身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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伝えたい言葉

 王女様と一緒に庭園を歩いている僕は、色んなところからかかる声に反応していいのか分からず戸惑っていた。
 僕が動物や植物と話せる事を王太子殿下はご存知だけど王女様まで伝わっているかは定かじゃなくて、しかもちょっと離れたところに護衛の騎士様もいらっしゃるから迂闊な事は出来ない。
 王女様にまで気味が悪いって思われたらショックだし。

「見て、アルシエ」

 一生懸命話しかけてくれる花たちを見て申し訳なさでいっぱいになってたら少し開けた場所に出て、先を歩いていた王女様が振り向いて片手を広げた。
 噴水を中心に三方向に道があって、そ区切るように花壇が置かれてるんだけど、王女様が示した場所には真っ白な花がたくさん咲いていて、日に当たってキラキラしてる。
 初めて見る子たちだけど、お城の庭園にだけ咲く花なのかな。

「素敵でしょう? お兄様が、私の十五の誕生日に植えてくれた私だけの花なの。私をイメージして、著名な植物学者に作らせたんですって」
「凄く綺麗です⋯白というより、プラチナに見えますね」
「そうなの。この色を出すのに、なかなか苦戦したらしいわ。だから私にとって、この花はとても大切でとても特別」

 マーディンさん曰く、花の交配って珍しい色ほど難しいらしくて、光の加減でプラチナに見える花なんて相当苦労しただろうなって思う。
 成長させるのに魔法は効くけど、色ばかりは花の種類とかやり方によるらしいから。
 でもそれを妹の為にって⋯王太子殿下は優しいお兄さんだな。
 風に揺れる花を眺めてたら、王女様から「ねぇ」と声をかけられた。

「教えて、アルシエ。この花は、どんな話をしているの?」
「⋯⋯ぇ⋯」

 凄く自然に聞かれて、僕の心臓が一瞬ぎゅっとなった。
 王女様がこっちを振り返ろうとしてるのが分かり、向けられる視線が怖くて俯いたらクスリと笑われる。

「怖がらなくても大丈夫よ。⋯私ね、あなたが植物と話せるって聞いて嬉しかったの。せっかくお兄様からいただいたのに私には花を育てる知識もなくて、今でも庭師が面倒を見てくれている。せめて花の気持ちが分かれば、私でも上手にお世話が出来るのではないかしらってずっと思ってたから⋯⋯お願い、アルシエ。この子たちは今、何を思ってるの?」

 王太子殿下もそうだったけど、王女様も知ってて普通に接してくれたんだ。しかも王女様は嬉しかったって⋯⋯僕が植物と話せる事に対して、そう言ってくれた人は初めて。
 でもその理由はとても素敵で、僕は花たちへ視線を向けると近付いて花壇の前にしゃがみ込んだ。じっと花たちの言葉に耳を傾ける。

「⋯⋯花たちは、王女様が来てくださった事をとても喜んでいます」
「本当?」
「はい。毎日話しかけてくれて嬉しいって⋯大切にしてくれてありがとうって言ってますよ」
「そう⋯⋯良かった」

 王女様の花たちはとても上品で、柔らかな声で僕にどれだけ王女様が好きかを教えてくれる。例え庭師さんがお世話をしてくれてるのを眺めてるだけだとしても、大切だと思う気持ちがあれば花たちは分かってくれるから。
 庭園の花はどの子も綺麗に咲いてるけど、王女様の花は一際輝いてるのが証拠だ。

「王女様がくれる魔力はとても心地よくて、そのおかげでこうして綺麗に咲けてるって⋯みんな、王女様が大好きって言ってます」
「⋯⋯嬉しい⋯」

 ぽつりと零れた言葉に僕も花たちも温かい気持ちになった。
 こんなに大切に思ってるんだから、せめてこの子たちの声だけでも王女様に届いたらいいのに。
 本当に聞きたい人が聞けないのはもったいないよ。

「ありがとう、アルシエ。私の花なのに出来る事が少なくて落ち込んでたけど、今の言葉を聞いて、私に出来る事でこの子たちを大切なすればいいんだって思えたわ。あなたのおかげよ、アルシエ」
「いえ、僕は花たちの声をお伝えしただけなので⋯」
「素敵な魔法ね。⋯ねぇ、聞きたくなったらまた教えてくれる?」
「も、もちろんです」

 両手を握られて柔らかな微笑みと共にそう言われ、その美しさにドキドキしながら僕は何度も頷く。
 姉様は天使みたいって言われてたけど、王女様は女神様みたいに綺麗。
 それに素敵な魔法なんて⋯そう思ってくれる王女様の方が素敵だ。 

「ふふ、ルディウスがあなたに惹かれた理由、何となく分かった気がするわ」
「え?」
「見なよルディウス。可愛い子が二人、楽しそうに話してる」
「⋯⋯⋯」

 そういえば最初はそんな話をしてたっけと目を瞬いてたら、足音と共にそんな声が聞こえて王女様と僕とで振り向く。花壇の間の道から王太子殿下とルディウス様が歩いて来てるんだけど、笑顔の殿下とは逆にルディウス様の表情は険しい。
 僕が何か粗相をして怒ってるのかと思ったら、殿下を置いて傍まできたルディウス様が僕の肩を抱いて後ろへと引いた。必然的に王女様の手が離れる。

「あら、ルディウス。せっかくアルシエとお喋りしていたのに」
「距離が近過ぎます。あと、私の許可なく触れないでいただきたい」
「⋯⋯男の嫉妬はみっともないわよ、ルディウス」
「何とでもおっしゃってください」

 怒ってるんじゃなくて、王女様にヤキモチを妬いてたんだ。
 ホッとすると同時に嬉しくて、ルディウス様の手を握ったら王女様が「あらあら」と言いながら微笑む。

「ところでルディウス、どうしてここにいるの?」
「アルシエを迎えに。途中で殿下に捕まってしまいましたが」
「私もアルシエの顔が見たくてね」
「何度も言いますが、私の妻ですからね?」
「もちろん分かってるよ」

 一気に賑やかになって、ルディウス様と殿下がテンポよく会話をする様子を眺めてると、王女様がこっそり近付いてきて僕の肩をとんとんと叩いた。

「アルシエ、私とお友達になりましょう?」
「え⋯⋯ええ!? ぼ、僕がですか!? そんな恐れ多い⋯っ」
「あら、拒否権はないわよ。だから、いつでもお城に遊びに来てね」

 疑問形だったのに問答無用とはこれいかに⋯。
 さすがに友達は身分的にもと助けを求めてルディウス様を見上げたら、優しく微笑まれて額に口付けられた。

「良かったな、アルシエ」
「る、ルディウス様⋯」
「あ、私の事はアンジェラって呼ぶのよ? 王女様は禁止」
「いいね。なら私も、クロードと呼んで貰おうかな」

 あまりにもあまりな出来事に僕は気を失いそうで、三人の視線から逃げるようにルディウス様の外套へと潜り込んだ。
 人間の友達なんていた事ないのに、初めてが王女様なんて贅沢過ぎる。
 ⋯⋯でも花たちの言葉だけはこれからも王女様に届けてあげたいな。
 なんて考えてる僕を三人がほのぼのと見てる事は、ルディウス様の背中に隠れておかげで気付かなかった。気付いてたらきっと、まともに顔が上げられなかっただろうから。
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