紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

大砲と雨と焦りと

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 ベヒモスの体を支配したアウルはゆっくりとオルニアルの首都カラッサへと歩みを進めていた。
 ゆっくりととはいっても景色を作り出す程の巨体だ。その一歩は大きく、恐らくその日の内にはカラッサへ辿り着く事は間違いないと思われた。
 アウルの後ろにはカラッサへの道中、同胞に加えた生き物の群れが彼を追って行進を続けている。

 そんな草原を歩いていた巨体に無数の爆発が起きる。
 視線を大地に向ければ無数の人間、恐らく軍隊というやつだろう、が金属の筒をこちらに向けていた。



「隊長ッ!! 全く効いていませんッ!!」
「怯むなッ!! 砲撃を集中ッ!! 一点突破だッ!!」
「はっ、はいッ!! 次弾装填ッ!! 砲撃を集中させるんだッ!!」

 足元で叫び声を上げる人間達を見下ろしながら、寄生生物は考える。

 丁度いい、軍隊は取り込もうと思っていた。

 踏み出したベヒモスの体の至る所から緑色の触手が伸び、鉄兜に皮鎧を装備した兵士達を襲った。

「たっ、退避ッ!!」
「うわっ、くっ、来るなッ!!」
「あがががッ」

“クククッ、クカカカカッ!!”

 まるで緑の体毛に覆われた様になったベヒモスを操りながら、アウルは知らず哄笑を上げていた。

 そうだ。自分の望みは、願いは、この世界を自分自身で満たす事。人間も獣も魔物も、全ての生物は自分の苗床に過ぎないのだ。

 転生者、石堂いしどうアキラの融合によって生み出された歪んだ生命は、融合元となった寄生体と粘菌、二つの持つ本能的な目的、繁殖と拡散についての欲求を増大させその知性を得た後も、その欲求のままに暴走を続けていた。

 そんなアウルの歩みが不意に止まる。

“雨……?”

 兵士のいた地上から上空に目をやれば、つい先ほどまで青空だった空は暗く厚い雲に覆われ、ポトポトと雫を地面へ打ち付け始める。
 やがて雨は勢いを増し豪雨となって緑の体毛、ベヒモスから伸びた触手を濡らしていく。
 同時に引き連れていた同胞達の持つ意思の光が、少しづつではあるが一つまた一つと消えていく。

“何だッ!? 何が起きている!? そうか、オルニアルに散らばった同胞を消したのはこの雨かッ!?”

 気付けばベヒモスの体から伸ばした触手も、一部が解け落ちドロリとした緑色の液体となって雨と共に流れ落ちていた。

“クッ、おのれぇ、いったい誰がこんな事をッ!?”

 視界を巡らせば、小高い丘の上、奇妙な物体がもうもうと蒸気を噴き上げている。

“あれが私を阻むモノかッ!!”

 アウルは先程、同胞に加えた兵士達、その支配がまだ解けていない者達を掌握し、先程自分に向けられた金属の筒を丘の雲を生み出す物体に向ける。
 操作方法は兵士の脳から学習済みだ。アウルは肥大化した能力を存分に用いて、訓練された兵士と同等、いやそれよりも早く金属の筒、大砲を反転させ砲弾を装填、丘に向かって砲撃を開始した。


■◇■◇■◇■


 撃ち込まれた砲弾が弾け大地が揺れる。

「ひぇええッ!!」
「クソッ、足止めしてた軍隊を取り込みやがったッ!! 何しても大砲を使うのは想定外だぜッ!!」
「薬の効きを確認する為に高地を取ったのが仇になったな……」

 錬金術で生み出された火薬を用いた砲撃は、丘を抉り周囲を荒地へと変えていく。
 その何発かは健太郎けんたろうが変形した人工降雨装置に命中していた。しかし錬金術の粋を凝らし製造された新式の爆裂徹甲弾も健太郎の体に傷を付ける事は出来なかった。

「ミシマ大丈夫かいッ!?」
「シュゴーッ!!」

 俺は問題無いッ!! ミラルダ達はッ!?

「あたし等は障壁とあんたの体が盾になってくれてるから大丈夫だけど……」
「デカいだけあって薬の効きが悪いようだ……」



 健太郎の影から鏡を使いベヒモスの様子を窺ったグリゼルダがボソリと呟く。

「どうするッ!? このままじゃ俺達は大丈夫でも足場が抉られちまうぞッ!!」
「……あたしが飛翔魔法でベヒモスの気を引く!! その間に三人は軍隊の大砲を潰しておくれ!!」
「シュゴーッ!!」

 危険だッ!! そんな作戦には賛成できないッ!! せめて俺が変形出来る様になるまで待つんだッ!!

 雲を生み出している間は止める事が出来ず、変形も行えない。その事はオルニアル各地で雨を降らせた際、確認済みだ。

「その前に丘が更地にされちまうよッ!! それに大丈夫さ!! 大砲は動く的を狙う様には出来てないって話だし、あたしは薬を飲んでるから寄生もされない筈だよッ!!」
「シュゴーッ!?」

 兵士だって薬を飲んでいたけど操られているじゃないかッ!?

「あれは古い薬の方だろッ!?」

 そうミラルダが叫び返した時、健太郎の側に砲弾が撃ち込まれ轟音と共に大地を抉った。

「ワワッ!? ミラルダ、のんびりミシマと話してる場合じゃ無いよッ!! このままじゃ丘ごと吹き飛ばされちゃうッ!!」
「やるしかないねッ!! ギャガンッ、グリゼルダッ、パムッ!! あたしが飛び出したら大砲を潰すんだッ!! 魔力よ、我に自在に空を舞う翼を、飛翔フライトッ!!」

 ミラルダは健太郎が止める間も無く障壁から飛び出し、宙を舞いながらベヒモスに接近、その顔に火球ファイアーボールを放った。
 火球はベヒモスを傷付ける事は無かったが、その炎はアウルに生き物が持つ根源的な恐怖を与えた。

「ヴァアアアアアアッ!!」

 雄叫びを上げたベヒモスが標的をミラルダに変える。

「シュッ、シュゴーッ!!」

 ミッ、ミラルダッ!! クソッ、早く雲を全部吐き出せッ!!

 焦る健太郎の横で、ギャガンが飛び去ったミラルダを見上げ鼻に皺を寄せる。

「ミラルダ……しゃあねぇ、やるしかねぇか。グリゼルダ、補助魔法を頼むッ!! パム、大砲の位置と数は分かるかッ!?」
「えっと……全部で十、あっ、兵士が倒れたッ、薬の雨が効いてるんだッ!! 残りは九ッ!!」

 人工降雨装置モードの健太郎の影から覗き、パムは遠眼鏡で手早く操作している兵士が付いた大砲を確認した。

「九だな? 流石に盗賊だ、手早い仕事だぜ。だがこのまま薬が効くのを待ってる余裕はねぇな」
「万能なる魔力よ、風を巡らせこの者に俊足を、加速アクセラ

 パムが大砲の数を確認している間にグリゼルダが自身も含め、残った三人に加速魔法を掛けていく。

「魔力よ、我に自在に空を舞う翼を、飛翔フライト。目標は大砲のみだ。取り込まれた兵士はミシマの雨で何とかなる筈だ」
「了解だッ!! グリゼルダ、援護を頼むッ!! パム、道案内をッ!!」
「任せろッ!」
「分かったッ、じゃあ、いっくよーッ!!」
「シュゴーッ!!」

 クソッ、本当に融通の利かない身体だッ!! 早く、早く!!

 飛び出して行く仲間達の姿に健太郎の焦りは更に増していった。
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