身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

文字の大きさ
52 / 133

アルシエの魔法(ルディウス視点)

 どうしても私の手が必要だとダリスに呼ばれ、アルシエの傍を離れなければいけなくなった時は不安と心配があったが、クロード殿下とアンジェラ王女が傍にいてくださったおかげで何事もなかったようだ。
 ただ、アルシエに対して何かしらを働いたらしい奴はいるようで、パーティが終わるまでさり気なく捜していたのだが終ぞ見つける事は出来なかった。
 いらぬ事を言ったなら、その口を焼いて二度ときけなくしてやろうと思ったのに。
 それにしたって、アルシエは王族から好かれ過ぎじゃないか?
 殿下に始まりアンジェラ王女、果ては王妃様にまで。陛下はアルシエと言葉こそ交わされなかったが、私にどんな子なのかと聞いてくるほどにはご興味を持たれているし。
 アルシエは素直で控えめで愛らしいから好意を持つのも分かるが、私の知らないところで関わりを増やそうとするのはやめて欲しい。特に王女はしょっちゅうアルシエをティータイムに誘っているようだし。
 今日もそうだ。私が殿下に呼び出されたのをいい事にアルシエを同行させ、いそいそと庭へと連れて行ったのだから。

「私が相手ではそんなに不満か、ルディウス」
「⋯いえ、滅相もございません」
「顔が物語っているよ。アンジェラは花たちの言葉を聞きたくてアルシエを呼んでいるんだ。許してやってくれ」
「アルシエ本人が喜んで応えているので構いませんが、もう少し頻度を下げるよう伝えていただけませんか? 私の手が空いても、アルシエがいないなら意味がないのですから」
「分かった分かった。呼び出しは控えるよう伝えておくよ」

 とはいえ、妹君には甘い殿下である。きっと本当に伝えるだけだろう。
 一応念押しで「頼みましたよ」と言えば苦笑されたが、気を取り直した殿下は懐から一冊の古びた本を取り出しテーブルへと置いた。

「これはこの世界が創られた頃の伝承が載った文献であり、古い故にその信憑性は怪しいけど⋯読んで驚いたよ。アルシエとまったく同じ力を持つ者が遙か昔にいた」
「! 本当ですか!?」

 私の知る限り、誰も持っていない瞳の色と魔法をなぜアルシエが持っているのかは気になっていた。悪い魔法ではないし、わざわざ調べる事でもないとは思うが、理由があるなら知りたかったのだ。
 もし良くない理由なら、どうにかしたかったというのもあるしな。
 だが、創世記にまで遡るのは予想外だった。

「どんな人物がその力を⋯?」
「この世界を作りし女神だ」
「⋯⋯はい?」

 一瞬、殿下が何をおっしゃっているのか分からなかった。文献を読み過ぎて頭がおかしくなったのかと。
 だが殿下は文献を開くと、とあるページで止め指を差した。
 そこには、『紅水晶を思わせる色の瞳を持つ美しき女神は、植物や動物たちと言葉を交わしながらこの世界を広げていった』とある。
 紅水晶は私が初めてアルシエに贈ったものであり、アルシエの瞳の色と同じだからと選んだのだが⋯まさしく、これに書かれている女神と同じだ。

「なぜ⋯」
「一番有力なのは、アルシエが女神の生まれ変わりという考察かな」
「そんな事が有り得るんですか?」
「女神だって輪廻転生の輪に入りたくなる時だってあるだろう」

 女神の気持ちは女神にしか分からないとはいえ、仮に生まれ変わりだとしても魔法を継ぐ必要はなかったと思うのだが。
 あの力のせいで、アルシエは辛い思いをしたというのに。

「女神でいる事に飽きて、人間世界を生きてみたいと思ったのかもしれないね。そうして生まれたのが、おそらくアルシエなんだろう」
「この世界の理に倣って生まれていれば⋯」
「だが、そうしたらルディウスとアルシエは出会っていなかったかもしれないよ」
「⋯⋯⋯」

 アルシエがマルグリアの次期当主として暮らせていたなら、私たちの世界線が交わる事はおそらくないはずだ。当主同士、挨拶はしてもそれまで。
 セレーナとの出会いは変わらなかったかもしれないが、ここまでの幸せは得られなかっただろうな。こんなにも穏やかな気持ちでいられるのはアルシエがいるからだ。
 だが、やはりアルシエの境遇を思えば素直には喜べない。

「アルシエの過去を塗り潰せるくらい、ルディウスが幸せにしてあげればいいんだよ」
「それはもちろん」
「もし本当に生まれ変わりだとしてもアルシエはアルシエだから、この事は私とルディウスで留めておこうか。特に、女神を信仰する教団にはバレないように」
「はい」

 教会連中は悪い者たちではないが、如何せん信仰に篤く融通が効かないところがある。転生だと断定しなくとも、アルシエが敬愛する女神と同じ力を持っていると分かれば私の妻だろうと攫って生き神とするのだろう。
 そんな事をすれば、陛下の許可など得ず燃やし尽くしてやるがな。

「アルシエの魔法は優しさの塊だ。気にせず、今まで通りでいればいい」
「そうですね」

 アルシエは他者に優しく、例え自分を傷付けた相手でも本心から嫌いにはなれない。父親の事もセレーナの事も、怖いという気持ちはあっても今だに家族だと思っている。
 せめて恨み言くらい零してくれれば、私も多少は強気に出られるんだが。

「ああそうだ、ルディウス。これをアルシエに渡してくれるか?」

 それにしても女神の生まれ変わりかもしれないとは、世の中には不思議な事もあるものだ。そう感心していたら、殿下がテーブルに置いていた小袋を手に取り私の前へと置いた。
 持ち上げてみると軽く、振れば微かな音がする。

「これは?」
「花の種だ。どんな花かは咲けば分かる」
「ありがとうございます。アルシエが喜びます」

 物欲のないアルシエが手放しで喜ぶ物は種か、すでに植物が植えられている鉢だからこれは素直に受け取ってくれるだろう。
 そういえば、もうすぐアルシエの花壇にスペースがなくなりそうだとマーディンが言っていたな。木を別の場所に植え替え、範囲を広げるよう手配するか。
 伐採だけは、アルシエの事を考えるとしたくはないからな。

「さて、そろそろルディウスにアルシエを返してやらないと」
「お庭のガゼボですよね?」
「いや、今はアンジェラお気に入りのバルコニーに移動しているよ」

 王女お気に入りの場所とは⋯アルシエは相当、王女に気に入られているんだな。
 殿下が腰を上げられ私もそれに倣い、談話室を出てバルコニーへと向かう。
 今日はあまり話せなかった分、帰ったら存分にアルシエを甘やかしてやるか。
感想 86

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

何もしない悪役令息になってみた

ゆい
BL
アダマス王国を舞台に繰り広げられるBLゲーム【宝石の交響曲《シンフォニー》】 家名に宝石の名前が入っている攻略対象5人と、男爵令息のヒロイン?であるルテウスが剣と魔法で、幾多の障害と困難を乗り越えて、学園卒業までに攻略対象とハッピーエンドを目指すゲーム。 悪役令息として、前世の記憶を取り戻した僕リアムは何もしないことを選択した。 主人公が成長するにつれて、一人称が『僕』から『私』に変わっていきます。 またしても突発的な思いつきによる投稿です。 楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけるとありがたいです。 2025.7.31 本編完結しました。 2025.8.2 番外編完結しました。 2025.8.4 加筆修正しました。 2025.11.7 番外編追加しました。 2025.11.12 番外編追加分完結しました。 第13回BL大賞で奨励賞を賜りました。お読みくださった方、投票してくださった方、本当に、本当にありがとうございます。 2026.1.11 ムーンライトノベル様に投稿しました。細かい箇所は改稿しているので、アルファポリスとは多少内容が変わっています。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。