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重なる心
公爵様⋯じゃなかった、ルディウス様と気持ちが通じ合って半年が経った。その間、本当にいろいろあって少し忙しかった気がする。
部屋の移動もそうだけど、誓婚証へのサイン、いいって言ったのに結婚式の衣装を新調して有名な画家さんに描いて貰ったり⋯僕の服も、温暖期用と寒冷期用でサイズを測り直して一新された。というより、身に着けるものが軒並み新しくなったと思う。
耳飾りやネックレスも、正式な場では着けないといけないからってたくさん買ってくれて、僕は公爵家の財政が心配で仕方ない。
だって、それより前に父様に金貨百枚渡してるのに。
それをリーネさんに言ったら、元々ルディウス様はお金を使われる事がなくて、そのほとんどは家や家具の維持費と、使用人へのお給金で出ていってたらしい。
夫人用資金があるとはいえ、いくらなんでも僕に使いすぎだと思う。
「奥様、少しずつ花が開いていっていますよ」
「本当だ。やっぱり魔力を注がれると、成長が早いんですね」
「どのような花が咲くのか楽しみですね」
「はい」
少し前、ルディウス様が花の種が植えられた小さな鉢を持ってきた。お城で咲く特別な花だそうで、王妃陛下が僕にとくださったと聞いて驚きのあまり固まってしまったのは仕方ないと思う。
でも同時に、それだけルディウス様への信頼が厚い事も分かって、僕も一層頑張ろうって思った。ルディウス様の隣にいても恥ずかしくないようにって。
バルコニーにあるプランターと鉢に水をあげてくれていたリーネさんは、花を見ながらふと首を傾げた。
「そういえば、旦那様は必ず種か鉢に植えられた植物を奥様に贈られますよね。花束も鮮やかでお綺麗ですのに」
「僕がだめなんです。根から切り離された花はもう話せませんから⋯もちろん、お花屋さんでその子たちが大事にされているのは分かっているんですけど、声が聞こえないとどうしても生きていないんだと思ってしまって⋯」
ただ、これをルディウス様に話した事はない。
それなのにルディウス様がくださる植物はどの子も〝生きて〟いて、きっと僕が話せるようにって選んでくれてるんだと思う。
ルディウス様は僕も、僕の気持ちも凄く大事にしてくれてた。
僕の話を聞いたリーネさんは納得したように頷き、指先で花弁に触れる。
「そうですよね、奥様にとってはお花はお友達ですものね。私も、お花や動物とお喋りしてみたかったです」
「何を言ってるかは伝えられますよ。みんなリーネさんが大好きですから、こうして触れてくれて嬉しいって言ってます」
「まぁ⋯ふふ、私も嬉しいです」
柔らかく笑うリーネさんに僕も笑顔になる。
いつの間にか普通に笑えるようになった。あんなに人の顔を見るのが怖かったのに、今はちゃんと目を合わせて話せる。
さすがに初対面の人は無理だけど⋯。
風に揺れる花を二人で眺めて平和だなーなんて和んでた僕は、このあとおおよそ自分の身には起こり得ない事が起きて前言撤回する事になる。
その日の夕方、何か考え込んだ様子で帰宅したルディウス様は、出迎えた僕を抱き締めるなり「凄く嫌だ」と呟いてそのまましばらく動かなくなった。
ルディウス様の腕が身体にしっかり回されてるから僕も動けなくて、オルウェンさんに言われてやっと手を離してくれたルディウス様はそのまま僕を連れて夕日の見えるバルコニーに移動すると、ベンチの方に並んで座り僕の肩を抱き寄せた。
何があったのか、何が嫌なのか、少しも分からなくて何も言えずにいたら、少ししてルディウス様がポツリと零す。
でも聞こえなかったから首を傾げつつ耳を傾けると、思ってもいなかった事を言われて僕は言葉を失った。
「⋯⋯⋯はい⋯?」
「⋯だからな、殿下が、君に会いたいとおっしゃっているんだ」
「ど、どうして⋯?」
「これまで色恋の気配すらなかった私が最愛だと謳う君がどんな人かと、ご興味を持たれたらしく⋯」
王太子殿下はいわば次期国王陛下。僕なんかがおいそれとお近付きになってもいいお方じゃない。
むしろお顔を見る事さえ恐れ多いのに。
呆然とする僕の頬に触れおでこへと口付けたルディウス様は何とも申し訳なさそうで、きっと僕の為にどうにかしようとしてくれたんだろうなって分かった。
いくらルディウス様が殿下から信頼されてるからってそんなのだめだ。
きっと殿下にとってルディウス様はとても大切な、それこそご友人とも言える方だろうから、そんなルディウス様の妻⋯夫? である僕がご挨拶しない訳にはいかない。
僕は覚悟を決めると、頬に触れるルディウス様の手を握って頷いた。
「あの、僕、殿下にお会いします」
「私は会って欲しくない」
「え」
せっかくした覚悟がへにょりと萎む。
ルディウス様と僕のおでこが合わせられ、鼻先が触れそうなほど近くなり黒曜石みたいな瞳が真っ直ぐに見つめてきた。
「殿下は、私など足元にも及ばないほど素晴らしいお方だ。そんな殿下を、私はとても尊敬していてお守りしたいと思っている」
「は、はい」
「だからこそ、君が殿下に惹かれたらと考えてしまうんだ」
「そ、そんな事は⋯ないと思います、けど⋯」
「分からないだろう? 私は君にずいぶんとひどい事をしてきた。それは一生かかっても許される事ではない。そんな私より殿下を選んでも仕方がないとは思うが⋯⋯私は君を失いたくないんだ」
出会った当初、ルディウス様は姉様が好きだった。だから代わりで来た僕に怒ったって無理はないって、僕自身も分かってる。
一生なんて、そこまで抱えなくてもいいのに。
「⋯あの⋯僕、ルディウス様を恨んだりしてないですよ⋯?」
「⋯⋯なぜ」
「当然だと思ってましたから」
「そんな訳ないだろう⋯君は、私がした事に対して怒るべきだ」
「⋯それは⋯したくない、です⋯」
考えてみれば、僕は今まで誰かに怒るとかした事ない。それにあれはもう終わった事だし、今となっては出来たとしてもする気は毛頭なかった。
ルディウス様はおでこを離し、怪訝そうな顔をして僕を見る。
今なら言えるかな。⋯⋯うん、言える気がする。
「ルディウス様に怒るのは⋯嫌、です⋯」
「どうして」
「⋯⋯る、ルディウス様が⋯⋯す、好き、なので⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
い、言えた⋯⋯肝心な部分は小さくなっちゃったけど、やっと言えた⋯!
ずっと言いたかったのに、いろいろ考えてるうちにタイミングを逃したりしてもう一生言えないんじゃないかって思ってたから。
一人嬉しさを噛み締めてると、不意にルディウス様の指が唇に触れ撫でてきた。
「? ルディウス様?」
「⋯ここに、口付けてもいいか?」
「え⋯⋯ぁ⋯ぅ⋯⋯は、い⋯」
く、唇同士でって思ったけど、僕だってそういう愛情表現があるのは知ってる。物語のお姫様だって、王子様の口付けで目を覚ましたりするし。
どぎまぎする僕にルディウス様はゆっくりと顔を近付け、そっと唇を触れ合わせた。
心臓がいつも以上にドキドキして落ち着かなくて、手も震えるけど全然嫌じゃない。
「⋯私も君が好きだよ」
「⋯⋯ルディウス、様⋯」
「愛してる」
低い声でそう囁いたルディウス様の唇がまた僕の唇と重なった。
不安はあるけど、どんな事があったって僕はルディウス様が好きだから、このままずっと傍にいられたらいいな。
もう何も、起こらないで欲しいって心から願ってる。
部屋の移動もそうだけど、誓婚証へのサイン、いいって言ったのに結婚式の衣装を新調して有名な画家さんに描いて貰ったり⋯僕の服も、温暖期用と寒冷期用でサイズを測り直して一新された。というより、身に着けるものが軒並み新しくなったと思う。
耳飾りやネックレスも、正式な場では着けないといけないからってたくさん買ってくれて、僕は公爵家の財政が心配で仕方ない。
だって、それより前に父様に金貨百枚渡してるのに。
それをリーネさんに言ったら、元々ルディウス様はお金を使われる事がなくて、そのほとんどは家や家具の維持費と、使用人へのお給金で出ていってたらしい。
夫人用資金があるとはいえ、いくらなんでも僕に使いすぎだと思う。
「奥様、少しずつ花が開いていっていますよ」
「本当だ。やっぱり魔力を注がれると、成長が早いんですね」
「どのような花が咲くのか楽しみですね」
「はい」
少し前、ルディウス様が花の種が植えられた小さな鉢を持ってきた。お城で咲く特別な花だそうで、王妃陛下が僕にとくださったと聞いて驚きのあまり固まってしまったのは仕方ないと思う。
でも同時に、それだけルディウス様への信頼が厚い事も分かって、僕も一層頑張ろうって思った。ルディウス様の隣にいても恥ずかしくないようにって。
バルコニーにあるプランターと鉢に水をあげてくれていたリーネさんは、花を見ながらふと首を傾げた。
「そういえば、旦那様は必ず種か鉢に植えられた植物を奥様に贈られますよね。花束も鮮やかでお綺麗ですのに」
「僕がだめなんです。根から切り離された花はもう話せませんから⋯もちろん、お花屋さんでその子たちが大事にされているのは分かっているんですけど、声が聞こえないとどうしても生きていないんだと思ってしまって⋯」
ただ、これをルディウス様に話した事はない。
それなのにルディウス様がくださる植物はどの子も〝生きて〟いて、きっと僕が話せるようにって選んでくれてるんだと思う。
ルディウス様は僕も、僕の気持ちも凄く大事にしてくれてた。
僕の話を聞いたリーネさんは納得したように頷き、指先で花弁に触れる。
「そうですよね、奥様にとってはお花はお友達ですものね。私も、お花や動物とお喋りしてみたかったです」
「何を言ってるかは伝えられますよ。みんなリーネさんが大好きですから、こうして触れてくれて嬉しいって言ってます」
「まぁ⋯ふふ、私も嬉しいです」
柔らかく笑うリーネさんに僕も笑顔になる。
いつの間にか普通に笑えるようになった。あんなに人の顔を見るのが怖かったのに、今はちゃんと目を合わせて話せる。
さすがに初対面の人は無理だけど⋯。
風に揺れる花を二人で眺めて平和だなーなんて和んでた僕は、このあとおおよそ自分の身には起こり得ない事が起きて前言撤回する事になる。
その日の夕方、何か考え込んだ様子で帰宅したルディウス様は、出迎えた僕を抱き締めるなり「凄く嫌だ」と呟いてそのまましばらく動かなくなった。
ルディウス様の腕が身体にしっかり回されてるから僕も動けなくて、オルウェンさんに言われてやっと手を離してくれたルディウス様はそのまま僕を連れて夕日の見えるバルコニーに移動すると、ベンチの方に並んで座り僕の肩を抱き寄せた。
何があったのか、何が嫌なのか、少しも分からなくて何も言えずにいたら、少ししてルディウス様がポツリと零す。
でも聞こえなかったから首を傾げつつ耳を傾けると、思ってもいなかった事を言われて僕は言葉を失った。
「⋯⋯⋯はい⋯?」
「⋯だからな、殿下が、君に会いたいとおっしゃっているんだ」
「ど、どうして⋯?」
「これまで色恋の気配すらなかった私が最愛だと謳う君がどんな人かと、ご興味を持たれたらしく⋯」
王太子殿下はいわば次期国王陛下。僕なんかがおいそれとお近付きになってもいいお方じゃない。
むしろお顔を見る事さえ恐れ多いのに。
呆然とする僕の頬に触れおでこへと口付けたルディウス様は何とも申し訳なさそうで、きっと僕の為にどうにかしようとしてくれたんだろうなって分かった。
いくらルディウス様が殿下から信頼されてるからってそんなのだめだ。
きっと殿下にとってルディウス様はとても大切な、それこそご友人とも言える方だろうから、そんなルディウス様の妻⋯夫? である僕がご挨拶しない訳にはいかない。
僕は覚悟を決めると、頬に触れるルディウス様の手を握って頷いた。
「あの、僕、殿下にお会いします」
「私は会って欲しくない」
「え」
せっかくした覚悟がへにょりと萎む。
ルディウス様と僕のおでこが合わせられ、鼻先が触れそうなほど近くなり黒曜石みたいな瞳が真っ直ぐに見つめてきた。
「殿下は、私など足元にも及ばないほど素晴らしいお方だ。そんな殿下を、私はとても尊敬していてお守りしたいと思っている」
「は、はい」
「だからこそ、君が殿下に惹かれたらと考えてしまうんだ」
「そ、そんな事は⋯ないと思います、けど⋯」
「分からないだろう? 私は君にずいぶんとひどい事をしてきた。それは一生かかっても許される事ではない。そんな私より殿下を選んでも仕方がないとは思うが⋯⋯私は君を失いたくないんだ」
出会った当初、ルディウス様は姉様が好きだった。だから代わりで来た僕に怒ったって無理はないって、僕自身も分かってる。
一生なんて、そこまで抱えなくてもいいのに。
「⋯あの⋯僕、ルディウス様を恨んだりしてないですよ⋯?」
「⋯⋯なぜ」
「当然だと思ってましたから」
「そんな訳ないだろう⋯君は、私がした事に対して怒るべきだ」
「⋯それは⋯したくない、です⋯」
考えてみれば、僕は今まで誰かに怒るとかした事ない。それにあれはもう終わった事だし、今となっては出来たとしてもする気は毛頭なかった。
ルディウス様はおでこを離し、怪訝そうな顔をして僕を見る。
今なら言えるかな。⋯⋯うん、言える気がする。
「ルディウス様に怒るのは⋯嫌、です⋯」
「どうして」
「⋯⋯る、ルディウス様が⋯⋯す、好き、なので⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
い、言えた⋯⋯肝心な部分は小さくなっちゃったけど、やっと言えた⋯!
ずっと言いたかったのに、いろいろ考えてるうちにタイミングを逃したりしてもう一生言えないんじゃないかって思ってたから。
一人嬉しさを噛み締めてると、不意にルディウス様の指が唇に触れ撫でてきた。
「? ルディウス様?」
「⋯ここに、口付けてもいいか?」
「え⋯⋯ぁ⋯ぅ⋯⋯は、い⋯」
く、唇同士でって思ったけど、僕だってそういう愛情表現があるのは知ってる。物語のお姫様だって、王子様の口付けで目を覚ましたりするし。
どぎまぎする僕にルディウス様はゆっくりと顔を近付け、そっと唇を触れ合わせた。
心臓がいつも以上にドキドキして落ち着かなくて、手も震えるけど全然嫌じゃない。
「⋯私も君が好きだよ」
「⋯⋯ルディウス、様⋯」
「愛してる」
低い声でそう囁いたルディウス様の唇がまた僕の唇と重なった。
不安はあるけど、どんな事があったって僕はルディウス様が好きだから、このままずっと傍にいられたらいいな。
もう何も、起こらないで欲しいって心から願ってる。
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※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。