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言われたとおりに抜け出してきたのが正解ならば、早く魔術塔に戻ってもらわないといけない。レミアル様は本来ならこんな時間にここにいるわけないお人なのだから。オレたちがこうやって来ることなんて初めてではないし、なんで今日に限って抜け出してきたのかね。
「レミアル様、クッキーをどうぞ。この後のお仕事も頑張ってくださいね」
甘い物で釣れるかなと不安ながらクッキーをそろそろと差し出すと、レミアル様はしっかりと受け取った。あの、手ごと握りしめなくていいんですよ? ついでにと、ケット・シーたちにもクッキーを順番に渡す。渡し忘れないように、いま渡した方がいいだろう。「にゃふ~! チェルチのクッキーです~!」とラッピング袋に頬擦りするケット・シーたち。レミアル様もケット・シーと同じように頬擦りをしているが、ケット・シーもレミアル様もいつも通りだ。オレたちに姿を現してくれる精霊は渡した焼き菓子のラッピング袋に頬擦りをする。嬉しそうなら作ってよかったなと思うよ。精霊たちはなぜか『チェルチのクッキー』と言っているんだが、オレとルーくんのふたりで作っておりますよ。
ケット・シーたち――三体は「みんなで食べるです~」とささっと離れていく。ケット・シーの言うみんなはみんななのだ。自分だけではなく、周りにいる子にもお裾分けとしてクッキーを配るんだよ。健気も健気だ。配るのは一枚なんだけれども、オレたちに構ってくれる子は多くいるから数はいるわけだ。だからこちらは元々多めに入れて渡しているんだよね。足りなかったら足りなかったで、しょぼんとしながら「むぃ~、クッキー足りなかったですぅ~。くださいです~」と来るからいいんだよ、これで。賢いのよ。
レミアル様の方はといえば、「ママはお仕事頑張ってきますね~!」と上機嫌で消えていく。しゅばっと。お気をつけて~。
「ルーくん行こう」
「ちぃちゃん後でたくさん抱きしめてあげるからね」
「いりませーん!」
競う必要はないから! と、引き摺るようにして来たのは客間。話し合いなら客間だろうと推測したわけだ。護衛も扉の横にいるから正解だろう。両脇に護衛が立つ扉を開けて「失礼します」と入室すると、銀髪碧眼エルフがいた。それはそれは眩しい美少女である。ソファーに座っているのは美少女ひとり。後ろに控えているのもひとりいる。美少女は王立魔術学院の制服姿であるが、今日は学院は休みなので王都の本邸に一時帰宅しているらしい。どこからの情報かといえば、護衛の辞令とともに騎士団で聞いたんだよ。
「お久しぶりです、クエルトお兄様」
「学院はどう?」
「楽しいですよ」
「オレを挟んで会話を始めないでくれますか?」
輝く笑みを浮かべる美少女だが、オレの言葉を聞くと今度はふふと小さく笑う。いやでもさ、背後から抱きしめながら会話しないでほしいよね。頭頂部に頬擦りするのもやめてね。妹だけでなく護衛もいるのを忘れてないよね?
「ちぃちゃんこっち」
「抱き上げなくても歩けるから!」
「おふたりは本当に仲がいいですね」
ふわりと笑う美少女改め妹君。リシェル様は確か十二歳だったか。長寿種であるエルフは、学院を卒業するまでは他の種族に年齢を合わせる。混乱を避けるために。まあ、二十歳になるまでは成長も他の種族と変わらないから、混乱はそこまでないんだよな。長寿種というのは、老いるまでが長いだけだ。だから百歳を超えても若々しい者が多い。
抵抗しても意味がなく、抱き上げられたままテーブルを挟んだ向かいのソファーへと下ろされた。ルーくんは左横へと腰を下ろしてからオレの腰へと腕を回して引き寄せてくる。距離は空いてないんだから、わざわざ引き寄せなくてもいいんだよ?
「リシェルの護衛は今日から六人体制となるからよろしく」
「はい。聞いております。お兄様とチェルチさんとあとおひとりの三人組が増えるのですよね?」
「残りの人は人ではないよ」
「なにそれ怖い」
つい漏れてしまったが、人でないならなんなの? 人外?
「あれ? 言ってなかったけ?」
「リシェル様の護衛になる以外にはなにも聞いてないけど?」
「まあ、ちぃちゃん逃げちゃったからねえ」
「逃げる前に言って?」
「細かい話を詰める前にいなくなったのに?」
「ぐっ」
言い合ってもルーくんの方が口が上手いから、オレは追い詰められるだけです。ここは素直に謝る方が安全である。
「それはごめん。でもルーくんがキスしようとしてきたから危ないなと思って」
「まあ。お兄様はチェルチさんを困らせてはいけませんよ」
軽く驚いた妹に注意されたお兄ちゃんはへらりと笑うだけだ。ちぃちゃんがかわいいからだよと。リシェル様は一度オレを見て「それは解っていますが、チェルチさんもチェルチさんの時間が必要ですよね?」と進言してくれる。優しい~! でもなんでオレを見たんだ? 話しながらちょっと俯いてしまうのもなんで?
いや、理由は解っている。痛いくらいに解っているさ。いくら母親似だからといっても、凡人は凡人なんだよね! ごめんね、こんな凡人で。
「レミアル様、クッキーをどうぞ。この後のお仕事も頑張ってくださいね」
甘い物で釣れるかなと不安ながらクッキーをそろそろと差し出すと、レミアル様はしっかりと受け取った。あの、手ごと握りしめなくていいんですよ? ついでにと、ケット・シーたちにもクッキーを順番に渡す。渡し忘れないように、いま渡した方がいいだろう。「にゃふ~! チェルチのクッキーです~!」とラッピング袋に頬擦りするケット・シーたち。レミアル様もケット・シーと同じように頬擦りをしているが、ケット・シーもレミアル様もいつも通りだ。オレたちに姿を現してくれる精霊は渡した焼き菓子のラッピング袋に頬擦りをする。嬉しそうなら作ってよかったなと思うよ。精霊たちはなぜか『チェルチのクッキー』と言っているんだが、オレとルーくんのふたりで作っておりますよ。
ケット・シーたち――三体は「みんなで食べるです~」とささっと離れていく。ケット・シーの言うみんなはみんななのだ。自分だけではなく、周りにいる子にもお裾分けとしてクッキーを配るんだよ。健気も健気だ。配るのは一枚なんだけれども、オレたちに構ってくれる子は多くいるから数はいるわけだ。だからこちらは元々多めに入れて渡しているんだよね。足りなかったら足りなかったで、しょぼんとしながら「むぃ~、クッキー足りなかったですぅ~。くださいです~」と来るからいいんだよ、これで。賢いのよ。
レミアル様の方はといえば、「ママはお仕事頑張ってきますね~!」と上機嫌で消えていく。しゅばっと。お気をつけて~。
「ルーくん行こう」
「ちぃちゃん後でたくさん抱きしめてあげるからね」
「いりませーん!」
競う必要はないから! と、引き摺るようにして来たのは客間。話し合いなら客間だろうと推測したわけだ。護衛も扉の横にいるから正解だろう。両脇に護衛が立つ扉を開けて「失礼します」と入室すると、銀髪碧眼エルフがいた。それはそれは眩しい美少女である。ソファーに座っているのは美少女ひとり。後ろに控えているのもひとりいる。美少女は王立魔術学院の制服姿であるが、今日は学院は休みなので王都の本邸に一時帰宅しているらしい。どこからの情報かといえば、護衛の辞令とともに騎士団で聞いたんだよ。
「お久しぶりです、クエルトお兄様」
「学院はどう?」
「楽しいですよ」
「オレを挟んで会話を始めないでくれますか?」
輝く笑みを浮かべる美少女だが、オレの言葉を聞くと今度はふふと小さく笑う。いやでもさ、背後から抱きしめながら会話しないでほしいよね。頭頂部に頬擦りするのもやめてね。妹だけでなく護衛もいるのを忘れてないよね?
「ちぃちゃんこっち」
「抱き上げなくても歩けるから!」
「おふたりは本当に仲がいいですね」
ふわりと笑う美少女改め妹君。リシェル様は確か十二歳だったか。長寿種であるエルフは、学院を卒業するまでは他の種族に年齢を合わせる。混乱を避けるために。まあ、二十歳になるまでは成長も他の種族と変わらないから、混乱はそこまでないんだよな。長寿種というのは、老いるまでが長いだけだ。だから百歳を超えても若々しい者が多い。
抵抗しても意味がなく、抱き上げられたままテーブルを挟んだ向かいのソファーへと下ろされた。ルーくんは左横へと腰を下ろしてからオレの腰へと腕を回して引き寄せてくる。距離は空いてないんだから、わざわざ引き寄せなくてもいいんだよ?
「リシェルの護衛は今日から六人体制となるからよろしく」
「はい。聞いております。お兄様とチェルチさんとあとおひとりの三人組が増えるのですよね?」
「残りの人は人ではないよ」
「なにそれ怖い」
つい漏れてしまったが、人でないならなんなの? 人外?
「あれ? 言ってなかったけ?」
「リシェル様の護衛になる以外にはなにも聞いてないけど?」
「まあ、ちぃちゃん逃げちゃったからねえ」
「逃げる前に言って?」
「細かい話を詰める前にいなくなったのに?」
「ぐっ」
言い合ってもルーくんの方が口が上手いから、オレは追い詰められるだけです。ここは素直に謝る方が安全である。
「それはごめん。でもルーくんがキスしようとしてきたから危ないなと思って」
「まあ。お兄様はチェルチさんを困らせてはいけませんよ」
軽く驚いた妹に注意されたお兄ちゃんはへらりと笑うだけだ。ちぃちゃんがかわいいからだよと。リシェル様は一度オレを見て「それは解っていますが、チェルチさんもチェルチさんの時間が必要ですよね?」と進言してくれる。優しい~! でもなんでオレを見たんだ? 話しながらちょっと俯いてしまうのもなんで?
いや、理由は解っている。痛いくらいに解っているさ。いくら母親似だからといっても、凡人は凡人なんだよね! ごめんね、こんな凡人で。
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