公爵令嬢の護衛のうちのひとりなんですが、異母兄である三男様が離してくれません!

白千ロク(玄川ロク)

文字の大きさ
9 / 14

9話

しおりを挟む
 言われたとおりに抜け出してきたのが正解ならば、早く魔術塔に戻ってもらわないといけない。レミアル様は本来ならこんな時間にここにいるわけないお人なのだから。オレたちがこうやって来ることなんて初めてではないし、なんで今日に限って抜け出してきたのかね。

「レミアル様、クッキーをどうぞ。この後のお仕事も頑張ってくださいね」

 甘い物で釣れるかなと不安ながらクッキーをそろそろと差し出すと、レミアル様はしっかりと受け取った。あの、手ごと握りしめなくていいんですよ? ついでにと、ケット・シーたちにもクッキーを順番に渡す。渡し忘れないように、いま渡した方がいいだろう。「にゃふ~! チェルチのクッキーです~!」とラッピング袋に頬擦りするケット・シーたち。レミアル様もケット・シーと同じように頬擦りをしているが、ケット・シーもレミアル様もいつも通りだ。オレたちに姿を現してくれる精霊は渡した焼き菓子のラッピング袋に頬擦りをする。嬉しそうなら作ってよかったなと思うよ。精霊たちはなぜか『チェルチのクッキー』と言っているんだが、オレとルーくんのふたりで作っておりますよ。

 ケット・シーたち――三体は「みんなで食べるです~」とささっと離れていく。ケット・シーの言うみんなはみんななのだ。自分だけではなく、周りにいる子にもお裾分けとしてクッキーを配るんだよ。健気も健気だ。配るのは一枚なんだけれども、オレたちに構ってくれる子は多くいるから数はいるわけだ。だからこちらは元々多めに入れて渡しているんだよね。足りなかったら足りなかったで、しょぼんとしながら「むぃ~、クッキー足りなかったですぅ~。くださいです~」と来るからいいんだよ、これで。賢いのよ。

 レミアル様の方はといえば、「ママはお仕事頑張ってきますね~!」と上機嫌で消えていく。しゅばっと。お気をつけて~。

「ルーくん行こう」
「ちぃちゃん後でたくさん抱きしめてあげるからね」
「いりませーん!」

 競う必要はないから! と、引き摺るようにして来たのは客間。話し合いなら客間だろうと推測したわけだ。護衛も扉の横にいるから正解だろう。両脇に護衛が立つ扉を開けて「失礼します」と入室すると、銀髪碧眼エルフがいた。それはそれは眩しい美少女である。ソファーに座っているのは美少女ひとり。後ろに控えているのもひとりいる。美少女は王立魔術学院の制服姿であるが、今日は学院は休みなので王都の本邸に一時帰宅しているらしい。どこからの情報かといえば、護衛の辞令とともに騎士団で聞いたんだよ。

「お久しぶりです、クエルトお兄様」
「学院はどう?」
「楽しいですよ」
「オレを挟んで会話を始めないでくれますか?」

 輝く笑みを浮かべる美少女だが、オレの言葉を聞くと今度はふふと小さく笑う。いやでもさ、背後から抱きしめながら会話しないでほしいよね。頭頂部に頬擦りするのもやめてね。家族だけでなく護衛もいるのを忘れてないよね?
 
「ちぃちゃんこっち」
「抱き上げなくても歩けるから!」
「おふたりは本当に仲がいいですね」

 ふわりと笑う美少女改め妹君。リシェル様は確か十二歳だったか。長寿種であるエルフは、学院を卒業するまでは他の種族に年齢を合わせる。混乱を避けるために。まあ、二十歳になるまでは成長も他の種族と変わらないから、混乱はそこまでないんだよな。長寿種というのは、老いるまでが長いだけだ。だから百歳を超えても若々しい者が多い。

 抵抗しても意味がなく、抱き上げられたままテーブルを挟んだ向かいのソファーへと下ろされた。ルーくんは左横へと腰を下ろしてからオレの腰へと腕を回して引き寄せてくる。距離は空いてないんだから、わざわざ引き寄せなくてもいいんだよ?

「リシェルの護衛は今日から六人体制となるからよろしく」
「はい。聞いております。お兄様とチェルチさんとあとおひとりの三人組が増えるのですよね?」
「残りの人は人ではないよ」
「なにそれ怖い」

 つい漏れてしまったが、人でないならなんなの? 人外?

「あれ? 言ってなかったけ?」
「リシェル様の護衛になる以外にはなにも聞いてないけど?」
「まあ、ちぃちゃん逃げちゃったからねえ」
「逃げる前に言って?」
「細かい話を詰める前にいなくなったのに?」
「ぐっ」

 言い合ってもルーくんの方が口が上手いから、オレは追い詰められるだけです。ここは素直に謝る方が安全である。

「それはごめん。でもルーくんがキスしようとしてきたから危ないなと思って」
「まあ。お兄様はチェルチさんを困らせてはいけませんよ」

 軽く驚いた妹に注意されたお兄ちゃんはへらりと笑うだけだ。ちぃちゃんがかわいいからだよと。リシェル様は一度オレを見て「それは解っていますが、チェルチさんもチェルチさんの時間が必要ですよね?」と進言してくれる。優しい~! でもなんでオレを見たんだ? 話しながらちょっと俯いてしまうのもなんで?

 いや、理由は解っている。痛いくらいに解っているさ。いくら母親似だからといっても、凡人は凡人なんだよね! ごめんね、こんな凡人で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

可愛い系イケメンが大好きな俺は、推しの親友の王子に溺愛される

むいあ
BL
「あの…王子ーー!!俺の推しはあなたの親友なんだーーー!!」 俺、十宮空也は朝、洗面台に頭をぶつけ、異世界転生をしてしまった。 そこは俺がずっと大好きで追い続けていた「花と君ともう一度」という異世界恋愛漫画だった。 その漫画には俺の大好きな推しがいて、俺は推しと深くは関わらないで推し活をしたい!!と思い、時々推しに似合いそうな洋服を作ったりして、推しがお誕生日の時に送っていたりしていた。 すると、13歳になり数ヶ月経った頃、王宮からお茶会のお誘いが来て…!? 王家からだったので断るわけにもいかず、お茶会に行くため、王城へと向かった。 王城につくと、そこには推しとその推しの親友の王子がいて…!?!? せっかくの機会だし、少しだけ推しと喋ろうかなと思っていたのに、なぜか王子がたくさん話しかけてきて…!? 一見犬系に見えてすごい激重執着な推しの親友攻め×可愛いが大好きな鈍感受け

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布
BL
獣人の世界に異世界転生した人間が愛される話 一部終了 二部終了

処理中です...