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アルシエの魔法(ルディウス視点)
どうしても私の手が必要だとダリスに呼ばれ、アルシエの傍を離れなければいけなくなった時は不安と心配があったが、クロード殿下とアンジェラ王女が傍にいてくださったおかげで何事もなかったようだ。
ただ、アルシエに対して何かしらを働いたらしい奴はいるようで、パーティが終わるまでさり気なく捜していたのだが終ぞ見つける事は出来なかった。
いらぬ事を言ったなら、その口を焼いて二度ときけなくしてやろうと思ったのに。
それにしたって、アルシエは王族から好かれ過ぎじゃないか?
殿下に始まりアンジェラ王女、果ては王妃様にまで。陛下はアルシエと言葉こそ交わされなかったが、私にどんな子なのかと聞いてくるほどにはご興味を持たれているし。
アルシエは素直で控えめで愛らしいから好意を持つのも分かるが、私の知らないところで関わりを増やそうとするのはやめて欲しい。特に王女はしょっちゅうアルシエをティータイムに誘っているようだし。
今日もそうだ。私が殿下に呼び出されたのをいい事にアルシエを同行させ、いそいそと庭へと連れて行ったのだから。
「私が相手ではそんなに不満か、ルディウス」
「⋯いえ、滅相もございません」
「顔が物語っているよ。アンジェラは花たちの言葉を聞きたくてアルシエを呼んでいるんだ。許してやってくれ」
「アルシエ本人が喜んで応えているので構いませんが、もう少し頻度を下げるよう伝えていただけませんか? 私の手が空いても、アルシエがいないなら意味がないのですから」
「分かった分かった。呼び出しは控えるよう伝えておくよ」
とはいえ、妹君には甘い殿下である。きっと本当に伝えるだけだろう。
一応念押しで「頼みましたよ」と言えば苦笑されたが、気を取り直した殿下は懐から一冊の古びた本を取り出しテーブルへと置いた。
「これはこの世界が創られた頃の伝承が載った文献であり、古い故にその信憑性は怪しいけど⋯読んで驚いたよ。アルシエとまったく同じ力を持つ者が遙か昔にいた」
「! 本当ですか!?」
私の知る限り、誰も持っていない瞳の色と魔法をなぜアルシエが持っているのかは気になっていた。悪い魔法ではないし、わざわざ調べる事でもないとは思うが、理由があるなら知りたかったのだ。
もし良くない理由なら、どうにかしたかったというのもあるしな。
だが、創世記にまで遡るのは予想外だった。
「どんな人物がその力を⋯?」
「この世界を作りし女神だ」
「⋯⋯はい?」
一瞬、殿下が何をおっしゃっているのか分からなかった。文献を読み過ぎて頭がおかしくなったのかと。
だが殿下は文献を開くと、とあるページで止め指を差した。
そこには、『紅水晶を思わせる色の瞳を持つ美しき女神は、植物や動物たちと言葉を交わしながらこの世界を広げていった』とある。
紅水晶は私が初めてアルシエに贈ったものであり、アルシエの瞳の色と同じだからと選んだのだが⋯まさしく、これに書かれている女神と同じだ。
「なぜ⋯」
「一番有力なのは、アルシエが女神の生まれ変わりという考察かな」
「そんな事が有り得るんですか?」
「女神だって輪廻転生の輪に入りたくなる時だってあるだろう」
女神の気持ちは女神にしか分からないとはいえ、仮に生まれ変わりだとしても魔法を継ぐ必要はなかったと思うのだが。
あの力のせいで、アルシエは辛い思いをしたというのに。
「女神でいる事に飽きて、人間世界を生きてみたいと思ったのかもしれないね。そうして生まれたのが、おそらくアルシエなんだろう」
「この世界の理に倣って生まれていれば⋯」
「だが、そうしたらルディウスとアルシエは出会っていなかったかもしれないよ」
「⋯⋯⋯」
アルシエがマルグリアの次期当主として暮らせていたなら、私たちの世界線が交わる事はおそらくないはずだ。当主同士、挨拶はしてもそれまで。
セレーナとの出会いは変わらなかったかもしれないが、ここまでの幸せは得られなかっただろうな。こんなにも穏やかな気持ちでいられるのはアルシエがいるからだ。
だが、やはりアルシエの境遇を思えば素直には喜べない。
「アルシエの過去を塗り潰せるくらい、ルディウスが幸せにしてあげればいいんだよ」
「それはもちろん」
「もし本当に生まれ変わりだとしてもアルシエはアルシエだから、この事は私とルディウスで留めておこうか。特に、女神を信仰する教団にはバレないように」
「はい」
教会連中は悪い者たちではないが、如何せん信仰に篤く融通が効かないところがある。転生だと断定しなくとも、アルシエが敬愛する女神と同じ力を持っていると分かれば私の妻だろうと攫って生き神とするのだろう。
そんな事をすれば、陛下の許可など得ず燃やし尽くしてやるがな。
「アルシエの魔法は優しさの塊だ。気にせず、今まで通りでいればいい」
「そうですね」
アルシエは他者に優しく、例え自分を傷付けた相手でも本心から嫌いにはなれない。父親の事もセレーナの事も、怖いという気持ちはあっても今だに家族だと思っている。
せめて恨み言くらい零してくれれば、私も多少は強気に出られるんだが。
「ああそうだ、ルディウス。これをアルシエに渡してくれるか?」
それにしても女神の生まれ変わりかもしれないとは、世の中には不思議な事もあるものだ。そう感心していたら、殿下がテーブルに置いていた小袋を手に取り私の前へと置いた。
持ち上げてみると軽く、振れば微かな音がする。
「これは?」
「花の種だ。どんな花かは咲けば分かる」
「ありがとうございます。アルシエが喜びます」
物欲のないアルシエが手放しで喜ぶ物は種か、すでに植物が植えられている鉢だからこれは素直に受け取ってくれるだろう。
そういえば、もうすぐアルシエの花壇にスペースがなくなりそうだとマーディンが言っていたな。木を別の場所に植え替え、範囲を広げるよう手配するか。
伐採だけは、アルシエの事を考えるとしたくはないからな。
「さて、そろそろルディウスにアルシエを返してやらないと」
「お庭のガゼボですよね?」
「いや、今はアンジェラお気に入りのバルコニーに移動しているよ」
王女お気に入りの場所とは⋯アルシエは相当、王女に気に入られているんだな。
殿下が腰を上げられ私もそれに倣い、談話室を出てバルコニーへと向かう。
今日はあまり話せなかった分、帰ったら存分にアルシエを甘やかしてやるか。
ただ、アルシエに対して何かしらを働いたらしい奴はいるようで、パーティが終わるまでさり気なく捜していたのだが終ぞ見つける事は出来なかった。
いらぬ事を言ったなら、その口を焼いて二度ときけなくしてやろうと思ったのに。
それにしたって、アルシエは王族から好かれ過ぎじゃないか?
殿下に始まりアンジェラ王女、果ては王妃様にまで。陛下はアルシエと言葉こそ交わされなかったが、私にどんな子なのかと聞いてくるほどにはご興味を持たれているし。
アルシエは素直で控えめで愛らしいから好意を持つのも分かるが、私の知らないところで関わりを増やそうとするのはやめて欲しい。特に王女はしょっちゅうアルシエをティータイムに誘っているようだし。
今日もそうだ。私が殿下に呼び出されたのをいい事にアルシエを同行させ、いそいそと庭へと連れて行ったのだから。
「私が相手ではそんなに不満か、ルディウス」
「⋯いえ、滅相もございません」
「顔が物語っているよ。アンジェラは花たちの言葉を聞きたくてアルシエを呼んでいるんだ。許してやってくれ」
「アルシエ本人が喜んで応えているので構いませんが、もう少し頻度を下げるよう伝えていただけませんか? 私の手が空いても、アルシエがいないなら意味がないのですから」
「分かった分かった。呼び出しは控えるよう伝えておくよ」
とはいえ、妹君には甘い殿下である。きっと本当に伝えるだけだろう。
一応念押しで「頼みましたよ」と言えば苦笑されたが、気を取り直した殿下は懐から一冊の古びた本を取り出しテーブルへと置いた。
「これはこの世界が創られた頃の伝承が載った文献であり、古い故にその信憑性は怪しいけど⋯読んで驚いたよ。アルシエとまったく同じ力を持つ者が遙か昔にいた」
「! 本当ですか!?」
私の知る限り、誰も持っていない瞳の色と魔法をなぜアルシエが持っているのかは気になっていた。悪い魔法ではないし、わざわざ調べる事でもないとは思うが、理由があるなら知りたかったのだ。
もし良くない理由なら、どうにかしたかったというのもあるしな。
だが、創世記にまで遡るのは予想外だった。
「どんな人物がその力を⋯?」
「この世界を作りし女神だ」
「⋯⋯はい?」
一瞬、殿下が何をおっしゃっているのか分からなかった。文献を読み過ぎて頭がおかしくなったのかと。
だが殿下は文献を開くと、とあるページで止め指を差した。
そこには、『紅水晶を思わせる色の瞳を持つ美しき女神は、植物や動物たちと言葉を交わしながらこの世界を広げていった』とある。
紅水晶は私が初めてアルシエに贈ったものであり、アルシエの瞳の色と同じだからと選んだのだが⋯まさしく、これに書かれている女神と同じだ。
「なぜ⋯」
「一番有力なのは、アルシエが女神の生まれ変わりという考察かな」
「そんな事が有り得るんですか?」
「女神だって輪廻転生の輪に入りたくなる時だってあるだろう」
女神の気持ちは女神にしか分からないとはいえ、仮に生まれ変わりだとしても魔法を継ぐ必要はなかったと思うのだが。
あの力のせいで、アルシエは辛い思いをしたというのに。
「女神でいる事に飽きて、人間世界を生きてみたいと思ったのかもしれないね。そうして生まれたのが、おそらくアルシエなんだろう」
「この世界の理に倣って生まれていれば⋯」
「だが、そうしたらルディウスとアルシエは出会っていなかったかもしれないよ」
「⋯⋯⋯」
アルシエがマルグリアの次期当主として暮らせていたなら、私たちの世界線が交わる事はおそらくないはずだ。当主同士、挨拶はしてもそれまで。
セレーナとの出会いは変わらなかったかもしれないが、ここまでの幸せは得られなかっただろうな。こんなにも穏やかな気持ちでいられるのはアルシエがいるからだ。
だが、やはりアルシエの境遇を思えば素直には喜べない。
「アルシエの過去を塗り潰せるくらい、ルディウスが幸せにしてあげればいいんだよ」
「それはもちろん」
「もし本当に生まれ変わりだとしてもアルシエはアルシエだから、この事は私とルディウスで留めておこうか。特に、女神を信仰する教団にはバレないように」
「はい」
教会連中は悪い者たちではないが、如何せん信仰に篤く融通が効かないところがある。転生だと断定しなくとも、アルシエが敬愛する女神と同じ力を持っていると分かれば私の妻だろうと攫って生き神とするのだろう。
そんな事をすれば、陛下の許可など得ず燃やし尽くしてやるがな。
「アルシエの魔法は優しさの塊だ。気にせず、今まで通りでいればいい」
「そうですね」
アルシエは他者に優しく、例え自分を傷付けた相手でも本心から嫌いにはなれない。父親の事もセレーナの事も、怖いという気持ちはあっても今だに家族だと思っている。
せめて恨み言くらい零してくれれば、私も多少は強気に出られるんだが。
「ああそうだ、ルディウス。これをアルシエに渡してくれるか?」
それにしても女神の生まれ変わりかもしれないとは、世の中には不思議な事もあるものだ。そう感心していたら、殿下がテーブルに置いていた小袋を手に取り私の前へと置いた。
持ち上げてみると軽く、振れば微かな音がする。
「これは?」
「花の種だ。どんな花かは咲けば分かる」
「ありがとうございます。アルシエが喜びます」
物欲のないアルシエが手放しで喜ぶ物は種か、すでに植物が植えられている鉢だからこれは素直に受け取ってくれるだろう。
そういえば、もうすぐアルシエの花壇にスペースがなくなりそうだとマーディンが言っていたな。木を別の場所に植え替え、範囲を広げるよう手配するか。
伐採だけは、アルシエの事を考えるとしたくはないからな。
「さて、そろそろルディウスにアルシエを返してやらないと」
「お庭のガゼボですよね?」
「いや、今はアンジェラお気に入りのバルコニーに移動しているよ」
王女お気に入りの場所とは⋯アルシエは相当、王女に気に入られているんだな。
殿下が腰を上げられ私もそれに倣い、談話室を出てバルコニーへと向かう。
今日はあまり話せなかった分、帰ったら存分にアルシエを甘やかしてやるか。
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。