学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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23 悪夢

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疲弊している時に寝ると、悪夢をよく見る。
何かに遅刻したり、迷って家に帰れなくなったりと、様々な悪夢を見る。
そして、特に繰り返し見せつけられるのは町が魔物の群れに襲われた時のことだ。

煙が立ち込める薄暗い世界で、火は轟々と上がり、至る所で悲痛な悲鳴と、動物ではない不気味な唸り声が聞こえる中を俺は一人、無我夢中で走り抜ける。
「助けてっ」と手を伸ばしてくる人が現れて消えていく世界で、手をどれだけ伸ばしても誰一人として助けることはできなかった。
何度も心は壊れ、何度も転び身がボロボロになって、涙で前が見えなくなっても、足を止める事はせず前を進む。
だけど、走るたびに赤い足跡を作り、後ろにはたくさんの影が倒れていった。

兄さん……

いつのまにか目の前に赤い池が広がり、大事な物まで落としていた。
 
「!!」

そんな悪夢を見てベッドから飛び起きた。朝はまだ肌寒いと言うのに、身体中から汗が流れては襟が肌に引っ付く。

「うおっ、びっくりした。どうしたんですか」

隣の机で本を読んでいたヨモギが声を上げる。
ここがヨモギ達の部屋だったことを思い出し、バクバクと跳ねる心臓を押さえつけた。

「すこし変な夢を見たので、それで驚いて……」
「ああ、私もたまにありますからよく分かります」
「えっ、あるんですか」
「ありますよ。人は色んな事情がありますからね。話せば傷つくだけって事もありますから」

と言ってヨモギは本に再び目を向け始めた。言葉を交わさずとも、これ以上の詮索はお互いにやめようとなった。

「そういえば、灰色の兎はどうなりましたか」

自身の使い魔である灰色の兎に顔面を蹴られ、気絶してから起き上がってみれば辺りに灰色の兎がいない。
使い魔のもう一匹、黒兎はベッドの横で待機しているから余計に辺りを見渡した。

「イーナさんを蹴って、どこかに行きましたよ」
「どこかって、分かりますか」
「残念ながら。それより、登校時間前に起きていただいてよかったです。叩き起こすところでした」

言われて、壁に飾ってある時計を見てみるとまだ登校する時間ではなかったが、ヨモギの同室がいない事に気がついた。

「あれ、アルカナさんはもう学校に?」
「ハッ、な訳ないでしょ。食堂に朝ごはんですよ」

嘲笑うかのように話すヨモギも、責め立てるように扉が大きく開いた。

「おっ! 起きてる。良かったな、叩き起こされなくて」

部屋に戻ってきたアルカナは、嬉しそうにお菓子をいっぱい抱えていた。少し動けば溢れるほど、イーナはあまりのお菓子の多さに目をパチパチとさせる。

「良いな……じゃない、そのお菓子の量、どうされたんですか。」
「うーん? これか、先輩とか、後輩によく貰うんだよな。今日はなんか重なった。いっぱいあるし、いるか」
「いります」

適当に掴んではアルカナは、お菓子をイーナの両手に置く。

「ヨモギは、いらないよな」
「いりませんよ。また、貰ってきたんですか。散らかすだけだから、断ってくださいとあれほど言ったのに」
「好き嫌いはいけないからな。ほい、飴やる」
「……、人をたぶらかすのはピカイチですね」
「だろ」

アルカナは小さな丸い飴を投げ、ヨモギはしっかりと受け取る。

「あっ、そうだ。イーナさん、なんか寮の人が探してたぜ。荷物が届いたから、どうこうって」

荷物……少し考えて弟に頼んだものだと分かり、ポケットにお菓子を詰めて急いでベッドから立ち上がる。

「荷物、忘れてた」

扉を開けてイーナは、事務の方に走って行くのだった。

「今日は忙しいな」
「本当ですね」

アルカナは貰った棒のチョコを食べながら、「いってら」とイーナの背中を見送る。




「はい、はい、預かっていたお荷物はこれ。ここにサインお願いね」

と言って事務の人はカウンターに届いた小さな箱を置き、隣に住所が書かれた紙を置く。
その紙にサインを書いてから箱を受け取る。

「あの、家族に電話したいのですが、電話できる所ありますか。それと国際電話になるんですけど」
「それなら、右の端にある電話が国際だからそっち使って」
「ありがとうございます」

事務の人に言われた先に電話が三つ並んでいて、右端の電話だけ星のマークがついていた。
さっそく、俺は受話器を手に取りダイヤルを回す。

「はい、もしもし。……兄さん?」
「そう。よく分かったな」
「いや、そろそろかなって思って。おはよう」

電話をかけた相手は弟。部屋を破壊されて、毎日の日課をすっかり忘れていた。

「おはよう。昨日はどうだった、何もないか」
「それは、兄さんの方だよ。何があったの、電話かけられないくらいでしょ」
「えっと……それはだな」

弟の事を聞く筈が、逆に事情を説明していくのが兄として負けた様な気がするが、やはり一枚上手のこの弟には勝てない。
電話が出来なかった事情を説明した。

「……なるほどね。兄さんらしいと言えば、らしいけど」
「俺は部屋を爆破したりしない」
「トラブルを呼び込むのは得意でしょ」
「得意な訳あってたまるか。とにかく、俺は全部ひっくるめて国に帰る……」
「……レオ……そうだね。一回そっちに行っていい?」
「えっ……お前がこっちにくるのか」
「うん、そう。兄さんがいないとなかなか、そっちに行けないからさ。一度は行ってみたいなと思って」

確かに弟がこちらの国に来たことはない。行ったことがないから一度は行ってみたいと、だいぶ前に話していた事を思い出す。

「そうだな。最後くらいは来たいよな」
「うん、お願いするよ兄さん」
「分かった、寮の人と相談してみる。多分、子供一人なら泊まる事できると思うからさ」
「その時に扉が直ってるといいね」
「うるさい」

電話の向こうで吹き出すように笑う弟、一通り笑うと穏やかな声で

「兄さん、毎日電話しなくても大丈夫だからね」
「……分かってる。俺の方だ」
「悪夢はまだ見る?」
「見るよ。ずっと脳裏にこびりついて離れない。今でも俺のせいじゃないかって」
「兄さん、兄さんのせいじゃないよ。あれは、どうしようと無理だった」
「分かってる……」

自身に言い聞かせる様に何度も呟く。
それでも、繋いだのに手放してしまった手が酷く冷たい時がある。
手が冷たくなるたびに、お前は非道で冷徹の人間だと教えられている様で体も頭も重くなっていく。

「俺はずっと兄さんの味方だからね」
「うん」


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