公爵令嬢の護衛のうちのひとりなんですが、異母兄である三男様が離してくれません!

白千ロク(玄川ロク)

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6話

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 兵舎の自室――二人部屋に戻って着替える間も意地の悪い笑みを浮かべたルーくんに散々からかわれたんだが、「うるさいわっ!」と肩を叩き倒してすっきりしてから待ち合わせ場所へとやってきた。騎士団の裏門だね。髪も整え直したし、杖も持ったし完璧だ。オレの魔術杖は地味めなんだが、ルーくんの方は装飾豪華な仕込み杖となっている。ロマン溢れるよね、仕込み杖は! ルーくん的には華美な装飾はいらないらしいんだが、杖を作るのを頼んだらこうなったんだよ。公爵令息が持つなら見た目も性能も良くしなければ! とね。めちゃくちゃ張り切っちゃったんだよ、家族が。素材はルーくん自身が提供したとはいえ、ご実家がルーくんの為に作ったわけだから、ルーくん本人も悪いようには出来ないわけよ。そういうところは真面目だよなあ。

 先程までも着ていた黒色のフード付きマントローブの下には儀礼用の団服を身に纏っている。儀礼用は久しぶりに着たな~。オレはルーくんと違ってどこそこからの呼び出しなんてないから、ほとんど普段着用の団服で過ごしている。動き易さ重視だよ、重視。私服だってそう。ゴテゴテ飾られても動きにくいだけだからさ。女性のドレスに関しては、飾りが重要になる場合もあるけどね。ちなみに、団服は基本的には濃紺である。儀礼用でも普段着用――軽装用でも色は変わらない。警察官の制服とかブレザーの上着のような色合いだと思ってくれればいい。一目で騎士団所属と解るようになっているのだ。『基本的には』なのは、階級とかで色が変わってくるからなんだよね~。

 着替えている時にも思っていたが、ルーくんはなにを着ても似合うよなあ。儀礼用の団服姿は直視出来ないぐらいにかっこいい。見た目は細いんだけど、余分な肉がないからなんだよな。逞しい筋肉はちゃんとあるし、腹筋は割れているのは拝見済みよ。なんなら触らしてもらっているからな。想像に任せる。オレからはなにも言いたくない。言いませんからね?

 ルーくんはただ突っ立っているだけであっても、長身痩躯と美貌とが合わさって神々しさを醸し出しているんだよね。中性的な美しさと妖しさは目に痛い。痛いだけで目は潰れたりしないけど、見慣れていないと毒となり得る気がする。オレ自身の容姿に関しては母親似以外はもうなにも言いたくないです。小さくてかわいいもまつ毛長いも抱きしめやすいも抱き潰したいも褒め言葉ではありませ~ん! かっこいいと言われたいんです!

「チェルチが来たです~!」
「ぶぉっ!?」

 テンション高めの声とともに顔に突っ込んできたケット・シー。なんで顔なのかは解らないが、バチーンという音を幻聴した。痛みは軽いんだが、突っ込んできた勢いはあるんでね。

「会いたかったです~」
「危ないから顔面に飛びつくのはやめような?」
「うにゃぅ~、嬉しさが爆発したです~。ごめんなさいです~」

 顔からケット・シーを剥がすと、両方の前足でミミを押さえた。しょぼんとする姿は罪悪感が半端なく湧く。やめて! オレはただ注意しただけだからね! 罪悪感を打ち消すようにわしゃわしゃ頭を撫でてやると、ケット・シーは「にゃふふ~! ケットはぁ、チェルチに頭撫でられたです~!」と機嫌を戻しようだった。よかったよかった。

 この世界のケット・シーの見た目はペルシャ猫に近いんだよな。近いだけで、生体は違うんだけど。ペルシャ猫よりもあと五センチほど毛が長めで、毛が完全に手足を隠している。モップ犬ならぬモップ猫なんだよ。しかし毛に硬さはなく、わたあめのようにもこもこもさあとしているし、触ると見た目通りにふわふわふさふさしていた。精霊だから食べなくても生きていけるし、食べるのならなんでも食べる。塩辛いものでも甘いものでもなんでもだよ。真っ白の子と薄茶色で縞模様の子のニ種類いる。二頭身サイズだから可愛すぎてどうしようだよ! ケット・シー自身が気に入った人と契約していた名残りで名前がある子もいたりするが、一人称はケットで統一なのも可愛いよね~。

 成人となる百歳はとうに過ぎていても、オレはどの精霊ともいまだに契約ができていないダメな方のエルフだったりするんだが、ルーくんは何体と契約しているんだろうか? 一体は確実だとして、う~ん、あと五体ぐらいか? 気にしたことがなくて聞いたことがないから解らんな。オレの周りには自然と精霊たち――主に成体となっていたケット・シーが次々に訪れて来てくれて構ってくれていたからか、契約できないなんていうのも気にしたことがないんだよ。ルーくんにはえっちなことをされるけど、なかなか恵まれている環境ではなかろうか? 変なことをされるけど!

「ちぃちゃん、いまなにか変なことを考えてるよね?」
「考えてませんけど!?」
「へえ。ならいいけど」

 耳を撫でてきたルーくんは、最後にふっと息を吹きかけてくる。

「んぁっ……! っ、もっ、へ、変な声が出ただろうが!」
「言ったよね? ちぃちゃんはすぐ顔に出てるよって。ちぃちゃんの考えていることは解っているつもりだよ」
「ですです。チェルチは解りやすいです~。だからケットたちもからかいたくなるです~」
「次はポーカーフェイスで生きてやるから!」

 絶対に解らないようにしてやるぅ! 覚えてろよ! がーと威勢よくそう言うと、ルーくんは「頑張ってね」と笑みを浮かべる。お前その顔、三日坊主だと思ってるだろ! なんて嫌味な人間なんだっ。ふざけんなと声を上げようとすると、口に人差し指が添えられた。

「お遊びはここまでにして、屋敷に行こうか」
「初めからそうしろよっ」
「ケットが案内するです~」

 はいはい! とケット・シーが右手を上げる。元々案内係だからな。

「案内は必要ないよ。目的地はよく知っている場所だからね」
「嫌です~!! ケットが案内係になったのです~!」
「腕にしがみついてきたんですけど!?」
「ケットは楽しみにしてたです~! 一緒に行くです~!! 一緒にぃ! 行くですぅ!」

 ルーくんの言葉に負けじと腕にしがみついて嫌々と首を振っていたケット・シーだが、みゃうぅ~と泣き出した。泣くのか。鳴くんじゃなくて、ガチ泣きか!?

「泣かしちゃダメだろ……」
「仕方がないね。ちぃちゃんがキスしてくれたら同行を許可するよ」
「はあ!? オレのキス必要か!?」

 ケット・シーの背中を撫でようと空いた手を伸ばしたその時、ルーくんはわけの解らないことを言い出した。なんだって? そしてルーくんの言葉を聞いたケット・シーはがばりと顔を上げる。勢いよく。

「必要です~! 早くするのです~!」
「わくわく顔してるなこの子!」
「ちぃちゃん早く」
「早くじゃないから! 見られるのは嫌だよっ」

 なに見せつけようとしてるんだよ! ルーくんは見せつけたい特殊性癖持ちかもしれないけどなあ、オレは見られたくないんですが!? いくらここにいるのがケット・シーこの子だけでも、誰か来るのか解らない外でキスをするのは不安しかないから無理ですって。シャワールームでのキスはまだ室内だからよかっただけだからな。

「ケットはチューみたいです~!」
「教育に悪いからダメですー!」
「ケット・シーに教育がいるかは解らないけどね」
「ルーくんは黙ってろ!」
「黙らせたいなら、ねえ?」

 ケット・シーもわけの解らないことを言い出したし、ルーくんはルーくんで支柱に追い詰めてくるしぃ。くそぅ、オレの味方はここにはいないのかー!?

 ルーくんはなんで微笑みを浮かべているんだよ!?
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