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王太子殿下
目の前にはとてつもなく大きな建物がそびえ立っている。
壁は白く見えるけど、光の加減で虹色にも見えて何だか不思議な感じ。これもある種の魔法だったりするのかな。
ここには国王陛下と王妃陛下、王太子殿下、王女殿下が住まわれているから、もしかしたら守る為の魔法とかかかってるのかも。
王族も最高位の魔力を持つけど、守るのは魔術師とか兵士の役目だもんね。
「アルシエ、大丈夫か」
屋根のてっぺんが見えないくらい高いお城を見上げて呆けてたら、ルディウス様が心配そうに声をかけてきた。
瞬きを繰り返したあと視点を戻して頷いた僕は、それでも不安が勝ってルディウス様の外套の端を摘む。その手が取られて腕に添えるように移動させられた。
こういうエスコートは、慣れていないから照れ臭くなる。
門兵さんに通して貰い広くて綺麗な庭園を抜けて玄関ホールまで来た僕は、背の高い両開きの扉の前に立っている人を見て目を瞬いた。
「殿下直々にお出迎えとは、恐れ入ります」
「居ても立ってもいられなくてね。彼がルディウスの奥方かい?」
「⋯! お、王太子殿下に、ご、ご、ご挨拶、申し上げます⋯っ。えっと、あの⋯」
格好からして明らかに高貴な方だと思ったけど、本当に王太子殿下だった事に驚いて慌てて礼を取ったものの、ここからどう言えばいいのか分からなくて狼狽えてしまう。
ただ名前を言えばいいのか、ルディウス様の妻と名乗ってからの方がいいのか、頭の中がぐるぐるして考えられない。
このままじゃ不敬にあたると内心パニクってたら、ポンっと頭に何かが乗せられた。
「名前だけ教えてくれたらいいよ」
「殿下、お手を触れないでいただけますか」
「緊張を解してあげようとしたんだ」
「アルシエには逆効果です」
いつものようにルディウス様かと思ったら殿下の手で、パニックを通り越して真っ白になった僕をルディウス様が抱き締めてくれる。
えっと、殿下は何ておっしゃったっけ? 名前⋯そうだ、名前だけでいいって。でも名前ってフルネーム? 本当に名前だけ? この場合カーテシーっているの? 立場的には夫人とはいえ、僕、練習すらした事ないんだけど。
「アルシエ、難しく考えなくていい。殿下は多少の事はお気になさらない」
「そうそう。私の顔を見て、名前を言ってごらん」
ルディウス様が宥めるように背中を撫でてくれて、殿下も優しく声をかけてくださる。
ぎゅっと拳を握り深呼吸した僕は、ルディウス様の腕から抜けて殿下へと向かい合い、顔を上げて口を開いた。
「あ、アルシエ・ヴァン・リトルハイムです」
「私はクロード・ノール・ミラ・ゼルディアだ。よろしく、アルシエ」
「よ、よろしくお願い申し上げます⋯!」
もう何が正しい挨拶なのかは分からないけどとりあえず返さないといけないと思い、そう言ってまた頭を下げたのに頬が挟まれて顔を上げさせられる。
殿下のお綺麗な顔が間近にあり、声にならない悲鳴が上がった。
「今日は私が個人的にお願いした事だから、頭は下げなくていいよ」
「⋯は、はい⋯」
「アルシエは素直で可愛らしいね」
「殿下!」
殿下が気さくにしてくださるのは有り難いんだけど、距離が近くてまともに頭が働かない。僕、ちゃんと喋れてる?
僕に微笑みかける殿下に怒った声を上げるルディウス様と、それにクスクス笑いながら手を離す殿下。
お二人のやり取りに仲の良さを感じてまた僕を抱き込んだルディウス様を見上げたら、眉を吊り上げて殿下を見ていたのに気付いてくれて困ったように笑う。
これがお二人の日常なんだろうな。
その気兼ねのなさが、少しだけ羨ましい。
「確かに、変わった瞳の色だね」
談話室に通されたルディウス様と僕は殿下と話をしてたんだけど、いつからか僕の魔法と瞳の色の話になっていて、今は殿下に目を見せてたところだ。
ちなみに殿下の瞳の色は姉様と同じ青。だけど姉様よりは濃いから、魔力値的にはルディウス様に近いんだと思う。
「でも、アルシエに良く似合ってると思うよ。素敵だ」
「あ、ありがとう⋯ございます⋯」
「隙あらば口説くのやめていただけますか」
口説くというより、ルディウス様の反応を見て楽しんでるような⋯。それにしても、殿下でもどうしてこの色なのかは分からないんだ。
やっぱり僕がおかしいのかな。
「城に保管されている古い文献なら、何か分かるかもしれないね」
「お調べいただいてもよろしいですか?」
「いいよ。私も気になるから、すぐに調べさせる」
「ありがとうございます」
「それにしても⋯」
ルディウス様に手を引かれソファへと座った僕の腰をルディウス様が抱いてるんだけど、それを見た殿下が面白そうな笑みを浮かべて向かいへと腰を下ろした。
それと同時にルディウス様の手によってマドレーヌが口元へ寄せられ、僕は躊躇いつつも端を齧る。お屋敷ではこれにも慣れたけど、殿下の前だとさすがに恥ずかしい。
「何か?」
「いや、聞きしに勝る溺愛ぶりだと思って。お前のそんな姿、私は初めて見るぞ」
「そうでしょうね。私自身驚いていますから」
それは僕だって同じだ。
ルディウス様と初めて会った時は、こんな日が来るなんて欠片も思ってなかったし想像さえしてなかったんだから。
マドレーヌを食べ終え、紅茶の注がれたティーカップに口を付ける僕を四つの目が見てきて落ち着かない。何でそんなに見てくるんだろう。
「まぁでも、構いたくなる気持ちは分かるかな」
「手は出さないでください。私の妻なので」
「分かってる。私にも婚約者がいるんだからおかしな真似はしないよ。少しちょっかいは出すかもしれないけどね」
「殿下?」
本当に仲がいいなぁ。
お二人の会話を聞きながら、見られてる事には気付いていない振りをして少しずつ紅茶を飲んでいたら、不意に殿下に名前を呼ばれ僕は顔を上げた。
殿下は優雅に長い足を組み、優しい笑顔で首を傾げる。
「アルシエは、ルディウスが好きかい?」
唐突な質問に目を瞬いた僕だけど、それに対しての答えは何を考えなくても決まってる。
僕はカップを置き、ルディウス様の手を握るとこくりと頷いた。
「⋯はい、大好きです」
あれだけ言えないって悩んでた言葉は、一度口にしてしまえば案外すんなり出てくるようになった。まだルディウス様みたいにスマートには言えないけど、言葉にする事が何よりも大事だと思うんだ。
問い掛けの答えに満足したのか、殿下はにこっと笑うと「そう」と頷いた。
最初に自覚した時よりも気持ちは大きくなってて、こうして言葉にする以上の想いはあるんだけどそれがちゃんと伝わってればいいなって思う。
不安とか心配とかはかけたくないな。
壁は白く見えるけど、光の加減で虹色にも見えて何だか不思議な感じ。これもある種の魔法だったりするのかな。
ここには国王陛下と王妃陛下、王太子殿下、王女殿下が住まわれているから、もしかしたら守る為の魔法とかかかってるのかも。
王族も最高位の魔力を持つけど、守るのは魔術師とか兵士の役目だもんね。
「アルシエ、大丈夫か」
屋根のてっぺんが見えないくらい高いお城を見上げて呆けてたら、ルディウス様が心配そうに声をかけてきた。
瞬きを繰り返したあと視点を戻して頷いた僕は、それでも不安が勝ってルディウス様の外套の端を摘む。その手が取られて腕に添えるように移動させられた。
こういうエスコートは、慣れていないから照れ臭くなる。
門兵さんに通して貰い広くて綺麗な庭園を抜けて玄関ホールまで来た僕は、背の高い両開きの扉の前に立っている人を見て目を瞬いた。
「殿下直々にお出迎えとは、恐れ入ります」
「居ても立ってもいられなくてね。彼がルディウスの奥方かい?」
「⋯! お、王太子殿下に、ご、ご、ご挨拶、申し上げます⋯っ。えっと、あの⋯」
格好からして明らかに高貴な方だと思ったけど、本当に王太子殿下だった事に驚いて慌てて礼を取ったものの、ここからどう言えばいいのか分からなくて狼狽えてしまう。
ただ名前を言えばいいのか、ルディウス様の妻と名乗ってからの方がいいのか、頭の中がぐるぐるして考えられない。
このままじゃ不敬にあたると内心パニクってたら、ポンっと頭に何かが乗せられた。
「名前だけ教えてくれたらいいよ」
「殿下、お手を触れないでいただけますか」
「緊張を解してあげようとしたんだ」
「アルシエには逆効果です」
いつものようにルディウス様かと思ったら殿下の手で、パニックを通り越して真っ白になった僕をルディウス様が抱き締めてくれる。
えっと、殿下は何ておっしゃったっけ? 名前⋯そうだ、名前だけでいいって。でも名前ってフルネーム? 本当に名前だけ? この場合カーテシーっているの? 立場的には夫人とはいえ、僕、練習すらした事ないんだけど。
「アルシエ、難しく考えなくていい。殿下は多少の事はお気になさらない」
「そうそう。私の顔を見て、名前を言ってごらん」
ルディウス様が宥めるように背中を撫でてくれて、殿下も優しく声をかけてくださる。
ぎゅっと拳を握り深呼吸した僕は、ルディウス様の腕から抜けて殿下へと向かい合い、顔を上げて口を開いた。
「あ、アルシエ・ヴァン・リトルハイムです」
「私はクロード・ノール・ミラ・ゼルディアだ。よろしく、アルシエ」
「よ、よろしくお願い申し上げます⋯!」
もう何が正しい挨拶なのかは分からないけどとりあえず返さないといけないと思い、そう言ってまた頭を下げたのに頬が挟まれて顔を上げさせられる。
殿下のお綺麗な顔が間近にあり、声にならない悲鳴が上がった。
「今日は私が個人的にお願いした事だから、頭は下げなくていいよ」
「⋯は、はい⋯」
「アルシエは素直で可愛らしいね」
「殿下!」
殿下が気さくにしてくださるのは有り難いんだけど、距離が近くてまともに頭が働かない。僕、ちゃんと喋れてる?
僕に微笑みかける殿下に怒った声を上げるルディウス様と、それにクスクス笑いながら手を離す殿下。
お二人のやり取りに仲の良さを感じてまた僕を抱き込んだルディウス様を見上げたら、眉を吊り上げて殿下を見ていたのに気付いてくれて困ったように笑う。
これがお二人の日常なんだろうな。
その気兼ねのなさが、少しだけ羨ましい。
「確かに、変わった瞳の色だね」
談話室に通されたルディウス様と僕は殿下と話をしてたんだけど、いつからか僕の魔法と瞳の色の話になっていて、今は殿下に目を見せてたところだ。
ちなみに殿下の瞳の色は姉様と同じ青。だけど姉様よりは濃いから、魔力値的にはルディウス様に近いんだと思う。
「でも、アルシエに良く似合ってると思うよ。素敵だ」
「あ、ありがとう⋯ございます⋯」
「隙あらば口説くのやめていただけますか」
口説くというより、ルディウス様の反応を見て楽しんでるような⋯。それにしても、殿下でもどうしてこの色なのかは分からないんだ。
やっぱり僕がおかしいのかな。
「城に保管されている古い文献なら、何か分かるかもしれないね」
「お調べいただいてもよろしいですか?」
「いいよ。私も気になるから、すぐに調べさせる」
「ありがとうございます」
「それにしても⋯」
ルディウス様に手を引かれソファへと座った僕の腰をルディウス様が抱いてるんだけど、それを見た殿下が面白そうな笑みを浮かべて向かいへと腰を下ろした。
それと同時にルディウス様の手によってマドレーヌが口元へ寄せられ、僕は躊躇いつつも端を齧る。お屋敷ではこれにも慣れたけど、殿下の前だとさすがに恥ずかしい。
「何か?」
「いや、聞きしに勝る溺愛ぶりだと思って。お前のそんな姿、私は初めて見るぞ」
「そうでしょうね。私自身驚いていますから」
それは僕だって同じだ。
ルディウス様と初めて会った時は、こんな日が来るなんて欠片も思ってなかったし想像さえしてなかったんだから。
マドレーヌを食べ終え、紅茶の注がれたティーカップに口を付ける僕を四つの目が見てきて落ち着かない。何でそんなに見てくるんだろう。
「まぁでも、構いたくなる気持ちは分かるかな」
「手は出さないでください。私の妻なので」
「分かってる。私にも婚約者がいるんだからおかしな真似はしないよ。少しちょっかいは出すかもしれないけどね」
「殿下?」
本当に仲がいいなぁ。
お二人の会話を聞きながら、見られてる事には気付いていない振りをして少しずつ紅茶を飲んでいたら、不意に殿下に名前を呼ばれ僕は顔を上げた。
殿下は優雅に長い足を組み、優しい笑顔で首を傾げる。
「アルシエは、ルディウスが好きかい?」
唐突な質問に目を瞬いた僕だけど、それに対しての答えは何を考えなくても決まってる。
僕はカップを置き、ルディウス様の手を握るとこくりと頷いた。
「⋯はい、大好きです」
あれだけ言えないって悩んでた言葉は、一度口にしてしまえば案外すんなり出てくるようになった。まだルディウス様みたいにスマートには言えないけど、言葉にする事が何よりも大事だと思うんだ。
問い掛けの答えに満足したのか、殿下はにこっと笑うと「そう」と頷いた。
最初に自覚した時よりも気持ちは大きくなってて、こうして言葉にする以上の想いはあるんだけどそれがちゃんと伝わってればいいなって思う。
不安とか心配とかはかけたくないな。
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※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。