身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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とある日のティータイム(リーネ視点)

 旦那様と奥様は、少しずつだけどご夫婦らしくなられていると私は思ってる。⋯あら? 男性同士の場合は〝夫夫〟なのかしら。
 でも〝奥様〟だから、夫婦でも間違ってないわよね。
 とにかく確実にお二人は心の距離も縮めていて、最近はこちらが照れてしまうほどの甘い空気も醸し出すようになった。その時の奥様はとても幸せそうで私も嬉しくなる。
 奥様は元々あまり表情を変えられない方だったけど、私や祖父、庭師のマーディンさんには時折笑顔を見せてくださる事もあった。特に旦那様へは最初の出会い方もあってかずっと硬く、目を合わせる事もほとんどなかったのに⋯今では可愛らしく微笑んだりもして仲睦まじく過ごされている。
 今もそう。

「アルシエ、こっちも甘いぞ」
「⋯⋯!」
「相変わらず美味そうに食べるな」

 今日はティータイムをご一緒されていて、王太子殿下からいただいたという果物をお二人で召し上がられている。
 旦那様、奥様のお皿に乗せていらっしゃるけど、本当はご自分で食べさせてあげたいんだろうな。ウズウズソワソワしていらっしゃるもの。
 私は奥様のお世話の為に祖父から呼ばれたから旦那様をあまり知らないのだけど、祖父曰く旦那様は色恋には一切興味がなく、セレーナ様と出会うまでは結婚さえもどうでもいいと思っていらしたみたい。
 セレーナ様とご結婚を望んだものの、アルシエ奥様がいらしてそれなりに大変だったみたいだけど、今ではあんなに大切にされてるから未来って分からないものよね。

「公爵様も召し上がってください」
「食べてる食べてる。それよりアルシエ、違うだろう?」
「え? あ⋯⋯えっと⋯⋯る、ルディウス⋯様⋯」
「そうだ。なかなか慣れないな」

 それから最近、奥様は旦那様をお名前でお呼びしようと頑張っていらっしゃる。
 ずっと〝公爵様〟呼びだったから難しいみたいだけど、恥ずかしそうにしながらもお名前を口にする奥様はとても可愛らしくて、旦那様も表情が緩んでいるのが傍目にも分かり何だか微笑ましい。
 旦那様、外では冷徹で恐ろしい方だと噂されているそうだけれど、このお姿を見て誰が信じるのかしら。どこからどう見ても〝超〟がつく愛妻家だわ。

「こ⋯⋯⋯ルディウス様」
「ん?」
「リーネさんにも、果物をあげてもいいですか?」
「ああ。アルシエの好きにするといい」

 私はお給仕はするもののそれ以外では気配を消して壁と同化していたのだけど、お優しい奥様が気にして旦那様に許可を取り嬉しそうにこちらを向いた。
 呼ばれては行かない訳にはいかない。

「何でございましょう、奥様」
「この果物、全部甘くて美味しいので、ぜひリーネさんも食べてください」
「とても嬉しいのですが、私などにはもったいないかと⋯」
「僕がリーネさんに食べていただきたいんです」

 真っ直ぐな目でそんなに嬉しい事を言われて断れるはずもなく。
 旦那様へと視線を向けたら頷かれたから、私は中腰になり奥様へと微笑んだ。

「ではお言葉に甘えて⋯」
「はい、どうぞ」

 いただこうかと思ったけど、生憎カトラリーはお二人分しかない。お行儀悪く指で摘む訳にもいかないしと考えてたら、奥様がにこやかに果物を刺したフォークを私の口元に差し出してきた。
 それに驚いたのは私だけではなく、旦那様も大きく目を見開いている。

「あ⋯えっと、奥様⋯」
「? ⋯あ、そっか。僕が口付けてるから⋯どうしよう」
「い、いえ、それは私としては重要ではないのですが⋯」

 主人が使っているフォークに私が口を付ける事は出来ないし、主人が手ずから食べさせるなんて本来なら有り得ない。
 奥様は貴族社会には触れて来られなかったから、親切心でこういう行動を取って下さった事も分かるだけに、私はどうしたらいいかと頭を悩ませる。
 いただくと言った手前、もうお断りは出来ないし⋯。
 中腰のまま固まっていたら、旦那様が仕方がないなと溜め息をついてフォークの先にある果物を指差した。

「リーネ、果物に歯を立てて引いてみろ」
「は、はい」

 なるほど、フォークに唇が触れないようにすれば良かったんだわ。さすがは旦那様、頭が柔らかくていらっしゃる。
 私は失礼しますと言って果物を歯で挟むと、潰れないよう慎重にフォークから抜き咀嚼する。本当に甘くて美味しいわ。

「ありがとうございます、奥様。とても美味しかったです」
「良かった。でもごめんなさい、困らせてしまいました⋯」
「いいえ、奥様のお気持ち嬉しかったですよ」

 悪気はなく、ただ純粋に私にも甘い果物をおすそ分けしてくださっただけ。それは奥様の優しさでしかないと私は分かっている。
 でも、次からは多めにカトラリーを用意した方がいいのかもしれない。
 私を見て僅かに微笑んだ奥様は新しい果物を召し上がろうとフォークに刺す。だけど口へ運ぼうとしたその手を、旦那様がそっと握った。
 目を瞬く奥様にお顔を近付け、反対の手でご自身のお口を指差す。

「アルシエ、私にも食べさせてくれないか」
「え? で、でも⋯ルディウス様はフォークが⋯」
「アルシエの手から食べたいんだ」

 だ、旦那様、もしかして私にヤキモチを?
 奥様は困惑しつつも果物の刺さったフォークを旦那様の口元へ寄せ首を傾げる。
 この世の中に恋人が食べさせ合う「あーん」というものがある事を奥様はご存知ないから、どうしてご自分の手から食べたがるのか不思議なんでしょうね。
 でも旦那様が嬉しそうだから「まぁいいか」って思ってるのが表情で分かる。
 旦那様はお礼を言って奥様の頬へ口付け、自分もお返しとばかりに果物をフォークに刺し奥様の口元へと運ぶけど⋯このお二人、今だに唇同士の口付けさえもしていない。
 決して旦那様が奥手なのではなく、あまりにも奥様が純粋だから旦那様が手を出せないって感じみたい。
 私は奥様より一つ年上なだけだけど、そんな旦那様も充分初心だと思うって言ったら⋯おじいちゃんはどんな反応をするのかしら。
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