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王女殿下からのお誘い
僕の目の前にはいい香りのする紅茶と、数種類の焼き菓子が乗ったケーキスタンド。それからフルーツ盛りだくさんの美味しそうなタルトケーキがあって、取り皿もカトラリーも二人分置かれてる。
そのさらに向こうにはどうしてかアンジェラ王女殿下がいらして、僕は椅子に座ってから二十分経った今でも現状を理解出来ないでいた。
時間は数日前に遡ってリトルハイム公爵家。
ルディウス様が改装してくれた僕専用のバルコニーで本を読んでいた僕は、慌てた様子でやってきたメイドさんから封筒が渡され首を傾げた。
前面には僕の名前が書かれてて、裏に返した僕はギョッとする。
封筒を閉じている蝋には、王家の紋が押されていたから。
「り、リーネさん⋯」
「王女殿下のお名前が記入されていますね」
「何で⋯」
も、もしかしてルディウス様と別れなさいとか書いてあったりする? それとも公爵家に相応しくないから出て行きなさいとか?
何が書いてあるのか怖くて開けられなくて、リーネさんに渡したら困ったように微笑んでペーパーナイフで封を切ってくれた。
僕の代わりに目を通したあとクスリと笑う。
「?」
「王女殿下からお茶会へのご招待、ですね」
「⋯⋯え」
「奥様とお話がしてみたいそうです」
お茶会なんて一番縁がないと思ってたのに、まさか初めてのお誘いが王女様からなんて⋯というか、どうして僕?
「やっぱりルディウス様には不釣り合いだから⋯」
「そのような事は断じてございません。奥様は素晴らしいお方です」
そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、周りの人たちからの見られ方って分からないから王女様が僕をどう思っているのか正直不安だ。
以前お会いした時は怖い顔をしていたし、気に食わないって思われてもおかしくない。
「王女殿下直々のご招待ですのでお断りは出来ませんが、当日はとびきりお洒落をしてお城に行きましょうね」
「僕がお洒落をしても⋯」
「着飾った奥様はきっととっても可愛いですよ。あ、そうだわ。旦那様に髪飾りだけでもご用意していただかなくては」
「え!? ま、待って⋯新しいのは⋯っ」
「旦那様のお色も入れていただきましょうね」
ただでさえ貰ってばかりなのにまた新しい物なんてとんでもないって止めようとしたのに、リーネさんは凄くにこにこしてて首を振っても聞いてくれなかった。
でも、身に着ける物にルディウス様の色が入るのは嬉しいかも。
そうして今を迎えてるんだけど、実は目の前の王女様より周りを囲む庭園や生け垣が気になってた。さすが王家のお庭。広くて綺麗で、花たちまで上品に感じる。
このガゼボの柱にも蔦が巻き付いていて、ところどころに花を咲かせてるから賑やかな声が聞こえてきてた。
「そう緊張しなくていいわよ。話したかったのは本当だから」
「あ⋯は、はい⋯」
落ち着きなく視線をあちこちに向けてたら、不意に王女様がそう言ってカップを置いた。ソーサーの縁を指でなぞり、ふうと息を吐く。
今この場には本当に僕と王女様しかいなくて、お給仕してくれたメイドさんも護衛さんも今は離れてた。そこまで信用して貰えるのは嬉しいけど、お城の人たちからしたら得体が知れないから気が気じゃないだろうな。
「ねぇ、アルシエ⋯だったわよね」
「は、はい⋯っ」
「一つ、聞きたい事があるのだけど」
「⋯な、何でしょう⋯?」
〝言いたい事〟じゃなくて〝聞きたい事〟と言われ、僕は少しだけ拍子抜けしてしまった。
膝に置いたままの手を緩く握り王女様の言葉を待つ。
「あなた、どうやってルディウスの心を掴んだの?」
「⋯⋯⋯はい?」
一瞬、僕の耳がおかしくなったのかと思った。
何を聞かれるんだろうって身構えてたんだけど、あまりにも予想外過ぎてポカンとする僕に王女様はもう一度同じ事を聞いてくる。
どうやってと言われても⋯。
「だって、ルディウスはどんなに綺麗なご令嬢からのお誘いでも、首を縦に振らない人だったのよ? しかも最初は、あのセレーナに心を奪われていたって言うじゃない。でも今はあなたを選んでる。どうして?」
「⋯あの⋯僕も⋯どうしてルディウス様が僕を好きになってくださったのか⋯分からないんです⋯」
「分からない? 何かしたとかではないの?」
「ご迷惑しか⋯かけてないかと⋯」
僕のどこが姉様より良いと思って貰えたのかさっぱり分からない。
俯いてばかりで話すのも下手だし、今でこそ笑えるようにはなったけどにこりともしなかったのに。本当にどうしてルディウス様は僕を好きになってくれたんだろう。
困り果て言葉に詰まる僕に王女様も戸惑い、ご自分の前に置かれていたケーキを僕の方へと寄せてくれた。
「まぁ、あなたに素敵なところがあるからルディウスも好きになったんだろうし、そう気落ちしなくてもいいんじゃない? ほら、このケーキ美味しいわよ。食べなさい」
「あ、ありがとうございます」
王女様に気を遣わせてしまった。
僕はせっかくだしと有り難くいただく事にし、フォークを手に取ってケーキへと刺す。
これでもかってくらい果物が乗ってるから掬いにくいけど、零れてもいいようお皿ごと持ち上げて食べると爽やかな香りが鼻から抜けた。
王女様の言う通り凄く美味しい。
「ね、美味しいでしょ?」
テーブルに両肘をつき組んだ手の上に顎を乗せた王女様に聞かれ、まだ咀嚼中の僕は失礼とは思いつつ何度も頷く。
それを見て柔らかく微笑んだ王女様は目を伏せると、テーブルの上に飾られた花を指先でつついた。あの花は茎の部分で切られてるから話は出来なくて、今はテーブルを彩る一部になってる。
その様子を何となく見てたら、不意に王女様が視線を上げて僕の方を向いた。
「アルシエ、少し庭園を散歩しない?」
それは僕にとっては願ってもいないお誘いで、一も二もなく頷いたのは言うまでもない。
そのさらに向こうにはどうしてかアンジェラ王女殿下がいらして、僕は椅子に座ってから二十分経った今でも現状を理解出来ないでいた。
時間は数日前に遡ってリトルハイム公爵家。
ルディウス様が改装してくれた僕専用のバルコニーで本を読んでいた僕は、慌てた様子でやってきたメイドさんから封筒が渡され首を傾げた。
前面には僕の名前が書かれてて、裏に返した僕はギョッとする。
封筒を閉じている蝋には、王家の紋が押されていたから。
「り、リーネさん⋯」
「王女殿下のお名前が記入されていますね」
「何で⋯」
も、もしかしてルディウス様と別れなさいとか書いてあったりする? それとも公爵家に相応しくないから出て行きなさいとか?
何が書いてあるのか怖くて開けられなくて、リーネさんに渡したら困ったように微笑んでペーパーナイフで封を切ってくれた。
僕の代わりに目を通したあとクスリと笑う。
「?」
「王女殿下からお茶会へのご招待、ですね」
「⋯⋯え」
「奥様とお話がしてみたいそうです」
お茶会なんて一番縁がないと思ってたのに、まさか初めてのお誘いが王女様からなんて⋯というか、どうして僕?
「やっぱりルディウス様には不釣り合いだから⋯」
「そのような事は断じてございません。奥様は素晴らしいお方です」
そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、周りの人たちからの見られ方って分からないから王女様が僕をどう思っているのか正直不安だ。
以前お会いした時は怖い顔をしていたし、気に食わないって思われてもおかしくない。
「王女殿下直々のご招待ですのでお断りは出来ませんが、当日はとびきりお洒落をしてお城に行きましょうね」
「僕がお洒落をしても⋯」
「着飾った奥様はきっととっても可愛いですよ。あ、そうだわ。旦那様に髪飾りだけでもご用意していただかなくては」
「え!? ま、待って⋯新しいのは⋯っ」
「旦那様のお色も入れていただきましょうね」
ただでさえ貰ってばかりなのにまた新しい物なんてとんでもないって止めようとしたのに、リーネさんは凄くにこにこしてて首を振っても聞いてくれなかった。
でも、身に着ける物にルディウス様の色が入るのは嬉しいかも。
そうして今を迎えてるんだけど、実は目の前の王女様より周りを囲む庭園や生け垣が気になってた。さすが王家のお庭。広くて綺麗で、花たちまで上品に感じる。
このガゼボの柱にも蔦が巻き付いていて、ところどころに花を咲かせてるから賑やかな声が聞こえてきてた。
「そう緊張しなくていいわよ。話したかったのは本当だから」
「あ⋯は、はい⋯」
落ち着きなく視線をあちこちに向けてたら、不意に王女様がそう言ってカップを置いた。ソーサーの縁を指でなぞり、ふうと息を吐く。
今この場には本当に僕と王女様しかいなくて、お給仕してくれたメイドさんも護衛さんも今は離れてた。そこまで信用して貰えるのは嬉しいけど、お城の人たちからしたら得体が知れないから気が気じゃないだろうな。
「ねぇ、アルシエ⋯だったわよね」
「は、はい⋯っ」
「一つ、聞きたい事があるのだけど」
「⋯な、何でしょう⋯?」
〝言いたい事〟じゃなくて〝聞きたい事〟と言われ、僕は少しだけ拍子抜けしてしまった。
膝に置いたままの手を緩く握り王女様の言葉を待つ。
「あなた、どうやってルディウスの心を掴んだの?」
「⋯⋯⋯はい?」
一瞬、僕の耳がおかしくなったのかと思った。
何を聞かれるんだろうって身構えてたんだけど、あまりにも予想外過ぎてポカンとする僕に王女様はもう一度同じ事を聞いてくる。
どうやってと言われても⋯。
「だって、ルディウスはどんなに綺麗なご令嬢からのお誘いでも、首を縦に振らない人だったのよ? しかも最初は、あのセレーナに心を奪われていたって言うじゃない。でも今はあなたを選んでる。どうして?」
「⋯あの⋯僕も⋯どうしてルディウス様が僕を好きになってくださったのか⋯分からないんです⋯」
「分からない? 何かしたとかではないの?」
「ご迷惑しか⋯かけてないかと⋯」
僕のどこが姉様より良いと思って貰えたのかさっぱり分からない。
俯いてばかりで話すのも下手だし、今でこそ笑えるようにはなったけどにこりともしなかったのに。本当にどうしてルディウス様は僕を好きになってくれたんだろう。
困り果て言葉に詰まる僕に王女様も戸惑い、ご自分の前に置かれていたケーキを僕の方へと寄せてくれた。
「まぁ、あなたに素敵なところがあるからルディウスも好きになったんだろうし、そう気落ちしなくてもいいんじゃない? ほら、このケーキ美味しいわよ。食べなさい」
「あ、ありがとうございます」
王女様に気を遣わせてしまった。
僕はせっかくだしと有り難くいただく事にし、フォークを手に取ってケーキへと刺す。
これでもかってくらい果物が乗ってるから掬いにくいけど、零れてもいいようお皿ごと持ち上げて食べると爽やかな香りが鼻から抜けた。
王女様の言う通り凄く美味しい。
「ね、美味しいでしょ?」
テーブルに両肘をつき組んだ手の上に顎を乗せた王女様に聞かれ、まだ咀嚼中の僕は失礼とは思いつつ何度も頷く。
それを見て柔らかく微笑んだ王女様は目を伏せると、テーブルの上に飾られた花を指先でつついた。あの花は茎の部分で切られてるから話は出来なくて、今はテーブルを彩る一部になってる。
その様子を何となく見てたら、不意に王女様が視線を上げて僕の方を向いた。
「アルシエ、少し庭園を散歩しない?」
それは僕にとっては願ってもいないお誘いで、一も二もなく頷いたのは言うまでもない。
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。