身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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工芸の街

 宿でもルディウス様とは部屋が別で、船と同じで慣れない場所なせいか僕はいつもよりも起きる回数が多くて久し振りに寝不足になってた。いつもくらい寝れてたらまだ平気だったんだけど、さすがに昨日は寝れなさ過ぎた。
 でもルディウス様に心配はかけたくないから頬を叩いて気合いを入れる。
 欠伸が出そうになったら俯けばルディウス様からは見えないし、きっと今日は楽しいから眠気も飛んでくはず。うん、きっと大丈夫。

「失礼いたします」

 ベッドから降りて少しでも頭を起こそうと伸びをしてたら、扉がノックされリーネさんが入ってきた。
 一瞬、お屋敷だと錯覚しそうになるほどのいつもの光景。

「奥様、おはようございます」
「おはようございます、リーネさん」
「本日は街を散策されるとの事で、お洋服もいつもより動きやすいものにいたしました」
「ありがとうございます」
「御髪は横だけ上げてしまいましょうか」
「お任せします」

 伸びたらこまめに切ってくれるけど、一応パーティの時とかにセット出来るようにある程度の長さは維持してた。だから毎朝リーネさんは邪魔にならないようにと纏めてくれてて、僕も髪を結われる事には慣れたかな。
 渡された服に着替えて、鏡台の前に座って髪を整えて貰う。
 鏡越しに見えるリーネさんの手が迷いなく動いて、あっという間に横髪が編み込まれた。いつも思うけど、どうしてこんなに綺麗に結べるんだろう。

「はい、出来ました」
「ありがとうございます」
「お部屋の外で旦那様がお待ちですよ」
「え?」

 待ってるって、いつから? そんなに時間はかかってないと思うけどもしかしたらずっと待たせてたかもしれなくて、慌てて立ち上がった僕は駆け足で扉に向かい勢い良く開けた。
 そのまま躓いて転びそうになり、誰かに支えられる。
 確認するまでもなくルディウス様なんだけど、その格好はいつもより簡素で緩くて、なのにいつもと変わらずカッコいい。

「今朝のアルシエは慌ただしいな」
「ご、ごめんなさい」
「いや。私がいると知って急いでくれたんだろう? だが、足元には気を付けてくれ。怪我をしたら、これからは抱き上げて移動するからな」
「き、気を付けます⋯っ」

 今のは勢い余っただけだけど、ルディウス様なら本当にしそうで僕は何度も頷いた。
 数日後にはもう大人になるのに、抱っこで移動なんて恥ずかし過ぎる。
 そういえばと部屋を見るとリーネさんがにこやかに手を振ってて、振り返した僕はルディウス様の腕に触れ顔を上げた。すぐに黒い瞳と目が合って優しく微笑まれる。

「この宿には食堂もあるが、外で食べる事も出来るんだが⋯アルシエはどうしたい?」
「僕が決めていいんですか?」
「ああ」

 ルディウス様がこうして聞いてくれるのは嬉しいんだけど、どっちもいいなって思う僕はすぐには決められなくて考え込んでしまう。
 早く答えないと、ルディウス様が待ちくたびれちゃうよ。

「えっと⋯⋯」
「ゆっくりでいい。食堂も店も逃げないからな」
「でも⋯」
「どうしても難しいなら私が決める。だから、存分に悩め」

 そうして腕を組んで壁に寄りかかったルディウス様は本当に待ってくれるようで、それ以上は何も言わず考える事に集中させてくれた。おかげで時間はかかったけど決める事が出来て、僕とルディウス様は宿の一階にある食堂に行く事に。
 広くて静かで、ビュッフェ式だったから食べられるだけお皿に盛ったら、ルディウス様に「相変わらず食が細いな」って言われてしまった。
 これでも最初よりは食べられるようになったんだけどな。
 美味しい料理を食べてお腹いっぱいになって、じゃあ行こうかって促されて宿を出た僕は潮風の匂いに新鮮味を感じる。
 宿から離れると一気に人が増えて、あっちこちで露店を出してる人が道行く人に声をかけてた。
 一番近いお店を遠目に覗くと、そこには綺麗な髪紐が並んでて女性が自分の髪に当てて店主さんと話したりしてる。あ、あの黄色の髪紐、リーネさんに似合いそう。
 それからお隣さんはアクセサリーのようで、耳飾りやネックレス、指輪が並んでた。

(あの四角くて赤い宝石のついた耳飾り、ルディウス様が着けたら映えるだろうなぁ)

 ルディウス様の属性である炎を思わせる赤色は、光に反射するとちょっと揺らいで見えるから中に火が灯ってるみたい。
 黒もいいけど、赤もルディウス様の色だもんね。

「何か気に入った物でもあったか?」

 じっと耳飾りを見てたら頭越しにルディウス様が聞いてきて、僕は見上げてその耳飾りを指差した。

「これ、ルディウス様に似合いそうだなって」
「そんな気はしていたが、ここでも人の事か」

 苦笑するルディウス様に首を竦めそそくさと隣に移動したら、そのお店の棚には綺麗に彩られた大小の箱がいくつか並んだお店だった。
 小物入れかなって思ってたら、店主さんが「オルゴールだよ」って教えてくれる。

「オルゴール⋯」
「裏のゼンマイを回して、蓋を開けてごらん」

 一つ手に取り店主さんの言葉通り出っ張ってる部分を何回か回したあと蓋を開けたら、柔らかな音が音楽を奏で始めた。高めなのに耳に馴染んで、目を閉じて聞いてると周りの喧騒も聞こえなくなる。
 綺麗な音だなぁ。

「気に入ったか?」
「あ、えっと⋯⋯⋯はい。音も箱も凄く綺麗です」
「なら買いだな。店主、あれはいくらだ」
「あ、ありがとうございます! あちらは三百ゼルクとなっております」

 咄嗟に「いいです」って言いそうになったけど、ルディウス様の言葉を思い出して頷きに変える。実際、見た瞬間いいなって思ったし、音を聞いてもっとその気持ちが大きくなってたから本音を言えば嬉しい。
 ぎゅっと両手で包み、ルディウス様を見上げてお礼を言うと、優しい顔で頭を撫でられる。それを店主さんが笑顔で見てて、「仲良しだねぇ」って言われた。
 オルゴールの店主さん、最初はルディウス様を見てビクッとしてたけど、今は怖がってる様子はなくてホッとする。
 こうやって少しずつでも、ルディウス様の優しさに気付いてくれる人が増えていくといいんだけど。
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