策を考えないと厳しくなってくる頃かな……
 なんて、気が付いたら大臣閣下からの依頼のこと、旅券と入国許可証のこと、エリナさんのこと、屋台のことと、何か隙あらば色々考えてしまってキャパオーバー気味になりかけてる。困ったものだ。
 まあいろいろ考えててもしょうがないか。

「とりあえず帰るか」



 ……ちなみに。
 大使館で渡された大臣閣下からの手紙の中身はというと、依頼受領と期間に伴う報酬明細だった。……うん、そりゃ確かに手紙必須だよね! でも一応通信で説明はしてほしかったよ大臣閣下!



---
大使館の話でございます。
大体の国でそうだと思うんですが、観光局がない国は観光に関するパンフレットなんかを大使館の領事部受付とかにおいていたりします。今回の場合は国境都市がその役割を担っている、ということで。

日曜日にコミティア参加します。と言っても新刊ありませんが。そして今回は青海展示場なので気を付けてくださいね!

次回更新は05/13の予定です!
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