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お客様
ある日の午後、庭に行く準備をしていたら僕のベッドシーツを洗いに行っていたリーネさんが戻ってきて、困った顔で僕に待ったをかけた。
「奥様、大変申し訳ございませんが、本日のお散歩を中止にしていただいてもよろしいでしょうか」
「え? あ、はい。それは構いませんけど⋯」
公爵様から許可をいただいてからは初めての事で僕は目を瞬く。
別に行けなくなる事に不満はないけどどうしてか聞いてもいいのかな。花たちに何かあったとかなら嫌だし⋯⋯や、でも僕が知る必要はないのか。
水分補給の為に用意して貰った陶器の筒を置きソファに座ったところで、リーネさんは申し訳なさそうに本を差し出してきた。
「実は先ほど、旦那様のご友人の方が来られまして⋯もし鉢合わせてしまうと、その⋯奥様にとってもあまり良い事ではないかと思いまして⋯」
ああ、なるほど。
ご友人なら公爵様の色んな事情は知ってるだろうし、姉様とは似ても似つかない僕の姿はさすがに見られたくはないよね。それなら部屋にいて欲しいのも納得だ。
この本も、きっと部屋から出られなくなった僕へのリーネさんなりの気遣いだろうし。
言葉を選んでくれてるリーネさんに、大丈夫だよって意味も込めて笑えばどうしてか今度は表情が曇った。
「分かりました。本もありがとうございます」
「いえ⋯」
勉強はしてても、本はしばらく読んでなかったから少し楽しみだ。
さっそくと表紙を開いたところで不意に鳴き声と鈴の音がして、顔を上げるとちょうどミアが窓枠を越えて入ってきたところだった。
チラリとリーネさんを見て、僕の膝へと飛び乗る。
「ミア」
『久し振りだね、アル。なかなか来れなくてごめんよ』
「ううん。来てくれるだけで嬉しい」
僕の事を考えて会いたいって思ってくれるだけで充分だ。
ミアを抱き締め柔らかな毛から香る日の匂いを肺いっぱいに吸ってたら、リーネさんが遠慮がちに問い掛けてきた。
「あの、奥様⋯その猫は⋯」
「僕の友達です。このお屋敷に来てすぐ仲良くなりました」
「そうなのですね⋯。初めまして、ミアさん。私は奥様のお世話を任されております、リーネと申します。よろしくお願い致します」
動物が友達なんてと笑う事もなく、リーネさんは僕の前に膝をつくとミアに対して頭を下げた。そんな人は初めてで目を瞬く僕に微笑み、エプロンのポケットからハンカチを出すと「失礼します」と言ってミアの足の裏を優しく拭う。
僕は気にした事なかったけど、そういえばミアは外から来てるんだった。仕立てて貰った立場だからなるべくなら汚れる事は避けたかったけど、こればかりは仕方ないよね。
今まで着てたものとか自分で買ったものなら全然いいんだけど。
『優しい人だね』
「うん」
最初こそ不安だったけど、オルウェンさんのお孫さんだけあってリーネさんも凄く優しい。メイドさんはみんな僕にいい気持ちは持ってないと思ってたから、当たり前のように身の回りの事をしてくれるリーネさんには感謝してた。
毎日美味しいものが食べられるのも身綺麗でいられるのも、オルウェンさんとリーネさんのおかげだ。
そういえば、しばらくオルウェンさんに会ってはいないけど元気かな。
「奥様、私はまだ仕事が残っておりますので、再度失礼させていただきます。どんなに小さな事でも構いませんから、御用がございましたらこちらを押して下さいね?」
そう言って僕の手にベルの形をした呼び出し機を置いたリーネさんは、念を押すように「約束ですよ」と付け加えると、立ち上がって頭を下げ部屋から出て行った。
この呼び出し機はオルウェンさんから渡されたもので、その時はオルウェンさんに通知が行くように設定されていた。今はリーネさんに行くそうだけど、貰ってから僕は一度も使った事はない。
だって、僕が誰かを呼び出すなんて⋯図々しいにも程がある。
立場的にいえば、オルウェンさんやリーネさんの方が上なんだから。
『アル』
「うん?」
『アルの味方は、たくさんいるよ』
一瞬ミアの言っている事の意味が分からなくて首を傾げたけど、ちょっと考えて理解出来た僕は小さく頷いた。確かにミアや花たちは僕に好意的でいてくれる。
こうして支えられてるからこそ、頑張れてるんだから。
「ありがとう。僕もみんなの味方だよ」
『⋯⋯分かってないね、これは』
「いた⋯っ。⋯え⋯?」
笑顔で答えたのにどうしてかミアは溜め息をついて、僕を見上げるなりおでこに軽くパンチしてきた。
その行動に困惑する僕ににゃあと鳴き、膝から降りると尻尾を一振りして入ってきた窓から出て行く。相変わらず気まぐれなのはミア⋯というか猫らしいけど、僕がパンチされたのはなんで?
不思議に思いつつも立ち上がって窓の外を眺めた僕は、微かに聞こえてくる歌声に耳を澄ませた。
明日はみんなに会いに行けるといいな。
なんて思いを馳せたのも束の間。
「これがセレーナ様の弟なの? ちっとも似てないじゃない」
目の前には背の高い男の人と華やかなドレスを来た綺麗な女の人がいて、女の人は何とも怪訝そうな顔で僕を見てる。
初めましての人を指差して〝これ〟は、あんまりだと思うんだ。
「奥様、大変申し訳ございませんが、本日のお散歩を中止にしていただいてもよろしいでしょうか」
「え? あ、はい。それは構いませんけど⋯」
公爵様から許可をいただいてからは初めての事で僕は目を瞬く。
別に行けなくなる事に不満はないけどどうしてか聞いてもいいのかな。花たちに何かあったとかなら嫌だし⋯⋯や、でも僕が知る必要はないのか。
水分補給の為に用意して貰った陶器の筒を置きソファに座ったところで、リーネさんは申し訳なさそうに本を差し出してきた。
「実は先ほど、旦那様のご友人の方が来られまして⋯もし鉢合わせてしまうと、その⋯奥様にとってもあまり良い事ではないかと思いまして⋯」
ああ、なるほど。
ご友人なら公爵様の色んな事情は知ってるだろうし、姉様とは似ても似つかない僕の姿はさすがに見られたくはないよね。それなら部屋にいて欲しいのも納得だ。
この本も、きっと部屋から出られなくなった僕へのリーネさんなりの気遣いだろうし。
言葉を選んでくれてるリーネさんに、大丈夫だよって意味も込めて笑えばどうしてか今度は表情が曇った。
「分かりました。本もありがとうございます」
「いえ⋯」
勉強はしてても、本はしばらく読んでなかったから少し楽しみだ。
さっそくと表紙を開いたところで不意に鳴き声と鈴の音がして、顔を上げるとちょうどミアが窓枠を越えて入ってきたところだった。
チラリとリーネさんを見て、僕の膝へと飛び乗る。
「ミア」
『久し振りだね、アル。なかなか来れなくてごめんよ』
「ううん。来てくれるだけで嬉しい」
僕の事を考えて会いたいって思ってくれるだけで充分だ。
ミアを抱き締め柔らかな毛から香る日の匂いを肺いっぱいに吸ってたら、リーネさんが遠慮がちに問い掛けてきた。
「あの、奥様⋯その猫は⋯」
「僕の友達です。このお屋敷に来てすぐ仲良くなりました」
「そうなのですね⋯。初めまして、ミアさん。私は奥様のお世話を任されております、リーネと申します。よろしくお願い致します」
動物が友達なんてと笑う事もなく、リーネさんは僕の前に膝をつくとミアに対して頭を下げた。そんな人は初めてで目を瞬く僕に微笑み、エプロンのポケットからハンカチを出すと「失礼します」と言ってミアの足の裏を優しく拭う。
僕は気にした事なかったけど、そういえばミアは外から来てるんだった。仕立てて貰った立場だからなるべくなら汚れる事は避けたかったけど、こればかりは仕方ないよね。
今まで着てたものとか自分で買ったものなら全然いいんだけど。
『優しい人だね』
「うん」
最初こそ不安だったけど、オルウェンさんのお孫さんだけあってリーネさんも凄く優しい。メイドさんはみんな僕にいい気持ちは持ってないと思ってたから、当たり前のように身の回りの事をしてくれるリーネさんには感謝してた。
毎日美味しいものが食べられるのも身綺麗でいられるのも、オルウェンさんとリーネさんのおかげだ。
そういえば、しばらくオルウェンさんに会ってはいないけど元気かな。
「奥様、私はまだ仕事が残っておりますので、再度失礼させていただきます。どんなに小さな事でも構いませんから、御用がございましたらこちらを押して下さいね?」
そう言って僕の手にベルの形をした呼び出し機を置いたリーネさんは、念を押すように「約束ですよ」と付け加えると、立ち上がって頭を下げ部屋から出て行った。
この呼び出し機はオルウェンさんから渡されたもので、その時はオルウェンさんに通知が行くように設定されていた。今はリーネさんに行くそうだけど、貰ってから僕は一度も使った事はない。
だって、僕が誰かを呼び出すなんて⋯図々しいにも程がある。
立場的にいえば、オルウェンさんやリーネさんの方が上なんだから。
『アル』
「うん?」
『アルの味方は、たくさんいるよ』
一瞬ミアの言っている事の意味が分からなくて首を傾げたけど、ちょっと考えて理解出来た僕は小さく頷いた。確かにミアや花たちは僕に好意的でいてくれる。
こうして支えられてるからこそ、頑張れてるんだから。
「ありがとう。僕もみんなの味方だよ」
『⋯⋯分かってないね、これは』
「いた⋯っ。⋯え⋯?」
笑顔で答えたのにどうしてかミアは溜め息をついて、僕を見上げるなりおでこに軽くパンチしてきた。
その行動に困惑する僕ににゃあと鳴き、膝から降りると尻尾を一振りして入ってきた窓から出て行く。相変わらず気まぐれなのはミア⋯というか猫らしいけど、僕がパンチされたのはなんで?
不思議に思いつつも立ち上がって窓の外を眺めた僕は、微かに聞こえてくる歌声に耳を澄ませた。
明日はみんなに会いに行けるといいな。
なんて思いを馳せたのも束の間。
「これがセレーナ様の弟なの? ちっとも似てないじゃない」
目の前には背の高い男の人と華やかなドレスを来た綺麗な女の人がいて、女の人は何とも怪訝そうな顔で僕を見てる。
初めましての人を指差して〝これ〟は、あんまりだと思うんだ。
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。