公爵令嬢の護衛のうちのひとりなんですが、異母兄である三男様が離してくれません!

白千ロク(玄川ロク)

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3話

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「ごめん。首大丈夫か?」
「ちぃちゃんの力で俺をどうこうできるわけがないから大丈夫だよ」
「ムカつく言い方しないでくれますかね?」

 しかも爽やかな笑顔付き。オレを怒らせたいんか? お? やるぞ? ケンカなら買ってやるぞ? うらうらとシャドウボクシングをし始めると、「ほら、危ないから」と抱え直される。これは完全に『親の手がかかる子』になっているではないか!

「小さい子みたいにするんじゃない!」
「落ちたら危ないから」

 あ~、ダメだ。こいつには勝てん。思考回路で負ける。そうと解っていても、言い返したくなる言い方をされるからついつい噛みついてしまうんだよなあ。酷いことを言ってもニコニコ笑顔なのは逆に怖いけど。くそ野郎なんて言いまくっているのに、一言も言い返されたことはないんだよな~。オレだったら即座に言い返してるわ。こう考えてみると、クエルトルフくんは懐が深いなあ。名前がくそ呼びにくいのだけが欠点だよ。だから家族でさえもクエルト呼びなんだよな~。オレだけは『ルフ』からとってルーくん呼びしてるけど。クエルトの方ではないよ? ルフの方だからね? 一度だってやめてと言われたことはないから、ルーくん呼びは継続している。その代わり、オレはずっとちぃちゃん呼びだよ! まあ、ちぃちゃん呼びは前世からだから、いまさら感があるにはあるんだが、それでも子供みたいだからやめてほしくはあるんだよ。オレのわがままだから口には出さないけど。

 なにかを得た代わりに、なにかを失った気がするよね。なにを得て失ったのかは具体的には解らないけどな!

 落ちないようにとふたたび首に腕を回すと、「この訓練が終わったら、お前ん家に集合だろ?」と確認する。そう言われたしな。そもそも基本的には兵舎生活だからか、外での活動でないなら必然的に騎士団内での活動としかならない。個人に対して辞令が発令された場合、騎士団ここから移動するしか道がないのですよ。移動届は必須だから、諸々の確認が終わった後に書くことになるんだろう。

「うん。顔合わせだね。まあ、知ってる人たちだけど、摺り合わせは必要だよね」
「だなー。今日は本気出すから覚悟しろよ?」
「頑張ってね」


     ◆


「ちぃちゃん髪の毛拭いてー」

 訓練が終わってシャワールームで汗を流して出てきたルーくんの髪は、いつも濡れたままである。軽く拭いてはあるようなんだが、本当に軽くだからな。そのままわしゃわしゃ拭けばいいだけなのに、毎度毎度オレに頼んでくるんだよな~。わけ解らん。時間の無駄じゃね?

 そもそも、魔術で簡単に乾かせるんだから、いちいちタオルで拭かなくてもいいと思うんだよね。極論、シャワールームだってなくてもいいんだよな。躯の汚れを落としたりするのは魔術でどうとでもなるわけだし。それでも風呂文化はあるから、シャワールームもあるわけですな~。だいたいの貴族家には浴室が作られているし、公衆浴場もきちんと整備されてはいるんだが、毎日湯船に浸かるわけではないようだった。加工した魔石に魔力を充填して使用する関係上、自身の魔力量の問題が出てくるのですよ。

 入浴するだけで使いすぎては、有事の際に回せなくなる。そこを考えて、お貴族様方は毎日は入らないというわけだ。公衆浴場だけは入浴料金と魔力充填は比例しない。やって来た人から毎日少しずつ貯めていく方式だからね。王都はこうだけど、地方は自分の領内のことしか解らない。貧乏男爵は相手にされないし。オレの領地に関しては風呂は毎日入っていたりする。精霊が――主に猫型精霊のケット・シーが手伝ってくれたりするから、他のところより負担が少ないんだよね。正確に言えば、『オレが毎日入っていたらみんな入り出した』が正しいんだけど、小さい領地だから出来たことだと思う。人口が少ないから、精霊の手がきちんと全員に届いたんだよ。

 タオルを投げ寄越されたオレは腰を屈ませたルーくんの頭を拭き始める。屈ませないと拭けないのが腹立たしいが、身長差が十センチはあるもんな。どうにかしないとと思って早十年以上は経っているが、最期まで身長差は埋まってくれなかったんだよな。前世も今世も身長差身長差で嫌になるわ。

 ちなみにオレの方はシャワールームは出入り禁止になっている。理由は未だに解らないままなんだが、ルーくんから一方的に言ってきたんだよね。騎士団内でもきちんと通達されているから怖い! 手が早い! でも魔術で綺麗にされているからいいのか?
 
 あと、オレはルーくんにボロボロにされていた。容赦がないの一言に尽きるわ。訓練なのに本気を出すんだよ? 殺される勢いで行かないと相手に出来ないのが嫌だ。剣も魔術も素手の殴り合いも全部そう。どれにしても、逸らすのに手一杯だ。差がありすぎるというのに、ルーくんはオレを対戦相手に選ぶんだよ!? 他の人も相手にしてくれと懇願しても、「無理」の一言以外に聞いたことがない。しかしこちらの「無理」は理由が解りきっているわけでしてね。これ以上は強くは言えないわけよ。

 ――騎士団内でコイツの本気に敵う奴はいないのだ。王族の近辺警護を担う近衛に選ばれているエリートな人たちであっても、ルーくんは秒で潰す。しれっとしながら。
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