身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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新しい部屋

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 僕の知らないところで周りは変化していて、気付いた時には見える景色がまったく違うものになってたのは生まれて初めてだった。

 新しく働く事になった者たちですとオルウェンさんから紹介された使用人はいつの間にかいなくなっていた人たちと同じだけの人数がいて、訳が分からず困惑する僕にオルウェンさんは「お屋敷の為に必要だったのです」と教えてくれた。
 姉様が帰ったあと、ひと月も経たずしてあれだけの人が一気にいなくなるなんて⋯何かあった事は分かるのに、それが何かは僕には分からない。
 だけど公爵様が決められた事なら、僕もそれを受け入れるだけだ。
 初めましての人たちばかりだから不安や心配はあるけど、今度こそみんなと仲良くなれたらいいな。



 今日はみんな朝からバタバタしてて、僕は一人バルコニーでお茶を飲んでいた。
 全然知らなかったんだけど、ここ数日みんなで公爵夫人用の部屋を大改造してたらしく、ようやく完成したから僕の部屋にある服や宝物を移動させてるんだって。
 元々は姉様仕様で、花柄とかピンクがメインだったみたい。
 花は好きだし、ピンクでも気にしないから改造なんてしなくてもいいですよって言いたかったけど、姉様が使う為に用意された部屋なのがちょっとだけモヤモヤして、気付いたらもう全部終わってた。
 僕、どんどん我儘になっていってる気がする。
 いいも悪いもない。与えられるものだけをただ受け入れてればそれで良かったのに。

「奥様、お部屋が整いましたよ」
「あ、はい。今行きます」

 バルコニーに新しく置かれたプランターをぼんやりと眺めてたら、リーネさんがやってきてそう声をかけられた。
 僕は頷いて紅茶を飲み干してから立ち上がりリーネさんのあとに続く。
 公爵様は新しい使用人たちにも伝えるべきだからと、僕との結婚式が形だけだった事、誓婚証も書いていない事、でも準備が出来次第サインする事を説明した。僕を本当の公爵夫人にするから、誰よりも大切にするようにって。
 みんな喜んでくれて、おめでとうございますって言って貰えて嬉しかったな。 
 静かなお屋敷の中を歩き最上階まで来ると一段と明るくて、今初めてお屋敷周りの木の高さが一つ下の階までしかないんだって気付いた。
 だから陽の光が遮られる事なく窓から差し込んでるんだ。
 扉の数は圧倒的に少なくて、そのうちの一つの前に立ったリーネさんが扉を引いて頭を下げた。

「こちらが、本日から奥様が過ごされるお部屋になります」
「⋯⋯わぁ⋯」

 部屋に入った瞬間、ふわりと花の香りが舞った。
 カーテン、ソファ、ラグやベッドを始め白を基調にしたシンプルな内装。でもきっとどれも高級品なんだろうなっていうのは、何も知らない僕にも分かる。
 だって素材からして違うから。
 客間とは違いこの部屋にはバルコニーがついてて、そこにはプランターがあり花が植えられている。あの子たちにもあとで挨拶しないと。
 それから公爵様からの贈り物は、日の当たらない場所に設置された棚に綺麗に飾られて、引き出しにもしまえるようになってた。どれくらい入るんだろうって開けた時見た事ない物が入ってて驚いたけど、どうやら知らないうちに公爵様が入れるよう指示したらしい。
 いつの間にこんなに買ったんだろう。
 この段なんてお菓子箱みたいになってるし。

「本日のお茶菓子はどれになさいますか?」
「えっと⋯じゃあこれで」
「かしこまりました。お茶のご準備をして参りますので、一度失礼させていただきますね」
「はい」

 ここから毎日お茶菓子を選ばないと本当に食べ切れなさそう。公爵様は甘い物を食べないし⋯⋯リーネさんにお願いしたら一緒にお茶してくれるかな。
 リーネさんがクッキーの箱を手に部屋から出て行き、僕は引き出しを閉めて立ち上がり部屋の中を見回す。
 確か、あの扉が公爵様のお部屋と繋がってるんだっけ。
 でも、何で繋げる必要があるんだろう。

「それにしても広いなぁ⋯」

 天井だって高いし窓も大きい。ソファもベッドも客間とは比べ物にならないふかふかで手触りが良くて、ずっと触っていたくなる。
 試しに撫でてみたら止まらなくて、叩いたり押したりしてたら不意に後ろから笑い声が聞こえた。驚いて振り向くと公爵様がいて、手で口元を押さえてクスクス笑ってる。
 い、いつからそこに?

「あ⋯あの⋯」
「気に入って貰えたようで何よりだ」
「は、はい⋯凄く⋯」

 だからこそ意味もなく触ってたんだけど⋯見られてたのは恥ずかしいな。
 公爵様はひとしきり笑ったあと軽く咳払いをし、僕の傍まで来ると頭に手を乗せて揺らすように撫でてきた。
 それから公爵様の部屋と繋がっている扉を見て柔らかく微笑む。

「あの扉だが、私は用がある時以外は使わないから安心してくれ」
「え? じゃあ、お部屋には来られないんですか?」
「ああ。よほどの事がない限りはな」
「そう、なんですか⋯」

 何だ。これから毎日、お仕事で忙しくない時は話せると思ってたのに⋯ちょっと残念。
 落ち込む僕を公爵様が何かに耐えるように見ていた事には気付かず、夜はいつもみたいに紅水晶を眺めながら花とお喋りしようかなと考えてたら、大きな手に腕が引かれ抱き締められた。
 途端に言いようのない安心感に包まれる。

「明日から少し忙しくなる。夕食には間に合いそうにないから、先に済ませてくれ」
「分かりました」
「すまないな」
「お仕事ですから、謝らないでください」

 あれから、公爵様がどうしても無理な日以外は朝食と夕食を一緒にとってる。
 最初から出来る時って言われてたし、仕事ばかりはどうしようもないからそんなに申し訳なさそうにしなくてもいいのにって思いながら公爵様の胸元に頬を押し当て服を握る。
 僕にはまだこれが精一杯だ。
 でも一つだけ、ほんの少しだけど慣れてきた事はある。

「そろそろ騎士団の仕事に行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「愛してるよ、アルシエ」

 一度だけ強く抱き締められ、公爵様の手がまた頬に添えられて甘い言葉と共におでこに唇が触れる。その時だけ目を瞑っちゃうんだけど、そっと開けると優しい顔をした公爵様がいて心臓がぎゅってなった。
 慣れてきたって言ったものの⋯やっぱり照れくさいかも。

 そのあとすぐリーネさんが戻って来て、お茶を飲むか聞いたリーネさんに首を振った公爵様はもう一度僕を抱き締めてから仕事に向かうべく部屋を出て行った。
 僕は、いつになったら公爵様に気持ちを伝えられるようになるんだろう。
 大好きなのに、上手く口に出来ないのがもどかしい。
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