転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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エスタリス・ジェルマ疾走編

124.この世界の闇を見たよ

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「懲罰転生……ですか?」

 何か、とてもじゃないが穏やかとは言えない単語だけど……字面通り解釈するなら、前世で何か悪いことをした人間が懲罰のためにこの世界に転生させられた、ということなのかな……

「その表情から察するに、大まかな予想はついているようだな。……まあ大方想像通りと考えてもらって結構。
 お察しの通り、我々ジェルマエルフがドイツ語を話すのは、前の世界において我々がドイツ人であったからに他ならない。同じことで、アルブランエルフが英語を話すのは彼らがイングランド人だったからだ」
「……イングランド限定なんですね」
「厳密にはウェールズなどもあろうが、スコットランドや北アイルランドなどは存在しないようだ。訳あってまた聞きでしかないが……
 話を戻そう。我々のようにエルフなどに転生したものは、この世界の暦にして今からおおよそ300年ほど前にここに送られてきた。とはいっても前世のそれとは時代も合わんだろうが……ちなみにあなた方は前世のいつ頃から来たのかね」
「俺は2018年です。前世は35歳で終わったので、17歳ほど若返った計算になりますか。エリナさん、エリナさんはいつからいくつの時に来たの?」
「私、は……2010年。前世では25歳でこっちに来たの……」
「……とのことです」

 そう言えばエリナさんとその辺りの話をしたことなかったけど、確かにこう聞くと若干ずれがあるんだな。……それにしても8年前で10歳下ってことは、どっちにしても少しだけ年下だったんだな……いや、言って2歳程度だから強調するほど下なわけではないんだけど。
 それはともかく。

「それで、あなた方は一体いつの時代から?」
「我々はこの世界においては生まれた年にかなり幅があるが、おおむね1930年代後半から40年代前半に寿命を迎えた人間ばかりでな。かく言う私も、1939年にドイツ東部で命を落としておる。
 これがアルブランエルフではもっと幅広く、さらにもっと遡ってな。古いものは15世紀前半、新しくても20世紀前半らしい。これもまた聞きなので確実なことは分からないのだが」
「……1930年代後半から40年代前半のドイツ、ですか」

 なるほど、彼らの言う懲罰転生というものがどういう理由で行われたのか、何となく分かったような気がする。もしかしたらドイツ東部よりもさらに東の地域も対象になっている可能性があるけど……そこはいい。

「ただしひと口にエルフと言っても、全ての種族が我々のように転生してきているわけではない。例えばマジェリアにはハイランダーエルフという種族がいるだろう? あれはもともとこの世界で生まれた種族だ」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「やはり、ということはある程度予想出来ていたのか?」
「だって明らかに話している言葉が我々の言語ではありませんから。無論アルブランエルフから影響を受けた部分はありましょうが、はっきり言ってなまりがきつすぎてほとんど別言語ですもの」

 これが日常的に英語に触れているような人間からすると、なまりがきつくてもある程度英語との共通点を見いだせるんだろう。エリナさんは言語把握のスキルがあるから余計に理解が早かったんだろうけど……
 ただ俺みたいに日本語一辺倒な日本人からすると、あのふたつはどう考えても同じ言語には思えない。翻訳スキルをロジカルモードにした時でもそうだったのだから、スキルも何もなしだと訳が分からないに違いない。

「まあとにかく、そういうわけで我々のように頭に国名を冠するエルフとそうでないエルフにはそういう点で違いがある、ということだ。
 そして我々の転生が懲罰とされる証拠に、転生の際の条件が挙げられる」
「転生の際の条件、ですか? 例えば何かのスキルを持って転生するように、とか?」
「スキルを持っての転生であるならば、むしろ褒賞なのだろうがな」

 まあそりゃそうだ、俺たちも特典をもらったおかげでだいぶ生きるのを楽にしてもらえてるからな……となると、条件というのは……

「察しの通り、我々の転生条件というのは一種の束縛でな。これが法などのルールでなく本当の意味の条件であるからして、これが非常に厄介なのだ。
 ひとつは、所謂種族としての人間には決して転生出来ないこと。この世界における種族は人間とエルフだけなので、要するにエルフに転生を強制されるのと同義なのだが……この世界において人間とエルフというのは、言語的あるいは地理的なもの以上に文化的あるいは種族的な断絶が激しい。決して差別などがあるわけではないのだが、どちらかと言うと住んでいる世界が違い過ぎて交わりようがないという方が正しいか。あなた方も経験があるのではないか?」

 そう言えば、マジェリア公国におけるレニさんへの対応もなんとなくよそよそしさがあったな。木工関係だと明確に騙す対象みたいな感じにもなってたし……確かに差別というのとは違ったけど、明確に違うってのは感じ取れたな。

「さらに我々は無駄に寿命が長く、陸続きの島流しといった状態で数千年を生きなければならなくなった。それでも我々は300年の間に何とか現地の協力者を数人作り、外部の情報を手に入れるようにはしてきたがね。
 先の条件にはエルフに転生してからは生まれた国を離れることが出来ないというものもあったのだが……もともと文化的に断絶している以上は離れようがなかったというのが正しいな。もちろん条件にある以上は、可か不可かに関わらず離れてはならないわけなのだが、それでも現地の協力者に頼みさえすれば情報自体は入りやすい」
「なるほど……そう言えば突然変異で俺たちのような不老不死を獲得するエルフもいるって話でしたけど、それもやはり懲罰転生で……?」
「うむ、そうなるともはや悲惨でな……あなた方のように言語に不自由なく生まれてくるわけではないので、生まれた場所から他のジェルマ国内の地域にさえ移動するわけにもいかず……大体は若くして自死を選ぶ」

 うわあ……気持ちは分からないことないな。というか杉山村でも同じような話を聞いたし、特別転生で生まれた人間でもそんな風に思うんだから、ジェルマエルフだともっとなんだろうな……

「それにしても俺たちはそんな話全然聞きませんでしたよ? 一般転生と特別転生があるってことしか説明を受けてません」
「うむ、そうだろうな。そもそも懲罰転生はマイナスの意味での特別扱いなわけで、その内容を特別転生の人間に聞かせるわけにはいかない……というより、必要がないと考えるのは自然なことだろう」

 臭いものには蓋をする、という話かな。それはそれで何か胸糞悪くなる話ではあるけど……あ、そうだ。

「ごめんエリナさん、自分ばっかり喋っちゃって」
「もう、ほんとよ……それで、何だって?」

 ジェルマエルフのおふたりにドイツ語を解さないエリナさんに少し説明をする旨告げて、今までの話を要約して話す。しばらく無言でうなずいていたエリナさんだったが、説明が終わると同時に少しだけ唸って言う。

「……あの、懲罰転生組のエルフは他の国に足を踏み入れることが叶わないのよね? でもあの場にいたのは、話の内容からしてアルブランエルフだと思うんだけど……矛盾してない?」
「……とのことですが」

 そう、確かに俺もそこは気になった。エスタリスに入国できるはずのないアルブランエルフが、なぜあの場にいて英語で報告などしているのだろうか……それに対しジェルマエルフのふたりは少し考えつつ言う。

「確証が持てるわけではないのだが……候補としてはふたつ理由が考えられるな。
 ひとつはアルブランエルフと我々とでは、転生の際の条件が違うこと。
 そしてもうひとつは――その者らが、本当の意味でのアルブランエルフではないこと」
「本当の意味でのアルブランエルフではない……? そんなこと、あり得るんですか?」
「あり得るのだよ、アルブランエルフなら……なぜならそのやり口は、我々に伝えられるアルブランエルフが勢力を拡大した方法と似通っているからだ」



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まあすぐ複線回収するんですがね。
しかしこいつらほんとどこでも迷惑かけやがる。

次回更新は09/13の予定です!
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